[292] 10.12:コロンブスデー 宮崎二健選 2005年10月12日 (水)【天】
コロンブスデー卓上に灯をともす 春畑 茜
【地】
塩を吹くコロンブスデーの半長靴 信治
【人】
コロンブスデーのつむじのむず痒く きみえ
【佳作】
何もせぬままコロンブスデー過ぎる 正美
コロンブスデー馴染みのカフェが店じまい 昭雄
部屋の隅ヘアピンひとつコロンブスデー 大西龍一
誰か言ひ誰か言はるるコロンブスデー 月野ぽぽな
偏食の子ももっともでコロンブスデー 緋色
コロンブスデーのデーいつてきを耳たぼに みずき
意欲より食欲コロンブスデー 春おぼろ
【選評】コロンブスは、黄金の国ジャポン侵略を目指したのに、
運悪くアメリカインディアンが身代わりにになったのではあるまいか。
コロンブスデーということで、卵関連の句が7句もあった。
旅関連と同様、付き過ぎの域をに留まっていると思えた。
それらの語句は、コロンブスという言葉に含まれる連想概念なので、
二物衝突が甘くなるという負い目を抜け出したなら、注目に価しよう。
その他の句で、具象の句も観念の句も面白いものがあった。
【天】茜氏、簡潔明瞭、付かず離れずの極意。
このように、ただそれだけのことがなかなか言えないものだ。
さりげなく秋を導いている。
【地】信治氏、写生が行き届き、人の生活実感が功を奏している。
【人】きみえ氏、侵略の歴史の一冊であると思えば歯痒いことだ。
【佳作】
・正美氏、無関心無為なる様の平和的諧謔の作句。
・昭雄氏、卑近な話題を対比させる現代の俳諧師。
・龍一氏、これまた些細な出来事の当てこすりか。
・ぽぽな氏、又々人を食ったもの言いの女俳諧師。
・緋色氏、今更ながら肯定して納得する当て付け。
・みずき氏、たとえが奇抜すぎて意味を汲めない。
・春おぼろ氏、腹が減っては航海遠征できぬなり。
【選者吟】
水吸うコロンブスデーやです文露光進み 二健
[291] 10.11:リンゴの唄の日 宮崎二健選 2005年10月11日 (火)【天】
リンゴの唄の日つかまえて欲しい追いかけっこ 緋色
【地】
リンゴの唄の日おとうおかあの専用車 百花
【人】
リンゴの唄の日を竹やぶで生きのびる 中村安伸
【佳作】
リンゴの唄の日より青ざめはじめる人は 櫂未知子
リンゴの唄の日なにかお捜し物ですか 信治
えもいへずリンゴの唄の日のビール みずき
リセットを許せリンゴの唄の日は 海里
リンゴの唄の日くちびるに火傷 雪うさぎ
リンゴの唄の日うたえば子沢山 ミキ
リンゴの唄の日ぬかご飯喰う 正美
【選評】 1945年(昭和20年)の今日、松竹映画「そよかぜ」が封切られた。
その主題歌「リンゴの唄」(サトウハチロー作詞・万城目正作曲)より。
それぞれ捻りの効いた句の捥ぎ採りを楽しませて頂いた。
天地人の句共通で、リンゴの唄のBGMとの兼ね合いがよく、
持ち前の哀感が生かされている。
佳作では、文字数の多い順に並べてみたが、どの句も甲乙付け難く、
付き過ぎから距離を置き、それなりの面白味がある。
佳作8句目に「無口なりリンゴの唄の日の君も 月野ぽぽな」。
【天】緋色氏、アンビバレンスな泣き笑い人生の縮図。記念日の
背景と前景の全てが生かされていて、しみじみと見せてくれる。
【地】百花氏、記念日の抒情と里言葉の味わいに心酔するや否や、
父母が専用車を所持しているらしい裕福な家の登場に気が動転する。
【人】安伸氏、まさに筍が成長した若竹はそのとおりで、竹林隠者の
富士正晴を出すまでもなく、諸々の生存体が蠢いている竹やぶなのだ。
【佳作】
・未知子氏、…は以下を省略する無責任も俳ならでは。
・信治氏、その日に限って探しているわけではないが。
・みずき氏、複雑か単純な味が楽しめそうなビールだ。
・海里氏、凡そ考え付かないことを述べたのが新鮮味。
・雪うさぎ氏、火傷のオチで救われた俳句らしい一句。
・ミキ氏、結果ではそうなった事実を超えて可笑しい。
・正美氏、蓼食う虫も好き好き、十人十色、自由万歳。
【選者吟】
遺産リンゴの唄の日のたうの金輪際 二健
[290] 10.10:空を見る日 宮崎二健選 2005年10月10日 (月)【天】
信州の蛙も空を見る日かな 淡々
【地】
空を見る日の手に不燃ごみ袋 春畑 茜
【人】
コンタクトレンズ落として空を見る日 寒蝉
【佳作】
空を見る日や電球を胸に抱き 中村安伸
空を見る日空見る夜へとつらなりぬ 坂石佳音
空を見る日や帽子屋は定休日 きみえ
空を見る日の緞帳を開く係です 媚庵
夢を見る空を見る日の深海魚 月野ぽぽな
更生をしたのはいつか空を見る日 昭雄
横顔が泣いているから空を見る日 海里
【選評】「長野県の文化グループ「信濃にやか」が制定。
この日の午前10時10分に、日本じゅうで空を見上げて、
その美しさを語り合おうと提唱している。
日付は東京オリンピックの開会式が行われた日の青空の美しさからと、
10をテン(天)と読む語呂合わせから。」だそうな。
佳句が目白押しだった。下記は選外だが、負けずと劣らぬ作品。
・ホタル族一人抜け二人抜け空を見る日 流鬢力(無言風刺劇)
・竹の子族という青春の空を見る日 緋色(空から回想へ)
・村中で空を見る日の玉入れや 百花(人と球の躍動の動線)
・芋虫もイルカも空を見る日です ミキ(アメンボだって)
・空を見る日あの人はもう帰つたよ 信治(押入れから出てらっしゃい)
・長き長きスピーチありぬ空を見る日 大西龍一(客観的風刺)
【天】淡々氏、一茶よろしく、屈託のない作風に好感が持てる。
【地】茜氏、客観写生ならではの物語るものを感受できる。
【人】寒蝉氏、逆のベクトルを生じさせるレトリックは俳そのもの。
【佳作】
・安伸氏、取替えで新しい球をソケットにねじ込む前の一時。
・佳音氏、時間の経過で空も様変わりする。人の心もしかり。
・きみえ氏、帽子屋も一家総出で、空を見に行ったのだろう。
・媚庵氏、はっ、そうでしたか。いつも大変ご苦労さまです。
・ぽぽな氏、空とは無縁な深海魚ゆえ夢で縁結びして上げる。
・昭雄氏、遥かな日を、空を見る日が思い起こさせてくれる。
・海里氏、そんな理由でもいいから、今日は空を見る日なり。
【選者吟】
滝とぞ空を見る日の怯みおらそそと来た 二健
[289] 10.9:世界郵便デー 宮崎二健選 2005年10月09日 (日)【天】
世界郵便デー大量のくろやぎさんが 信治
【地】
世界郵便デー国境線を鳥渡る 春おぼろ
【人】
島国は忙し世界郵便デー きみえ
【佳作】
世界郵便デーのいづこも星の殻 中村安伸
今日の日はあらあらかしこ世界郵便デー ミキ
同文をメールで世界郵便デー 百花
足腰を強くしやうか世界郵便デー まなぶ
桃色の紙になりたし世界郵便デー 月野ぽぽな
世界郵便デー血判を押しぬ 紅椿
鉄製の切手錆びをり世界郵便デー 寒蝉
【選評】万国郵便連合(UPU)が結成されたことに由来するそうな。
やや長い「世界郵便デー」を読み込む俳句は簡単そうで難しい。
切手やポストなど、どうしても郵便関連のものを配合してしまい、
それらしい俳句になってしまう。それらしくない俳句は一寸難しい。
【天】信治氏、黒山羊山河、いや黒山羊参賀と読もう。
読める範囲内で、俳の景をイメージさせられる。
【地】おぼろ氏、郵便も国境もなく、鳥が渡る。
鳥には不必要な人事。鳥を借りて諧謔する。
【人】きみえ氏、とかくそういうものだが、
忙しいことの必然を考えさせられる。
【佳作】
・安伸氏、星の殻が不思議な存在感を持つ。
・ミキ氏、濃い記念日名に対しては的確だ。
・百花氏、念には念を入れて、発信する人。
・まなぶ氏、郵便配達のアルバイト志願か。
・ぽぽな氏、理由を詮索しても無意味かと。
・紅椿氏、それなりの事情があるのだろう。
・寒蝉氏、メッキが剥げたのかも知れない。
【選者吟】
夕焼けの世界郵便デーなりにけり 二健
[288] 10.8:木の日 宮崎二健選 2005年10月08日 (土)【天】
妖精が両肘ついて木の日かな しのざき香澄
【地】
人襲ふ相談をする木の日かな 信治
【人】
そして貝柱が残つた木の日の朝 櫂未知子
【佳作】
割り箸は歪んで裂けた木の日ラーメン 淡々
うさぎ跳びは百回木の日かな 紅椿
羊羹を真つ二つに木の日かな まなぶ
木の日なり指紋で開く玄関戸 春おぼろ
木の日とや魅力的なるやせっぽち 緋色
木の日なりひとの最後に箱ひとつ 百花
屋根裏に蛇の衣ある木の日かな 坂石佳音
【選評】10月8日の十と八を合わせると木になるそうだ。
「木の日」とは短くて分かりやすいので作りやすいテーマだ。
【天】香澄氏、「何がどうしているか」と配合させただけの、
至ってシンプルな作り。俳句骨法の基本に則って上出来過ぎる。
アニメ映画「もののけ姫」の一場面の様。イメージが十分物語る。
【地】信治氏、木の日の恐ろしい一面を覗かせた一幕。
【人】未知子氏、ささやかな共通事項の提示が醸す滑稽。
【佳作】
・淡々氏、取って付けたようなラーメン哀し。
・紅椿氏、兎追いし彼山から木が導き出せる。
・まなぶ氏、「切り」を入れれは中七になる。
・おぼろ氏、木造建築も近代化の波に乗った。
・緋色氏、人の思いが木に苦笑いされている。
・百花氏、答えが見え過ぎるのが惜しまれる。
・佳音氏、よく言われそうな上五中七と思う。
【選者吟】
はばかりは桧の木の日ばりか母 二健
[287] 10.7:ミステリー記念日 媚庵選 2005年10月07日 (金)【天】
ミステリー記念日犯人にマルをつけてやる 雪うさぎ
【地】
ミステリー記念日戸籍謄本に見入る 百花
【人】
気まぐれなブログが消えたミステリー記念日 海里
【佳作】
ミステリー記念日風の這ふ螺階 きみえ
さかさまに泳ぐ金魚やミステリー記念日 谷口純子
蓑虫の枯葉に混じるミステリーの日 正美
ミステリー記念日しがらみに泣きぬ 紅椿
ミステリー記念日三年前のレシート 坂石佳音
ミステリー記念日へ耳そよがせつ数へ唄 みずき
目覚ましがミステリー記念日朝告げる ひらくに
【選評】
1849年の今日、ミステリー小説の先駆者である
エドガー・アラン・ポーが亡くなったことに由来する。
『モルグ街の殺人』『黄金虫』などの作品で知られるポーは、
自らもまた奇怪な人生を送ったといわれている。
さて、ポーにちなむ句というよりは、それぞれのみなさんが
何をミステリーと思っているかが多彩で、面白い句が多かった。
その中でも天の雪うさぎさん、いきなり身も蓋もない発想。
古本屋で買った本に時々こういうしるしがあったりする。
まあ、それでもストーリーの面白さで読者を飽きさせないのが
良質なミステリーのはずなのだか。
地の百花さんは犬神家の一族のような血縁のミステリーが
百花家にも勃発したのだろうか。
人の海里さん、中途挫折で消えたブログがイヤというほどあるが
ミステリーの発端として、ブログが消えたというのは使えるかも
しれない。
佳作のみなさまもそれぞれのミステリーが百花斉放の感あり。
きみえさんはミステリーというよりサスペンス映画の一場面のよう。
谷口純子さんは日常の謎を見逃さないミス・マープル風の一句。
正美さんは「落葉は森に隠せ」というセオリーのひねりの句。
紅椿さんは人間関係のしがらみが事件を生む松本清張風な味。
坂石佳音さんも清張風で、このレシートからアリバイが崩れる気配。
みずきさんの数え唄はマザーグース殺人か。歌詞のとおりに人が
殺されるというヤツでしょうか。
そしてひらくにさんの句の目覚ましの音で、ミステリーの夢は破られ
また今日も平凡な日常生活が始まるというわけであります。
【選者吟】
ミステリー記念日山村紅葉様 媚庵
[286] 10.6:国際ボランティア貯金の日 媚庵選 2005年10月06日 (木)【天】
国際ボランティア貯金の日のしたたかなる怠惰 みずき
【地】
国際ボランティア貯金の日何時か天下に金字塔 ひらくに
【人】
国際ボランティア貯金の日の底をつきし水甕 紅椿
【佳作】
たんぽぽはいつでも咲くよ国際ボランティア貯金の日 大西龍一
国際ボランティア貯金の日の日の丸弁当 雪うさぎ
国際ボランティア貯金の日は、首がひもじい 櫂未知子
三方の殊に世間良し国際ボランティア貯金の日 流鬢力
烏賊干すや国際ボランティア貯金の日 百花
国際ボランティア貯金の日も米を研ぐ まなぶ
国際ボランティア貯金の日の滑走路 月野ぽぽな
【選評】
郵政省が1990年(平成2年)に始めた国際ボランティア貯金を広くPRするために設けた日。国際ボランティア貯金は、貯金者が通常郵便貯金の税引き後利子の20%を寄付する制度で、NGOを通じて途上国の支援活動に使うもの。
天のみずきさんの句の「したたかなる怠惰」は、よくぞ思いついた、との
みごとなフレーズ。だいたい「国際ボランティア貯金の日」の「××」という
パターンにならざるをえないので、どれだけ付かず離れずの配合が
できるかが勝負なのだが、みずきさんのこの怠惰の言上げは、
まさにしたたかな詩歌精神の発露だと感銘した。
地のひらくにさんもくふうしたフレーズ。向日的な意識を買いたい。
人の紅椿さんは、水を汲むということが生活の必須条項になっている
世界の国へ思いをはせている。水甕という結句がせつなく重い。
佳作の大西龍一さんも平和への希求がうかがえて好感がもてる。
雪うさぎさんはユーモアのある批評。
櫂未知子さんは個にひきつけた違和感の表出。
流鬢力さんもひらくにさんと同じように意志を表明している。
百花さんは伝統的な漁村風景との姿のよい配合。
まなぶさんは百花さんと同じ発想ながら日常の行為に着地。
月野ぽぽなさんはライフラインとしての滑走路か。
みなさん精一杯頑張った記念日だったと思う。
【選者吟】
国際ボランティア貯金の日のタヌキ寝入り 媚庵
[285] 10.5:レモンの日 媚庵選 2005年10月05日 (水)【天】
レモンの日欲しきひとつに手榴弾 寒蝉
【地】
レモンの日いま一国を憂ふ身に 春畑 茜
【人】
初恋は肉屋の娘レモンの日 春おぼろ
【佳作】
ろめろめのメロンと唄うレモンの日 谷口純子
雨の日の記憶薄れずレモンの日 きみえ
とりあえず絞っておこうレモンの日 靖山
道連れがほしいレモンの日の自爆 望月暢孝
海彦山彦に会ふレモンの日 紅椿
憂鬱の塊としてレモンの日 ミキ
東京に空はあるのだ レモンの日 海里
【選評】
高村光太郎の妻である智恵子がレモンをかんだのが
1938年(昭和13年)の今日。
トパーズ色の香りの中で智恵子が絶命した日にちなむ。
と、レモンの日という可愛らしいイメージに反して
ものすごい由来の記念日である。
天の寒蝉さん、文学的な場において檸檬は爆弾と等価である。
これはもちろん梶井基次郎の傑作「檸檬」の影響によってである。
この前提に付かず離れず巧みなイメージをつくりあげた手練れの句だ。
地の春畑茜さんはおもいきった大言壮語。レモンというイメージを
憂国に転じる機転はなかなかのものだ。
地の春おぼろさんは、逆にバカバカしさに焦点を絞ってみせた。
「初恋は肉屋の娘」というのは浅草軽演劇の挿入歌のような
明るいナンセンスがある。
佳作の谷口純子さんは「メロンの気持ち」の歌詞を連想。
きみえさんは「薄れず」が逆手で効果的。
靖山さんはレモンの特性にまともに対峙してみせた。
望月暢孝さんは例の爆弾モノ。自爆にオリジナリティがある。
紅椿さんはレモンにもっとも遠いイメージを配合してきた手柄。
ミキさんと海里さんはともに記念日の由来の高村智恵子に
イメージをとばした想像力。
簡単そうで難しいレモン記念日だったようだ。
【選者吟】
檸檬檸檬と書きて淋しきレモンの日 媚庵
[284] 10.4:104の日 媚庵選 2005年10月04日 (火)【天】
同級生消える零時や104の日 大西龍一
【地】
104の日バナナを耳に当ててみる きみえ
【人】
沖縄の104の日の乳頭 中村安伸
【佳作】
あと4つ足らぬ煩悩104の日 海里
101匹に3匹が増え104の日 谷口純子
104の日の十桁のひとならび 百花
民宿の温もりにも似て104の日 流鬢力
104の日忘れられぬハスキー・ヴォイス 雪うさぎ
104の日のあやとりの箒かな 信治
隣室から死ぬまで愛して104の日 淡々
【選評】
電話番号案内サービス「104」番を広くPRしようと
NTT番号情報株式会社が制定。
104番は名称または業種、住所などから
早く、簡単に電話番号を検索できるサービス。
日付はサービスのダイヤルナンバーの104から。
ということで、104という数字から何を発想できるかが勝負。
天地人とも、選者の好みでナンセンス系列の作を選んでしまった。
天の大西龍一さん、学校の怪談である。番号案内とは
何の関係もない。それゆえに俳味が生れている。
地のきみえさんは、コントのべたなボケ。もしもし、としゃべってから
「あ、バナナだ」と気づいてみせる名人芸。
人の中村安伸さんの「沖縄の乳頭」とくるとぜんぜんわからない。
乳頭といえば笑福亭鶴光のオールナイトニッポンを思い出すが、
ともかくも、ここまでナンセンスに徹していることを買う。
佳作の海里さんと谷口純子さんは104が何の数に足りないか
という発想。煩悩かわんちゃんか、いずれも捨てがたい。
百花さんは何の番号なのか。10ケタが不気味。
流鬢力さんはなつかしさを104に見出してみせた。
雪うさぎさんの聞いたハスキーボイスを私も一度聞いてみたい。
そう思わせるのは句に力があるからだ。
信治さんの句もなつかしさとナンセンスさとの微妙なバランス。
そして淡々さんのばかばかしさ。「死ぬまで愛して」と言う囁きを
隣室で聞いているマヌケさは芭蕉の軽味に通じている。みごとです。
【選者吟】
104の日個人情報教えられ 媚庵
[283] 10.3:登山の日 媚庵選 2005年10月03日 (月)【天】
登山の日人の数だけ柱あり 寒蝉
【地】
ニイタカヤマ海図に探す登山の日 淡々
【人】
七輪を調達しました登山の日 緋色
【佳作】
雨ならばごろ寝と決めん登山の日 正美
法螺話佳境に入る登山の日 昭雄
飛行機で熟睡してゐる登山の日 雪うさぎ
頂上の意識改革登山の日 まなぶ
留守番の子におむすびや登山の日 百花
登山の日やっぱり米と水だわさ 春おぼろ
まにきゆあに半月うかび登山の日 みずき
【選評】
山に登ることで雄大な大自然に触れ、その素晴らしさを知って、
自然を尊び、愛し、自然からの恩恵に感謝する日。
社団法人、日本アルパイン・ガイド協会の重野太肚ニ氏が発案し
1992年10月3日に協会が制定したもので、
日付けは10(登)3(山)の語呂合わせから。
また、1905年(明治38年)の10月に、日本山岳会が発足したという
歴史的事実もふまえている。
天の句は、柱がポールの意味の柱であると同時に
仏を数える柱の意味も重なっている。人の数だけの柱は
それだけの数の遭難者の残る思いなのかもしれない。
地の淡々さん、「ニイタカヤマ」は台湾の高峰。カタカナで
表記することで、電報文のおもむきを加え、真珠湾攻撃の
暗号文であった「ニイタカヤマノボレ」を想起させる。ここにも
寒蝉句と同じくダブルイメージが成立している。
地の緋色さん、七輪というノスタルジック系の品物の提示で
登山のリアリズムを誘い出している。登山する男と七輪を炊く妻という
対比的な構図も意識されているのかもしれない。
佳作もそれぞれ個性派ぞろい。
正美さんはあいかわらずの男臭い一句。
昭雄さんは登山者の一面を照射しているのか。
雪うさぎさんは、眠りながら飛行機で超えるも登山という居直りの
小気味よさ。
まなぶさんも居直り気味の意識改革ノススメ。
百花さんは一転して家庭的な味わいと登山の配合。
春おぼろさんの「だわさ」はどの地方の方言なのか。そりゃ、
登山したって米と水である。
みずきさんは爪の半月に山をイメージしている面白さ。
【選者吟】
鶴亀算解けて嬉しき登山の日 媚庵
[282] 10.2:豆腐の日 媚庵選 2005年10月02日 (日)【天】
人の世もどこか賽の目豆腐の日 ミキ
【地】
数ならぬ身にも豆腐の日の醤油 櫂未知子
【人】
やがてわが脳味噌もかく豆腐の日 寒蝉
【佳作】
大衆よ目覚めよラッパ豆腐の日 ひらくに
豆腐の日サウイフモノニワタシナリタイ 大西龍一
豆腐の日恋も季物も水に浮く 中村安伸
溜息も鼻息も息豆腐の日 きみえ
色即是空空即是色豆腐の日 月野ぽぽな
本日は清廉潔白豆腐の日 望月暢孝
一枚のもみじを敷いて豆腐の日 百花
【選評】
10・2を「トーフ」と読むことから、豆腐をPRする目的で、
日本豆腐協会が1993年に制定した日。
豆が腐ると書いてトーフというのも考えてみれば不思議ではある。
腐るという字を当てる食べ物が他にあるだろうか。
天のミキさん、豆腐を賽の目に切ることからの連想。月並俳句的な
発想ながら、記念日を詠み込む句としては、その月並もけっこうなもの。
地の櫂未知子さん、あいかわらずの巧さに舌を巻く。
和歌的な「もののあはれ」を醸し出す上句に「豆腐の日の醤油」という
着地のひねりのみごとさ。本当にサービス精神豊かな人だと敬服する。
人の寒蝉さんはお医者さん的な発想。脳みそが豆腐になるというのは
すさまじい老いの姿であり、それをさりげなく表現した「かく豆腐の日」が
絶妙なのだ。
佳作のひらくにさんは豆腐やのラッパというなつかし系アイテムに
「大衆よ目覚めよ」という大仰なフレーズの面白さ。豆腐屋さんは
革命戦士だったのか。
大西龍一さんは「雨ニモ負ケズ」のパロディで笑いを生む。豆腐以外でも
成立してしまうパロディだが、豆腐はなかでも面白い。
中村安伸さんはたかが豆腐に「恋」と「季物」という古典的美意識の
言葉を持ち出した妙味。これも笑って良い句だ。
きみえさん、月野ぽぽなさんの句も笑って良いのだろう。豆腐という
ものは、なにやら笑いを呼び込む性質があるようだ。
望月暢孝さんは豆腐の水桶の水の清廉さからの連想か。
百花さんはもみじ豆腐を巧みに俳句的に仕立ててくれた。
【選者吟】
豆腐の日酢豆腐一口オツでげす 媚庵
[281] 10.1:めがねの日 媚庵選 2005年10月01日 (土)【天】
一汁と三菜めがねの日のふたり 櫂未知子
【地】
牛乳で始まる一と日めがねの日 春おぼろ
【人】
五位鷺教授めがねの日ご存知か 坂石佳音
【佳作】
めがねの日黒縁付けて女史となり ひらくに
めがねの日方程式のy跳ねて きみえ
めがねの日野生の猿の起ち姿 ミキ
たちまちに空かき曇るめがねの日 谷口純子
秀才の兄と愚弟やめがねの日 昭雄
めがねの日 底まで見えぬ紙パック 海里
めがねの日大仏殿を掃きに掃く 中村安伸
【選評】
めがねの愛用者の方々に感謝の気持ちを表そうと、
日本眼鏡関連団体協議会が1997年に制定。
日付けの由来は、10月1日は10 01と表記することができ、
両端の1がめがねのツルを、内側の0がレンズと見立てられ、
めがねの形を意味していることから、めがねの日ということに
なったのだそうだ。
天の櫂未知子さんの句は、めがねの二人が一汁と三菜の
食事をとっているわけで、めがねの玉の○と茶碗、お椀の○が
きれいに目に浮ぶ。○は12個になるのかな。図形を連想させる
俳句という困難がやすやすと実現している面白さを買う。
地の句はナンセンスな取り合わせの妙。牛乳で始まる一日は
何もめがねの日でなくても良いはずだが、あえてめがねの日に
そのこだわりをもってくることで、めがねの少年少女が
牛乳を飲んでいる図を想像させてくれる。
人は五位鷺教授という強烈な擬人法に技あり。
ご存知ないかもしれないが、教授の存在感は抜群。
佳作のひらくにさん、確かに黒縁めがねは女史の定番。
きみえさんは方程式のyという記号がめがねに似合う。
野生のサルはめがねをかけないだろうとの真意が
素直に感じられるミキさんの一句。
谷口純子さんは手練れの配合。めがねが曇ることの縁語でもある。
昭雄さんは賢兄愚弟の構図をあえてなぞって見せて、
めがねをかけた愚弟をも想像させてくれる。
海里さんは紙パックの底を見ようしいう志を吟じてみせた。
中村安伸さんは、大仏殿のダイナミックな静謐さが
ふしぎにめがねにふさわしい。
【選者吟】
丸き鼻にちょびヒゲ添えてめがねの日 媚庵
[280] 9.30:くるみの日 島田牙城選 2005年09月30日 (金)【天】
沢ありて鬼へなだるるくるみの日 櫂未知子
【地】
くるみの日信濃に多き真田虫 寒蝉
【人】
世界とは手触りであるくるみの日 信治
【佳作】
半ズボン小さくなりぬくるみの日 大西龍一
くるみの日坂を登れば幼き日 月野ぽぽな
くるみの日猫踏ンジャッタだけ弾ける いな
くるみの日韓流映画垂れ流す 正美
くるみの日かみ砕けない教えあり ほにゃらか
ロマネスク寺院の扉くるみの日 谷口純子
屏風絵の尻尾がはねてくるみの日 みずき
【選評】
「9と30で「くるみは丸い」と読む語呂合わせと、くるみの出回る時期にかけて日本一のくるみの名産地、長野県東御市などの、くるみ愛好家が制定。くるみの食材としての素晴らしさ、用途の広さなどをアピールするのが目的。」という日(記念日協会HPより)
なんというか、今日は俳句らしい俳句が並びました。佳作もそれぞれに美味しいですね。
落とした句にもいいのがありました。今年の胡桃は豊作のようです。
世界とは手触りであるくるみの日 信治
は、単なるアフォリズムを越えて、世界を憂える作者の強く優しいまなざしが句の幅を広げている。
また、胡桃という手のひらに収まるものの手触りだからこそ、
世界がじつに身近に感じられて、世界を掌中の珠のように大切にしたくなる心持へといざなってくれている。
くるみの日信濃に多き真田虫 寒蝉
もまた面白い句だ。胡桃が信州に多いことは知っていたが、
東御(とうみ)市がその産地だということまでは知らなかった。
そして東御市の西北隣に真田十勇士の真田町がある。
真田町と真田虫、きっと関係があるのだろう。
今、地域医療に邁進している寒蝉国手にとって、真田虫は頭痛の種なのかもしれない。
沢ありて鬼へなだるるくるみの日 櫂未知子
を天に据えた。沢胡桃、鬼胡桃からの発想。それは分かりやすいのだけれど、
そこから形を与えられた景が尋常ではない。
というか、読みが難しい。
「切れ」をどこに見出すのかによって、景が変わってくる。
沢ありて/鬼へなだるるくるみの日(A)
なのか、
沢ありて鬼へなだるる/くるみの日(B)
なのか。
僕はA派。「て」の切れはけっこう強い。
三段切れに近い形にはなるけれど、こうでないとこの句は面白くない。
Bだと「なだるる」の主語は「沢」ということになるけれど、
Aだと「なだるる」のは主人公。作者ととってもよい。
即ち、櫂さんが沢の水を蹴って鬼へ向かってなだれ込むのだ。
この解釈が正しいであろうことを証(あかし)するのが、「へ」という助詞。
これが「に」だったら、沢水が勢いよく鬼の方へ飛沫を上げながら進んでいる景ともとれるけれど、
「へ」と置いてここに強いアクセントを与えるのだから、
「沢」ではないものを作者はなだれさせようとしたに違いない。
そしてそれは、俳句界のダイナマイト・エレガンス=櫂未知子でなくてはならない。
そんなくるみの日。
胡桃が熟して実を落とす頃、信濃の山は日々秋を深める。
日暮れも一気に早くなる。
櫂さんは、釣瓶落としの日を浴びながら、
悠然と鬼の首を取って戻ってくるのであろう。
鬼の首は二つ。櫂さんの掌の中でころころ鳴っているかもしれない。
【選者吟】
妻にしてをんなたるらしくるみの日 島田牙城
[279] 9.29:招き猫の日 島田牙城選 2005年09月29日 (木)【天】
あつ今日は招き猫の日なに食べよ きみえ
【地】
招き猫の日に考える万歳と降参の共通点 雪うさぎ
【人】
招き猫の日儲けは無いが友は来る ほにゃらか
【佳作】
招き猫の日招くあなたの性別は 緋色
招き猫の日捨てかねている七、八匹 望月暢孝
猫じゃ猫じゃの招き猫の日やれ踊れ! 媚庵
招き猫の日我の日本語通じませぬ 大西龍一
お手上げのままハイタッチ招き猫の日 淡々
聖ミカエル羽ばたき招き猫の日よ 百花
お隣は WILD TURKEY 招き猫の日 月野ぽぽな
【選評】
記念日協会の由来を読んでいて、薀蓄に関心したのは
「右手を上げていると金運を招き、左手を上げていると客を招く」
という箇所。
そうか、挙げる手によって、運の種類が違うのかと、納得した。
しかし、待てよ、とも思う。左手を挙げてさえいれば客は来るのだから、
自然と金も呼び込むことになるのではなかろうか。
そこで、ほにゃらかさんの句の出番となる。
そうそう、金をあまり落とさないまま、
一杯のシングルウイスキーで二時間も三時間もしゃべって帰る友ばかりが来る店って、
ありますよねぇ。
例えば、新宿東南口徒歩一分という好立地にあって、
招き猫が1000匹以上も鎮座ましますJazzBar。
その名は「サムライ」。
まぁ、友はそこそこ金も落としていると思うのだけれど、
行くたんびにマスターのご友人しかいないんですよね。
あれは、友しか来ないのか、来たら友になってしまうのか……
ところで、その店のマスター、二健さんの句がない。
今日は貴方の日じゃないですかーーーーー。
ぽぽなさんの句や暢孝さんの句を読むと、
どうしても二健さんやサムライを思い出してしまうのでした。
雪うさぎ句には、納得してしまいました。
果たして納得以上の俳句性があるのかは疑問もあるのですが、
手を挙げている姿には哀れな滑稽味が漂うのですよね。
また、降参することを「もう、万歳だ」とも言いますね。
ところで、両手を挙げている招き猫はいるのでしょうか。
こんど、サムライで探してみますね。
で、天はきみえ句に差し上げます。
この記念日と食事なんて、全く回路が合わないと思うのですが、
そこを見事に裏返してみせました。
櫂未知子さんの今年の名著『食の一句』(ふらんす堂刊)には食べる素材の句が満載でしたけれど、
飽食日本にあっては、このようなぼけーっとした主婦の顔を写した句こそが、
真に食の一句と言えるのかもしれません。
【選者吟】
招き猫の日妻の帰りを恐れつつ 島田牙城
[278] 9.28:パソコン記念日 島田牙城選 2005年09月27日 (火)【天】
立ち上がる間に茹でませうパソコン記念日 櫂未知子
【地】
パソコン記念日「はじめてのC」がある部屋で ほにゃらか
【人】
覚えしは再起動からパソコン記念日 大西龍一
【佳作】
パソコン記念日いま沖合に虹二重 寒蝉
横書きになれてしまいぬパソコン記念日 まなぶ
パソコン記念日けふは鼠がよく走り 春畑 茜
パソコン記念日拝啓は七度叩く 坂石佳音
いまもなお雨だれタッチパソコン記念日 章司
パソコン記念日人と箱と人と箱と 月野ぽぽな
パソコン記念日丘陵映すディスプレイ きみえ
【選評】
一昨日がワープロ記念日だったと思っていたら、
もう今日はパソコン記念日なんですね。
以前、ゴルフ記念日(5.28)とゴルフ場記念日(5.24)が近かったり、
漫画の日(7.17)と劇画の日(7.24)が近かったりしましたけれど、
よく似た記念日は接近するという法則でもあるのでしょうか。
「1979年(昭和54年)の今日、のちのパソコンブームの火つけ役となった日本電気の「PC−8001」が発売されたことにちなむ。』(記念日協会HPより)のだそうです。
一昨日のことなので、覚えておられる方もいらっしゃると思うのですけれど、
ワープロ第一号が誕生したのは1978年(昭和53年)なんです。で、その翌年にはPCが発売になっていたという事実に、機械音痴の僕は驚いてしまいます。
ただ、作品は全般に低調で、また、ぼくには理解が行き届かなくって、難渋いたしました。
パソコン記念日いま沖合に虹二重 寒蝉
は、雰囲気だけの気もしますし、それでいて捨てがたいし……
横書きになれてしまいぬパソコン記念日 まなぶ
ちょっとパソコンに近すぎるようでもあるし、このくらいは言ってもいいのかなとも思うし……
パソコン記念日けふは鼠がよく走り 春畑 茜
この句はそこそこ上位に行けそうですけれど、コードを噛まれないようにお気をつけくださいねと、落ちがみえみえだし……
パソコン記念日拝啓は七度叩く 坂石佳音
僕がやってみたら五度(は・い・け・い・変換一度)で出てきてしまったし……
いまもなお雨だれタッチパソコン記念日 章司
「雨だれタッチ」という言葉を今の今まで知らなかったし……
パソコン記念日人と箱と人と箱と 月野ぽぽな
分かるんだけれど、念押しがうるさいし……
パソコン記念日丘陵映すディスプレイ きみえ
初期画面の背景なんだろうなと、これも答えが割れてるし……
【天】の
立ち上がる間に茹でませうパソコン記念日 櫂未知子
は、今もそういう古い機種を大事につかっていらっしゃるのだろうなと思うと、
作者の顔がしっかりと思い出されて、愉快ですねぇ。
卵は無理でも、ほうれん草なら充分に茹でられますよね。
【地】の
パソコン記念日「はじめてのC」がある部屋で ほにゃらか
「はじめてのC」というのは、ロングセラーのコンピューター関連本のタイトルなんですね。
僕にはちんぷんかんぷんのC言語に、ほにゃらかさんは挑戦なさったのでしょうか……
奇特な方がおられるものだと、関心してしまいまして、地であります。
【人】の
覚えしは再起動からパソコン記念日 大西龍一
は、これは、喜劇ですよね。そういう人がいっぱいいたはずですし、今日もそういう人のいらいらする顔がいっぱい生れていることと思います。
櫂さんの句じゃないけれど、頭が茹で上がっちゃうんですよ。
かく言う僕も、まずiMacに挑戦したのですけれど、ほとんどお金をどぶに捨てたようなものでした。
大きな置物だったなぁと、懐かしくなります。
【選者吟】
パソコン記念日妻の電源いづかたへ 島田牙城
[277] 9.27:女性ドライバーの日 島田牙城選 2005年09月27日 (火)【天】
鳴れ女性ドライバーの日のキーホルダー 月野ぽぽな
【地】
左手に柴漬女性ドライバーの日 櫂未知子
【人】
女性ドライバーの日ためいき橋のゆふまぐれ みずき
【佳作】
開幕5分前女性ドライバーの日 谷口純子
女性ドライバーの日四車線分の笑顔 坂石佳音
へそ曲げてママチャリを駆る女性ドライバーの日 雪うさぎ
女性ドライバーの日赤ちやんが乗つてゐます 春畑 茜
女性ドライバーの日ストッキングを洗濯す きみえ
女性ドライバーの日のオーマイゴッド 紅椿
信号は赤の点滅女性ドライバーの日 淡々
【選評】
「1917年(大正6年)の今日、
栃木県在住の渡辺はまさん(当時23歳)が自動車運転免許試験に合格、
日本女性初の自動車運転免許証を手にしたことに由来する。
渡辺さんの技量は大したもので、試験官も驚くほどの腕前だったという。」
と、記念日協会HPにある。
このはまさんには興味が湧きますね。おきゃんだったのか、必要に迫られたのか……
今日は世界観光の日(WTO制定)でもあるようで、
その後のはまさんが、この免許証で観光バスのドライバーでもしていたとしたら、
面白いのになぁなどとも想像が広がります。
ところで、選ですけれど、
何故だか、男性群(とおぼしき人も含め)の句が採れなかったのです。
信号は赤の点滅女性ドライバーの日 淡々
男性(とおぼしき人も含め)は、だけでした。
淡々さんの句にしても、「大丈夫ですか?」という眼差しが見えて、
採ろうかどうしようかと、迷いはあったのです。
赤の点滅は一旦停止ですよね。でも、停まらない人が結構多いのです。
みずき句はもう、こういう雰囲気に弱いから仕方ないですね。
別に女性ドライバーの日でなくてもよさそうなものですが、
「ためいき橋」なんて言われると、僕の心はめろめろになってしまうのでした。
ベネチアのためいき橋でもいいし、わが町のそうした名づけの橋でもいいし、
「ゆふまぐれ」がなんともロマンティックです。
逢魔が刻とも言って、本当に運転には気をつけないといけない時間帯でもあります。
未知子句、オートマチック車が主流になって、左手は暇になりました。左足もね。
食べ物俳句というより、主婦感覚俳句でしょうか。
そしてぽぽな句、さまざまなキーホルダーが車のキーを守っています。
いろいろな鍵がくっついていて「鳴」ることもあるでしょうし、
この句の場合は、キーホルダーそのものにオルゴール仕掛けかなにかが施されているのかなと、
思いました。そこが女性らしいし、「女性」ドライバーという限定を掬っているのではないでしょうか。
ところで、田舎に住んでいますと、まさに車社会。歩いて三分、五分のところへも車で行くのですから、
驚きです。飲み屋にも必ず駐車場がありますしね。
もちろん、女性も皆さん免許を持っておられます。
ということで、今日も僕は……
【選者吟】
女性ドライバーの日妻の車で飲みに行く 牙城
[276] 9.26:ワープロ記念日 島田牙城選 2005年09月26日 (月)【天】
ワープロ記念日きんぎょのお墓 信治
【地】
ワープロ記念日夜にほどかれてゆく言葉 春畑 茜
【人】
ワープロ記念日の夜の集まりへ 谷口純子
【佳作】
幹事返還せよとワープロ記念日 中性子
ワープロ記念日親指シフト忘れざる 媚庵
ワープロ記念日鬱の字薔薇の文字 大西龍一
カラオケが好きになりけりワープロ記念日 流鬢力
ワープロ記念日わたしはとりかえ不可ですから! 緋色
ワープロ記念日さよならは言はぬまま 雪うさぎ
ワープロ記念日のゆふやみへ傾るる白紙 みずき
【選評】
「1978年(昭和53年)の今日、日本語のワードプロセッサー(略してワープロ)第1号機が誕生したことを記念する日。手で書くより速く文章を打ち込め、どこへでも運べることを目標として開発したのは東芝の研究所で、当初は研究員わずか3人で行っていたという。」
以上が記念日協会の説明。もう二十七年になるのかと思うと、発明した東芝の三人衆にふかぶかと感謝したくなる。
機械としてのワープロはすでに製造中止になっているようだけれど、
僕たちは毎日、キーボードに向かっている。
PC内蔵のワープロ機能の恩恵を受けている。
変換機能についても日進月歩なのであろう。
薔薇の字が書けぬおとこよワープロ記念日 昭雄
という句もあった。龍一句とどちらにしようか迷った。
でもやはり、物だけを提示したほうが批評性が増すのではないかと思う。
親指シフトは、僕は知らないのだけれど、今でもその便利さを言う人があるらしい。
日本語ワープロの発明とカラオケの発明、底に流れる精神がどことなく似ている気もする。
人の句、何の集まりなのだろう。PTAの会合だとか、夜間カルチャーだとかもあるのだから、
「夜」と言われただけで「あやしさ」を感じては読者としての僕の心のいやしさを見透かされている気もするけれど、
この句にはなんとも淫靡な語感があるようだ。
同じ「夜」でも春畑句の「夜(よ)」がメルヘンティックなのだから、
谷口句に感じる思いもあながち間違ってはいないのかもしれない。
天は信治句。
うちには栗鼠の墓がある。
小動物への慈しみの心と、短命だったけれど、僕たちの生活道具としてしっかり入り込んだワープロへの愛惜の念。
そうか、この句も物だけで勝負しているなぁ。
潔いということなのだろう。カラッとしている分、心にいやみなく届くのだ。
ワープロ記念日すばらしいYMCA 中村安伸
という句がきになっているのだけれど、
ついに理解できなかった。
【選者吟】
妻狙い撃ちワープロ記念日なんだから 島田牙城
[275] 9.25: 藤ノ木古墳記念日 島田牙城選 2005年09月25日 (日)【天】
朝日子よ藤ノ木古墳記念日よ 媚庵
【地】
藤ノ木古墳記念日あら古代の手抜き主婦 櫂未知子
【人】
藤ノ木古墳記念日の鰯雲 月野ぽぽな
【佳作】
藤ノ木古墳記念日篠つく雨のなかにゐて みずき
藤ノ木古墳記念日あるじはテノールかバリトンか 望月暢孝
武具馬具武具馬具藤ノ木古墳記念日 寒蝉
藤ノ木古墳記念日水となる天子 中村安伸
藤ノ木古墳記念日朝のこゑこぼれ 春畑 茜
藤ノ木古墳記念日裾は蹴るために 緋色
藤ノ木古墳記念日泥のやうに眠る 春おぼろ
【選評】
「1985年(昭和60年)の今日、奈良県斑鳩町の藤ノ木古墳から石室と家形石棺が発掘されたことに由来する。豪華な装飾を施した金や銅製の馬具が出土し、人々の古代へのロマンをかきたてた。」
と、記念日協会のホームページにある。
あれから20年、古墳すなわち古い墓を発(あば)くことによって、
さまざまな古代史が明らかになったり、新たな謎に包まれたり……
発掘を「ほっくつ」と読める人もすくなくなってきたようだ。
ぎらぎらの朝日子照らす自然かな 兜太
という句がある。
媚庵句からは、日本(やまと)の黎明期への追慕と「記念日」という括りをする現代のお手軽への批判が
「よ」という強い呼びかけのうちに併置されていて、作者の心の屈折が読み取れる。どきりとした。
未知子句、「古代の」はいらないから、句としては未成熟なのだけれど、
この飛躍にはけらけらと笑いながら仰天させてくれる楽しさがある。
かの時代にも手抜き主婦もいればさぼりのおっさんもいたことだろう。
作者は、自らを西暦500年代の彼方に置いてみたのかもしれない。
これは大切なことで、最終的には主人公が作者である必要はないのだけれど、
自らをその記念日の中に潜り込ませないことには佳句は生れない。
ぽぽな句も、斑鳩の里を今歩いている臨場感がある。
【選者吟】
藤ノ木古墳記念日妻の嬌声は 牙城
[274] 9.24: 歯科技工士記念日 島田牙城選 2005年09月24日 (土)【天】
アエイウエオアオ歯科技工士記念日 きみえ
【地】
歯科技工士記念日機械室乾く 中村安伸
【人】
時刻表通りに停車せり歯科技工士記念日 流鬢力
【佳作】
歯科技工士記念日の痒みにムヒが効く 媚庵
歯科技工士記念日や鴨居に残る刀傷 紅椿
泥濘に足跡とどめ歯科技工士記念日 望月暢孝
歯科技工士記念日桃の皮を剥く 春おぼろ
パスワードマッチして歯科技工士記念日 まなぶ
アボガドが柔らかすぎる歯科技工士記念日 雪うさぎ
歯科技工士記念日ぼろぼろの獅子頭 寒蝉
【選評】
僕の選もあと2サイクルを残すのみとなりました。
虫の音が白穂になりはじめた芒のもとで、詩人の感傷癖をくすぐっています。
しかし、記念日俳句は今日も元気に笑いを提供いたしましょう。
で、今日は歯科技工士記念日だとか。
およそ季節感とは関係のない日ではあります。
しかし、そこは強引になんでもくっつけたがる記念日俳人の貪欲さを見せれば、
なんとか季節感も生れてくるものです。
そう、秋は食欲の季節。何でもかんでも口に放り込みたくなる季節ですから、
裏返すと虫歯の季節でもあるのではないでしょうか。
歯科技工士記念日が秋であることの本意は、
きっとそこにあるのだと、思い定めてしまうと、
お気楽俳人である私なんぞ、ゆとりでこの日を受け入れてしまえるのでした。
天のきみえさんの句、「アエイウエオアオ」は
僕もよく朗読する前にがなります。
しっかりした入れ歯(差し歯を含む)をしておかないと、
そこから息が漏れていい声がでません。
「発声練習」だとかなんとか、意味のまとわり付いた単語を持ってくるのではなしに、
音としての「アエイウエオアオ」をぽんと置かれたことにより、
発声練習をしている少々滑稽な口元までが見えてきて、
楽しい一句に仕上がりました。
今日はこの句に尽きますね。
【選者詠】
歯科技工士記念日妻の噛み癖の 島田牙城
[273] 9.23:不動産の日 仲寒蝉選 2005年09月23日 (金)【天】
不動産の日のまふたつに切るトルテ 百花
【地】
星ひとつ売れぬ日はなし不動産の日 淡々
【人】
不動産の日や畦埋め尽くす曼珠沙華 紅椿
【佳作】
不動産の日の確率でわるウィスキー みずき
悪くはしないから、さ、食べてよ不動産の日 櫂未知子
不動産の日祖母の踵は五億円 大西龍一
不動産の日丸ビル内「ホトトギス」発行所 媚庵
不動産の日よくうごく口の人 春畑 茜
不動産の日ヒトのみが所有して 中村安伸
ベランダに障子を洗う不動産の日 正美
【選評】
突然だが個人的にはこの記念日は余り好きではない。制定が1984年と言えば丁度バブルの始まる頃。まさか不動産業を活発にしようとこの記念日を制定したためではなかろうが、この頃から日本社会はあのおぞましいバブル時代へ突入して行き、現在の我々がその狂乱の(しかも一部の旨い汁を吸った奴らの)つけを払わされている訳だ。実に忌々しい記念日なんである。
天の句、トルテはオーストリア風のまあるいお菓子。生地が固いのでナイフで切る訳だがその行為に土地を切り分ける不動産業との相似を見出した。忌々しい記念日を実にスマートに美しく上品に詠んでいる。逆にその点に作者の批判精神というか当てこすりを感じるのは穿ち過ぎか。
地の句は言うまでもなく其角の「鐘ひとつ売れぬ日はなし江戸の春」のパロディ。現句は江戸っ子の自画自賛的な臭みが無きにしも非ずだが、実に豪儀でスケールが大きく好きである。そこで作者はさらにスケールを拡大して「星ひとつ」とやった。ここまでいくと嘘もあっけらかんとしていて笑う他あるまい。
人の句の美しくも殺伐とした風景。荒れ放題の田圃は明治以後の日本人が土地をどのように扱ってきたかの象徴だ。司馬遼太郎の受け売りだがオランダでは土地は公のもの、何しろ「神は天地を創造されたがオランダを作ったのはオランダ人」と言われる程干拓でできた国だから。日本もいっそ土地を公有にしちまえばいいのに。捨て去られた田の畦に咲くのは曼珠沙華、別名を死人花、これは死に体の土地へのオマージュか。
佳作。「ウィスキー」の割り方は人によって様々、地価の上昇率と掛けたか。「悪くはしないから」との甘言に乗って農民が土地を二束三文で手放し、転がして儲ける輩がいる。「祖母の踵」が占める僅かな土地の値が法外だったりする、少し前の都心ではよく聞いた話。「丸ビル」内にホトトギス発行所があったのは有名だが考えてみればどういう経緯だったのだろう、少し勉強してみるか。「よくうごく」口は不動産業者のもの、今でもマンション安おまっせなどとふざけた電話があとを絶たない。「ヒトのみが」所有するのは正にその通りだが、先述したように土地については日本人の所有欲が群を抜いていることも忘れてはなるまい。「ベランダに」は何ともつつましくて侘しい光景だがこれが土地神話に踊らされた国民の情けない自画像でもある。
【選者詠】
四方田の老人ホーム不動産の日 寒蝉
[272] 9.22:日本救世軍創立記念日 仲寒蝉選 2005年09月22日 (木)【天】
日本救世軍創立記念日どこかで虹 坂石佳音
【地】
日本救世軍創立記念日一円玉に重さあり 月野ぽぽな
【人】
日本救世軍創立記念日上手すぎるトランペット 淡々
【佳作】
日本救世軍創立記念日の水底あをき太陽 みずき
日本救世軍創立記念日鍛冶屋は武器を鍋に換え ひらくに
古本屋街湧く日本救世軍創立記念日 望月暢孝
日本救世軍創立記念日のポケットに丸い種 きみえ
三叉のスプーンありけり日本救世軍創立記念日 大西龍一
日本救世軍創立記念日素焼の猿 中村安伸
軍靴も十字の印日本救世軍創立記念日 まなぶ
【選評】
幼少期に大阪の町で救世軍の慈善鍋を見て胡散臭さを感じたが未だに救世軍(世界規模であるらしい)という秘密結社(いや秘密ではないか)の存在意義とか活動状況がよく分らない。どの句も遠巻きにしている感あり。
天の句は思いっきり離して成功。しかも「どこかで」という無責任さに妙に納得してしまう。「虹」は作者の善意であろうし救世軍創立の志だろう。
地の句は慈善鍋の献金からの発想。一円玉にも重さがあるとはやや道歌(銅貨ではない)臭いが純粋に物質としての一円玉としておこう。
人の句は選者が大阪の町で感じた胡散臭さを代弁してくれている。そう言えば昔は傷痍軍人がトランペット吹いていたなあ。
佳作。「水底あをき」は美しい表現で人間の善の側を表現。「鍛冶屋は」はまさに戦争の本質を言い当てている。「古本屋街」は神田での慈善鍋の光景か。「ポケットに」ある種は献金の硬貨。「三叉の」は鍋がらみだがありけりなどと大仰に言ったのが手柄。「素焼の猿」は説明しようのないおかしさがあって好きだった。「軍靴」は十字の印があっても矢張り軍靴なのであった。
【選者詠】
日本救世軍創立記念日爪噛んで橋渡る 寒蝉
[271] 9.21:ファッションショーメモリアルデー 仲寒蝉選 2005年09月21日 (水)【天】
着ることは脱ぐことファッションショーメモリアルデー ほにゃらか
【地】
LLの大腿骨やファッションショーメモリアルデー 大西龍一
【人】
ファッションショーメモリアルデーのシガーにルージュ 雪うさぎ
【佳作】
ファッションショーメモリアルデー詩人のような嘘ばかり いな
ドッコイショーファッションショーメモリアルデーヨイコラショー 淡々
ファッションショーメモリアルデーには手品 中性子
羽衣をファッションショーメモリアルデーにリニューアル ひらくに
ファッションショーメモリアルデーバービーよりもリカが好き きみえ
ファッションショーメモリアルデーの塩加減 中村安伸
ファッションショーメモリアルデーの小悪魔 正美
【選評】
決め付けは頻繁にやると嫌味だが時と場合を心得ていれば効果的。天の句の一見アフォリズム風の決め付けは中身がなくこの仰々しい名前の記念日に相応しい。だが冷静に読むと「人類は服を着ることで裸を隠したつもりでも反対にそれを強調しただけなのだ」と気づかせてくれる。例えばエデンの園の知恵の実のように。うーん、禅にも通じる逆説的な真実を語っているのかもしれない。
地の句LLを服のサイズではなく大たい骨のサイズとしたところがミソ。ファッションショーのモデルたちの脚の長さを科学者(医学者)らしく観察。
人の句は横文字を並べて助詞で繋いだだけなのに都会的な恋物語か映画のワンシーンのような鮮明な映像を突きつける。実にスマートだ。
佳作。「詩人のような」嘘とは美しく見えるファッションショーやその業界のことを指すか。「ドッコイショー」のあほらしさこそこの日に相応しい。「手品」を配しただけだがこの日の本質に触れている。「羽衣」は一転して民話の世界に遊ぶ。「バービー」もリカも男の私にはどっちでもいいことだが。「塩加減」からもあれこれ考えさせられる。「小悪魔」はあの脚の長い女たち。
【選者詠】
ファッションショーメモリアルデー紅葉散る 寒蝉
[270] 9.20:バスの日 仲寒蝉選 2005年09月20日 (火)【天】
バスの日の祇園精舎の欠伸かな 島田牙城
【地】
バスの日や風の匂ひの峠越え 月野ぽぽな
【人】
バスの日の尾灯は滲む霧の中 淡々
【佳作】
バスの日の太平洋は凪いでいる 谷口純子
焼そばのポスター破れバスの日へ 櫂未知子
バスの日やかつてあまたの基地ありぬ 大西龍一
バスの日や耳成山も雨の中 春畑 茜
バスの日や女車掌の木炭車 望月暢孝
バスの日や濡れたる傘とともに寝て 中村安伸
バスの日にイラン油田のキナクサキ 正美
【選評】
離せばいいというものではないが天の句の「祇園精舎の欠伸」はこの表現を思い付いただけでも特選に値する。平家物語を茶化しつつ、どことなくバス旅行の大らかさ、のんびりした様子を表わしていて秀逸。
地の句は美しくも整った句である。電車や飛行機など速さのみ追求される世情に抗してバスは文字通りわが道を行く。この峠越えはボンネットバスがいい。
人の句の何ともロマンチックなことよ。これもバスのイメージに付随するものなのだろう。
佳作。「太平洋」が凪いでいるのもバスの持つ穏やかなイメージゆえ。「焼そば」のポスターはバスの車内広告か、それが破れているままなのは如何にも田舎のどうでもいい路線。「かつてあまたの」基地があったのは歴史的事実だがその時代の交通の主役がバスであったということだろう。「耳成山」の句は準特選、歴史と文芸と自然とが交錯するバス旅行に相応しいきれいな句。「女車掌」がいるバスなんてそう言えばいつから無くなってしまったんだろう、流石に選者は木炭バスは経験していないが。「濡れたる」傘と一緒に寝るのは何故?それとバスとどういう関係があるの?うーん面白い。「イラン油田」は石油の価格高騰と関係あろうが「きなくさき」は平仮名でよかったのでは。
【選者詠】
バスの日をモンサンミシェルまで歩く 寒蝉
[269] 9.19:苗字の日 仲寒蝉選 2005年09月19日 (月)【天】
前夫とは何を食べてた苗字の日 櫂未知子
【地】
鼻くそが目くそを笑う苗字の日 谷口純子
【人】
病院で名前を呼ばれ苗字の日 昭雄
【佳作】
苗字の日のをんな過去帳めくる みずき
突然の結婚報告苗字の日 春おぼろ
苗字の日小鳥遊月見里学ぶべし 媚庵
地域別ランキングに異同あり苗字の日 流鬢力
糸瓜十四五本苗字の日 靖山
苗字の日期待は親の七光 ひらくに
苗字の日案山子の首に迷子札 坂石佳音
【選評】
天の句、夫婦別姓などと言われてもまだまだそうはいかず、女性が苗字について一番考えるのは結婚(または離婚)の時かもしれない。そこでその道の先達である未知子さんの感慨として「そーいや前の亭主とは何食べてたっけ?」とふと考えた訳だ。実によく分る、けれども平凡な感慨ではない。食い気に思いを致す点が(シリーズ物とはいえ)この人らしい。
地の句は面白い。普通目糞が鼻糞を笑うのだが逆になっている所も考え抜かれている。そもそもこの諺自体が「そんなのどっちだっていいじゃん」という意味なのだが、そこを敢えて逆転して今度は鼻糞に花を持たせた。公平だ。「うちは由緒正しい何某家の・・・」なんて言う輩が必ずいる。そういう人に贈る俳句。
人の句は今年4月に施行された個人情報保護法で揺れる医療の現場を話題にしていて選者としてはとても共感を覚えた。「当院では患者様のプライバシーに配慮して番号でお呼び致しております」って患者の取り違えがあったらどうするんだよ!呼べば呼んだで噛みつく奴がいるし、呼ばなきゃ返事しない奴がいるし、本当に困ったもんだ。
佳作。「過去帳」とはまた古風な、めくっているのが女というのも艶めかしくていい。「突然の」報告で、まああの娘も苗字が変わったんだわ、と焦ってしまう方などいらっしゃるんでしょうね。世の中には変わった苗字が沢山ありますが「小鳥遊月見里」の小鳥遊は『たかなし』、月見里は『やまなし』ですね、なぜそう読むのかは自分で考えてください。「地域別」たしかにこの土地には多いという苗字がある、松本では百瀬、佐久では塩野入が結構いる。「糸瓜十四五本」は子規の糸瓜と鶏頭の句を合わせたような句、苗字との関係は不明。「親の七光」は通常批判的に使うのだがこれは居直り。「案山子の首」に迷子札とは微笑ましい、田園風景によく似合う。
【選者詠】
もつと長い姓がよかつた苗字の日 寒蝉
[268] 9.18:かいわれ大根の日 2005年09月18日 (日)【天】
かいわれ大根の日子にせがまれしタケコプター 紅椿
【地】
かいわれ大根の日伸びきつたタイミング 中村安伸
【人】
沙翁も奈翁も召しませかいわれ大根の日 媚庵
【佳作】
かいわれ大根の日の親知らず 谷口純子
長く愛して一本愛してかいわれ大根の日 櫂未知子
種も仕掛けもかいわれ大根の日 靖山
かいわれ大根の日どこか濡れゐたる 月野ぽぽな
祖母山に育つかいわれ大根の日 まなぶ
かいわれ大根の日極上の月光降らむ 雪うさぎ
かいわれ大根の日やしらじらと望の月 坂石佳音
【選評】
一時はダイオキシン事件の濡れ衣で人気が落ちたものの手軽だし見た目が可愛いし食卓には欠かせない一品。天の句はその形からドラえもんのタケコプターを連想した。確かにタケコプターはあればいいなと誰もが思う。でも子にせがまれてもはいはいと買ってやる訳にはいかない。まあこれで我慢しろと貝割を手渡したかどうか。
地の句の「伸びきつたタイミング」とは何か。勿論貝割の伸びて長くなった様子からの発想なのだが、貝割そのものが伸びきったその瞬間をさしているのかタイミングが伸びきる(そんなことがあり得るとして)と言っているのか。前者は正統的だが面白みに欠ける。後者、タイミングとは瞬間なのだからそもそも伸び縮みするものではないが時間がだらしなく伸びきるというイメージはダリの時計のようで結構素敵ではないか。
人の句、「沙翁」はシェイクスピア、「奈翁」はナポレオン。昔の人は面白い表現を使ったものだ。この組み合わせにこそこの句の命がある。特別な意味はない。「召しませ」などと花売り娘のような言葉を使っているのも心憎い。
佳作。「親知らず」で貝割を噛む人もいるだろう。「長く愛して」というCMが昔あったっけ、あの頃の大原麗子はきれいだったなあ。「種も仕掛けも」あるのかないのか言わないところがいい。「どこか濡れゐたる」は貝割の写生としてもすぐれているが何よりも色っぽい。「祖母山」は青邨の句でしか知らない、確か九州の山だが貝割との関係は不明、でもいいじゃん。「極上の」も「しらじらと」も茅舎の句を踏まえつつきれいにまとめた。
【選者詠】
かいわれ大根の日天に小さき手を合はせ 寒蝉
[267] 9.17:モノレール開業記念日 仲 寒蝉選 2005年09月17日 (土)【天】
モノレール開業記念日その先の空へ 雪うさぎ
【地】
モノレール開業記念日葉っぱがキップ 中性子
【人】
モノレール開業記念日の磯の色鳥 正美
【佳作】
モノレール開業記念日鱚を釣る 島田牙城
モノレール開業記念日の寡黙な弥次郎兵衛 きみえ
モノレール開業記念日の閉まるカーテン 春おぼろ
少年の日の夢のままなりモノレール開業記念日 流鬢力
モノレール開業記念日二股掛ける社長かな 望月暢孝
モノレール開業記念日のマハリクマハリタ 緋色
モノレール開業記念日はすに飛ぶ敷石 坂石佳音
【選評】
モノレールを未来や夢(子供の抱く)などと結びつけた句が多かった。天の句もその一つ。まだ設置されていない空に向かってモノレールが進んで行く(銀河鉄道のように)とても楽しくて幻想的な風景に惹かれた。
地の句は一転して地上的だが矢張り童話的。狐か狸の話のようでもあるがそれなら「切符が葉っぱ」だろう。この場合はモノレールに憧れた子供達のごっこ遊びととりたい。
人の句は実に美しい秋の情景。たぶん東京モノレール開業以前の浜松町から羽田の景色なんだろうと想像した。今江戸前の干潟は殆ど残されていない。
佳作。「鱚を釣る」も古きよき江戸前の風景か。「寡黙な」やじろべえの正体は実はモノレール自身、なのだと思う。「閉まるカーテン」もモノレールを思わせる。「少年の日の」は正しく皆の憧れだったモノレールへの賛辞。「二股掛ける」の意味がどうしても分からなかった、でも面白くて取らされた。「マハリクマハリタ」は秘密のあっこちゃんのお呪いだがモノレールとの関係不明。「はすに飛ぶ敷石」もモノレールから離れている所が魅力、これは何となく繋がりが見えそう。
【選者詠】
モノレール開業記念日海に向つてひらく道 寒蝉
[266] 9.16:マッチの日 仲 寒蝉選 2005年09月16日 (金)【天】
マッチの日心の闇のありどころ 月野ぽぽな
【地】
団塊の世代五月蠅きマッチの日 島田牙城
【人】
勾玉のほんのりぬくしマッチの日 谷口純子
【佳作】
マッチの日夢二の少女目をひらく みずき
マッチの日考古学者の持つ尾骨 大西龍一
七輪でさて何を焼こマッチの日 櫂未知子
父母に駆落ちの過去マッチの日 きみえ
すこしだけ夢を見ましたマッチの日 春畑 茜
マッチの日貴船神社の午前二時 紅椿
祖国よりいまも噴煙マッチの日 中村安伸
【選評】
天の句はライトヴァースと言うかお茶らけた句も数多く混じる(それがまたいいのだが)記念日俳句の中では格調の高さでずば抜けている。心の闇までは常套句、芥川ばりに「ありどころ」とやったのがよかった。人は誰も心の闇のただ中で自分だけのマッチを擦って毎日を生き繋いでいる、と重々しく言いたくなるような句である。
地の句は常に団塊の世代の後塵を拝し尻拭いをさせられてきた所謂U字谷の世代(大塚英志が名付けた)として牙城氏はぷんぷんしている訳だ。選者も、そして少し年下ではあるが櫂未知子さんも割を食った世代である。
人の句、勾玉に触れた時僅かにぬくもりを感じたのだ。或いは玉造部と呼ばれた古代の勾玉作りの職人の手のぬくもりが今に残っているせいかもしれない。マッチを擦って手をかざした時のぬくもりと通じるものを作者はそこに見た。
佳作。「夢二の」少女の大きな目が見つめるマッチの火。「考古学者」は発掘した誰の、いや何の尾骨を持っているのか。「七輪で」はマッチが台所の主役だった頃にはありふれていた筈の懐かしい光景。「父母に」も過去に思いを馳せる、赤色エレジーじゃないか。「すこしだけ」はアンデルセン童話のマッチ売りの少女。「貴船神社の」午前二時は誰かが藁人形でも打っていそうで怖い。「祖国より」には寺山の匂いがする、噴煙といえば浅間山か櫻島か。
【選者詠】
身体しか燃やすものなしマッチの日 寒蝉
[265] 9.15:ヒジキの日 櫂未知子選 2005年09月15日 (木)【天】
蒟蒻に居るようにヒジキの日に居る 中性子
【地】
ヒジキの日銘々皿は夜を抱く 中村安伸
【人】
国会は長老ばかりヒジキの日 春おぼろ
【佳作】
変はり無き七の筆跡ヒジキの日 大西龍一
人を焼く煙見てをりヒジキの日 島田牙城
里山に灯火ひとつヒジキの日 月野ぽぽな
濁点のひしめく浜辺ヒジキの日 きみえ
香典返しあるまいとヒジキの日 二健
ヒジキの日アイラッシュカーラーの底力 雪うさぎ
歯応へといふ官能やヒジキの日 百花
【選評】
句をあれこれ検討する以前に、
「日本ヒジキ協会」なるものがあることに私はのけぞりました。
たとえば協会事務所があったとして、そこに電話をかけたとします。
「はい、日本ヒジキ協会でございます」と出てくれるのでしょうか。
そこで使用している封筒には
「日本ヒジキ協会」と印刷してあるのでしょうか。
住所印にもそう記してあるのでしょうか…と考えると、
体の芯から笑いがこみ上げてきます。
ちなみに「協会」って勝手に名乗っていいんですね。
「法人」はあれこれ条件があるけど。
さらにちなみに、ヒジキは春の季語です(鹿尾菜と書きます)。
ですからなんとなく納得の行かない記念日です。
【天】の中性子さん、これはうまいわ。
内容と文体が凄くうまく噛み合ってる(つまりは五目煮のことよね)。
今度、真似させてね。
【地】の中村安伸さん、このお皿に
ヒジキがいっぱいのってるんだというのじゃなくて、
理屈を超えた〈夜を抱く〉なんですね。いい句だなあ。
【人】の春おぼろさん、いえいえ、俳壇も長老ばかりですよ
(実力ある長老ばかりならいいんですけどね)。
彼らのつつがなき憤死を招くべく、私も努力してまいります。
【選者吟】
砂を噛むやうな午後ありヒジキの日 櫂未知子
[264] 9.14:メンズバレンタインデー 櫂未知子選 2005年09月14日 (水)【天】
メンズバレンタインデーしかたないわねえ 坂石佳音
【地】
メンズバレンタインデーこんなんでました 谷口純子
【人】
メンズバレンタインデーの年齢制限ギリギリ 春おぼろ
【佳作】
メンズバレンタインデーより七歩遠ざかる 春畑 茜
メンズバレンタインデー最終電車の尾灯揺れ 媚庵
ソルティドッグプリーズメンズバレンタインデー 流鬢力
メンズバレンタインデーとりあへず靴磨く きみえ
メンズバレンタインデー綾取りの糸に引っかかり 望月暢孝
使い捨てカメラとメンズバレンタインデー 月野ぽぽな
メンズバレンタインデー遙か群集を離れて 雪うさぎ
【選評】
これは大いに笑える記念日。
あまり聞いたことないなと思ってたら、なんですか、
男性が女性に下着を贈って愛の告白?!
それって愛じゃなくて、「寝ましょう」だけでしょうが
(そのせいか男性陣らしき作者達が微妙に照れてる)。
…という視点から読むと【天】の坂石佳音さん、
【地】の谷口純子さんの句の価値が倍増するんです。
佳音さんの場合、「まあ、こんなスケスケ・紐状態同然
しかも真っ赤っ赤のを買ってきてくれて…
お気持はありがたいけど…〈しかたないわねえ〉」。
純子さんの場合は、「え、お客様、お相手はお若い?
…じゃあ、この淡いピンクなどは…
え、結構大胆なかた?そりゃ大変々々。
ああ、そうだ、〈こんなんでました〉!
どうです?このびらびらフリル。ここがすぐあきますやん」
…とは申しませんが(怪しい関西弁は許して)、
いろいろ想像できて面白い二句でした。
【人】の春おぼろさんの句の〈年齢制限ギリギリ〉も笑えた。
大丈夫です、何歳になってもパンツははきますから。
それにしてもヘンな記念日ね。
普通のバレンタインの贈り物がチョコレートなのに、
どうしてこの日はいきなり下着にエスカレートするのでしょう。
そのうち、「義理パンツ」「義理ブラ」が出てきたら面白いな。
【選者吟】
そこは未踏の茶箪笥メンズバレンタインデー 櫂未知子
[263] 9.13:世界の法の日 櫂未知子選 2005年09月13日 (火)【天】
百人のバタの塗り方世界の法の日 大西龍一
【地】
世界の法の日糸電話もつれをり 島田牙城
【人】
味噌汁や世界の法の日はまた昇る ほにゃらか
【佳作】
草臥れて世界の法の日の日暮 媚庵
世界の法の日太陽はいつも無罪 中村安伸
世界の法の日の胃袋が揺れてゐる 春畑 茜
臍出して世界の法の日の昼寝 きみえ
曇るばかりの世界の法の日の空へ 緋色
世界の法の日の黒やぎ白やぎ 谷口純子
世界の法の日真白き電柱 中性子
【選評】
この記念日、制定した意義が見い出せない(といきなり書いていいのか)。
平和を願う云々という記念日は結構ある、
となればそれなりのユニークさがなければならない
…しかし、この記念日はどうにも具体性に欠けるきらいがあります。
結果として、皆様の句が大味になってしまったというか、
多くがスローガンになってしまっているんですね。
その中で【天】の大西龍一さんの句はうまかった。
たかがバターの塗り方も百人百様であって、
しかし、バターを塗る行為であることに変わりはない。
バターではなく〈バタ〉、ここが泣かせます。
「暮しの手帖」の表記ですよね。レトロでおいしそう。
【地】の島田牙城さん、可愛い〈糸電話〉を持ってきたあたり、老獪。
【人】のほにゃらかさん(凄い俳号だとつくづく)、
結句が微妙に字余りなところが面白い。
かつて法学の講義を取った時、
「法は『最低限の道徳』だ」と教わりました。
そうよね、ほったらかしておいても暴力なし・戦争なしならば、
法なんて不要なもので。
どちらかが優位に立とうとする限り、必要なのでしょうね。
【選者吟】
砂糖は入れては駄目?世界の法の日 櫂未知子
[262] 9.12:宇宙の日 櫂未知子選 2005年09月12日 (月)【天】
砂場から砂場へ嫁ぎ宇宙の日 二健
【地】
天動説も捨てがたい宇宙の日 靖山
【人】
ガチャポンがガチャンと出でて宇宙の日 ミキ
【佳作】
ぼろぼろの元素記号や宇宙の日 大西龍一
宇宙の日やくざな星に住んでいて 望月暢孝
宇宙の日ちょっとお皿を買い足そう いな
三回は死球で終わる宇宙の日 谷口純子
宇宙の日ラーメンライス啜り終へ 島田牙城
つぶらなるモグラのひとみ宇宙の日 きみえ
宇宙の日闇に鳴きつぐ月鈴子 正美
【選評】
この、毛利さんが宇宙へ飛び立った日は、
私の父が死ぬ数日前でした。
「それがどうした」と言われそうですが、
わが郷里は毛利さんの出身地でもあります。
地元の小学生達が衛星中継で毛利さんと話すとか、話さないとか、
数日間、町を挙げてとにかく大騒ぎでした。
自宅で最期を迎えようとしていた父と家族が寄り添っていた時、
家の外は大騒ぎでした。
ですから、毛利さんの顔をテレビで見るたびに、「家族」を思うんですね。
【天】の二健さんの句、この句を読んで「???」のかたは多いでしょう。
私はこの句を猫様達のご婚儀だと思いました
(違っててもいいじゃありませんか)。
そう、お砂場は猫達のトイレとして最適です。
屋内で飼っている場合でも、
トイレ用の紙の粒やゼオライトは相変わらず「猫砂」と呼ばれています。
私は猫を感じさせる句だからといって取るわけではありません。
この句の静けさは特筆に価します。
【地】の靖山さん、現在ではけっして言ってはならないことを
ぽろっと言ったようで実に面白い。
【人】のミキさん、子供達が好きな〈ガチャポン〉を
よくもまあ、この日にぶつけて。
【佳作】のいなさんのさらっとした味わい、
島田牙城さんの浪人生みたいな味わい、
正美さんの〈月鈴子〉も忘れがたい(ゲツレイシは鈴虫のこと)。
皆さん、北海道余市へいらしたら、
宇宙記念館に是非お寄りください。ちゃんとがっかりできます。
【選者吟】まんまるのハムの断面宇宙の日 櫂未知子
[261] 9.11:公衆電話の日 櫂未知子選 2005年09月11日 (日)【天】
山頂に佇む公衆電話の日 島田牙城
【地】
公衆電話の日直方体の残暑かな 大西龍一
【人】
離れから公衆電話の日を祝う 二健
【佳作】
公衆電話の日治癒するものの一つに街 月野ぽぽな
足の爪が割れた公衆電話の日 いな
公衆電話の日耳元に咀嚼音 寒蝉
雨夜と雨夜つなぐ公衆電話の日 春畑 茜
「デカ長」と叫びたいな公衆電話の日 あまっとう♪
新聞にミルクを注ぐ公衆電話の日 中村安伸
公衆電話の日微笑みの次に並む 坂石佳音
【選評】
あまりにすっきりしてたので島田牙城さんの句が【天】。
他の人が皆、苦労の痕跡こってりで詠んでるのに、
この脱力感はなんなのでしょう。
【地】の大西龍一さん、こちらは対照的にきっちり丁寧に硬く作ってます。
ああ、そうだ、電話ボックスの中ってとてつもなく暑かったですよね。
【人】の二健さん、隠居所のジサマが
この日を寿いでいるようなめでたさがあります。
【佳作】の中村安伸さんの句は手品のことかな。
あの牛乳ってどこへ行ったのでしょうね。手品って面白いわ。
私は水芸ができるようになりたい。
あまっとう♪さんの句、
そういえば昔のテレビに出てくるデカ長やデカ達は、
出先では公衆電話でしたっけ?(署では黒い電話でしたよね。)
案外覚えてないものですね。
それにしても、この日は「公衆電話の日」で、
そしてアメリカでテロがあった日なんですね。
たまたま同じ日なわけですが、
テロも災害も携帯電話や一般加入電話を通じにくくする、
そんなことを考えました。
あ、電話って、どんな形態のものでも便利ですが、
御礼状代わりに早朝に電話をかけてくるのだけはイヤだなと思います。
(結構多いんですよ)。
【選者吟】
公衆電話の日をばばんとバブルガム 櫂未知子
[260] 9.10:屋外広告の日 櫂未知子選 2005年09月10日 (土)【天】
屋外広告の日いつそ寝殿造 寒蝉
【地】
屋外広告の日が天窓を打ち叩く みずき
【人】
昼顔は抜かれ屋外広告の日 谷口純子
【佳作】
二次元の昭和は唄ふ屋外広告の日 雪うさぎ
四メーター美人屋外広告の日 坂石佳音
くちびるは秋色屋外広告の日 月野ぽぽな
屋外広告の日最後の紙となりにけり 大西龍一
首都に朝来たり屋外広告の日 春畑 茜
屋外広告の日引きこもっている私 紅椿
屋外広告の日表札を取り替へる 百花
【選評】
まず、【佳作】から。
雪うさぎさんの句、〈昭和〉が入ってると私はだいたい取らないのですが、
このぐらい無機的だといいですね。
坂石佳音さんの句は、選外の〈屋外広告の日想定外の大女 望月暢孝〉さんの句と
同じ内容かもしれない。ただ、佳音さんの場合、
いきなりずばっと出してきたんですね。
この記念日ならではの味わいがあります
(【地】にしてもよかったかな。泣いて貰おう)。
大西龍一さん、なんか、厠の中を想像させて微妙にヘンな味わい。
【人】の谷口純子さんの〈昼顔は抜かれ〉、
何気ないけど思い切り省略感あり。
みずきさん、記念日そのものを主語にしたややブキミな味わいの句でした。
さて、【天】の寒蝉さんの句…
この記念日から何ゆえ〈寝殿造〉を思いついたのか、理解に苦しみます。
さらには、〈いつそ〉とあることで、謎はますます深まります。
あの平安貴族の屋敷の造り方がどうして…と私は苦しみながらも、
ついこの句の魅力に屈服してしまうんですね。
記念日俳句における寒蝉さんは、いつもつきすぎ系の句が多いのです。
もし、この句が自棄から生まれたものなら、これはまた素晴しい。
【選者吟屋外広告の日をはばたくポップコーン 櫂未知子
[259] 9.9:救急の日 櫂未知子選 2005年09月09日 (金)【天】
片仮名は激しき言葉救急の日 大西龍一
【地】
消え残る油性マジック救急の日 坂石佳音
【人】
ダッチコーヒーの一滴一滴や救急の日 流鬢力
【佳作】
白桃の尻より剥ける救急の日 正美
救急の日の青き空白き雲 媚庵
救急の日ジョンとポールのひかりごけ 中村安伸
お隣はキャベツ満載救急の日 二健
幕の内弁当腐る救急の日 谷口純子
救急の日黄揚羽が舞い込んで 望月暢孝
救急の日ガラス越しなるキスに似て 紅椿
【選評】
今まで3回だけ救急車に乗りました。
子供の頃、交通事故に遭った時と
二十代で呼吸困難に陥った時と、
前の姑さんが札幌のホテルで転倒してたっぷり骨折した時です
(つまり、自分自身については2回だけ)。
救急医療の現場にそこそこ立ち会ったのは、
妹が交通事故に遭い、かなりのダメージを受けた時ぐらいですね。
ついこの前、JALの123便事故から20年ということで、
いろいろな特集番組が組まれました。
また、阪神大震災や地下鉄サリン事故についても、
その日が近くなると特集が組まれますし、
著書も出版され続けています。
亡くなったかたも多いけれど、
医療によって助かったかたも多い、それを思うと、
〈救急の日やタクシー代りの救急車 寒蝉〉の作者の腹立たしさもわかります
(それなのに選外。許ちてね)。
【天】の大西龍一さん、
カタカナで発せられたその言葉はどんな言葉だったのでしょうか。
いろいろ想像できて、奥行きのある作品でした。
【地】の坂石佳音さん、この句はうまいなあ。
本当は【天】でもよかったのですが、とりあえず泣いてくださいね。ははは。
【人】の流鬢力さん、じっくり抽出する珈琲と
一刻を争う現場の対比がさりげなくてうまい。
ついでに言ってしまえば、この日は重陽の日、
つまり旧暦の菊の日です。
同じ日付でもこんなにイメージが違うのも面白いですね。
【選者吟】
救急の日の枝豆の無駄毛かな 櫂未知子
[258] 9.8:平和条約調印記念日 櫂未知子選 2005年09月07日 (水)【天】
平和条約調印記念日わさびぬき 春畑 茜
【地】
女湯で平和条約調印記念日 二健
【人】
平和条約調印記念日のばったんこ 淡々
【佳作】
本見るは布団の中や平和条約調印記念日 大西龍一
平和条約調印記念日の鉦叩 正美
平和条約調印記念日篭目かごめ 中村安伸
平和条約調印記念日シャチハタ印が二割引 ミキ
平和条約調印記念日インクの枯れた万年筆 望月暢孝
平和条約調印記念日古きインク壷 媚庵
平和条約調印記念日ハトに餌をやらないで運動 紅椿
【選評】
まあ、なんと長ったらしい記念日…
しかも、字面に重い意味が込められてて。
こういう記念日は、その記念日を駄目押しするのではなく、
さらりと詠んだほうが生きますね。
【天】の春畑茜さんの句がその典型かも。
【地】の二健さんの句もほとんどオマヌケです。
といって、ふざけすぎていないところがいい。
【人】の淡々さんの句の〈ばったんこ〉は秋の季語の添水(そうず)、
つまり、竹筒にある程度水が溜まると
バッターンと石に竹がぶつかってみんなびっくり、という装置です。
本来、田畑を荒らす動物を追い払うものでした。面白いつけ方ですね。
これは、【佳作】の正美さんの〈鉦叩〉にも通じます。
正美さんの句の場合は、あとを引かない鳴き方をする秋の虫ですが、
お二方とも、音に着目しているのが面白かった。
平和と音は相反するものなのかな。
【佳作】のミキさんの句、
何かと便利な〈シャチハタ印〉が割引とあればこちらも出かけたくなる、
そのあたりの心理をついてきたのがいい
(ところで、欧米人は調印の時にもサインで済ませるわけですよね)。
【選者吟】
平和条約調印記念日、親子丼一丁! 櫂未知子
[257] 9.7:クリーナーの日 宮ア二健選 2005年09月07日 (水)【天】
クリーナーの日お出かけはすつぴんで きみえ
【地】
見えすぎて困るクリーナーの日の枝豆 櫂未知子
【人】
光るクリーナーの日の穴入り来る貝 月野ぽぽな
【佳作】
クリーナーの日手持ち無沙汰に拭いてをリ 百花
クリーナーの日のハーリークリシュナよ 媚庵
買ひ込みし諸々使ひクリーナーの日 流鬢力
クリーナーの日鬱の字を見るために 大西龍一
クリーナーの日には掃溜めに鶴 紅椿
私生活は不透明なクリーナーの日 雪うさぎ
クリーナーの日へ浮かんでるシャボン玉 みずき
【選評】
9.7は語呂合わせ。LENS CLEANING DAY.メガネクリーナー、
メガネクロスなどの製造販売を手がける(株)パールが、
「メガネをきれいにして美しい視生活を」と提唱した日。
電気掃除機と勘違いされた向きもあったが、やむなしと思う。
英文よろしくレンズクリーナーの日としなければ特定できない。
【天】きみえ氏、何とも情けない句を高位にして申し訳ないが、
大半が付き過ぎで、どうにもこうにも高評できずに残念だ。
屈託なくて嫌味がない。何と言っても卑近こそ原点故天を奉る。
「日」が、ちゃんと切れ字している。
【地】未知子氏、付き過ぎを枝豆で挽回している。わが好物。
隠された主語は「嘘が」ではあるまいか。そう思った方が、
二物衝突になる。そのためには「の枝豆」よりか「や枝豆」の
方がいいが。下五切れ句跨りの体言止めの離れ業になるし。
【人】ぽぽな氏、行きはよいよい帰りは怖い句。にたり貝か。
無理やり意味が通る可笑しさ。常套形式でも変な句はできるが、
人は固定観念に守られていて、なかなかそうはいかない。
俳句は真面目に作ってはお話にならない。
生真面目を覆して笑おう。滑稽けっこう。
ぼぼな氏の観念の自己脱皮には、眼を見張るものがある。
【佳作】
・百花氏、何気ない所作による心理描写は心憎い。
(末尾の「リ」は「り」の誤字だろう)
・媚庵氏、新興宗教との関係性が希薄なのがよい。
・流鬢力氏、通販か何かで買って無駄にしてない。
・龍一氏、一つの目的の為に命を賭ける事もある。
・紅椿氏、折鶴が捨てられてあったと解釈しよう。
・雪うさぎ氏、スローガン語「視生活」の駄洒落。
・みずき氏、字足らずの中七を推敲する必要あり。
【選者吟】
詠みし世のクリーナーの日の業句の好よ 二健
[256] 9.6:妹の日 宮ア二健選 2005年09月06日 (火)【天】
詩と妹の日は火の塔も愛し 月野ぽぽな
【地】
妹の日の大草原の小さな家 媚庵
【人】
溜息を溜める袋や妹の日 島田牙城
【佳作】
株にはもう手出ししません妹の日 中性子
妹の日アイスクリームを半分おくれ 望月暢孝
妹の日僕が割つたと皿の前 坂石佳音
妹の日のコラムニストの料理かな いな
妹の日の妹のまづき飯 櫂未知子
千手観音になる夢に覚む妹の日 緋色
妹の日によく焼けし笑窪かな 流鬢力
【選評】 姉妹型研究の第一人者・畑田国男氏が提唱した日で、
妹の可憐さを象徴する乙女座の中間日の前日の9月6日を制定。
妹の日だから妹を詠むというのは、大方の思考だが、
俳句における配合という手法を深慮すれば、
ぶつけ合う事物としては、弱さの露呈を免れない。
一物仕立てを成すなら、よほどの筋金入りでなければ屹立しない。
唯一の一句は強くあるべきだ。そのために断定の切れ字も肝心だ。
【天】ぽぽな氏、一句の中に「詩」「…と」「…も」が入ると、
ろくな句に仕上がらないものだが、この句に限っては、そういった
禁じ手の負い目を寄せ付けていない。むしろ逆手を取っている。
きちっと、ものを言い切っているのにどこか変。
偶然性に拠るところが強い別俳句形式のなせる技を超え、
選出し、取換え、組合わせ、選別、並べ、確定など、
作者の心の表裏の意図が遺憾なく発揮されている。
芭蕉曰く「行きて戻る心」「言いおおせて何かある」を実感する。
【地】媚庵氏、えらくまた象徴的な句で構図も色彩も鮮明だ。
俳句の任を果たしきっている。景を描写したのみで十分という好例。
【人】牙城氏、林檎に被せる袋か何かの袋を、
ぜんぜん別な用途に転用するとは俳味が美味しい。アイロニー豊か。
【佳作】
・中性子氏、ただ字面が似ているだけでの発想のよろしさ。
・暢孝氏、アイスクリームが高級品だった幼少時代を思う。
・佳音氏、いつか言わねばと思っていたことをついに告白。
・いな氏、小ラムに酢と何かの囲みがある料理であろうか。
・未知子氏、手厳しい逆説的姉妹愛かもしれないが口悪だ。
・緋色氏、まだまだ成仏しないで世俗を十分楽しまれたし。
・流鬢力氏、いたぶられた妹句ばかりなのでトリは健全に。
【選者吟】
賭けたは浴衣と妹の日のどうも井戸だが湯畑か 二健
[255] 9.5:石炭の日 宮ア二健選 2005年09月06日 (火)【天】
石炭の日のすみずみをななかまど 百花
【地】
濃い石炭の日の火飲んだ擬声語 月野ぽぽな
【人】
石炭の日地図では広い北の島 中村安伸
【佳作】
未来かもしれぬ昔日石炭の日 寒蝉
石炭の日をぞろぞろと花林糖 櫂未知子
日に曝す石炭の日の力瘤 きみえ
石炭の日クールビズと螻蛄言い あまっとう♪
石炭の日握つて握つて握りしむ 坂石佳音
ささくれて石炭の日の切りどほし みずき
石炭の日とりあえずナマチュウみっつ 中性子
【選評】
石炭の日 9・5を「クリーンコール」と読ませ、資源エネルギー庁が1992年に制定。
現在では硫黄や窒素酸化物を除去して、クリーンエネルギーとなっているという。
いつもながら平明過ぎる句が多く、それから一歩抜け出した句に惹かれた。
【天】百花氏、やまともじで書かれた全てが説明を超え、連想から調和への神殿を築
いている。
遺憾なく発揮された言葉遊びの紐解きが楽しいのは、衒いや押し付けがましさがない
からだ。
平仮名の音を多様な漢字に置き換えてみれば、その深遠な鮮やかさが分かるだろう。
そして別季語の取り合わせも的確だ。記念日名そのものが新季語であるが、忌日名と
同様
季感は希薄なので、季語を配合しても季重なりとして打ち消しあうことはない。
【地】ぽぽな氏、常識の範疇から逸脱して、真新しい俳句発の物語にぞくぞくする。
意表を突いたプロローグと予定不調和のエピローグの直結に、詩俳混合ならではの火
花が散る。
【人】安伸氏、堂々として非の打ち所がない。あえて理に適いながら諧謔する豪腕
さ。
【佳作】
・寒蝉氏、具体物はないのだが想いと韻律が伝わる。
・未知子氏、漫画のようなお菓子味、いや可笑しみ。
・きみえ氏、かつて軍国主義下のプロパガンダの図。
・あまっとう♪氏、オケラの意味の多重性が面白い。
・佳音氏、石炭景気で、繁盛している寿司屋その昔。
・みずき氏、下五から上五へエンドレスの外燃機関。
・中性子氏、仕事から解放された労働者のひととき。
【選者吟】
長くただ照る石炭の日飲んだ煙管で叩くかな 二健
[254] 9.4:くしの日 宮ア二健選 2005年09月06日 (火)【天】
夜はくしの日度々熨斗配るよ 月野ぽぽな
【地】
くしの日や芋掘りにゆくこととする 櫂未知子
【人】
くしの日や小さき蛇が川渡る 雪うさぎ
【佳作】
くしの日の猫より長いしっぽ欲し 中性子
くしの日や君の誕生日という日 昭雄
くしの日の親代々の写真かな 百花
くしの日の年々縁遠くはなりぬ 寒蝉
くしの日の思考回路を梳くべしと ミキ
くしの日やひと筋絡む虫の声 北川 梢
引かれても前髪つかめくしの日の箴言 淡々
【選評】
9月4日の語呂合わせから、美容関係者らが1978年(昭和53年)に制定した日。
関係ないが、今は昔、くしくも弊店はその一年後に開店した。
【天】ぽぽな氏、半分は偶然の産物なればこその作為への冒涜が、
功を奏すことを知りえている。あえて難産を好み、天命を待つよしみか。
【地】未知子氏、髪を梳くのではなく畑の土を梳くへそ曲がりな天の邪鬼。
【人】うさぎ氏、付かず離れず客観写生の粋。メドゥーサ伝説も彷彿する。
【佳作】
・中性子氏、人の欲望は果てしなし。
・昭雄氏、比較しながら改めて思う。
・百花氏、しみじみと代々の形見を。
・寒蝉氏、そういったものの数々が。
・ミキ氏、セーラームーンが言った。
・梢氏、虫の音合唱団をしたがえる。
・淡々氏、鬘会社のアフォリズムか。
【選者吟】
くしの日非トンマなマントヒヒの自句 二健
[252] 9.3:ベッドの日 宮ア二健選 2005年09月03日 (土)【天】
羊蹄の薹立つてゐるベッドの日 雪うさぎ
【地】
ベッドの日独逸の敷布の赤と黒 媚庵
【人】
ベッドの日へといふ文字を並べれば いな
【佳作】
片翼の半生軋むベッドの日 島田牙城
ベッドの日ぎっしりし月日の凸へ 月野ぽぽな
ベッドの日暑さの残る二階部屋 正美
大艦隊帆船を追いぬベッドの日 谷口純子
嬰児の小さき大の字ベッドの日 坂石佳音
ベッドの日スクランブルエッグ起き抜けに ミキ
ベッドの日羊一匹呼びかへす 春畑 茜
【選評】
ベッドの日(good sleep Day)全日本ベッド工業会が
制定した日。グッドスリープはグッスリ。その語呂合わせで
9月3日を記念日としたものだそうな。
ベッドのムードに引きずりこまれては句が死んでしまうし、
ベッドの説明であってもいけない。だれもが考えそうなことは、
あえて捨てなければ創作性は希薄になってしまう。
諧謔は勿論、硬質な句と、意味の誑かしの句は戴いた。
【天】雪うさぎ氏、雑草のぎしぎしに薹が立っている。
よりにもよってベッドの日に。固有名詞と擬音の通底が絶妙だ。
【地】媚庵氏、深刻も滑稽も高じれば、ドイツ国旗も敷布と化す。
柔らかな素材をムードに流されず、硬質に描ききった。
【人】いな氏、人を食ったもの言いで、狐につままれたようだ。
言い切るべきをそうせず、あえて策略としているので佳句。
【佳作】
・牙城氏、重く沈痛な句だ。「軋む」は繋ぎとして機能する。
・ぽぽな氏、危うい境界をうろつく俳句形式ならではの景観。
・正美氏、べたべたに付いていることが返って盛り上げ成功。
・純子氏、大仰に出て、弱いものいじめを暗示するかのよう。
・佳音氏、滑稽を生む一要素の差異構築が即反転でなされた。
・ミキ氏、日常の只事にも限りない驚きがあり、俳眼が拾う。
・茜氏、通説を踏まえての創作だが、ちょっと手柄はあった。
【選者吟】
缶けるベッドの日のドッペルゲンガー 二健
[251] 9.2:宝くじの日 宮ア二健選 2005年09月02日 (金)【天】
燃えるごみの日は月曜宝くじの日 雪うさぎ
【地】
宝くじの日それから宝くじの夜 中村安伸
【人】
熱き子が宝くじの日をのしかかる 緋色
【佳作】
宝くじの日長くなる影ぼふし 春畑 茜
満員の立ち食ひ蕎麦よ宝くじの日 大西龍一
宝くじの日のクジラから手紙 中性子
よっ宝くじの日の辞蔵が建つよ 月野ぽぽな
宝くじの日出不精となりにけり 望月暢孝
これやこの宝くじの日丑の刻 媚庵
カタログで宝くじの日お買ひ物 島田牙城
【選評】
9月2日の語呂合わせから生まれたそうな。
「宝くじの日ツチノコを見たやうな 坂石佳音」
「宝くじの日行列して隕石に当る 淡々」
の2句に立ち止まり、腕を組んで考え込んだ。
このように稀なる事柄を対比してみても、
しょせん主題の説明に過ぎないのではないか。
選句の一つの方法として、消却方がある。佳句を選ぼうとしないで、
駄句や嫌味な句を選んで落としてゆき、残った無難な句を味わう。
取り立てて欠点のない句には、それなりの良さがあるものだ。
その良さを評すれば、凡句たりとも輝きを放つものだ。
天の句はその代表格だ。地は斬新な作風。人は題の組み入れ方が凄い。
【天】雪うさぎ氏、宝くじの日どこ吹く風。動じない日常生活の強かさ。
【地】安伸氏、別次元の提示とその断層を曝け出す単純な離れ業の妙。
【人】緋色氏、世は射幸心を煽りたてるが、子の窮境を受け止める深刻劇。
【佳作】
・茜氏、期待する心との重なり、その長さの陰影のみの描写。
・龍一氏、人の現実もまた夢の現実の儚さを承知しいている。
・中性子氏、駄洒落も押韻も、それに留まらない展開がいい。
・ぽぽな氏、当時の田中角栄か。悪銭身につかずと思わせる。
・暢孝氏、なりにけり俳句の省略されたところは読者のもの。
・媚庵氏、上五捨て言葉を受ける回転マトの的中エリアらし。
・牙城氏、只事も時として目を引く手立てとなりえる好見本。
【選者吟】
単線を宝くじの日よ通ひ野路倉方温泉だ 二健
[250] 9.1:マテ茶の日 宮崎二健選 2005年09月01日 (木)【天】
紙袋たまりすぎたるマテ茶の日 いな
【地】
コンドルの剥製の眼よマテ茶の日 百花
【人】
しあわせな瞳と思うマテ茶の日 緋色
【佳作】
地震テロ台風注意マテ茶の日 寒蝉
言い訳を探して逢いぬマテ茶の日 昭雄
マテ茶の日黒光りする生徒の笑顔 正美
人影の濃くなつてゆくマテ茶の日 中村安伸
湯気に滲んだ君の微笑みマテ茶の日 淡々
マテ茶の日短編小説読み続け 媚庵
鯛の矢血で真っ赤だ且つマテ茶の日だ 月野ぽぽな
【選評】
マテ茶の生産国アルゼンチンでの収穫祭が9月1日に行われるので、
日本マテ茶協会が制定し、紅茶、コーヒーと共に、世界三大飲物の
一つとされるマテ茶の普及を目的としているそうだ。
案の定、駄洒落の句も散見したが、まま、佳作に出会えた。
天のいな氏のような屈託ない句が、もっと沢山あったら面白い。
【天】いな氏、これぞ俳諧の本命か万馬券か。卑近卑俗只事の極めつけ。
【地】百花氏、魂を抜かれた猛禽の眼が哀しい。飾り物と飲み物。
【人】緋色氏、実際のところ結局は不幸なのだと思う。救われた客体。
【佳作】
・寒蝉氏、マイナス要因列記して、ほっと一息。
・昭雄氏、句自体が言い訳という滑稽を晒した。
・正美氏、一律ながら多種多様な笑顔の数々だ。
・安伸氏、オーバーラップの場面転換の宜しさ。
・淡々氏、「滲んだ」のデフォルメに尽きたり。
・媚庵氏、集約と断片なる人生物語の耽読人生。
・ぽぽな氏、無心所着という枯木も山の賑わい。
【選者吟】
閨に真風をマテ茶の日の八千手間惜しまにゃね 二健
[249] 8.31:野菜の日 媚庵選 2005年08月31日 (水)【天】
成すは良し野菜の日のイザヤ書は砂 月野ぽぽな
【地】
野菜の日通勤電車で煮崩れて しのざき香澄
【人】
野菜の日ハプスブルグ家の濃いスープ 百花
【佳作】
ピーマンをカレーに入れる野菜の日 昭雄
野菜の日籠にゆられて夢のなか 春畑 茜
野菜の日肉食獣の化石かな 紅椿
野菜の日皆玉ねぎを持つてきた 坂石佳音
一夜漬けの投球フォーム野菜の日 島田牙城
野菜の日人がオクラに刺されしと 信治
野菜の日好き放題に生きるべし 園を
【選評】
1983年(昭和58年)に食料品流通改善協会などが
野菜の栄養価やおいしさを見直してもらおうと制定した日。
日付は8.3.1でヤサイの語呂合わせから。
天の月野ぽぽなさんの回文はみごとに箴言風に決まりました。
回文というのは突然このような恩寵が天からふってくるような
凄味がありますね。
地のしのざき香澄さんは見立てが絶妙。
まさに煮崩れた野菜の自分の姿を連想します。
人の百花さん。ハプスブルク家のことは詳しくないんですが
いかにも濃密な味のスープを好みそうな家系ではありますね。
以上の天地人の句は野菜からの連想が独特で小気味良いわけです。
佳作の昭雄さんはリアルな料理俳句。美味しそうです。
春畑茜さんは明るいメルヘン的な空想。
紅椿さんは野菜の反対語としての肉食獣の配合。化石という
ところまでひねってみせたのが成功です。
坂石佳音さんは謎のある句。なんでみんなタマネギなんだよ。
その不可思議さを放りだした面白味。
牙城さんは野菜からの連想の一夜漬けを投球フォームへと
無理矢理ひねりきった力わざ。
信治さんは坂石佳音さんよりもっと不可解な謎の句。
オクラの逆襲ってことでしょうか。意表をついて一本!。
園をさんはやぶれかぶれの一句。無理に連想すれば
野菜という家庭的なものを捨てて、好き放題に生きるゾ、
ということでありましょうか。
選者吟の「チロリン村」は古過ぎですか?
【選者吟】
野菜の日チロリン村は今いずこ 媚庵
[248] 8.30:ハッピーサンシャインデー 媚庵選 2005年08月30日 (火)【天】
ハッピーサンシャインデー沈思黙考す 島田牙城
【地】
絵日記の西瓜ハッピーサンシャインデー 谷口純子
【人】
あらハッピーサンシャインデーの偐紅葉 信治
【佳作】
約分は出来るとこまでハッピーサンシャインデー 大西龍一
ダイナマイトスマイルハッピーサンシャインデー 野月寛紀
洗濯機うたふよハッピーサンシャインデー 春畑 茜
IWGPああ向こう岸ハッピーサンシャインデー ほにゃらか
ポップコーンはさまってハッピーサンシャインデー 緋色
具沢山朝の味噌汁ハッピーサンシャインデー 北川 梢
簪が揺れてハッピーサンシャインデー まなぶ
【選後評】
8をハッピー、30をサンシャインと読んで、
太陽のような明るい笑顔で過ごせば、ハッピーな気分になれる日。
この日に生まれた人は笑顔のすてきな人が多いことから生まれた記念日。
どうもムリが多い記念日の気がします。
天の牙城さん、まあ、沈思黙考は何の記念日でも良いようなものですが
本日のようなあいまいな記念日にこそ黙って考えるべきなのかも知れません。
地の谷口純子さんは夏休みの終りということで絵日記との俳号。記念日の
季語性があいまいなので、あえて西瓜でダメ押しという手際を買います。
人の信治さんは秋の紅葉を持ってきました。しかし、あくまで偐紅葉。
ニセモノということですよね。初句の「あら」があるので
作者の真意がわかります。トリッキーな職人技に敬意を表します。
佳作の大西龍一さんも夏休みの宿題でしょうか。約分という言葉が懐かしいです。
野月寛紀さんは嘘っぽいカタカナ語を配合して皮肉っぽく。
春畑茜さんは陽気なママさんのサンシャインの洗濯。
ほにゃらかさんのIWGPってのは、インターナショナルレスリンググランプリと
解釈してもいいんでしょうか。アントニオ猪木が創設したチャンピオンシップです。
今誰がIWGPチャンピオンかわかりませんが。
これは天山が全日本プロレスの小島に負けて、ベルトが流出した事件を
向こう岸ととらえたと読みましたが。プロレスとなると長くなってスマン。
緋色さんはカタカナ語のポップコーンが記念日に巧くはまっています。
北川梢さんはアメリカっぽい記念日に対して、純日本風のハッピーを具体化
してみせた手柄です。
まなぶさんも簪という純日本的アイテムが効果をあげています。
【選者吟】
ハッピーサンシャインデー笑い茸永遠(とことわ)に 媚庵
[247] 8.29:焼き肉の日 媚庵選 2005年08月29日 (月)【天】
豊後灘美味しく見えて焼き肉の日 まなぶ
【地】
不埒なパートナーと焼き肉の日 流鬢力
【人】
じゅうじゅうと焼き肉の日の十字軍 ミキ
【佳作】
焼き肉の日妻に小さき秘密あり 紅椿
焼き肉の日のフェラーリへ水を打つ 中村安伸
焼き肉の日家族団欒が焦げてゐる 園を
赤蜻蛉焼き肉の日にひとり 正美
焼き肉の日や肩越しの東京タワー 櫂未知子
三桁の当選番号焼き肉の日 大西龍一
四階まで煙は昇る焼き肉の日 谷口純子
【選評】
8月29日の語呂合わせで焼き肉。
この季節、夏バテ気味の人々に焼き肉をいっぱい食べて、
スタミナをつけて残暑を乗りきってもらおうと、
焼き肉店などが提唱している日。
ということで、いかにも食欲をそそる記念日であります。
その食欲の挑発を素直にしかも巧みに吟じてみせたのが
天のまなぶさんの一句。豊後灘さえ美味しく見えるというのは
みごとな言挙げといえましょう。
流鬢力さんの不埒なパートナーとは何者か?
不倫の相手か、非合法の仕事の相棒か。夜逃げの相談と
いうことはなさそうですが。
私は本来オノマトペを安易に詩歌にとりいれるのには
絶対反対の立場なのですが、人のミキさんのじゅうじゅうは
結句の十字軍を呼び出す伏線として苦笑しつつ許容します。
まさか十字軍とは、意表をつかれました。
佳作の紅椿さんは猟奇的な秘密を連想させます。浮気くらいなら
小さき秘密ですが、夫を殺して焼き肉にして食べてしまったりして。
中村安伸さんは成り金っぽいイヤミさが魅力。
園をさんの句には実感的な説得力がありますね。
正美さんは孤独の焼き肉のせつなさ。五人前くらい一人で食べてしまったりして。
櫂未知子さんは東京の六本木ヒルズの高級焼き肉店でしょうか。
東京タワーを肩越しに見て敵対的買収の相談?
大西龍一さんは焼き肉食べ放題券でも当選したのでしょうか。
谷口純子さんは迷惑な焼き肉。俳諧的な妙味があります。
選者吟は映画『パッチギ』に献ずる一句です。
【選者吟】
焼き肉の日イムジン河のディスクに傷 媚庵
[246] 民放テレビスタートの日 媚庵選 2005年08月27日 (土)【天】
埴輪が出番を待つ民放テレビスタートの日 雪うさぎ
【地】
民放テレビスタートの日の今治水 緋色
【人】
弁当屋の出入り民放テレビスタートの日 櫂未知子
【佳作】
冷蔵庫に鍵民放テレビスタートの日 坂石佳音
民放テレビスタートの日のがちんこ ミキ
民放テレビスタートの日朝から夕食の支度 百花
頭が邪魔です民放テレビスタートの日 月野ぽぽな
民放テレビスタートの日だヨ!全員集合 中村安伸
民放テレビスタートの日の律儀だった日本人の正座 昭雄
民放テレビスタートの日の耳アレルギー みずき
【選評】
1953年(昭和28年)の今日、日本テレビが民間放送として
初のテレビ放送を正式に始めた。
このとき、テレビコマーシャルの第1号も誕生している。
その作品は「精工舎の時計が正午をお知らせします」という
30秒スポットだったが、フィルムが裏返しで、音も不明瞭だったとか。
というわけで、この日からノイズが圧倒的に増殖したわけだ。
天の雪うさぎさんの句には思わず笑った。
埴輪がテレビ局の楽屋で出番を待っていたらコワイわ。
まあ、現在のテレビに出てる連中なんて埴輪みたいなもんさ、との
皮肉ととっても面白い。文句なしに天。
地の緋色さんはなつかしアイテムの今治水で勝負。
歯痛の薬でしたっけ。
たぶん、テレビCMもやっていたんじゃないかな。
正露丸とか実母散とか、この手のパターンは必ずしも
珍しくはないけれど、民放テレビと今治水は許容範囲。
地は櫂未知子さん。放送やイベントの現場の基本は
弁当の手配ということをよくご存知。弁当屋の利権なども
この日から発生したのでありましょう。
佳作の坂石佳音さん、百花さん。二人とも食事関連の
発想になっているのが愉快。
やはり、テレビは食事と切り離せないということ。
ミキさんのガチンコはヤラセの反対語かな。
月野ぽぽなさん、確かにテレビカメラの前にアタマを出してはダメ。
中村安伸さんはオーソドックスな発想。
昭雄さんの正座も覚えがある世代です。
みずきさんのアレルギーはきっと電波のせいでしょう。
【選者吟】
民放テレビスタートの日から電波男 媚庵
[245] 「男はつらいよ」の日 媚庵選 2005年08月27日 (土)【天】
串ものが好きで「男はつらいよ」の日 ミキ
【地】
「男はつらいよ」の日の口三味線 谷口純子
【人】
「男はつらいよ」の日の線上にをんな臥す みずき
【佳作】
通りやんせ「男はつらいよ」の日の細道を 園を
リリーさんに四十代は憧れず「男はつらいよ」の日 緋色
卓袱台のいくつ「男はつらいよ」の日 櫂未知子
俳人は漂泊が好き「男はつらいよ」の日 章司
愚か「男はつらいよ」の日戀の夜苛つは琴を掻く 月野ぽぽな
陣痛が炸裂する「男はつらいよ」の日 雪うさぎ
「男はつらいよ」の日バリの八月涼しけれ 大西龍一
【選評】
「男はつらいよ」のイメージ、フーテンの寅さんのイメージが
あまりにも強烈すぎるので、何とも個性を発揮しにくい記念日
ではある。
天のミキさんはまったくそれらに引っ張られることなく
それでも串ものという下町っぽい食べ物を持ってくることで
まさに良い味を出した句になった。
地の谷口純子さん。口三味線は寅さんのイメージではあるが
ベタではないし、軽快な啖呵売の口上を連想させてくれるの
も妙味ということ。
人のみずきさんは、フシギな方向へ想像力を飛ばすことに成功。
佳作の中でも、園をさんの通りゃんせは入選にしたかった。
テキヤ稼業の歴史的な秘密に触れているような気がする。
緋色さんのリリーさんは浅丘ルリ子のダンサーですね。私は五十代
なので、ついあこがれてしまいます。
櫂未知子さんは、おいちゃんちの卓袱台をひっくり返すシーンからの
連想でしょうか。
章司さんの漂泊は山頭火と寅さんのダブルイメージですか。
月野ぽぽなさんは回文句。「戀の夜苛つは琴を掻く」という下句の
字ヅラのコワサに魅かれます。
雪うさぎさんは逆に上句が強烈。
大西龍一さんは思い切って外国へ飛んでみせたちからわざ。
【選者吟】
呼吸せよ!「男はつらいよ」の日の空気 媚庵
[244] 8.26:ナミビアの日 媚庵選 2005年08月26日 (金)【天】
ナミビアの日へから回りする籤運 みずき
【地】
ナミビアの日縄文よりの稲の花 正美
【人】
ナミビアの日放浪少年の視力2.0 望月暢孝
【佳作】
ナミビアの日ぢつと手を見る 坂石佳音
ナミビアの日を二番だし三番だし 櫂未知子
とにかくめでたいナミビアの日のビアジョッキー 淡々
ナミビアの日に汲む水のかがやけり 春畑 茜
たまねぎを剥けば出てくるナミビアの日 園を
エビスビール奮発したのナミビアの日 雪うさぎ
蟻の這ふ顎のあたりやナミビアの日 大西龍一
【選評】
国連の制定した国際デーのひとつ。
1990年(平成2年)の3月に独立したアフリカ南西部の国
ナミビアの独立を援助しようとするもの。
ナミビアは、世界有数のウラン、ダイヤモンドなどの鉱物資源が豊富な国。
正直なところ、どのように思い入れれば良いのか
迷ってしまう記念日だ。
天のみずきさんは、「から回りする籤運」という
せつないフレーズを持ってきた。これは、運命論に
通じているわけで、深いといえば深い。
地の正美さんはオーソドックスに歴史の足跡を
たどってみせる。ナミビアという国に縄文よりの稲の花は
咲いているのだろうか。
人の望月暢孝さんはナミビアから視力の良い少年を連想。
放浪少年の成長物語が、この記念日から始まるのか。
佳作のみなさんもそれぞれの想像力を気持ち良く駆使している。
坂石佳音さんはパロディながら考えさせられる。
櫂未知子さんの二番だし三番だしも凡手では思い付かない。
淡々さんは何かにつけてビールを飲むオヤジの心境がリアル。
まあ、ただ飲みたいだけか。
春畑茜さんは生の喜びがまぶしい。
園をさんはナンセンスの痛快さ。
雪うさぎさんは淡々さんより可愛いビール党。
大西龍一さんは皮膚感覚によるナミビアへのエールか。
【選者吟】
ナミビアの日の地に蟹も蜘蛛も這う 媚庵
[243] 8.25:サマークリスマス 媚庵選 2005年08月25日 (木)【天】
サマークリスマス没日の海を冷やすべし みずき
【地】
「メリーサマークリスマス」蚊取り線香のブタより 望月暢孝
【人】
サマークリスマスきっと海から来るサンタ 雪うさぎ
【佳作】
妊婦さんのまあるいおなかサマークリスマス 月野ぽぽな
サマークリスマスイヴイヴぞ処暑は 島田牙城
南半球への箒貸しますサマークリスマス 百花
サマークリスマス水飛沫あげやつてこい まなぶ
サマークリスマスクール・ビズのトナカイ 坂石佳音
残暑はつづくいつまでもサマークリスマス 淡々
サマークリスマス金の裏側何もなし 大西龍一
【選評】
12月の冬のクリスマスに対して、8月の夏のクリスマスをと始まった行事。
TBSの林美雄アナウンサーが先駆けとなり、イベントを行った。
まあ、根拠の薄弱な記念日であるが、
逆に俳句をつくる際には機知の見せどころ。
天のみずきさんは詩的イメージの構成に成功した。
地の望月暢孝さんはハートウォーミングな機知。
人の雪うさぎさんは俳号どおりの童話的なイメージ。
月野ぽぽなさんは別に妊婦さんはサマークリスマスで
なくともいいのだけれど、変に納得させられます。
島田牙城さんは「処暑」に関する文化暦学的考察。
百花さんは「南半球」という言葉は出さなくてよかった
とは思いますが、「箒貸します」のトボケが抜群。
まなぶさんはオーソドックスな想像力。
坂石佳音さんはマンガ的トナカイが目に浮かびます。
淡々さんは夏ばてのクリスマス。
大西龍一さんは謎がある句ですね。
【選者吟】
季ちがいに刃物ぞサマークリスマス 媚庵
[242] 8.24:大噴火の日 媚庵選 2005年08月24日 (水)【天】
風鈴の短冊が跳び大噴火の日 谷口純子
【地】
大噴火の日無音なる夜の画面 春畑 茜
【人】
かの大噴火の日かすがひの棺拭いたのか 月野ぽぽな
【佳作】
にきび面打つ大太鼓大噴火の日 藤野尚之
バニラミックス抹茶ミックス大噴火の日 櫂未知子
スイカ食うて鰻食うてビール飲む大噴火の日 春おぼろ
大噴火の日秋愁薄き文庫本 正美
虫すだく大噴火の日の夕べなり 園を
泡盛の醗酵状態良し大噴火の日 流鬢力
大噴火の日と響きあふ高層 みずき
【選評】
紀元79年の今日、イタリアのナポリ湾を臨む、ベスビオス火山が大爆発し、
ふもとの町ポンペイを埋没させてしまったことに由来する。
数日間降り続いた火山灰は8メートルも積もり、
2000人以上が死亡したという。大噴火にちなみ、
今日を別名「怒りの日」ともいう。
とても激しい記念日というわけだ。
要は大噴火という強烈な言葉から、どちらの方向へ
イメージを発展させることができるかということだ。
天の谷口純子さかの風鈴の短冊は絶妙の付け合い。
取り残された風鈴の短冊が跳ぶという設定に
危機の先駈けが不安に浮かびあがっている。
春畑茜さんの無音の画面はいかにもビジュアル的。
何が起こっているのだろうとのコワサが迫って来る。
月野ぽぽなさんの回文俳句。「かすがひ」は鎹と春日井建の
ダブルイメージ。不吉さがそこはかとなく漂う句だ。
佳作の藤野尚之さんの「にきび面」と「大太鼓」の取合せが巧い。
櫂未知子さんはさすが『食の一句』の著者だけあり、食べ物の
配合が抜群。胃にもたれそうな大噴火。
春おぼろさんはヤケ食いですか。気持ちはわかります。
一方の正美さんは飲酒はやめて、愁いに沈みつつ文庫本を読むのかな。
園をさんは大噴火の日も風流に虫に思いをはせるわけです。
流鬢力さんは溶岩と泡盛の醗酵の見立てでしょうか。シュールな絵ですね。
みずきさんは都市の高層ビルのカタストロフィー。
【選者吟】
小雨のち曇りのち大噴火の日 媚庵
[241] 8.23:一遍忌 島田牙城選 2005年08月23日 (火)【天】
こげたにほひの十三駅や一遍忌 信治
【地】
お茶漬けに満ち干のありて一遍忌 櫂未知子
【人】
一遍忌めにはさやかにみえねども 園を
【佳作】
鳥渡る影を見ており一遍忌 正美
踊るゆゑ空晴れ渡る一遍忌 月野ぽぽな
一遍忌メールアドレス変へました 大西龍一
はすかひに飛行機雲や一遍忌 章司
一遍忌腰かけるたび撫づる石 坂石佳音
納戸でも柳が揺れて一遍忌 まなぶ
一遍忌伊予の海原照り渡る 春畑 茜
【選評】
連日の忌日題。一遍忌は遊行忌とも言って、江戸時代から俳句にされている。
遊行忌やこの夕べよりちる柳 滝沢馬琴
この句もそうだが、何月何日なのかを把握していないと、
忌日だけでは季節感が出づらい。
馬琴にも「季のことば」としての認識があったかどうか。
「ちる柳」を持ってきて秋の深まりを示している。
鳥渡る影を見ており一遍忌 正美
は、その意味で馬琴句に似ている。
八月二十三日は、旧暦だ。
すなわち、仲秋の終わり頃。
秋雨前線が東北にかかり、東京や関西は残暑の厳しい今の八月二十三日ではない。
正美句はそこを押さえて「鳥渡る」という晩秋の季語を配している。
この句と同じように、空に思いを馳せた方が多かった。
「踊るゆゑ空晴れ渡る」のぽぽなさん、
「はすかひに飛行機雲や」の章司さん、
「海原照り渡る」の茜さん。
どの句も定型の恩恵を充分に賜っているようで、気持ちのいい句になっている。
そんな中で、
初秋の一遍忌を詠んだ園をさんを敢えて人に推した。
「秋来ぬと目にはさやかにみえねども……」からの発想だけれど、
本当はまだ一月ほど先のはずの一遍忌もまた、
新暦八月二十三日では「目にはさやかに見え」ないねと言われている錯覚がある。
地は、櫂未知子句。
かつてカレーライスに陸と海を見つけた俳人ならではの把握。
八月(旧暦)は大潮や葉月潮の季節。
そこを踏まえているわけだ。「満ち干」と動きを捉えたところが、秀抜。
天の信治句、関西に疎い人のために注釈すると、
大阪梅田から淀川を渡ったところにある歓楽街。
「じゅうそう」と読む。風俗店やラブホテルが乱立するなか、
大阪きっての府立進学校・北野高校や、最大手製薬会社・武田薬品工業がある。
通る電車は阪急電車で、梅田から十三に着いたら、
京都・神戸・宝塚という三方に散っていく。
駅前の酒饅頭が名物。
(以上、二拾数年前まで遊んでいた体験より)
で、もう一度信治句を読むと、面白い句だと分かるはず。
一遍さんの旅はつづくのでありました。
【選者吟】
一遍忌妻の余命に重ならむ 島田牙城
[240] 8.22:向田邦子忌 島田牙城選 2005年08月22日 (月)【天】
向田邦子忌や蕎麦焼酎の蕎麦湯割り 流鬢力
【地】
父さんと呼びかけ向田邦子忌よ 園を
【人】
向田邦子忌玉葱のみじん切り 谷口純子
【佳作】
だいこんの月見上げたり向田邦子忌 ももいろさんご
向田邦子忌花しろく庭に揺れ 春畑 茜
向田邦子忌とうさんの咳払い ミキ
向田邦子忌のふれてみたいような頬 緋色
卓袱台は丸いに限る向田邦子忌 望月暢孝
向田邦子忌屏風絵の馬跳ねる 中村安伸
向田邦子忌残暑見舞いをあのひとに 百花
【選評】
異国の空に散った向田邦子さんの忌日。
僕にとっては「阿修羅のごとく」の向田さん。
「寺内貫太郎一家」の向田さんを好きだった人も多いだろうし、
向田さんのエッセイのフアンという人も沢山いるはずだ。
百花句、普段音信のない「あのひと」なのだろう。
「向田邦子忌」であることで、句に郷愁が漂った。
中村安伸句、最近のコンピューターグラフィックを駆使した
テレビドラマのタイトル画面を思った。
向田さんの事故死からすでに24年、忌日があることで偲ぶ心も続く。
望月暢孝句、これは寺内貫太郎一家。
「限る」がいい。四角くてもひっくり返す人はひっくり返すのだろうが、
危なっかしくていけない。
緋色句、こういうほんわかと暖かい句もいいですね。
ミキ句、これも寺内貫太郎一家だろうか。
今回「お父さん」をたぶん生れて初めて辞書で引いた。
『広辞苑』にこうあって、驚いた。
「御父さん……(明治末期に国定教科書に使われて以降広まった語)…………」と。
春畑茜句、このしじまは、眼前の景でもあり、ドラマの中の景でもあり、
また、心の中の景でもあるようです。
ももいろさんご句、「だいこんの月」が分かりづらかったけれど、
「だいこんの花」から、「雪月花」の連想が言わせた造語でしょう。
大根のように白い月ということと取りました。
【人】泣かせるんだよね、向田さんのドラマは。
【地】寺内貫太郎一家かなぁ。
この忌日に自分のお父さんに呼びかけてみたくなるというのは分かりますねぇ。
家族のこころの葛藤を描き続けた向田さんと、今現に家族のしがらみと闘い続ける主人公と。
この「父さん」はすでに亡くなっているのかも知れませんね。
(もちろん、ご存命でも句は成立していますが……)
【天】
僕は高濱虚子が俳句を「極楽の文学」と言ったことを結構肯定しているのです。
くよくよしているような句はなかなか好きになれません。
明るく楽しく大胆に生きていこうよ。俳句はそれを後押しするよ……
というような句、心が晴れやかになるような句が好きなんです。
蕎麦屋で焼酎を飲みながらざるそばを食い、
その焼酎に蕎麦湯を落としたところで、
焼酎が蕎麦焼酎であることに気付く。
それを確認してにっこりする主人公。
ささやかで刹那だけれど、確かな幸せ。
うん、いい句ですねぇ。
【選者吟】
妻の年齢向田邦子忌にまみれ 島田牙城
[239] 8.21:献血の日 島田牙城選 2005年08月21日 (日)【天】
献血の日やわてのんは赤ですねん 坂石佳音
【地】
献血の日や税金の無駄使い 春おぼろ
【人】
献血の日よわが友仙波龍英よ 媚庵
【佳作】
献血の日阪神けふは勝つらしき 大西龍一
献血の日にボールペン使ひ切る 信治
献血の日うすき光りの貝ボタン 望月暢孝
200か400か献血の日の献血 ミキ
献血の日トランシルバニアのお城では 雪うさぎ
アン・ライスななめ読みして献血の日 谷口純子
献血の日の背すじのきれいな少年よ 緋色
【選評】
「1964年のこの日、閣議によって、それまでの売血制度を改め、献血推進運動が日本赤十字社や厚生省などによって展開されることとなった。これを記念して定められた記念日。現在、日本では輸血用血液は献血によって完全自給されている。」
と、由来にある。
そうなのか、東京オリンピックの年までは血を売っていたんだと、無知の僕は新発見に喜ぶ。
さて、今日の作品の中では、
なんといっても、坂石佳音さんの「わてのんは赤ですねん」
の「とぼけ」を買う。
今日が献血の日だと知った大阪のおっさんが、
「ふーん、そんな日ぃがあるんけ」とばかりに、
「ほなら」と献血車の前まで冷やかしに出ていって、
まじめな顔でこう宣(のたま)うわけだ。
大阪弁が生き生きしているし、
大阪人なら、本当にありそうなことだし、
大阪ならではのとんちんかんが、
抱腹を誘う。
最近では、
オムツのCMで青い水を尿の代用にしているのを見たヤンママが、
わが子のおしっこの色に仰天して病院に駆け込み、
「うちの子のおしっこ、青くないんです」と
それこそ青い顔をして質問するという嘘のような実話が
結構多いらしいから、
「僕の血は赤いけれど、他の人の血は何色だろう」
なんて真剣に考えているおっさんが大阪の「みなみ」あたりには
本当にいそうである。
春おぼろ句は、「や」で切れていることを承知してほしい。
「献血の日」を「税金の無駄使い」と言っているのではない。
ボランティアで血を差し出す人と、
無駄使いに奔走する政府や大阪市などに象徴される地方自治体を
対比しているのだ。
媚庵句は切実。
仙波龍英さんの死因を知らないのだけれど、
媚庵さんと大学の同級生だった異彩を放った作家であり歌人の若すぎる死。
作者の痛恨の思いが大きな語り口の中に広がる。
【選者吟】
献血の日の閉経の妻である 島田牙城
[238] 8.20:交通信号の日 島田牙城選 2005年08月20日 (土)【天】
どこまでを許してみるか交通信号の日 ほにゃらか
【地】
交通信号の日コーテルリャンガーソーハンイー 流鬢力
【人】
交通信号の日育つピーマンいろいろ 望月暢孝
【佳作】
ゆふぐれに帰る交通信号の日 春畑 茜
交通信号の日コーヒーに黒砂糖 中村安伸
たれか知る赤の悲しみ交通信号の日 雪うさぎ
黄の薔薇を投げ入れよ交通信号の日は 園を
誘惑の黄色滲むや交通信号の日 北川 梢
交通信号の日書肆に買ふ李賀詩集 媚庵
交通信号の日が映しだすさよなら みずき
【選評】
「1931年(昭和6年)の今日、
東京・銀座の尾張町(現在の4丁目)や京橋交差点などに、
3色灯の交通信号機が設置されたことに由来する。
当時の信号機は、色が変わるたびにベルが鳴る方式だったため、
「うるさい」という苦情が出たという。」
と、記念日協会の由来にある。
信号機も74歳になるわけだ。
ただ、信号機が身近すぎるのか、とりとめのない記念日ということか、
ぴしっと決まる句が少ないように思った。
こういう掴みどころのない日は、
意味深にするよりも、あっけらかんと詠むほうがいいのかも知れない。
佳作には意味深句が並んだ。
どの句も裏を探りたくなる句なのだけれど、
本当に「交通信号の日」でしっくり行っているのか、
選者としての自信がない。
中でもぎりぎりのところで佳作に甘んじていただいたのは、
雪うさぎ句と媚庵句。
この二句にしても、「悲しみ」「買う」がまだまだ物欲しげ。
これらに比べて、天地人三句はどれも、明快なんだ。
交通信号の日育つピーマンいろいろ 望月暢孝
もちろん青信号からの連想。
でも、物欲しげな素振りを見せない。「日」できちんと切ったからいいのだろう。
風景がこちらに届く。
交通信号の日コーテルリャンガーソーハンイー 流鬢力
ごった返す中華料理屋の注文を炊事場に伝える声。
そうか、あの大声も、注文の交通信号なんだと、納得できる。
どこまでを許してみるか交通信号の日 ほにゃらか
青いレモンの味のする性体験をA、B、Cとかと名づけて隠語(?)にしていたっけ。
たぶんAまでなら青信号、Bまで求められたらちょっと黄信号、
えっえっえっ、Cまでなの……赤信号ですよー
という感じなのだろうか。
今日のこの日だから信号に例えたというわけで、
この句もやはりあっけらかんがいい。
【選者吟】
交通信号の日腹筋が出来ぬ妻 島田牙城
[237] 8.19:バイクの日 島田牙城 2005年08月19日 (金)【天】
思ひつきり君とバイクの日を揺らす みずき
【地】
夜の影は二人でひとりバイクの日 百花
【人】
狼の横切るバイクの日の東名 園を
【佳作】
バイクの日遠つ淡海のみづを見に 春畑 茜
バイクの日蕎麦屋の出前揺れながら 媚庵
バイクの日風になろうとした頃よ 望月暢孝
バイクの日短冊ふたつ落ちました 坂石佳音
青き目のヒッチハイクやバイクの日 章司
バイクの日転がっている缶コーヒー 紅椿
走りつつ白桃を剥けバイクの日 櫂未知子
【選評】
「オートバイによる交通事故の増加を防ぐため、政府の交通対策本部が制定したもの。
日付はバイク(819)の語呂合わせから。
とくに、若者に対するバイクの安全運転教育を積極的に展開する日、と定めている。」
が、記念日協会の由来全文。
ぼくは、高校時代、河原で友人のバイクにまたがったことがある。
ブルンと噴かすと、前輪が大きく持ち上がり、
僕を振り落として無人となったバイクが十メートルほど先で横転した。
それ以来、怖くてバイクには乗れない。
最近も、バイク便をやっている友人が個人タクシーと出会い頭に衝突、
今も入院中だ。
乗られる方は、くれぐれもご注意を。
バイクの日?!俳句の日ではないねんてん 淡々
というのがあった。そうそう、今日は坪内稔典さん制定の「俳句の日」。
それを透かして「バイクの日」を題にしたあたり、
題提出者の記念日協会代表・加瀬清志さんにも、
俳の心が染み付いたのだろう。慶賀。
昨日の「高校野球記念日」もそうだし、いつも選をしたり自ら作ったりして感じるのだけれど、
バイクを詠むのではなく、「バイクの日」を詠まなくてはだめなんじゃないだろうかと思う。
「バイクの日」だから月日が限定されて季語になる可能性を秘めるのであって、
「バイク」は季語にはなれない。
もちろんこの試みは無季を許容しているけれど、
それにしても「バイク」を詠むだけだったら「の日」の必然は失せる。
記念日俳句の難しさ、虚(の日)実(バイク)皮膜ではある。
佳作では春畑茜句の「みづ」に痺れた。
園を句は、「狼」がいいなぁ。すでに絶滅したといわれる狼、
その影をしかと見た主人公の目。
バイクは四輪とは比べ物にならないほど魔性の潜む乗り物なのだ。
百花句の恋もいい。季節感が絶妙。
特選はみずき句。
二つに読める。バイクの日をバイクで揺れたとも、
また、重なり合って揺れながら、バイクの日なんだなぁと思っているとも。
記念日って、どちらかというと、ふと、なにかのきっかけで思い出すものだろうから、
僕はやはり後者と取りたいね。
もちろんこの二人にはバイクでデートした思い出が一杯あるわけだ。
【選者吟】
バイクの日妻の飛び六方を見つ 島田牙城
[236] 8.18: 高校野球記念日 島田牙城選 2005年08月18日 (木)【天】
高校野球記念日真日を仰ぎたり 春畑 茜
【地】
高校野球記念日の白玉だんごつるつる 雪うさぎ
【人】
高校野球記念日が匂ふ土踏まず みずき
【佳作】
高校野球記念日の西瓜割り 正美
高校野球記念日の好々爺 月野ぽぽな
高校野球記念日曇天の大薬缶 緋色
高校野球記念日の六甲の暴れ猪 望月暢孝
高校野球記念日丈夫なチアガール 中村安伸
目にゴミが良く入る日や高校野球記念日 春おぼろ
ベンチから見る青空や高校野球記念日 園を
【選評】
この日については、僕はとことん五月蠅いおじさんと化すのだろうとおもっていたのだけれど、
なんとなんと、25句中、予選通過19句。
でれーっと思い出に浸るにやけたおやじと化しただけでした。
で、全25句を披露してしまおうと思い立ちました。
選外句
高校野球記念日いまだ乗らざる音速機 大西龍一 =あまりにもかけ離れている。
ダルビシュはプロ二勝目高校野球記念日 =あっ、名前がない。それ以上に高校野球とプロ野球は別物。
繰り上げで球児にもどる高校野球記念日 ほにゃらか =高知高校のことを知らないと意味が通じない。
応援用味噌汁高校野球記念日 櫂未知子=北海道限定すぎる。
高校野球記念日暴力はいけませぬ 島田牙城=愛の鞭は高校野球の華じゃないか。
かつて野球少年なりし高校野球記念日 昭雄 =そのまんまだなぁ。
選外佳作
高校野球記念日セカンドAの隠し球 媚庵 =記念日「だからこそ」が伝わってこなかった……
プラカード持ちし児ひとり高校野球記念日 ミキ =同上
白妙の服の彼方に高校野球記念日 北川 梢 =「白妙の」が意味不明
とこしえに高校野球記念日の野球(のぼーる) 淡々 =子規の時代とのずれが……
工場の廃墟がホームラン線高校野球記念日 流鬢力 =もう一歩意外性が欲しい
高校野球記念日エプロンで拭く涙 百花 =媚庵句、ミキ句と同じ理由
頭熱足熱高校野球記念日 坂石佳音 =同上
美しき汗泥涙高校野球記念日 まなぶ =同上
高校野球記念日歯医者変ゆ 谷口純子=「変える」の文語はハ行下二段なので「か・ゆ」とはならない。内容は面白い(スポーツはなんでもそうですが、奥歯をかみ締めるので、歯がぼろぼろになる)のに惜しい。
すなわち、記念日に「高校野球」そのものを詠うのだったらがちんこで、そうでなければ離そうねということ。
さて、佳作は今日は解説なし。それぞれ、説明をあまり必要としない句がならんでいます。
人の「高校野球記念日が匂ふ土踏まず みずき 」は、
記念日が匂ってくるというのはおもしろいですねぇ。
この足で野球をやっていたんだと、今その土不踏をさすっているのでしょうか……。
地の「高校野球記念日の白玉だんごつるつる 雪うさぎ」
櫂未知子さんの作風の影響か、記念日名に食べ物をブツける人がふえていますけれど、
この句はその中でも成功していると思います(乱用は避けて、独自性を出していただきたいとも思いますが)。
白玉がなんと白球に見えてくるのです。
天の「高校野球記念日真日を仰ぎたり 春畑 茜」は、
来る日も来る日もひたすら白い小さなボールを追いかけていたわが十代が甦ってきました。
高校野球と夏の太陽(甲子園大会は立秋以降ですが)は付き過ぎなのですが、
記念日だからこそ、あの日の太陽を仰ぐのです。
【選者吟】
妻の惰眠と高校野球記念日の方程式 島田牙城
[235] 8.17:プラチナ・パートナーの日 島田牙城選 2005年08月17日 (水)【天】
プラチナ・パートナーの日のモノクロの王・長嶋 媚庵
【地】
プラチナ・パートナーの日の要介護度 園を
【人】
どこまでも不埒なプラチナ・パートナーの日 月野ぽぽな
【佳作】
プラチナ・パートナーの日赤い箸黒い箸 春畑 茜
プラチナ・パートナーの日すこし余白を残しおり 望月暢孝
メッキでもいいわプラチナ・パートナーの日 淡々
プラチナ・パートナーの日ラストダンスはあちらと 紅椿
かたい人ですプラチナ・パートナーの日 坂石佳音
靴ひものゆるりほどけてプラチナ・パートナーの日 緋色
プラチナ・パートナーの日のリングが光る招待券 まなぶ
【選評】
「そのお互いを思いやる気持ちを表現する機会」としての日らしい。
面白い日で、パートナーは英語なのに
パー(8)ト(10)ナー(7)の語呂合わせは日本語なんですね。
まぁ、それはいいとして、
「最高の伴侶を意味するプラチナパートナー」
という言葉を僕はしりませんでした。
この表現もこのジュエリー会社が考えたものなのか、
一般的な用語なのか、
男はどうもそういうことに疎いようです。
佳作のまなぶさんの句が怖い。
その招待券を持ってにっこりと立っている妻が怖いのであります。
「そんなことで、亭主の愛を試すなよ……財布の中身はお前が一番知ってるだろうに……」と言いたくなるのを堪えている亭主族も多いことでしょう。
緋色さんの目線は面白いですね。
靴紐のほどけに、夫婦の綻びを見て取っている。
これも今日の日を反語的に詠む怖い句です。
坂石佳音さん、連れ合いさんが堅物だと……
でもきっと、それを承知で結婚なさったのですから、
ご馳走様俳句ではあります。
紅椿さんの句は怪しいですね。
三角関係でしょうか。
「あちらとラストダンスをおどってらっしゃいな……わたくし、決して別れませんからね」。
淡々さんの句は、銀婚式も済まされているであろう強みですね。
望月暢孝句の「余白」、
私なんぞ、24時間一緒にいますので、ほんと、余白が欲しい今日この頃であります。
春畑 茜句は、ほんに素直なご馳走様俳句でした。
ところで、人のぽぽな句、思わず「不埒」を辞書で確認してしまいました。
この日を不埒だと、道理に合わない、非難されるべき日だとおっしゃる。
いやぁ、勇気がありますね。
ぽぽなさんの境涯を知りませんが、
独り身の無念なのか、仮面夫婦のつぶやきなのか……。
地の園を句、
昭和50年くらいから、俳句界は老いの俳句の時代に突入しました。
4S(誓子・青畝・素十・秋櫻子)が老いたころからだと思うのです。
中でも青畝さんが絶妙な老いの俳句を発表なさいました。
そして今、僕は介護俳句の時代を迎えているのではないかということを
句会でよく言うのです。
園を句は老老介護ですね。
心の籠った老老介護を受けるためにも、プラチナパートナーに日を大事にいたしましょうね。
で、今日の天はすぐに決まりました。
王と長島のパートナーシップをこの日に思い出すというのは、
絶妙の間だなあと、感服しました。
二物衝撃といいますけれど、それは二物の間を大切にすることなのでしょう。
モノクロテレビに見入っているお父さん、
そのお父さんにビールと枝豆を出しているお母さん、
そんな古き良き時代の家庭がくっきりと見えてきます。
【選者吟】
妻よプラチナパートナーの日のホットミルクよ 島田牙城
[234] 8.16:プレスリー忌 島田牙城選 2005年08月16日 (火)【天】
白き雨黒き雨プレスリー忌を濡らす 緋色
【地】
プレスリー忌なるごつた煮を煮返しぬ 櫂未知子
【人】
プレスリー忌おりしも釜の蓋が開く 雪うさぎ
【佳作】
プレスリー忌沖のかもめに深酒を みずき
プレスリー忌や目薬が夜にしみる 春畑 茜
プレスリー忌きらきらのベルト絞め ミキ
プレスリー忌コーヒー飲めば五弗かな 大西龍一
奪ひ合ふ柄付き雑巾プレスリー忌 月野ぽぽな
プレスリー忌オンザロックに咽てをり 春おぼろ
きりもなきプレスリー忌の猫サーカス 信治
【選評】
みなさま、残暑お見舞い申し上げます。
今日は送火。お盆も終わり、佐久には秋の花が咲き乱れております。
萩、芒(尾花)、葛の花、女郎花、朝顔
もう遠に見納めているのは撫子、
未だ見ていないのは藤袴。
そうそう、この七草に加えたいなあと思うのが、吾亦紅。
さて、プレスリー忌ですけれど、
僕に選をする資格があるのかどうか……
プレスリーフアンには申し訳ないのですが、
プレスリーを殆んど知らないのです。
今日はベーブルース忌でもあります。
野球少年だった(今はサッカーおじさんですが)僕にはこちらの方がよかったのですが……
モミアゲは永遠なりしプレスリー忌 昭雄
袖下の簾が揺れてプレスリー忌 まなぶ
は、あまりにも直截すぎますね。
プレスリー忌の満艦飾の羅府萬歳! 媚庵
ドラムスに百本の捩子プレスリー忌 中村安伸
あたりになると、僕の知識不足を露呈してしまうのです。
天の緋色さんの句は、実は鑑賞が難しいのです。
「白き雨」「黒き雨」とは何か……
「黒い雨」は原爆が降らせる雨です。
でもこの句の場合、そうじゃなくて、白人の涙、黒人の涙と僕には映りました。
死後28年、熱狂的フアンの年齢も60歳、70歳となりつつあるのです。
プレスリーに涙は似合わないのかもしれませんが、
しみじみとこの日を迎えるのもいいのではないでしょうか。
地の櫂未知子句は、一転にぎやかです。「ごつた煮」は勿論アメリカ文化の比喩ですね。
そして、この日にこそ、このごった煮文化をもう一度煮返す=再評価するというわけです。
人の雪うさぎさんの句も櫂未知子句と近いものがありますね。
しかし、違う。
アメリカ文化という大きなものではなく、プレスリーの音楽に焦点が絞られている
と取りました。釜の蓋が開いて、当時の若者を熱狂させたロックンロールが
瓢箪から駒のごとくに飛び出したのでしょう。
佳作では、
プレスリー忌沖のかもめに深酒を みずき
が面白かった。「沖のかもめ」といえば、ソーラン節。その立つ鳥に深酒を飲ませるというのです。
プレスリーとはそういう存在だったのですね。
今、ソーラン節の踊が全国の若者を熱狂させています。
そんなことも思い出しました。
【選者吟】
一人寝のプレスリー忌の妻そして 島田牙城
[233] 8.15:終戦記念日 仲寒蝉選 2005年08月15日 (月)【天】
終戦記念日どの翼にも畳み方 月野ぽぽな
【地】
終戦記念日蛇口に眼をあて眼を洗ふ 媚庵
【人】
終戦記念日バターナイフの置かれけり 大西龍一
【佳作】
網膜に河馬の残像終戦記念日 靖山
青島ビールの喉ごしや終戦記念日 流鬢力
終戦記念日テレビを消して酔へる父 文平字
突き指が痛くて終戦記念日 中性子
若者は海へと向かふ終戦記念日 園を
終戦記念日霊名マリアあまたゐて 百花
泥鰌飼ふ終戦記念日の馬穴 章司
【選評】
重い記念日だ。
日本人の十字架のようなもの。
何人かが指摘していたように「敗戦」でなく「終戦」であるのも、
きっと戦前の反省などするつもりもない旧軍人の誰かが言い始めてこうなったのだろうが、
この一事にも
「今生きている我々は悪くないんです。
悪い人は皆死ぬか処罰されました。
だからあれはもうなかった事にしましょうや」
という日本人にありがちな
(これは遺伝なのか?昭和以後だけなのか?)
せこさ、狡さ、状況認識の甘さが表れている気がする。
真正面から扱うと火傷するし押し付けになりがちだからしんどい。
だから結構さりげなく流した句に惹かれた。
天の句はうまい。
これは記念日俳句を離れても俳句史に残すべき一句ではないか?
翼が欲しいなどと言う思いは数限りなく歌われてきたけれど、
誰もその畳み方までは考えていまい。
翼を広げるということはいつか畳まなくてはならんということなのだ。
八紘一宇などという大風呂敷のことに言及しなくても
十分この句は奥深いものを含んでいる。
地の句は手練の句だ。
蛇口から溢れる水で直接目玉を洗うのは
「もう騙されないぞ」
という固い決意ゆえか。
それともこれまでに見てきた醜い物や事を洗い流したいという切なる願いゆえか。
これも残すべき俳句のひとつであろう。
人の句のさりげなさは一頭地を抜いている。
しかもバターナイフという、
おそらく戦後になって我々の家庭に普及したであろう物をぶつけた。
文化の変化はまず食から。
佳作。
「網膜に」は馬鹿馬鹿しさが救い、でも実は深い内容なのかも。
「青島ビール」またしてもビールで来たか、
でも「青島(チンタオ)」という地名が付いているからいただいた、
私はそのビールの味を知らないが。
「テレビを消して」酔う父親も
この日の日本には数多くいることだろう。
「突き指が」もどこか象徴的。
「若者は」戦争を知らない世代にとっては
黙祷の意味も分らない、
ただこの海の季節を思い切り遊ぶのみ。
「霊名マリア」が多いのは勿論
あらゆる聖人に増して聖母マリア(マグダラのマリアもいたな)の人気が高いから、
それはマリアの母性ゆえ、
男が始めた戦争を支えるのはいつも女であり母。
「泥鰌飼ふ」は思い切り離してくれた、
それはそれでいいがもう少し近づいてもいいのでは。
【選者詠】
人類は学ばぬものぞ終戦記念日 寒蝉
[232] 8.14:専売特許の日 2005年08月14日 (日)【天】
「これはミチコ焼」専売特許の日 櫂未知子
【地】
磁器婚式以後の窓外専売特許の日 百花
【人】
専売特許の日の夫に捺すハンコ 緋色
【佳作】
家内留守食専売特許の日 靖山
専売特許の日ほととぎすの舌が回らない 雪うさぎ
専売特許の日キリンビールと言へば・・・ 流鬢力
薄紙につつむ専売特許の日 春畑 茜
専売特許の日「記念日句会」を登録せよ 望月暢孝
専売特許の日量から質へあなたへの愛 北川 梢
ほら吹きの専売特許の日こそやそおとめ やそおとめ
【選評】
天の句は文句なくこれでしょう!
「専売特許」にこの強引さと高飛車さが実にしっくり調和する。
大体「ミチコ焼」とは何だろう?
たぶんお菓子かお好み焼きの類を焼いていて
何か独創的な具材や味付けを思いつき
「これをミチコ焼と名付けよう」と考えた訳だ。
たぶん専売特許などという仕組みは
このような思考をされるお方を満足させるべく編み出されたものなのだろう。
地の句の磁器婚とは結婚20年目、
3年目の浮気も7年目の破局も乗り越え
(そう言えばうちの夫婦も今年磁器婚だった!)
ドリフのずんどこ節で言えば倦怠期というやつかな。
窓外の景色は私の専売特許ということなのか、
そもそも結婚というシステムが特定の男女をお互いの専売特許のように見立てるように作られているのだから、
そういう風景なのか。
人の句、従って結婚とは
夫(または妻)の体の一部にハンコを捺す行為だと言えなくもない訳だ。
結構男女の仲に関する句が多かったのは
そう考える人が多いからだろう。
佳作。
「家内」は笑える、妻の留守には家中の食い物は自分のものだぞと。
あと多かったのが早口言葉の「東京特許許可局」に関する句、
その中でいただいたのが「ほととぎすの」であった。
これは時鳥の泣き声を「特許許可局」と聞きなしたことと早口言葉とをかけている。
「キリンビールと言へば」キリンビールを反対から読むとこの作者の名前になる訳だ、
馬鹿馬鹿しいけどこの厚かましさが専売特許に通じるとみて取ってあげた。
タバコと塩の句も幾つかあったが
「薄紙につつむ」がきれいでよかった。
「記念日俳句」うーん確かにこれも登録してもいいかも。「量から質へ」は思わせ振りだ、
逆に言えば専属パートナーとなってしまえば
以前のように惜しみなく溢れるような愛はあげないよと言っているようなもの、
質というと聞こえはいいが
騙される方が馬鹿なのか。
「ほら吹きの」は作者自身への自嘲とも誇りとも。
【選者詠】
専売特許の日一生無関係 寒蝉
[231] 8.13:函館・夜景の日 仲寒蝉選 2005年08月13日 (土)【天】
函館・夜景の日の灯の下のささめごと 春畑 茜
【地】
函館・夜景の日なんで御前が此処にゐる 春おぼろ
【人】
愛の流刑地函館・夜景の日 靖山
【佳作】
演歌なら前川清函館・夜景の日 谷口純子
石鹸の匂ひ函館・夜景の日 月野ぽぽな
函館・夜景の日背後よりジョーカー迫る 文平字
街の底に胡座函館・夜景の日 坂石佳音
空論も函館・夜景の日は供物 緋色
盗み見る君の横顔函館・夜景の日 淡々
函館・夜景の日なり桃したたらすなり 櫂未知子
【選評】
天の句はきれいですね。「ささめごと」なんて語彙は短歌を離れてから久しく見ていない気がする。確かに函館山から見た夜景は美しい(私は残念ながら見たことないが)がその灯の一つ一つの下にきっとドラマがあるんだろう。そう思えばまた違って見えてくる。
地の句は折角夜景に見とれて心が浮遊しかかっているのにいきなり地上に引き戻された感じ。いあや何でって言われても何でですかねえ。形而下の鑑賞としては彼女といい気分で夜景を見ていたら知り合いに出くわしたのでこの台詞、というシーン。しかし本当はもっと形而上の重要なことを伝えようとしているのではないか。「何でおまえがここにいる?」と聞かれて理由をすらすら言える人はそうはおるまい。ゴーギャンも考えたように「我々はどこから来たのか、どこへ行くのか、何者なのか」誰にも定かには分らない。
人の句、以下結構演歌調の句が多いのは函館という土地柄なのか、演歌の歴史なのか。それにしても「愛の流刑地」とは実にくさい。ここまで言われるとおちょくられていることに気づかぬ人はいまい。
佳作。
「演歌なら」はいそうですね、私も前川清大好きです。
「石鹸の匂ひ」は英語読みすればソープじゃないか!
「背後より」よく分らんがいきなりハードボイルドだぞ。
「街の底に」はきっと山から見るとそんな気分になるのだろう。
「空論も」供物とはまあ四の五の言わずにこの夜景を見ろということか。
「盗み見る」はおぼこい恋の風景、ちょっとかまととっぽいけど。
「桃したたらすなり」とは流石きれいに決めてくる、函館や北海道でこの作者を外したら大変なことになりそう。
【選者詠】
長崎も神戸もいいが函館・夜景の日 寒蝉
[230] 8.12:太平洋横断記念日 仲寒蝉選 2005年08月12日 (金)【天】
太平洋横断記念日雲を呑む 緋色
【地】
太平洋横断記念日に西瓜割る 正美
【人】
太平洋横断記念日下駄を買ふ 百花
【佳作】
太平洋横断記念日異常気象の海底は みずき
太平洋横断記念日樟脳舟は洗面器をゆく 雪うさぎ
太平洋横断記念日ハワイに吹ける青田風 流鬢力
13歳でした太平洋横断記念日 園を
太平洋横断記念日のもぐら氏の大汗 望月暢孝
太平洋横断記念日水割りを下さい 北川 梢
太平洋横断記念日の通信ケーブル切断す やそおとめ
【選評】
天の句はその気宇壮大さに文字通り呑まれた。
太平洋と雲を呑むでは両方大きくて付き過ぎだとの声が聞かれそうだが
かまうことはない。
ハッタリもここまでやると清々しい。
地の句は逆に大きいものと小さいものの取り合わせ。
しかも西瓜が地球を彷彿させるからぴしっと決まる。
「に」は要らないかもしれない。
人の句は全く無関係の事項を取り合わせた。
ただ太平洋横断はヨットという乗り物で行うのだし、
下駄も多少旧式ではあるが人を乗せて動くものであるから
通じるところはある。
佳作。
「異常気象の」はエルニーニョなどの異常気象が海の中の世界に影響しないはずはなく、
確かに海底では何が起きているんだろうなどと考えさせる日でもある。
「樟脳舟は」は懐かしい玩具を扱って微笑ましい、
堀江さんのニュースを聞いて
こんな風に遊んだ子供が日本に何人かいたことだろう。
「ハワイに」はちょっと変わった題材、
まあハワイにも日系人がいるから田圃はあるのかもしれないが、
一度吹かれてみたいもの。
「13歳でした」って個人的感想を述べられてもなあ、
年がばれるよ。
「もぐら氏」は動物のモグラ?
いや矢張り土方のおっちゃんだろう。
「水割りを」と到着した堀江さんが言ったかどうか、
私なら生ビールだな。
「通信ケーブル」は007に出てくるようなアクションシーンを思えばいい。
【選者詠】
幾千の流星見しや太平洋横断記念日 寒蝉
[229] 8.11:ガンバレの日 仲寒蝉選 2005年08月11日 (木)【天】
ガンバレの日この煎餅湿気てゐる 春畑 茜
【地】
ガンバレの日やもうすぐと金になる 大西龍一
【人】
腹痛くなれ痛くなれガンバレの日 春おぼろ
【佳作】
ガンバレの日をつかみ損ねた手がおよぐ みずき
日の丸弁当の正しい作法ガンバレの日 緋色
ガンバレの日やガンバレを言わない日 昭雄
ガンバレの日前人未踏の大欠伸 文平字
ガンバレの日を海底に灯ともせる 島田牙城
広辞苑さかさまに置きガンバレの日 中性子
ガンバレの日ガンバリマセン負ケルガ勝チ 園を
【選評】
「ガンバレの日」はあの有名な「前畑がんばれ!」(ベルリンオリンピック女子水泳)の放送があった日だそうだ。
それにしても「頑張る」(これって我を張る?)という言葉、
個人的にはいやだなあ。
天の句のとぼけた味わいがいい。
今は「がんばらない」という本が売れるくらい(これもまた別の意味でいやなのだが)
頑張ることが馬鹿馬鹿しい時代である。
だから「たれぱんだ」とか脱力系のキャラが流行ったりする。
この煎餅もたれぱんだや村上隆のキャラに負けないくらいの脱力振りだ。
地の句は逆に伝統的な頑張れ系。
「と金」つまり歩が裏返って成る金という点で
実に正統的なガンバレの風景となっている。
人の句は頑張らない系。
そう言えば選者も小学校のときプールがいやでいやで
腹が痛くなればいいのにといつも祈っていた。
ある日嘘ついて保健室で休んでいたら
本当に40度の高熱が出て大好きな算数まで休む目になってしまった。トホホ。
佳作。「つかみ損ねた」は前畑から水泳へと連想、
手が泳ぐと掛けているところがうまい。
「日の丸弁当」、ガンバレは確かに戦前の精神力(=日の丸)に通じる
正しい作法なのかもしれない、
しかしそのせいでどれだけの人命が失われたか。
「ガンバレを言わない日」はひねくれ者のこころ。
「大欠伸」もガンバレを茶化す。
「海底に」は他の句とまったく趣を異にしガンバレに与することも貶すこともない、
かと言って無視するでもなくほとんど接点がない、
つまりシュールな句、唯一水泳と海底とでつながる。
「広辞苑」をさかさにする心もまたすね者。
「負ケルガ勝チ」はがんばらない宣言だがどこか空しく響く。
【選者詠】
三日だけ通ひしプールガンバレの日 寒蝉
[228] 8.10:宿の日 仲寒蝉選 2005年08月10日 (水)【天】
宿の日を君の余韻で埋め尽くす みずき
【地】
宿の日の宿六と観る心中物 百花
【人】
宿の日の相客はつげ義春か 媚庵
【佳作】
宿の日の宿帳ちびた鉛筆で 谷口純子
宿の日やここにまだある黒電話 春畑 茜
宿の日の壁に瑕なし障子に目なし 中性子
宿の日やどこへ行つても庭に松 中村安伸
宿の日や少しくどくて胡麻豆腐 櫂未知子
宿の日に家出などしてみましょう あまっとう♪
宿の日やおひつからご飯盛る ミキ
【選評】
天の句は取りようによっては淫猥な響きも感ぜられる。ラブホテルではなく一昔前の温泉宿でのひそかな逢瀬。その余韻に浸りながら実は今主人公はひとりで同じ宿にいるのだ。
地の句には笑わされた。「宿の日」の連想から「宿六」調子もよいし観る内容が心中物というところも安手の連れ込み宿など想像させ、意味の上でも宿の日に戻る仕掛けになっている。
人の句はもう団塊世代の郷愁というか、60年代の(ガロの時代の)拘りというか、日本と言えば温泉、温泉と言えば『ゲンセンカン主人』のつげ義春なのであった。ちなみに選者は団塊の一つ下の世代、つげ義春はすでに伝説。
佳作。「宿帳」「黒電話」は宿の日から連想する小物たち。「壁に」は誰かから覗かれているんじゃないかとの警戒感、でも安宿では本当にありそう、盗撮されてインターネットに出てたりして。「庭に松」は確かに日本の宿はどの地方でもそうですなあ。「少しくどくて」は可笑しい、高野山の宿坊の胡麻豆腐は流石に旨かったけど中にはくどいのも。「家出」のススメですか、そのくらい軽い気分で、そう言えばあまり笑えないけど吾妻ひでおの『失踪日記』は面白かった。
「おひつから」ご飯を盛るなんて言われてみればどこかの旅館に泊まった時くらい、という時代になっているのだ。
【選者詠】
宿の日や時代屋で買ふ箱枕 寒蝉
[227] 8.9:パークの日 仲寒蝉選 2005年08月09日 (火)【天】
かへり見すれば月かたぶきぬパークの日 ユースケ
【地】
土瀝青下に僕らの基地眠るパークの日 流鬢力
【人】
パークの日誰待つ駅の小半時 坂石佳音
【佳作】
パークの日東洋大日本国国憲案 大西龍一
助手席をゆずりつづけてパークの日 緋色
パークの日縦列駐車ままならず 正美
パークの日旧型甲虫も昼寝をし 望月暢孝
免許証は返上しましたパークの日 淡々
トラウマは美人警官パークの日 雪うさぎ
月極をゲッキョクと読みパークの日 あまっとう♪
【選評】
パークの日の由来をよく読むと
「公園」ではなく「駐車場」の意味。
だから公園ととれる句は外した。
天の句は実に雄大だが人麻呂のパロディにもなっていて
意表を衝いた楽しい句。
一晩中単車かスポーツカーを乗り回した挙句駐車場で東の空が白むのを見ている。
西には月がかたぶいている。
地の句「土瀝青(どれきせい)」とはアスファルトのこと。
今は駐車場となってしまったアスファルトの下に子供の頃の基地が眠っている。
選者自身大阪は難波の宮の遺跡近くで小学校時代を送った。
先日三十年振りに行ってみたら、
昔基地を作って遊んでいた所が駐車場ならぬ遺跡公園になっていた。
しばらくぼんやりと大阪の汚い空を見て過ごした。
人の句は何やら大正ロマンを髣髴させるレトロな雰囲気があって好きだった。
佳作。
「東洋大日本国」うーん大時代的で偉そうで、だから何なんだと。
「助手席を」は矢張り一番死亡率が高いから?
「縦列駐車」は最も正統的、確かにあれは難しい。
「旧型」は懐かしのフォルクスワーゲン、駐車場で昼寝なんて可愛い。
「免許証」を返上したのはペーパードライバーだから?高齢のため?
(まさか作者本人のことではあるまい)
「トラウマ」は人にしてもいいくらい面白かった、きれいなのにきついんだよねえ、それ以後Mだとか。
「月極」は選者も昔「ゲッキョク」という全国チェーンの駐車場と思ってた。
【選者詠】
駐車場と言へばいいのにパークの日 寒蝉
[226] 8.8:そろばんの日 仲寒蝉選 2005年08月08日 (月)(本日は残暑見舞いで「櫂未知子選」もございます。
こちらは、「俳句茶屋」にupいたしました。
櫂さんが一日間違えて下さった余禄であります。
なお、以下の仲寒蝉選を正式記録といたします。)
仲寒蝉選
【天】
そろばんの日蔵で夢見る大福帳 雪うさぎ
【地】
そろばんの日数へる度の座敷童 百花
【人】
そろばんの日の裏側を見つめたり 春畑 茜
【佳作】
そろばんの日嫌ひでありし恩師逝く ユースケ
泣く子も黙るわたしであったそろばんの日 緋色
好きな子の隣で無口そろばんの日 昭雄
そろばんの日や縦笛は右肩に 坂石佳音
そろばんの日小海線より屋根が見え 島田牙城
そろばんの日眼鏡のあの娘の笑顔が好き 園を
そろばんの日の一両だけの寂しい電車 望月暢孝
【選評】
電卓が当り前の時代となってそろばんは滅びる運命なのか。選者はそろばん教室に通った経験もないし暗算も不得意だが、投句は概ねかつて通った(自分、周囲)そろばん教室に関するものとそろばん全盛時代に関するものに分かれた。
天の句は過去を懐かしむ方だが笑点で言えば座布団5枚あげたいくらい美しく決まっている。役目を終えた大福帳はどんな夢を見るのだろう。
地の句はレトロな気分を座敷童で表わした。しかも「数える」はそろばんの縁語。
人の句はこれらの句の中にあって異彩を放っていた。そろばんの日の「裏側」とは?そろばんの裏側ではない。そろばんの日というものの本質のようなもの、という意味か。それともそろばんの日に何物かの裏側、或いは裏側一般を見つめたというのか? 深い。
佳作。
「嫌ひでありし」はそろばん教室で、または学校の算数でいじめられた教師の思い出、
それでも死んだと聞けば一抹のさびしさが。
「泣く子も黙る」は、
きっとそろばんが得意な子だったんだろうなあ。
「好きな子の」もそろばん教室の淡い初恋の思い出か。
「縦笛は」は縦笛を右肩、そろばんを左肩にかけて学校や塾通いした思い出。
「小海線から」は異色作、そろばんとは一見無関係のもの
を持ってきて考えさせる。
屋根が何の屋根なのか?
「眼鏡の」もそろばん教室の思い出、それも初恋の。
「一両だけ」は小海線と通じるものがあるが、
そろばんとの接点は「一」または「一両」という数だけ、
でも何となく惹かれる。
選外であったが谷口純子さん、媚庵さんはトニー谷からの発想。
【選者詠】
そろばんの日の大トロを食ひまくる 寒蝉
[225] 8.7:バナナの日 櫂未知子選 2005年08月07日 (日)【天】
バナナの日バナナの皮といふ戦前 中村安伸
【地】
性別はやや不明なりバナナの日 谷口純子
【人】
バナナの日ずいぶん長くつづく坂 信治
【佳作】
バナナの日ふるさと遠き雨の市 春畑 茜
バナナの日これが唐揚げだったなら 野月寛紀
チョコレートはやめてすっぴんバナナの日 緋色
バナナの日酔うても酔うてもひとり 正美
バナナの日実を捨ててこそ浮かぶ皮あり 望月暢孝
重くって寄り道できないバナナの日 ミキ
彼の国も黒髪多しバナナの日 大西龍一
【選評】
昨日の原爆忌と違った意味で選が難しかった今日の「バナナの日」。
凝り過ぎてて難解になってたり、ふざけ過ぎてて取れなかったり・・・。
【天】の中村安伸さんの句、うまいなあ。
バナナの皮で滑って転んでという昔のギャグを
そのままなぞったわけじゃないところがうまい。
【地】の谷口純子さん、
〈やや不明〉の〈やや〉がそこはかとなくおかしくて。
【人】の信治さん、ここに〈坂〉を持ってくるとはさすが。
【佳作】の緋色さんの句、最初読んだ時、「???」だったのです。
「今まで、いつもチョコレートを食べてた厚化粧の女の子が、
化粧もチョコレートもやめたのか」
「しかし、バナナと何か関係あるのか」と悩みまくり。
でも、「あ、露店の『チョコがけバナナ』か」とあっさり。
感心し、半ば呆れて取ってしまいました。
それにしてもバナナって、ずいぶん庶民的になりましたこと。
冷さずに食べられる果物は少ないので、
私はバナナが好きです(冷え性なもので)。
菓子類はそれほど食べませんが、バナナを使ったお菓子は好きです。
バナナシフォンケーキなどは、特に。
皆さん、覚えておいてね(え、何のため?)。
【選者吟】
蒸し焼きもいいなと思ふバナナの日 櫂未知子
[224] 8.6:広島原爆忌 櫂未知子選 2005年08月05日 (金)【天】
てのひらを晒す広島原爆忌 昭雄
【地】
ちくわの辺明るし広島原爆忌 ユースケ
【人】
生卵床へ広島原爆忌 寒蝉
【佳作】
広島原爆忌削除記号の小さかり 大西龍一
広島原爆忌ぽとりと影が歩きだす みずき
路面電車いまも走れり広島原爆忌 谷口純子
広島原爆忌と書いて日記閉づ 園を
猫梳きてゐるも広島原爆忌 章司
平らな町平らに広島原爆忌 百花
手に落つる雨は雨色広島原爆忌 文平字
【選評】
選をしにくい記念日でした。
季語としてこの日が用いられる場合、
「広島忌」がほとんど(あるいは「原爆忌」)。
「広島原爆忌」と丁寧に制定されていると
逆に戸惑ってしまいますね。
さて、投稿作品、それぞれさほどの差はありませんでした。
ただ、あまりにも原爆忌にべたべたな内容や、
「惨禍忘るまじ」といった内容の句は取れない……
前者は「さんざん詠まれてきた」と言いたくなるし、
後者は「俳句は文芸であり、主張するものではない」
と言いたくなるから。
【天】の昭雄さん、さりげなくて心に残りました。
多くを語らない俳句の良さがあります。
【地】のユースケさん、明るさがかえってかなしいような……。
【人】の寒蝉さん、瞬間をとらえたよろしさ。
取り返しのつかなさ、と言うべきでしょうか。
今日の【天】【地】【人】、どれも差がなかったなあ。
あ、選外の中性子さんの句〈広島原爆記念日御託が並ぶ〉、
「広島原爆忌」であり、「広島原爆記念日」ではないので、よろしく。
【選者吟】
マヨネーズ流れ広島原爆忌 櫂未知子
[223] 8.5:タクシーの日 櫂未知子選 2005年08月05日 (金)【天】
20円の釣りは微妙なタクシーの日 緋色
【地】
まつさらの帽子と父とタクシーの日 園を
【人】
暴風雨の湾岸とばすタクシーの日 寒蝉
【佳作】
タクシーの日また椰子の木に逢ひに行く 大西龍一
タクシーの日や新宿に美人多し ユースケ
空暮れてタクシーの日の紙屋町 春畑 茜
阪神の優勝見えたタクシーの日 春おぼろ
タクシーの日の襟足寒き運転手 やそおとめ
雨の日は母と相乗りタクシーの日 北川 梢
まな蓋をひらきタクシーの日拾ふ 文平字
【選評】
選をする側にとって面白い記念日でした。
選外ではありますが、
〈バブルの日々毎夜だったよタクシーの日 靖山〉、
「そういえばバブルの頃は、深夜、女を乗せてくれるタクシーなんてなかったな」と思い出しました。
つまり、馬鹿にされてたんですよ。
〈タクシーの日未だにすらりと降り立てぬ 雪うさぎ〉、
うんうん、わかるわかる。降りる時、映画女優のようにいかないのはなぜでしょう。
【天】の緋色さんの句、身悶えするくらい実感があった。
「釣りは要らねえぜ」と言うにはセコく、
かといって受け取るのもセコいような
(20円)…………。
【地】の園をさん、カッコいい句です。
【人】の寒蝉さん、正攻法の句。
【佳作】のユースケさん、駄目ですよ、騙されては。
あの街で「あ、美人」は、だいたい整形してます
(というわけでもないか)。
文平字さん、タクシーを拾うのではなく〈タクシーの日拾ふ〉、
微妙に上手い。
それにしても、なぜ、東京のタクシー運転手さんって
道路も建物もろくに知らないのでしょう。
もっと試験を厳しくして、
滅多に合格しないようにしたほうが、
無駄な台数もなくなるし、
運転手さんの地位向上もはかれます。
ロンドンのタクシー運転手さんの試験は、
なかなか受かりません。
ロンドンの西の端の○○ストリート
(それもごくごく短〜い通り)から
東の端の△△アベニューまで最短距離で行くにはどうしたらいいか、
即答できなければならない。
プロフェッショナルってそういうものじゃないかな。
【選者吟】
タクシーの日を乾ききるだだ茶豆 櫂未知子
[222] 8.4:橋の日 櫂未知子選 2005年08月04日 (木)【天】
橋の日や炎上したる村のこと 園を
【地】
橋の日の橋に全き一日あり ユースケ
【人】
扇子より橋の日の蟻こぼれ落つ 中村安伸
【佳作】
橋の日へぶら下つてるカレンダー みずき
橋の日のすっぴんで歩む先斗町 谷口純子
橋の日の橋の裏みる舟遊び 寒蝉
橋の日や疑宝珠に青き錆ばかり 中塚涼二
橋の日に別れたがっている夫婦 望月暢孝
約束の橋の日ひもが引つかかる 信治
淋しいか淋しくないか橋の日よ 昭雄
【選評】
総体的に落ち着いた品のよい句が揃いました。
うむ、橋は人を真面目にさせるのかもしれない。
でもね、8月4日で「橋の日」なら、
「端の日」でも「箸の日」でもいいわけで、
お箸がかわいそうな気もしました。
選外で〈川ナビの潮来のいたろう橋の日や まなぶ〉、
カーナビならぬ〈川ナビ〉・・・お、面白すぎる。
〈橋の日やぽいとハイヒール海まで 坂石佳音〉、思い切り惹かれました。
が、ハイヒールを脱いで自分が海まで歩いてゆくのか、
ハイヒールが川面に浮かんで流れてゆくのか判然とせず、
泣いて頂くこととしました。すまん。
【天】の園をさん、橋の炎上ではなく村の炎上!
これは見事な句だわ。
【地】のユースケさん、僅差で【地】です。
園をさんの句の派手さに目が眩んだもので。
【人】の中村安伸さん、実に緊密な構成の句。
【佳作】の望月暢孝さん、そーっと、
そのご夫婦の背中を押してあげてください。
たぶん、あとで感謝されますよ。
【選者吟】
橋の日や木綿豆腐は几帳面 櫂未知子
[221] 8.3:ハモの日 櫂未知子選 2005年08月03日 (水)【天】
ハモの日の背中の裂けてゐるドレス 中村安伸
【地】
ハモの日の見合い相手の眠たげで 緋色
【人】
ハモの日の骨切る音を購へり 坂石佳音
【佳作】
ハモの日の正午を揺るる葭簀かな 月野ぽぽな
ハモの日よふたたびお目にかかりたく 春畑 茜
ハモの日を漢字練習続けをり 島田牙城
ハモの日の美食疲れを夢の中 媚庵
ハモの日の湯をけに指紋消えにけり みずき
ハモの日や人相書の漢かとも 流鬢力
ハモの日やうっかり出てくるハーモニカ ユースケ
【選評】
「鱧の日」と書けば、文字通り豊かな感じがしますが、
「ハモの日」だと毒蛇のハブと間違えそう。
こういうカタカナ表記は味気ないですね。
サンマ、トンボ、ヒガンバナ・・・みんな他人に思えちゃう。
さて、鱧は東西で大いに評価の分かれる(?)魚ですね。
関西のかたがたは鱧、鱧とおっしゃる。
ところが、関東ではほとんど話題にのぼりません。
選外ですが、〈大阪生まれよ、ひとこと言わせてハモの日 靖山〉は
そんな関西人気質が感じられました。
同じく選外で〈腰痛のハモの日またも再発す 谷口純子〉、
とても面白かったのですが、語順を変えたほうがいいかも。
【天】の中村安伸さん、鰻でもよさそうな句ですが、
鰻だとしつこそうなので、鱧で涼やかに。ドキッとする句でした。
【地】の緋色さん、なんとも言えぬペーソスあり。
【人】の坂石佳音さん、上手い。上手すぎる。
【佳作】の流鬢力さん、
私、つい先日、
高速のサービスエリア内の掲示板にあった人相書に
なぜか目が行ったんです。
「罪名があっさり記されてるなあ」と妙な感心をしました。
【選者吟】
ハモの日や午後の日差しの緩まざる 櫂未知子
[220] 8.2:金銀の日 櫂未知子選 2005年08月02日 (火)【天】
なみなみと金銀の日の天然水 月野ぽぽな
【地】
金銀の日踊る紅白まんじゅう 望月暢孝
【人】
金銀の日における寸胴鍋の立場は 雪うさぎ
【佳作】
駱駝ときに噛んだりもする金銀の日 谷口純子
金銀の日をしをれたる座長かな ユースケ
斧どれも胡散臭き金銀の日 北川 梢
金銀の日の古書店の『桐の花』 春畑 茜
うしろの正面すばやく避けて金銀の日 緋色
つり革や金銀の日に参加する 文平字
伽羅蕗の付き出し美味し金銀の日 正美
【選評】
昔、「金銀パールプレゼント♪」と
高らかにうたいあげているCMがありました
(ご存知ない?洗濯石鹸のコマーシャルです)。
洗剤に貴金属という取り合わせが子供ごころに奇妙に思えました。
で、今日の「金銀の日」。
「うん、金銭関係か、貴金属商が作った日だろう」と思ったら、
全然違う。金メダル・銀メダルを記念してのものだったんですね。
その意味において、【佳作】の春畑茜さんの句は、
「『桐の花』といえば白秋、当然、値が高い、
ん?これは金銭関連ではないか?」と怪しんだのですが、
「いや、金(きん)が付いてる本かもしれないし」と好意的に解釈。
この句、ドライな詠みぶりでいいですよね
(そういえばユースケさんの句も金銭臭い。怪しい)。
この記念日の「無意味系俳句」としては、
谷口純子さん・緋色さん・文平字さん・正美さんの句がありました。
北川梢さんの句、童話を思い出しますね。
私なら、「私が落とした斧は金の斧!」とすぐさま叫びます。
【天】の月野ぽぽなさん、悠々と離した詠みぶり。
なんて気持のいい句なんだろう。
【地】の望月暢孝さん、あまりの躍動感に感動。
【人】の雪うさぎさん、
「金銀の日における寸胴鍋の立場に関する一考察」という
論文タイトルに応用できそうです。大真面目で楽しい句です。
【選者吟】
金銀の日や遠ざかるメロンパン 櫂未知子
[219] 8.1:水の日 櫂未知子選 2005年08月01日 (月)【天】
水の日や大いなる頭の役立たず 谷口純子
【地】
水の日の致死量といふ小瓶かな みずき
【人】
水の日のわが体内のどぶ掃除 望月暢孝
【佳作】
水の日の水面に乗せるたなごころ 月野ぽぽな
水の日や古田織部の掌を思ふ 春畑 茜
水の日やDNAの平泳ぎ 坂石佳音
水の日の新鮮な水水中花 章司
水の日やガンバレの日は10日後に 春おぼろ
水の日や人と河童と火星人 藤野尚之
水の日はうつすらと傾いてゐる 信治
【選評】
「水の日」って作りやすかったようで、句の数多し。めでたし。
選外にした〈水の日の地球ぽたりと落ちさうな 雪うさぎ〉
〈水の日の静かな星となりにけり 島田牙城〉、
大変優美で他の選者なら入選していたでしょう
(アタシ、〈地球〉とか「この星関連」等は
「うわっ」と逃げちゃうんですよ。ごめんごめん)。
【天】の谷口純子さん、
【地】みずきさん、
どちらもほどよく「水の日」から離れていて心地よい。
【人】の望月暢孝さん、ちっとも清浄な水じゃないところが異色
(他の人は水の清冽さに引っ張られがちでした)。
【佳作】のうち、月野ぽぽなさんと春畑茜さんの句、
「てのひらコンビ」ですね。
でも、ぽぽなさんは水そのものへ置くてのひら、
茜さんは自刃した茶人のてのひら。
一見似ていても全然内容が違う。面白い。
春おぼろさんの句は、反則すれすれとも言えるんです、
ある記念日に別の記念日を考えてるんですから。
でもこの句、トボケてて面白いの。
「ガンバレの日」、あれは水の有効活用でしょうか、
それとも無駄遣いの日でしょうか。
【選者吟】水の日や首尾一貫の鮎の串 櫂未知子
[218] 7.31パラグライダー記念日 宮崎二健選 2005年07月31日 (日)【天】
パラグライダー記念日鬱蒼と海苔弁当 櫂未知子
【地】
パラグライダー記念日今夜はライスカレー 坂石佳音
【人】
パラグライダー記念日の柳腰 中村安伸
【佳作】
パラグライダー記念日風の数え方 月野ぽぽな
パラグライダー記念日大手を振つて歩く 百花
パラグライダー記念日巻き舌で人の妻 北川 梢
パラグライダー記念日雲のひとり言 春畑 茜
パラグライダー記念日天使が渋滞してゐる 雪うさぎ
ガリバーの目を持ちパラグライダー記念日 ミキ
パラグライダー記念日の蝿男VS蜘蛛男 媚庵
【選評】
1988年(昭和63年)の今日、北九州市の皿倉山で
第1回パラグライダー選手権が開かれたことによる。
人が鳥のように空を飛びたいという願望に叶ったスポーツ。
空を飛ぶのだから、当然命がけのレジャーである。
命がけの遊びということは、深刻と滑稽をこよなくする
俳句にとっては好材料だ。記念日俳句あってのもの種。
【天】未知子氏、お見事。
鬱蒼とした眼下の森の連想を誘発しておいて、
豈図らんや卑近な海苔弁当へと転換させて(出し抜いて)、
赤いべろを出している…、かと思えば詩的な形容が
なされていて品位がある。詩俳混交の佳句だ。
【地】佳音氏、なんて屈託のない茶話なんだろう。
茶話の断片を句として言い切れば即ち俳句という好見本。
それなりの由緒ある記念日を、いとも簡単に
ありきたりな個人的日常に結びつけてしまうのは、
心のどこかに棲まう小鬼のせいなのだろう。
【人】安伸氏、付かず離れずの微妙な取り合わせと、
言葉の持つ言霊や背景を熟知した上での卓越した作り。
しなやかさの共通項をベースに、いたって現代的、
男性的、空間的な季語に対して、古風で、艶めかしくて、
地に足の着いた対極概念を衝突させている。
既出も含めて、安定したそつのない技巧には定評がある。
【佳作】
・ぽぽな氏、「風」をカゼと読むか、フウと読むかだ。
春一番のように番。台風なら号。数詞は意外と不可解。
・百花氏、喩の成句は配合の素材というファクターだ。
「〜歩く人」としなかったのは流石。省略と切れ潔し。
・梢氏、えぇ何だってバイアグラだってぇべらんめえ。
とか、誤読したかどうかは定かでない。勢い人妻俳句。
・茜氏、「何が楽しいのかねえ。あぶないのにねえ」。
鳥以外の生き物の滑空を見て、老婆心をもつ雲の呟き。
・雪うさぎ氏、天使になった人、これからそうなる人。
パイロットのみが出会って感じる幻影か、後遺症かも。
・ミキ氏、相対性理論とニュートンの林檎、揚力など。
高所から下界を見ればさながらガリバーになった感じ。
・媚庵氏、蛆男やゴキブリ男やハイエナ男も登場願う。
空からは落下傘部隊の襲来。長閑な山間も最早修羅場。
【選者吟】
パラグライダー記念日やレフトアローン 二健
[217] 7.30:プロレス記念日 媚庵選 2005年07月30日 (土)【天】
プロレス記念日が四の字固めされてゐる 園を
【地】
白黒でも朱色プロレス記念日 蝸牛
【人】
プロレス記念日空手チョップなんて古語 雪うさぎ
【佳作】
まともかさわりかいかにみせんプロレス記念日 流鬢力
プロレス記念日一拍置き十六文キック 文平字
プロレス記念日人間百の足持つ日 大西龍一
プロレス記念日この夜に沈みゆく背中 春畑 茜
プロレス記念日の梅筵なのよ 櫂未知子
プロレス記念日総立ちの向日葵 百花
黒タイツで無口な男プロレス記念日 谷口純子
【選評】
とりあえず、私がプロレスマニアで
グレート・フジワラの異名もあるということで
本日の特別選者のご指名を受けました。
プロレス記念日の由来は下記のごとくであります。
「1953年(昭和28年)の今日、力道山が日本プロレスリング協会の
結成披露を行ったことに由来する。力道山は、東京に力道山道場を開き、
プロレスラーの養成を行った。翌年、木村政彦とタッグチームを組み、
アメリカのシャープ兄弟と闘って、プロレス人気を高めた。」
まあ、さほど由緒があるというものでも
ないようですが、こういう記念日があることは
プロレスマニアとしては嬉しいですね。
天の園をさんは「深淵を覗くと、深淵に覗かれる」の
逆説パターン。プロレスが潜在的に孕んでいる矛盾を皮肉った鋭さがあります。
地の蝸牛さんは懐かしき白黒画面のテレビの時代。
吸血鬼ブラッシーやグレート東郷の流血戦を(もちろん白黒画面で)見て
ショック死するお年寄りが出たりしたこともありました。
人の雪うさぎさんは、もちろんそんな時代は知らないわけでしょう。
とはいえ、空手チョップというプロレス用語だけは
聞いたおぼえがあるのかな。あるいはノスタルジーですかね。
佳作の流鬢力さん、長州力を思わせる俳号、ずっと気になって
おりました。「まともかさわりか」というのは、プロレス業界用語では
シュートかワークかということですね。この虚実皮膜にこそ本質があります。
文平字さんも、プロレスの秘密にそっと触れています。
こういう一拍置く技術こそがプロレスの美学であります。
大西龍一さんは「百の足」がシュールな魅力。
春畑さんの「背中」はフォールをとることからの連想。プロレスマニアの間には
「プロレスとは底が丸見えの底無し沼だ」との箴言もあります。
未知子さんの「梅筵」は、プロレス記念日が同時に梅干しの日であることを
匂わせている高等技術。
百花さんはいかにもプロレスの野外興行を爪先立ちで覗いている感じ。
谷口さんの「黒タイツ」といえば力道山と決まっています。でも、
ホンモノの力道山は饒舌だったらしいですよ。
選者詠のゴッチはプロレスの神様カール・ゴッチのこと。
この人は徹底的に強さを追求したので、
アメリカのプロレス界ではスターになれなかったのですが
日本人には信奉者が多く、猪木も藤波も藤原組長もゴッチの弟子であります。
食事の時にも「ラデツキー行進曲」をかけるというマーチ好きでもあったそうです。
【選者詠】
プロレス記念日ゴッチの前にゴッチなし 媚庵
[216] 7.29:アマチュア無線の日 宮崎二健選 2005年07月29日 (金)【天】
太つても痩せてもアマチュア無線の日 園を
【地】
くらげが嫉妬するアマチュア無線の日 ミキ
【人】
立葵アマチュア無線の日を揺るる 百花
【佳作】
アマチュア無線の日舞台の袖で泣く 島田牙城
こんもりとアマチュア無線の日の森は 緋色
ぬばたまの夜のくちびるやアマチュア無線の日 春畑 茜
アマチュア無線の日香車どこまで進めよか 大西龍一
アマチュア無線の日窓よじ登る凌霄花 北川 梢
枯れ木林立すアマチュア無線の日 蝸牛
痒い所に手が届いてアマチュア無線の日 まなぶ
【選評】
1973年、日本アマチュア無線連盟が制定した。通称ハムとも言い、
それに因んだ句も散見した。他にハロー、CQ、アンテナを暗示するものなども、
ご他聞に漏れず登場した。実は私は中学生時代に理科部に所属していて、
そこは実質的にはアマチュア無線クラブだった。先生が熱心なハムだったので、
無線工学や電波法規を勉強したり、真空管ラジオを作ったりした。
幸い下位の電話級の免許も取れたが、すぐ卒業となってしまって、
ペーパードライバーのまま現在に至った。
そしてパソコンの潮流にも乗り遅れてしまった。
というこで、非常に身近に感じる記念日である。
投句作品は、困惑の後が偲ばれ、付かず離れずの佳句が多くあった。
【天】園を氏、名曲「Come Rain Or Come Shine」を口ずさみたくなる。
http://www.soundpie.com/annex/jazz/funtime/come_rain.htm
その曲名のパロディとして、ハムの日にぶつけ甲斐がある。
東京オリンピックの頃、関東のテレビの12チャンネルで「ハローCQ」という連続
ドラマがあって、欠かさず見ていた。大ちゃんという太っちょ少年のハムの
日常生活の物語だ。柳家小せんや荒木一郎も真面目に共演していた。
彼らも本物のハムだったそうだ。「ブルーライトヨコハマ」をヒットさせる前の
いしだあゆみが主題歌を歌っていた。ハムのドラマとしては後にも先にも
これしかなかったのではなかろうか。
【地】ミキ氏、くらげは紛れもなくアンテナのメタファーだ。
ドラマ「ハローCQ」の中では、大ちゃんがアルマイトの洗面器製の
トップロードアンテナを立てるシーンがある。くらげも嫉妬するであろう。
ちなみに、逆さくらげは温泉マークのことで全然違う意味になる。念のため。
【人】百花氏、極めてオーソドックスな俳句作法に則っていて、返って新鮮だ。
これもハムの誇らしげなアンテナを連想する。今日の記念日に相応しい。
さらに葵の紋と、ハムたる無線従事者は国家試験合格者であり通底する。
【佳作】
・牙城氏、ない袖は振れず、ある袖は盾となる。
・緋色氏、映画「蜘蛛の巣城」の森と電波の矢。
・茜氏、ハムの発信元は口、そこへ焦点を絞る。
・龍一氏、あれもこれもと多芸は無芸の趣味人。
・梢氏、百花氏の句に並び、生きる活力がある。
・蝸牛氏、モービル局が万座温泉白根山へ来た。
・まなぶ氏、そもそもハムは、手が器用なのだ。
【選者吟】
JH1-GVEわがアマチュア無線の日 二健
[215] 7.28:菜っ葉の日 宮崎二健選 2005年07月28日 (木)【天】
海上に船なし今日は菜っ葉の日 櫂未知子
【地】
菜っ葉の日富士山麓に鸚鵡鳴く 大西龍一
【人】
菜っ葉の日蜻蛉集める池静か 正美
【佳作】
ぬらぬらとてぬぐひ染まる菜っ葉の日 中村安伸
赤き血の菜っ葉の日より流れ出ず 中塚涼二
菜っ葉の日真っ裸なるダビデ像 月野ぽぽな
素気ない菜っ葉の日の言の葉 ミキ
鍋に指突っ込んでいる菜っ葉の日 蝸牛
小松菜は造反している菜っ葉の日 淡々
菜っ葉の日一緒に潜ろう味噌汁に 望月暢孝
【選評】
7月28日の7.2.8をナッパと読んで菜っ葉の日だそうな。
「鎌原の胡瓜嬬恋キャベツ菜っ葉の日 流鬢力」
などという句があって、にんまりしたが惜しかった。
わが故郷故。生な胡瓜は捻って欲しい。
上位の句は理より感で採らせて頂いた。
全体に付き過ぎの句が多かった。
凡人は、一次発想を捨てなければならない。
二次も捨て、三次の捻りをも疑うつもりで。
脳の演算処理の回路を迷路化するのだ。
俳の迷路に差し込む一条の光に目覚めよう。
奇想天外な俳句の出現を乞う。
【天】未知子氏、唯一、堂々とゆったりしており垢抜けている。
だから突出している。否定形で無き景を見せ、
おもむろに余裕しゃくしゃくで「今日は」と繋げていく心憎さ。
下五の季語が見事場面転換として機能している。清々しい句だ。
句という俳句形式において、その器の力を如何なく発揮させた。
【地】龍一氏、ああ懐かしき「受験生ブルース」。
ごっそり決まり文句を戴いてきて、くっ付けただけなのだが、
底知れぬ哀感が漂うのはなぜか。配合の妙。その俳句の妙。
鸚鵡が菜っ葉を食べるなどと考えると陳腐だが、
あの受験生は、どうなったのであろうか。菜っ葉服の国鉄職員に
なってリストラされたのであろうか。
【人】正美氏、「集まる」でなくて「集める」で成功した。
池が自主的に蜻蛉を集めたのだ。しかも静かにそっと。
庭の池でも畑の溜め池であっても、とにかく今日は菜っ葉の日だ。
【佳作】
・安伸氏、なにやら不吉な予感。いや労働の景かな。
・涼二氏、漫画「紅い花」を想うが、その日は無実。
・ぽぽな氏、目前の菜っ葉などで、包み隠さず潔し。
・ミキ氏、菜の葉と言の葉が味気なくそよそよ戦ぐ。
・蝸牛氏、指で味を見る達人か。目の不自由な方か。
・淡々氏、造反は中国では謀反の意。危ない輸入品。
・氏暢孝、お父さんのせせこましい隠れ場とは哀れ。
【選者吟】
名が菜っ葉の日の初菜かな 二健
[214] 7.27:スイカの日 宮崎二健選 2005年07月27日 (水)【天】
老舗のスイカの日の蚊いすの背に死 月野ぽぽな
【地】
塩ふれば蝉が鳴くなりスイカの日 北川 梢
【人】
やみくもに車を出してスイカの日 ミキ
【佳作】
切り売りの西瓜眼で買ふスイカの日 百花
スイカの日クワガタが消え俺が消え 中塚涼二
スイカの日減量誓う娘の言葉 正美
スイカの日人魚に帯を買ふてやる 中村安伸
種無しはどうも許せぬスイカの日 寒蝉
スイカの日太陽だけが知つてをり 園を
越境の蔓に花なしスイカの日 島田牙城
【選評】
【天】ぽぽな氏、「蚊」で切れ、死に場所を提示する。
只の蚊ではなく、そのような状況にあった一命の死の場所。
最後まで慎ましやかだった。句跨りどころか句割れの17音。
【地】梢氏、柿食えば…、のパロディ句。偶然の一致は、
世によくあるもの。そこをすかさず掬い取るのが俳人。
お決まりの俳句形式は勿論のこと、名句にも則り、
いけしゃあしゃあとしている洒脱の趣味人。
【人】ミキ氏、行為の断片描写のみで一句が成るお手本
のような句。見えていない部分は全て読者の想像に委ねられ、
ミステリアスな絵画のようだ。やみくもで思い出すのは、
「闇雲といふ雲の出るのう天気」誹風柳多留拾遺初
【佳作】
・百花氏、酢いか甘いか目利き勝負のお買い物。
・涼二氏、二種頭脚の反復と下五の転換が巧妙。
・正美氏、その日に誓った言葉を忘れない親心。
・安伸氏、人魚姫には西瓜模様の帯がお似合い。
・寒蝉氏、種があっての西瓜。骨なし魚も然り。
・園を氏、どこかで聞いたような台詞のダサさ。
・牙城氏、蔓に花なしとは、どうも許せぬ我も。
【選者吟】
民自害スイカの日の海水が沁みた 二健
[213] 7.26:ポツダム宣言記念日 宮崎二健選 2005年07月26日 (火)【天】
ポツダム宣言記念日の髪結いの亭主 淡々
【地】
ポツダム宣言記念日逆手に絞る雑巾 坂石佳音
【人】
ポツダム宣言記念日松坂慶子写真集 寒蝉
【佳作】
針と糸ポツダム宣言記念日 月野ぽぽな
ポツダム宣言記念日きつい指輪する 緋色
妻に叱られるポツダム宣言記念日 昭雄
ポツダム宣言記念日セルロイドの達磨 中村安伸
乾杯でもしろというのポツダム宣言記念日 雪うさぎ
コンビニのレジは「ふ」さんポツダム宣言記念日 あまっとう♪
ポツダム宣言記念日淡き墨流し 媚庵
【選評】
由来は1945年(昭和20年)の今日、米英中の3か国の首相の名の
もとに、日本に無条件降伏を迫った「ポツダム宣言」の発表。
こうした時局詠は、川柳も俳句も分け隔ての理由が無化する。
もっとも現代川柳自体が社会風刺詠を軽んじる傾向もある。
俳の矛先は、人間社会の哀しさに大いに向けられるべきだ。
象徴かつ隠喩となる物事の提示と行為の写生で佳作が生まれた。
【天】淡々氏、大仰な宣言をされた日にかかわらず、
生業での立場に甘んじている一庶民のスケッチは秀逸。
常套句がイロニーの弾丸となりえている。
【地】佳音氏、そのままポスターの図案になるような着想だ。
絞り込む力と絞り込まれるものの強い凝縮性の拮抗表現が見事。
【人】寒蝉氏、物をあしらっただけのシンプルな構成の宜しさ。
有名女優に託すイメージは色々だが、その姓名には
尊大な感じがあり、記念日名の偉大さに負けていない。
二物衝突として、ぶつけ甲斐のある写真集だと思う。
【佳作】
・ぽぽな氏、綻びは縫われた。花のほころびでありたい。
・緋色氏、きつくても無理してする必要に勝てなかった。
・昭雄氏、奥様に無条件降伏を強いられないであろうか。
・安伸氏、軽々しく転ばされて徐々に立ち上がる達磨哉。
・雪うさぎ氏、勝てば官軍、乾杯の酒もおいしであろう。
・あまっとう♪氏、例の米英中で中の人から買ったのだ。
・媚庵氏、前後に掛かる「淡き」しかし浮かぶは混迷模様。
【選者吟】
ポツダム宣言記念日や没ダムの里 二健
[212] 7.25:かき氷の日 宮崎二健選 2005年07月25日 (月)【天】
かき氷の日の降伏の氷旗 媚庵
【地】
かき氷の日一回戦不戦勝 島田牙城
【人】
食合わせより家族合わせかき氷の日 淡々
【佳作】
かき氷の日鰻屋を素通りに 寒蝉
かき氷の日さよならと言はれた 園を
それはそうとかき氷の日のゲッペルス 谷口純子
かき氷の日日本の円は使えるか 大西龍一
かき氷の日村中狸寝入りかな 中村安伸
弄ぶかき氷の日の耳の穴 みずき
頭の真ん中からかき氷の日 蝸牛
【選評】
夏氷の語呂合わせと、日本最高気温を記録したとされる日
(1933年7月25日)にちなんで、日本かき氷協会が制定した。
かき氷からくる普通の連想や、その説明的な内容の句は、
俳句として味わい深くないので見送った。
負の要因があっても、捻りで転換していれば佳句たりえる。
上位3句の作者は、偶然にもベテランの男性ばかりになった。
かき氷は、懐古趣味や戦いなど社会風俗状況と、
心理表現の小道具として扱いやすい季語で、
その記念日が、どう詠まれたか興味深かった。
【天】媚庵氏、かき氷と言えば、戦争の時代背景やお決まりの旗は、
連想の筆頭株主だが、降伏の白旗に見事オーバーラップさせている。
映画的手法で俳の景を描き、俳の句を成している。
かき氷の日の平和が何の上に築かれているのか諧謔で暗示している。
【地】牙城氏、朴訥と句跨りの定型にまとめた。
報告のみで何も述べていない潔さ。幸か不幸か不戦勝。
戦わずして勝つことは戦の極意。かき氷の日のご利益か。
【人】淡々氏、これまた安易なる連想で、懐古調の極めだが、
比較によって俳味を生じさせている。カ行の頭韻も功を奏している。
【佳作】
・寒蝉氏、後ろ髪を引かれる思い。対極提示で試される。
・園を氏、シンプル・ライフ。言葉少なに切実感が一杯。
・純子氏、ヒットラーの宣伝大臣お出まし。心も冷える。
・龍一氏、切実な問題を抱えている、通用してこそお金。
・安伸氏、必然性はないが、怖い事の暗喩かも知れない。
・みずき氏、かき氷に耳くそが入ってしまうではないか。
・蝸牛氏、〜かち割る日でなくてよかった。涼しい俳句。
【選者吟】
長くかき氷の日海苔をこき嗅ぐかな 二健
[211] 7.24:劇画の日 宮崎二健選 2005年07月24日 (日)【天】
釣堀の椅子の小さきよ劇画の日 百花
【地】
劇画の日火星に刺さる効果線 坂石佳音
【人】
劇画の日お前はもう死んでいる ミキ
【佳作】
永遠の夏休みとは劇画の日 園を
背泳ぎで空にらみつつ劇画の日 谷口純子
夜光虫雨にも微か劇画の日 正美
長髪の男芸者よ劇画の日 中村安伸
何がしか頁にこぼす劇画の日 櫂未知子
網棚の上で格闘劇画の日 望月暢孝
嬲嫐横向きの顔劇画の日 淡々
四コマの人生劇場劇画の日 まなぶ
【選評】
マンガ雑誌『ガロ』が1964年(昭和39年)の今日、
創刊されたことに由来するそうだ。
劇画は動画ともなり、世界に飛び火している。俳句も然り。
【天】百花氏、その日に、そこに注目する劇的発見。
べたつかない配合。物の大小の見せ方は、
誇張する劇画表現にとって極めて重要な要素だ。
【地】佳音氏、漫画の背景では色々な効果線が描かれる。
その線が火星に刺さった。
【人】ミキ氏、劇画の台詞を持ち出してきた唯一の句。効果的だ。
【佳作】
園を氏、ありえないことは、ありえないなりの劇画の世界。
純子氏、躍動的な行為の写生との取り合わせで相乗効果大。
正美氏、劇画のエフェクトラインに具体性を持たせた手腕。
安伸氏、男芸者の世話にはなりたくない。逆説の効用色々。
未知子氏、漫画を読む時に飲食するから何かをこぼすのだ。
暢孝氏、荷持でもぶつかり合っているのを、こう見立てた。
淡々氏、満員電車のような状況提示も劇画の日にならでは。
まなぶ氏、短い劇画も俳句も人生劇場、人間劇場、簡潔だ。
【選者吟】
うどん文字劇画の日の描き消し問答 二健
[210] 7.23:天ぷらの日 島田牙城選 2005年07月23日 (土)【天】
顱頂を打つ天ぷらの日の俄か雨 寒蝉
【地】
天ぷらの日の個人技が光るなり 春畑 茜
【人】
揚げたての天ぷらの日の弁立ちて まなぶ
【佳作】
天ぷらの日なれ二階の大騒ぎ 媚庵
いまさらに天ぷらの日の目玉焼き みずき
天ぷらの日悲鳴を聞きて馳せ参ず 文平字
天ぷらの日の路地裏をぶらぶらす 園を
大時化の東京湾や天ぷらの日 ミキ
そよそよと天ぷらの日の油照り 二健
天ぷらの日俎板皿に川と海 坂石佳音
【選評】
「夏の暑さにバテないために、大暑の日に天ぷらを食べて元気に過ごそうというもの。土用の丑の日のうなぎや、8月29日の焼肉とともに夏バテ防止三大食べ物記念日となっている。」
ということで、今日は大暑。
次の二十四節気ははや立秋である。
暑中見舞いはお早めに……
なにより、「夏バテ防止三大食べ物記念日」という言い方が面白い。
顱頂は頭のてっぺん。
丸坊主になさっている中原道夫さんが句集名にしたことから、
俳人には馴染みの単語となったようだ。
この天の句、ありきたりといえばありきたりだけれど、
では何故僕が天にまでしたのか……、
この俄か雨は油が撥ねているのです。
そして見上げると、入道雲の中で、雷親子が天ぷらパーティをしているではないですか……。
いやいや、でっち上げているのではなく、
すうーっと、そんな気がしたのです。
顱頂なんていう大時代的?な単語のせいかもしれませんね。
地・人は素直に天ぷらを揚げる人を語っています。
語りすぎというか、「そういうものだよね」という常識に落ちそうではありますが、
僕がなかなかからっと天ぷらを揚げられないもので、
ついつい、とってしまいました。
佳作ではみずきさんの句がいいなぁ。
ここに「目玉焼き」を持ってくるのは、力技というべきでしょう。
それから二健さんの「油照り」。
天ぷら→油はいいとして、油照り→そよそよが分かりませんでした。
天狗にとっては、油照りもあの大きな団扇で扇ぐとそよそよとなるのでしょうか……
【選者吟】
妻が一番天ぷらの日の衣とす 島田牙城
[209] 7.22:げたの日 島田牙城選 2005年07月22日 (金)【天】
一人はをとこげたの日の蝉時雨 坂石佳音
【地】
組んでいじけたげたの日の猛々しい天狗 二健
【人】
なまあしと誰も言うなよげたの日よ 緋色
【佳作】
げたの日や鮎の戻れる神田川 春おぼろ
げたの日の銭湯の木の下足札 百花
げたの日の下駄裏返る井桁かな 淡々
げたの日や下駄を鳴らして来る友よ 媚庵
げたの日の高下駄はきて人に逢う 谷口純子
げたの日や豆腐落さぬやう歩き 櫂未知子
バンカラの遠くなりたるげたの日よ ミキ
【選評】
「下駄の寸法に「七寸七分」など7の数字がよく使われること、
雪道を下駄で歩くと漢字の二の字に似た跡が残ることから7月22日とした。」
と。
「雪の朝二の字二の字の下駄のあと」は江戸初期の丹波の俳人田捨女の作として有名ですね。
こういう短い記念日名の時こそ、十七音の定型感を大事にして欲しいなぁと思いながら選をしました。
安心して読めるということは、素直に心に落ちてくれるということの大前提なのですから。
佳作のうち、
バンカラの遠くなりたるげたの日よ ミキ
は、昭和四十年代半ばにして
下駄と風呂敷包みで高校まで電車通学していた僕を思い出させて下さいました。
あとは、げた→下駄・げた→下足札・げた→神田川・げた→豆腐と、
下町情緒といいましょうか、お決まりのコースへと流れていったもどかしさがありますねぇ。
人の「なまあし」は真夏の今に適います。
そして、浴衣流行の今の若い人達を写しています。
地、うん、下駄とくれば、天狗。天狗仮面の二健さんの面目躍如。
(註:二健さんは俳句朗読のとき、天狗の面を被るのです。足元は雪駄か草履ですけれど)
もちろん回文だからそうなるのですが、
けたけた→たけたけの韻きもいいなぁ。
「組んでいじけた」の状況は読者それぞれの自由鑑賞ですが、
相撲の一場面かもしれませんねぇ。
天、すがすがしい句に仕上がりました。
「ひとりは」という以上、全員では五六人はいるのでしょう。
この状況、集う人達が下駄を履いている必要はないとはおもいますけれど、
何人かは下駄履きだからこそ、げたの日を意識するのだと思うと、
そろそろ日も傾き始めて、夕涼みにでもでかけようかとなったのでしょうか。
ゆたかな時間がそこに流れます。
【選者吟】
げたの日をぽつくり妻は逝きにけり 牙城
[208] 7.21:神前結婚記念日 島田牙城選 2005年07月21日 (木)【天】
するめが気になる神前結婚記念日 櫂未知子
【地】
神の名も知らぬ神前結婚記念日 靖山
【人】
神前結婚記念日吉兆松花堂店 流鬢力
【佳作】
貧乏神死神神前結婚記念日の寄席 淡々
羽二重のはたきや神前結婚記念日 ミキ
祓われて唱和ゴモゴモ神前結婚記念日 北川 梢
サイコロの投げつぱなしや神前結婚記念日 大西龍一
朝顔を巻き戻したり神前結婚記念日 谷口純子
神前結婚記念日の火打石 月野ぽぽな
神前結婚記念日以来良い来賓ね筋骨厳選し 二健
【選評】
面白い句の多い記念日だ。
幸せな結婚生活を送っている方にも、仮面夫婦の方にも、すでにお別れの方にも、
生涯独り身の方にも、延々内縁を続けておられる方にも、相手に正妻・正夫がおられる方にも、
………………生き方はさまざまだけれども、
皆さんそれぞれに思いのちぢに乱れる日なのだろう。
「1897年(明治30年)の今日、東京・日比谷大神宮で2組の結婚式が行われた。これが日本初の神前結婚式といわれることから設けられた日。それまで、神前で結婚式を挙げる風習は庶民の間ではなかったという。」
という記念日俳句の薀蓄に唸る。
いざなみ、いざなぎの昔から、結婚は神に契るものだったのではと、
漠然と思っていた。
でも、言われてみれば、映画などで見る昔の庶民の結婚式というのは、
花嫁が花婿の家に行って、座敷に両家うち揃い……
の次だけれど、三々九度って、両家に向かってやってますねぇ。
神棚に向かってじゃあない。
そうか、昔は人前結婚式だったんだーと、納得してしまいます。
ところで、今日の記念日名は「神前結婚記念日」であって、
単なる「結婚記念日」ではないのですから、
「神前」の必然が作品では問われることとなります。
神前結婚記念日の背中が痒い 園を
やさしさを一つ神前結婚記念日 昭雄
など、悪くはないのですが、どうしても「神前」でなくてはならないのだろうかという疑問が残ります。
神前結婚記念日隠すものあまた 春畑 茜
神前結婚記念日をんなだけ隠す角 坂石佳音
同じ発想ですが、角隠しも神前である必要はない。
今日の選はそういう消去法を取れるほどに粒ぞろいでした。
佳作候補14句でしたので。
で、淡々さん、これでもかと「の寄席」を下句に置かれたのですが、
これが逆に邪魔しています。
貧乏神死神神前結婚記念日
でもう出来ているし、笑いも取れます。
ミキ句は「はたき」がいいなぁ。新郎新婦をはたいてしまおうというのでしょうか。
いやいや、僕もよくやりました。
幣にみたてて遊んでいるのでしょうか。
羽二重に神前らしさが出ています。
流鬢力句、そういう弁当屋が本当にありそう。
「吉祥」ではなく「吉兆」としたあたりに「俳」が滲みます。
靖山句、淡々句と発想は似ていますね。
神前のその「神」て、なんと言う神様なの? と。
小品ですが、スムーズな語調がいいですね。
そして天は未知子句に捧げます。
「するめが気になる」って、お供え物のするめが思いつきますが、
実はスーパーへの買い物風景かも知れません。
いろいろ買い物籠に放り込みながら、
別に買う予定にはないするめが気になって仕方がないのです。
「ああ、そうか、今日は神前結婚記念日だものなぁ」
と感慨にふける(ほどのことでもないので)、
えいっ、と買ってしまったか、
自身の結婚生活を省みて「ふん」と通り過ぎたか……、
顛末につきましては、作者にお尋ねくださいませ。
【選者吟】
妻よ神前結婚記念日の蛭子たちよ 島田牙城
[207] 7:20:ハンバーガーの日 島田牙城選 2005年07月20日 (水)【天】
ハンバーガーの日やメンチカツ売れ残り 春おぼろ
【地】
甚平の色違いなるハンバーガーの日 正美
【人】
ハンバーガーの日なれ死ぬまでジャンク好き 媚庵
【佳作】
ハンバーガーの日には帽子を被りたき 蝸牛
ハンバーガーの日の妹の片ゑくぼ 春畑 茜
知れずハンバーガーの日の画板外れし 二健
ハンバーガーの日も夢見がちな男 櫂未知子
塩振ってハンバーガーの日のトマト 百花
ハンバーガーの日物言えば唇にペーパーナプキン 北川 梢
竹とんぼ飛ばしてハンバーガーの日や 園を
【選評】
「1971年7月20日
東京・銀座にマクドナルドの日本第1号店がオープンしたことを記念し」(記念日協会HPより)た日。
僕は中学3年だった。
ホットパンツ(淡々さん)、ベルボトム(雪うさぎさん)と当時の風俗も出現、
昭和元禄真っ只中だったなぁ……。
中村安伸さんの「宇宙戦艦」ヤマト第一回放映は、1974年10月06日だとか……。
などと昔を懐かしんでいると、
櫂未知子さんに「夢見がちな男」と足元を掬われることとなる。
よって、十二句あった佳作候補から上記三句を外した次第。
そして、
そつと笑つてみるハンバーガーの日 坂石佳音
単品で笑顔をたのむハンバーガーの日 文平字
の笑顔系を落とす。
佳作に残した春畑茜句の「片ゑくぼ」も笑顔系だけれど、
物(ゑくぼ)自体がしっかりと読者に届く分、点が高くなるということです。
蝸牛句、「には」が饒舌すぎるのだけれど……と思いつつも惹かれるものがある。
そして媚庵句、「ジャンク=我楽多」でいいのだろうか。「なれ」がうまいよなぁ。
そしてこの人の趣味の広さ、どちらかというとB級を冠せられそうなものへの
真摯な目線。
ハンバーガーもまた、食事としてはB級だし、
だからこそ人が本当の顔になるのかもしれない、
地の正美句、洋服系の句はいろいろあったけれど、甚平を持ってきたことに敬服。
和洋折衷、和魂洋才、東西対立……今年は男性の浴衣が売れているらしいしね。
そして天は春おぼろ句。
食事系記念日にどうどうと食べ物をぶつけた勇気を買う。
それも、ハンバーガー→ハンバーグに対するメンチカツと、あまりにも危ういものを持ってこられた。
さて、コロッケとメンチカツとどっちがいいのだろうとしばし思案してみたが、
やはり肉には肉だ。
ところで、ロッテリアほか、他店は今日を祝うのだろうか……
【選者吟】
ハンバーガーの日とも置手紙の妻は 島田牙城
[206] 7.19:北壁の日 島田牙城選 2005年07月19日 (火)【天】
北壁の日の頂点は月光だ みずき
【地】
鵯の巣のすぐ手に届く北壁の日 流鬢力
【人】
ザイルに託す北壁の日の窓拭き 淡々
【佳作】
躰中すべて筋肉北壁の日 谷口純子
みずうみに風吹きつける北壁の日 蝸牛
銭湯に見かけぬ図柄北壁の日 望月暢孝
北壁の日を暮るるまでする昼寝 園を
きっとあるわたしのルート北壁の日 ミキ
いさぎよく胸ひらくなり北壁の日 緋色
北壁の日のどん底のわたくし 雪うさぎ
【選評】
「1967年(昭和42年)の今日、
今井通子、若山美子が、女性としては世界で初めて、
アルプス三大北壁のひとつ、マッターホルン北壁の登頂に成功したことに由来する。」
と記念日協会HPにある。
今井さんは知っていたが、若山さんは知らない。結局何も知らないということだろう。
で、今日は、
「1960年(昭和35年)の今日、
初の女性大臣として中山マサが第一次池田内閣の厚生大臣となったことに由来する。」(記念日協会HPより)
女性大臣の日でもある。
つくづく女性がクローズアップされる日なのだ。
田舎に住んでみると、21世紀にもなってと思うほどに、
まだまだ女性の地位の低いことに驚く。
卑近な例を一つ挙げると、PTA役員。
平委員から副会長までの下働きは母親がやる。
会長はというと、突然父親が出てくるのである。
だから都会ではもう必要ではなかろうが、
田舎にはまだまだ
「女性にだって出来るのよ」という記念日は大切なのだろう。
佳作では、雪うさぎ句の言い切るパワーがいいね。
「わたくしよ」「わたくしは」などともったいつけて定型に収めることも出来ただろうに
字足らずのぶっきらぼうがこの句の魅力。
緋色句は、例えば乳癌検査だとかの場だろうか。
恥じらいを捨てる覚悟の一瞬もこの日に適う。
反面、園を句のような開き直りの方法もある。
いやいや、現今の女性は疲れているのだというべきか。
でも、ミキ句のように、なんとか道を探そうというけなげさだって、
女性は終生持ち続けるに違いない。
谷口純子句のように、贅肉をそぎ落として生きることの難しさにしばし立ち止まりもする。
この句は、頑張る女性への比喩にもなっているようだ。
人の淡々句、ずっこけました。「ホクヘキ」「マドフキ」の韻がまたいい。
地の流鬢力句も、みごとな描写。
ただ、地・人にはしたものの、この二句は女性でなくてはという限定感は薄い。
このことは、佳作の蝸牛句、望月暢孝句にも言える。
(たぶん、四人とも男性だ)
みずき句を天にした。なんとも清清しい。
この頂点、山のいただきでもあろうし、人生のそれでもある。
俳句はあまり深読みすると興味を殺がれるのだけれど、
この句、自然にみずきさんの心意気が伝わってくる。
「頂点は太陽だ」と言わなかったあたりにこそ、
女性の真の強さが滲むのかもしれない。
いかんいかん、女性論をやりだすと、総反撃を食らいそうな女猛者ばかりの
記念日俳句ではある。
男としては、沈黙あるのみの一日なのだった……。
【選者吟】
妻出奔の北壁の日をくづおれる 島田牙城
[205] 7.18:海の日 島田牙城選 2005年07月18日 (月)【天】
海の日の海底ケーブルさびしけれ 雪うさぎ
【地】
海の日や北の空より核来る 春おぼろ
【人】
海の日のちょっと胎内回帰かな 昭雄
【佳作】
海の日や人が死のうが生きようが 大西龍一
海の日の浮輪の穴の深みかな 坂石佳音
海の日やひとりの午後の道草に 春畑 茜
海の日や畏れおほくも畏くも 園を
海の日のお好み焼きの裾平ら 櫂未知子
海の日の夢の嵩などはかりっこ 緋色
海の日やゴータマブッダ似ごろごろす 百花
【選評】
「1876年(明治9年)の今日、明治天皇が東北地方の巡行を終えて横浜に帰着したことにちなみ、1941年(昭和16年)に設けられたのが「海の記念日」。その後、1996年(平成8年)に「海の日」と名前を変えて、国民の祝日となった。広く海への理解と関心を持ってもらう日。」
と記念日協会は書く。
確認をしておきたいのだけれど、「明治天皇が東北地方の巡行を終えて横浜に帰着した」日は20日の筈。18日の今日がそうだというのは、連休を増やそうとする祝日法の計らいによるものなのだろう。
それにしても、天皇巡幸と海の日のこのミスマッチには驚いた。
佳作の園をさんはそのあたりを揶揄しているのだろう。
この揶揄は、大西龍一さんのやけっぱちにも通じる。
ところで、たくさんの句が集うと、どのように句をひねり出そうかという大まかな傾向が見えてくるのが面白い。
海の日や大豆畑で草をかく 靖山
海の日や信濃を出でぬ老夫婦 寒蝉
などはその典型で、海からおもいっきり離してやれという捻くれた句。
佳作の春畑茜句もこの傾向の一つだろう。
茜句はごく自然に受け入れられたのだけれど、落とした上二句はその計らいが見え見えということ。
百花句は鑑賞に悩んだ。
一人の人がごろごろしていると取ると、主婦にとっての邪魔っけな休日の亭主が見えてくるし、
海岸の砂浜の図と取ると、泳ぎもしないでごろごろしている無数の人間どもと読める。
この幅は損。
緋色句も浜辺での図なのだろうか。少女数人の他愛も無い会話が聞こえてきそうな「はかりっこ」。
未知子句は波→平らからの発想か? 及第点ぎりぎり。
佳音句はちょっとホラー。徐々に凋んでゆく浮き輪と、知らず泳ぎ続ける金槌君。
さて、今日は天地人があっさりと決まった。
昭雄句、臭いなあと思いつつ、マザーコンプレックスの強い僕はころっと参ってしまう。
うん、母なる海よ……
春おぼろ句、「核来る」って、核が飛んで来ちゃったわけね。
「核来るか」だったら単なる表面的な時事俳句だけど、
来させてしまった大胆さに脱帽。
そして雪うさぎ句、何千メートルという暗く静かな海底に人知れず横たわっているケーブル。
海岸で戯れるだけが海の日なのではなかった。
そして僕は、船乗俳人三橋敏雄さんのことを思うのだった。
日に一度入る日は沈み信天翁 敏雄
老い皺を撫づれば浪かわれは海 同
かもめ来よ天金の書をひらくたび 同
【選者吟】
海の日を零れて我の妻となりしか 島田牙城
[204] 7.17:漫画の日 島田牙城選 2005年07月17日 (日)【天】
漫画の日肉切包丁研いでゐる 園を
【地】
狩衣の塵となりたる漫画の日 中村安伸
【人】
漫画の日ラスト頁に椅子残る 春畑 茜
【佳作】
五七五の台詞あるべし漫画の日 大西龍一
鳥獣戯画葛飾北斎漫画の日 淡々
起承して転結せぬ恋漫画の日 雪うさぎ
漫画の日硬貨3枚握りしめ スナフキン
ふきだしの元気な尻尾漫画の日 坂石佳音
漫画の日 Mom! I wanna learn Japanese 月野ぽぽな
入院のベッドの傍の漫画の日 ミキ
【選評】
「1841年の今日、
イギリスで風刺漫画週刊誌『パンチ』が創刊されたことに由来する。
『パンチ』は、当時の最高の文学者や画家も執筆する高級誌であった。
漫画のことをポンチ絵と呼んだのは、このパンチがなまったため。」
以上が記念日協会の記す由来。
7月24日は、「マンガ雑誌『ガロ』が1964年(昭和39年)の今日、創刊されたことに由来する」劇画の日。
この丁度一週間の差というのも、「パンチ」が週刊だったことと微妙に呼応していて面白い。
靖山さんは「田河水泡知らんだろねー」と……
媚庵さん、寒蝉さんは、「手塚マンガが好きだつた」「手塚のあとに手塚なし」と……
昭雄さんは「まず先に永井豪から」と……
靖山さんの実年齢はしらないのだけれど、
それぞれの少年時代を彩ったのだろう漫画家が登場して、
楽しい投稿欄になっている。
ちなみに、田河水泡さんは
四月から僕の住む佐久市と合併した南佐久郡臼田町の出身(東京生れだけれど、本家があるらしい)で、
臼田まちには福祉バスのらくろ号が走っている。
人の「残る椅子」は、そういえば漫画家がよくやる手法の一つなのかもしれない。
僕が思い出すのは「あしたのジョー」のラスト。
真白になったジョーが座り込んでいるリング上コーナーの丸椅子。
この場合はジョーという主人公がそこにいるのだけれど、
椅子だけがポツンと置かれている最終ページというのも、あるのだろう。
地の「狩衣の塵」、分からなかった。調べても分からない。
ただ、この語感、質感が絶妙で、ふらふらと酔わされているような浮遊感がある。
こういう入選もあってよいだろう。
天の句は怖い。そして「風刺」という由来に適う。
研いだあと、ぺロリと舐めている図が自然に想像されるのであった。
【選者吟】
妻の腹叩き漫画の日なりけり 島田牙城
[203] 7.16:駅弁記念日 島田牙城選 2005年07月16日 (土)【天】
飛騨金山でおでこをぶつけた駅弁記念日 あまっとう♪
【地】
駅弁記念日の駆け巡る大江戸線 淡々
【人】
手前には卵駅弁記念日か 櫂未知子
【佳作】
紫陽花の滴を詰めて駅弁記念日 蝸牛
駅弁記念日あかむらさきの帯を解く 春畑 茜
家出した十五歳駅弁記念日 昭雄
粗品ね金辟易す駅弁記念日ぞ 二健
月見草ほかり駅弁記念日の夕闇 正美
駅弁記念日NASAの道具で抉じ開ける 大西龍一
ますのすしのやうな月出て駅弁記念日 中村安伸
【選評】
こんにちは。お久しぶりです。
夏休みをのんびりと過ごさせていただきました……と思っていたら、
そろそろ梅雨明けですね。夏のバカンス計画はお済ですか。
飛行機? まぁ、目的地へ早く着けますが、味がないのでは?
マイカー? あれは運転手が飲めないから、僕はパスですね。
やっぱり旅は汽車ですよ。そして駅弁。
昭雄さん、十五歳の家出は懐も寂しかったはず、
いちばんポピュラーな幕の内でしょうか。
いやいや、鱒の棒鮨のほうが安いか……。
駅弁記念日家出した十五歳
とすると、定型感が生れるのに、わざと破調を選んで、
振幅の激しい思春期を思わせるあたり、技ありの一句ですね。
大西龍一さんの句はまた豪快です。時まさに、野口さんが飛びたたんとしておられます。
抉じ開けなくてはならないような駅弁を、僕は知りませんが、
ありそうですね。
そして、久しぶりに選句してみてやはりどきりとするのが、二健さんの回文。
これ、ありそうですよね。金粉を振りかけた駅弁。
たしかに辟易するだろうなぁと、妙に納得させられるのです。
春畑茜句は北川梢さんの「駅弁記念日祖母は綺麗に紐結ぶ」とどちらにするか、相当悩みましたが、
「あかむらさき」という色彩に惹かれたのです。柴漬けの色のようで、
おいしそうな帯……???
人の櫂未知子句は、上手すぎますね。
記念日というのはどれも面白くって、
駅弁が眼前にある必要は無いんですよね。
どこまでも「日」なのですから。
でもきょうのような記念日はやはりおいしそうな駅弁が
あたかも眼前しているように作りたい。
その虚実皮膜を掴んでいる句が櫂さんの作品でしょう。
淡々さんの大江戸線にはびっくりしました。
鉄道にはちがいないけれどまず駅弁なんて売っていないだろう地下鉄、
でも、新宿線とか御堂筋線とかと違って、「大江戸」という時代がかった命名から、
なにやら特別な駅弁が飛び出してきそうではないですか。
あまっとう♪さんの天の句にはにこにこ。
物見遊山のお気軽な旅の一齣。
こういうちょっとした笑えるドジが、駅弁とともに旅の素敵な思い出を演出してくれるんですよね。
駅弁はどこまでも旅の脇役。でもなくてはならない脇役。
この夏、素敵な旅をいたしましょう。
ということで、久々に妻俳句を一つ。
【選者吟】
駅弁記念日から降りてくる妻である 島田牙城
[202] 7.15:中元 櫂未知子選 2005年07月15日 (金)【天】
この憂さは耳朶にあつめてお中元 みずき
【地】
中元や母菜ばしを離さざる 坂石佳音
【人】
中元や爪美しき人と逢ふ 園を
【佳作】
風呂敷にギターを包むお中元 中村安伸
中元や日暮れにひとつ火を点す 春畑 茜
風呂敷は縮緬の紺お中元 谷口純子
中元のびわ缶昭和の押入れに 緋色
かぎりなくあさましくかぎりなくたくましく中元 三亀
出不精で向う三軒の中元預かる 淡々
ロボットがロボット壊すお中元 月野ぽぽな
【選評】
あれこれ言われながらも
「中元」に品を贈る習慣は根強く残っていますね。
この記念日は季語でもあります。
ただし、夏ではなく秋の季語です。
この半年も無事であったことを祝い、
盆の時に供物をしたというのが起源のようです。
季語は旧暦と新暦とでは実感の度合いが全然違うんですね。
現在の中元は、「これからの猛暑を乗り切ってください」
という意味に取られることが多いのではないでしょうか。
【佳作】の谷口純子さん、私、「風呂敷」、大好き。
割合近年まで風呂敷を仕事で愛用していたのは
裁判所出入りのかたがた、すなわち裁判官・弁護士さん達でした。
三亀さん、エネルギーを感じる句。
淡々さん、そうなんですね、
「在宅率」の高い人は始終何かを預かってます。
最近は配達時間を細かく指定できるようになり、改善されましたが。
【天】のみずきさん、なんともしっとりとした句で素敵だなあ。
【地】の坂石佳音さん、いつも何かをこしらえてるお母さん。
本当に菜箸ってよく使うんですよね。
【人】の園をさん、手入れの行き届いた佳人が目に浮かびます。
【選者吟】
中元や賞味期限はあと二日 櫂未知子
[201] 7.14:ゼリーの日 櫂未知子選 2005年07月14日 (木)【天】
よろこびに表面張力ゼリーの日 月野ぽぽな
【地】
紙のさじ深く掬ひてゼリーの日 まなぶ
【人】
使用前使用後食前食後ゼリーの日 春おぼろ
【佳作】
ゼリーの日午後一刻の武者ぶるひ 春畑 茜
リリアンで編む七色やゼリーの日 谷口純子
ジュレ蕎麦を食べて一杯ゼリーの日 靖山
ゼリーの日おとこ締め出すことにする 望月暢孝
ゼリーの日唐突にわが口唇期 媚庵
ゼリーの日服喪の朝餉なんとする 島田牙城
ゼリーの日パンが無ければとマリー 坂石佳音
【選評】
「ゼリーの日」及び「ゼラチンの日」。
日本ゼラチン工業組合は諦めが悪いらしく、
似たような記念日をダブルで制定しています。
寒天系の組合は、「寒天の日」「糸寒天の日」を
制定してるのかしらね。
中学生の頃だったか、
自家製ゼリー(私が作ったのよ)を食べ始めた時、
親に呼ばれてあれこれ用を済ませたことがあります
(まさかその用が長引くとは思っていなかった)。
しばらくしてから戻ったら、
ゼリーは跡形もなく溶けていました。
呆然としました。真夏のことでした。
あの時、「あ、そうか、ゼリーは溶けてしまうのだ」と知りました。
あ、寒天は大丈夫です。出来合いの品がどうかは知りませんが。
【天】の月野ぽぽなさんの句、「いいなあ」と文句なしの天。
食べ物の句はこうでなくちゃ。
【地】のまなぶさんの句、アイスクリームだとこうはいかない。
納得です。透明な様子も見えてきます。
【人】の春おぼろさん、「使用前使用後」はよくあるフレーズ。
では、「食前食後」はこの句の場合、
どんな意味? と考えさせられるのが面白い。
【佳作】の靖山さん、「ジュレ蕎麦」って
本当にフレンチにあるんですってね。びっくりしました。
坂石佳音さんの句、これはアントワネットのエピソードですよね
(私、「ベルばら」世代でして)。
今日は「巴里祭」(夏の季語)、つまり革命記念日であります。
よくぞ二つの記念日をドッキングしてくださった!
【選者吟】
くちびるを盗んで今日はゼリーの日 櫂未知子
[200] 7.13:ナイスの日 櫂未知子選 2005年07月13日 (水)【天】
窓はいま夜をうつしてナイスの日 ユースケ
【地】
方舟がみんなを乗せてナイスの日 望月暢孝
【人】
爪切つて瓶に貯めおくナイスの日 寒蝉
【佳作】
ナイスの日背に孫の手の届きたる 春畑 茜
ミルクのむ人形ありきナイスの日 谷口純子
カラオケに強制連行ナイスの日 野月寛紀
ナイスの日なんというタイミング ミキ
本当はわたし亀ですナイスの日 春おぼろ
ナイスの日ドンマイの日を重ねつつ 文平字
ナイスの日厚切りトーストざくと食ぶ 坂石佳音
【選評】
7=ナ、1=イ、3=ス…。で、「ナイスの日」。
また沈黙してしまうワタシ。
7と1は日本語らしいですが、「3=ス」って何?スリーのス?
どうせ語呂合わせするなら、
昨日の712=ナイフ→洋食器の日とか、
7月10日の納豆の日とか、それなりに統一して頂きたく。
にもかかわらず、皆様、懸命に作ってくださったので感謝々々です。
【天】のユースケさんの句、おや、どうしたのかな。
品が良いではないか。
【地】の望月暢孝さん、「みんな」が微妙なところで。
「われもわれも」になったらどうしよう、
などと私は勝手に心配しています。
【人】の寒蝉さん…何と申し上げたらよいか。
まあ、コレクションは人さまざまですから。
【佳作】の春畑 茜さん、痒いところに手が届いて、Oh!Nice!
谷口純子さん、「ママー、おなかすいた!」と泣く人形もあったぞ、Oh!Nice!
野月寛紀さん、仕方ないのでここで一曲・マイクを寄越せ、Oh!Nice!
ミキさん、ここで会ったが百年目、Oh!Nice!
春おぼろさん、実は鶴かもしれない、Oh!Nice!
文平字さん、人間万事塞翁が馬、Oh!Nice!
坂石佳音さん、このパンは「超熟」かな、Oh!Nice!
【選者吟】
ナイスの日なたまめなめこなまりぶし 櫂未知子
[199] 7.12: 櫂未知子選 2005年07月12日 (火)【天】
洋食器の日西空の暮れ残る 春畑 茜
【地】
洋食器の日調律師が来ている 月野ぽぽな
【人】
馬手弓手どつちがどつち洋食器の日 園を
【佳作】
大安に大きな丸や洋食器の日 大西龍一
鯨カツ歯に挟まりぬ洋食器の日 谷口純子
手がこんがらがっている洋食器の日 三亀
洋食器の日心太を楽しむ 正美
洋食器の日逃ぐるステーキ追ふフォーク 文平字
洋食器の日テーブルいつぱいの兵器よ 中村安伸
右手にはナイフを並べ洋食器の日 まなぶ
【選評】
712でナイフ。
…で、「洋食器の日」。大変安直。
ただ、ナイフで洋食器の日…というのは、少し違和感のあるような気がします。
「食器」と聞くと皿やカップを私は思うので。
でも、ナイフもフォークも一応食器の仲間なのね。
【天】の春畑茜さんの句、
ああ、日暮関連についくらくらっとなってしまう私の性癖が出てしまった。
好きなんです、暮れ方を詠んだ作品が。
【地】の月野ぽぽなさん、
なんともドライな詠み方で面白い。
【人】の園をさん、まあ「馬手弓手」(めてゆんで)をよくここに・・・。
ユーモアのある句です。
【佳作】の正美さん、なんとへそ曲がり。
まなぶさん、最初、「ん?」と思ったんですが、
そうか、コース料理の場合、右側にナイフが数種類並ぶわけですよね。
中村安伸さんの句、松平盟子さんの歌を思い出しました。「切るナイフえぐるスプーン刺すフォークきらきらしくて惨たり食は」、
ね、いい歌でしょう。
句と歌の違いを考えさせられます。
選外では〈うつくしき低空飛行洋食器の日 緋色〉に惹かれました。
【選者吟】
あれこれが曇りやすくて洋食器の日 櫂未知子
[198] 7.11:真珠記念日 櫂未知子選 2005年07月11日 (月)【天】
真珠記念日海底の修羅思ひけり 寒蝉
【地】
蠅叩き布団叩きや真珠記念日 大西龍一
【人】
真珠記念日ノーマ・ジーンの背のファスナー 緋色
【佳作】
な忘れそ真珠記念日真珠夫人 媚庵
黒き真珠は旧姓のごと真珠記念日 ユースケ
真珠記念日にはさまれたい 三亀
真珠記念日イブニングドレスと軍帽と 望月暢孝
真珠記念日の一糸纏はぬ首に巻く やそおとめ
祭壇に身を沈めしむ真珠記念日 月野ぽぽな
真珠記念日へ目を凝らす青い恋 みずき
【選評】
よかった…今日はストレスの溜まらない記念日だ。
響きが綺麗でいいですね、この記念日。
綺麗なものにはちょっと俗なものを取り合わせると
句としては成功しやすいのですが、
この記念日に関しては半端なやり方をすると、
どうも印象の薄い句になるようです。
【天】の寒蝉さんの句、
真珠=海底はべたべたな感じもするのですが、
「修羅」と来ましたね、修羅。これはうまいわ。
【地】の大西龍一さん、主婦の日常がバックにあり、
そこにすとんと「真珠記念日」。
句のかっちりとした形が笑いを誘います。
【人】の緋色さんの句、これはマリリン・モンローの本名ですよね。
本名を出してるところが、女優としてじゃなく、
一人の女という感じが出てていい。
【佳作】の媚庵さん、「真珠夫人」で笑いそうになるところを
上五の「な…そ」で格調高く。
三亀さん、まあ、やらしい。
ユースケさんには、後年、婿入りをお勧めします。
「ああ、ホントだ」とその時、実感できるでしょう。面白い句ね。
【選者吟】
シャンパンに入れて飲むのよ真珠記念日 櫂未知子
[197] 7.10:納豆の日 櫂未知子選 2005年07月10日 (日)【天】
クサンチッペ納豆の日のうすわらい 谷口純子
【地】
納豆の日や浄土への足もつれ 島田牙城
【人】
縒りが戻らない納豆の日 ミキ
【佳作】
納豆の日の箸使ひ学ぶべし 媚庵
社宅から子どもたくさん納豆の日 園を
納豆の日のねばねばーぎぶあっぷ ユースケ
納豆の日のもつれからまる裸体かな やそおとめ
納豆の日の質問のしつこくて 寒蝉
納豆の日や全世界傾けり 春畑 茜
納豆の日パントマイムに秘儀奥義 月野ぽぽな
【選評】
ああ、ストレスのたまる記念日だ…。
俳句では「納豆」は冬の季語だから。
その記念日を反対の季節に制定するか?
だいじょうぶか、納豆関係者!
これでは「那覇の日」と同じノリでしょ。
まあ、気を取り直して作品へ。
選外の〈袖無しの黒船乗務員納豆の日 大西龍一〉
〈ホルスタイン納豆の日を食べつくす みずき〉に惹かれつつ、
「うーん」と悩んでしまった。
龍一さんの句は海外への進出関連だと思うけど。
ちなみに、海外の日本人向けスーパーでは、
納豆は冷凍されて売られてる場合が多い
(現地生産じゃなく日本から輸出したものね)。
すっばらしく高いです。
同じく選外の〈納豆の日に納豆のフルコース 野月寛紀〉
〈納豆の日の納豆が粘り強い 昭雄〉、
納豆のしつこい粘りにちなんだのでしょうか。
【天】の谷口純子さんの句、コワい…。
いきなり悪妻の登場、うまいな。
【地】の島田牙城さん、どうせまた泥酔したのでしょう。
【人】のミキさん、あっさりした表現で不意をつかれた感じ。
【佳作】の媚庵さんの句、格調が…。
ユースケさんの句はあまりにも馬鹿馬鹿しくて取りました。
【選者吟】
納豆の日とや梅雨空みづみづし 櫂未知子
[196] 7.9:ジェットコースター記念日 櫂未知子選 2005年07月09日 (土)【天】
別々に帰つたジェットコースター記念日 中村安伸
【地】
ジェットコースター記念日雲をひき下ろす 春畑 茜
【人】
ジェットコースター記念日 おう!光と影のまぐはひ みずき
【佳作】
猫もわれもともに小心ジェットコースター記念日 谷口純子
日傘飛ぶジェットコースター記念日の同窓会 淡々
ジェットコースター記念日踏ん張る九文半 坂石佳音
ジェットコースター記念日には十二単を 望月暢孝
もうレールがありませんジェットコースター記念日 三亀
ジェットコースター記念日たましひ空に鈴なりに 月野ぽぽな
合歓咲く夕べジェットコースター記念日 正美
【選評】
死ぬほどイヤな記念日です。
なぜ私に選が回ってきたのでしょうか。
これは牙城さんの嫌がらせでしょうか(あ、そんなことないか)。
私は高所恐怖症です。
自分でもわかっていたはずなのに、大学1年の頃、
当時の後楽園のシャトルループに乗りました。
その後に昼食となりました(もちろん、食べず)。
また、「ここのは緩いからぜーんぜん大丈夫」と言われ、
院の友達と浅草花やしきのジェットコースターに乗りました。
たしかに緩やか、しかし、今にもレールを外れそうなボロぶり。
もしかするとあれが、生涯で最も恐ろしいジェットコースターだったかも。
……ということで(どこが「ということで」かわからんが)、
【天】の中村安伸さんの句、うーん、青春を感じますね。
「きゃ〜」としがみついた彼女を思わず振り解いた結果でしょうか。
【地】の春畑茜さん、品位あり。
【人】のみずきさん、口語と「まぐはひ」のミスマッチぶりが素敵です。
それにしても、我が家から新しい後楽園のジェットコースターが見えるんです。
時たま、「きゃあ〜〜〜」という悲鳴が風に乗って届きます。
生きた心地がしません。
【選者吟】
ジェットコースター記念日なんて、うううん、飯 櫂未知子
[195] 7.8:那覇の日 櫂未知子選 2005年07月08日 (金)【天】
わたくしは遺失物なり那覇の日や 緋色
【地】
紐あまた解きて那覇の日となりぬ 月野ぽぽな
【人】
那覇の日の屋根瓦みな空あおぐ 谷口純子
【佳作】
那覇の日や午前三時の小冊子 大西龍一
那覇の日や果実は顔に奇を尽くす 中村安伸
那覇の日なれど青の接吻邪魔したり 文平字
那覇の日のガジュマルの困惑 ミキ
那覇の日や瞑れば青があふれたり 春畑 茜
那覇の日やまだ侵されぬ海の色 やそおとめ
那覇の日は二千円札額装し 望月暢孝
【選評】
ナハの日だから7月8日……。
大戦を思うと那覇という地名はかなり重く響くのですが、
こういった軽めの記念日制定も悪くはないのかな。
いや、もう少し、熟慮してから決めてよ、
という思いもあり、心乱れる記念日ですね。
【天】の緋色さんの句、下五の「や」、
やや落ち着かない感じがありますが、発想が斬新。
【地】の月野ぽぽなさん、
「届いた荷物をほどいている」という日常の動作から
この句ができたとすれば凄い! 形もいいし。
【人】の谷口純子さんの句、
この記念日は海や空を詠んだものが多かったんです。
その中で一歩抜きん出た感じあり。
【佳作】の文平字さんの句、
ぎょぎょぎょ。
中村安伸さんの句もぎょぎょぎょ。
選外で「那覇の日の海こんなにもあをきかな 坂石佳音」
「那覇の日の海のあをさを言ひにけり 園を」、
うーん、どっちを取ろうか迷いつつ、
「ええい、どちらにも泣いて貰おう」となりました。
ごめんなさい。
【選者吟】
那覇の日や苦瓜は苦を尽くしゐて 櫂未知子