【天】
ポニーテールの日片足跳びで夕陽まで 月野ぽぽな
【地】
幾千代も美しポニーテールの日 ユースケ
【人】
ため息は一重まぶたのポニーテールの日 谷口純子
【佳作】
ポニーテールの日よをんなとは揺れやすく 春畑 茜
ポニーテールの日へ細長い顔がゆく みずき
母さんに涼風ポニーテールの日 坂石佳音
目まといを追い払ってるポニーテールの日 淡々
さらさらと大人のふりかけポニーテールの日 櫂未知子
ポニーテールの日寿限無がやけに引っ張って 望月暢孝
コニーちゃんは元気かポニーテールの日 昭雄
【選評】
ポニーテールの日も女あるいは少女を考えさせる日。
天の句はとても素直で心地よい少女の心を詠みきった。
幼い日、日の沈むまで「けんけんぱ」などと言いながら跳んでいた近所の女の子を思い出す。
地の句は摂津幸彦の名句をもじった勇気に感服。
いつまでも美しいのが少女時代の思い出である。
人の句、何ゆえのため息なのか、
一重まぶたのコンプレックスか?
明るい句の多い中に淋しさ、哀しみをたたえた句。
佳作。
「をんなとは」揺れやすいことを髪型にかけて。
「細長い顔」は現代の女の子の特徴、ポニーテールに大きな顔は似合わない。
「母さんに」最近のヤンママには少女かと思わせるようなポニーテールも見られる、
涼風はこの髪型にこそ相応しい。
「目まとい」を髪で追い払うの? でも何となく納得。
「さらさらと」のふりかけとこの髪型とも何となく通じるものがある。
「寿限無」がポニーテールを引っ張るとはどういうこと?
分らないながら引っ張りたい私としては共感。
「コニーちゃん」ってポンキッキーズに出てきたあの娘?
【選者詠】
ポニーテールの日引つ張りたいのは私だけ? 寒蝉
【天】
三十一個の豆のすこやかサラダ記念日 櫂未知子
【地】
サラダ記念日千ぢに戀こそまぶしけれ 春畑 茜
【人】
アリババとサラダ記念日の盗賊たち 中村安伸
【佳作】
阪神は何位にゐるかサラダ記念日 大西龍一
いくつもの味をためしてサラダ記念日 谷口純子
サラダ記念日サニーレタスのわがまま 坂石佳音
愛妻弁当365日サラダ記念日 野月寛紀
ぬばたまのサラダ記念日消滅せよ 媚庵
サラダ記念日わたくしは席をはずしましょう 緋色
サラダ記念日やごつたがえしのデパ地下に やそおとめ
冷房を止めて寛ぐサラダ記念日 正美
【選評】
ビキニスタイルの日に続いて女あるいは主婦と関係深い日。
天の句は格調と言い面白さと言い文句なしの天。
三十一個の豆は勿論三十一文字の和歌(短歌)の字数を指すとともに
サラダの材料の豆をも指す仕組み。
「すこやか」が如何にもサラダの味の爽やかさと
俵万智の「サラダ記念日」の軽さに通じる。
地の句は和歌の伝統である、
そうして「サラダ記念日」のメインのテーマでもあった恋をまぶしいと詠んでいる。
しかも係り結びの法則を用い、
大江千里(おおえせんりではない)の「月見れば千々に物こそかなしけれわが身ひとつの秋にはあらねど」
を踏まえているという高度なテクニック。
人の句は一転して楽しい駄洒落(江戸時代は地口と言った)の句。
しかし盗賊の三十人にアリババを加えた三十一が和歌の定型になるという
実は奥深い句でもある。
佳作。「阪神は」は全然関係ないことを持ってきた手柄、
まあ心配せんでも阪神はぶっちぎりのトップですがな、
中日ファンの私としてはこちらが「今何位?」と聞きたい気分。
「いくつもの」は女性ならでは(いや最近は男も厨房に入るのだった)の料理俳句。
「サニーレタス」のわがままとは?
これも女性らしい楽しい句。
「愛妻弁当」は一転男の句、
のろけなのか、毎日弁当を作ってもらうなんて一部の男性には羨ましかろう。
「ぬばたまの」は何だか媚庵さんの「サラダ記念日」に対する怨念のようなものを感じて思わず引きつってしまう、
ひとつの文芸批評になっている。
「わたくしは」席をはずしてどうしようと言うのか、
後は若い二人に任せましょうとの親心?
「ごったがえしの」は主婦の気持を大便、もとい代弁。
「冷房を」はやさしくて心和らぐ句。
【選者詠】
サラダ記念日マヨネーズなしに過ごされず 寒蝉
【天】
ビキニスタイルの日有り難いやら憎いやら 中塚涼二
【地】
累々と箪笥の中の死ビキニスタイルの日 望月暢孝
【人】
ビキニスタイルの日その前にスタイル ミキ
【佳作】
人間は猿より呑気ビキニスタイルの日 大西龍一
ビキニスタイルの日へささやく ささやくナルシズム みずき
BBもよしCCもよかりきビキニスタイルの日 谷口純子
黒糖は秘所へビキニスタイルの日 櫂未知子
ビキニスタイルの日魯迅の髭短し ユースケ
ビキニスタイルの日の紋付袴かな 中村安伸
ビキニスタイルの日はお腹へこませへこませて やそおとめ
【選評】
天の句は中年男性なら誰しもそうそうと膝を打つ内容。
三鬼の「おそるべき君等の乳房夏来る」にも通じるアンビヴァレンス。
地の句は箪笥の中の毎年買われては着られることもなく
死体と化していく水着を詠ったもの、
消費社会への批判と哀しき水着へのオマージュ。
人の句は女性にはきつーい一言。でも確かにそうだわな。
自嘲の句と取ることも。
佳作。「人間は」なぜ猿より呑気なのか、
考えさせられる句だ。
「ささやく」ナルシズムとは矢張女性ならではの自分の体形への思いが篭められている。
「BB」の句、実はよく分らなかった、
BBとかCCはおっぱいの形だろうと漠然と考えて面白いと思ったのだがそれでよかったかどうか。
「黒糖は」の句はアブナイ魅力、
うーんその黒糖舐めてみたい。
「魯迅の髭」の短いこととビキニとの距離がちょっと離れすぎていて、
それでも楽しい句。
「紋付袴」とビキニは離れてはいても同じ着る物ということで納得させる。
「お腹へこませ」るとは何ともいじらしい女心ではないか。
【選者詠】
恐るべき君らのビキニスタイルの日 寒蝉
【天】
A型の四千万人梨の日来 大西龍一
【地】
梨の日やすこし銀河の甘くなる ユースケ
【人】
梨の日へ嘘八百を切り刻む みずき
【佳作】
梨の花梨の日に咲くわけでなし 谷口純子
梨の日や父御はひとりで剥きなさる 中塚涼二
梨の日の蟻の行列世紀越え 淡々
梨の日やじつと平和に堪へている 月野ぽぽな
梨の日の砂漠に狂う平和とは 望月暢孝
梨の日の黄泉平坂ころびがち 媚庵
水分を形にすれば梨の日に まなぶ
晩年の二00五年の梨の日や 園を
【選評】
天の句、言われてみればA型は日本ではこれくらいいるのかもしれない。
でもそれと梨の日とどういう関係があるの?
その関係ありそうでなさそうなところがいい。
地の句、スケールが大きくていいなあ。
梨の甘さが銀河に及ぶと考えただけで身震いする。
「すこし」の控え目さがまたいい。
人の句もまたすごい。
実際に嘘が八百あって切り刻まれていくような不思議な感覚。
「梨の日へ」の「へ」が利いていると思うのだが意見は分かれよう。
佳作。「梨の花」の句、確かにそうだわな、
だいいち梨の花は春、桜に少し遅れて咲く。
「バラノキにバラノハナサク、ナニゴトノフシギナケレド」
という詩を思い出す。
「父御は」の句は何とも淋しい男の背中を見る思いがする。
「蟻の行列」が世紀を越えて梨の実に続いているという図もすごい。
「じっと平和に」堪えているのは梨の実? 人類?
平和は退屈なものだが貴重なものである筈、これは逆説か。
「砂漠に狂う」も平和をテーマにしている、
平和という掛け声の下およそ平和とは正反対のことが砂漠の国で繰り広げられていることへの怒り、
梨には平和に思いを致さしめる何かがあるのか。
「黄泉平坂」は「よもつひらさか」と読み、
古事記でゾンビに追われた伊邪那岐が
この世まであと少しという時でてくる坂、
本当は彼がゾンビに投げつけたのは桃の実だったが
梨の礫という言葉もあるから。
「水分を」はとてもいい句なのだが形にすれば梨、
であって梨の日ではあるまい。
いずれにせよ洋梨の形と水滴の形の相似に気付いたのが柄。
「晩年の」ってもう晩年かい、これも梨の日に限るまいと思いつつ
死を覚悟した作者に敬意を表して。
【選者詠】
梨の日の梨のつぶてをライバルへ 寒蝉
【天】
波の日やマハーバーラタラーマーヤナ 月野ぽぽな
【地】
波の日やわたし釣るならしやぶしやぶで 春おぼろ
【人】
波の日や俳句は言葉うねりける 島田牙城
【佳作】
波の日や人類永らく羽持たず 大西龍一
波の日の波浮の港に入日射す 淡々
波の日の筏に聖、盲目の 望月暢孝
縄跳びのうまく抜ければ大波の日 まなぶ
波の日の波の洗える三界や 緋色
波の日のまんぼうとお話する ミキ
波の日の火をふりまはす辻芸人 中村安伸
【選評】
天の句の意味のなさがいい。
お経のようなもので(だってもともとお経はインドから来たようなもの)
僕も中学の時の歴史の先生が「マハーバーラタ、ラーマーヤナ」と朗々と読み上げるのを聞いて
なんて不思議な叙事詩の題なんだろうと聞きほれた記憶がある。
今は二つとも翻訳されていて僕も買って持ってはいるが
余りに長大なので読む暇がない。
地の句は一転都都逸や小唄を思わせる軽快さ。
しゃぶしゃぶで釣られる女というのも安っぽくていい。
それとも釣った鯛でもしゃぶしゃぶで食うのか?
そう言えば先日食った鮑と鰤のしゃぶしゃぶは旨かったなあ。
人の句はまたまた一転正統な俳句の格調を持つ。
波郷(破郷ではない)の「霜柱俳句は切れ字響きけり」を思わせ
作者の俳句観まで読み込んであって
(大した俳句感ではないが)
なかなかの出来。
言葉のうねる俳句というのもすごい。
佳作。
「人類永らく」は飛行機の発明までという意味か、
たしかに海へは昔から進出していたが空は最近だ、
波の日にそう感じた訳だ。
「波浮の港」とは小父さんの好きそうな題材、
しかも入日射すとは臭すぎて好き。
「筏に」乗っている聖とは何者?
どこか補陀落渡海を思わせる設定。
「縄跳び」の波とはまた懐かしい。
「三界」とは大きく出た、
仏教の世界観ではこの世は閻浮提と言って
周囲を海に取り囲まれている(ギリシアではオーケアノスに当たるか)、
だから三界を波が洗う訳だ。
加藤郁乎ばりに「や」で止めたのも心憎い。
「まんぼう」の句はかわいい!
しかもそのまんぼうとお話するなんて童話的でいい。
「火をふりまはす」大道芸人を時々見かけるが波の日から連想するとは大したもの。
【選者詠】
波の日のサインコサインバイオリズム 寒蝉
7.2:うどんの日
【天】
ポンポン船島から島へうどんの日 園を
【地】
ラーメンが好きとは言えぬうどんの日 野月寛紀
【人】
朝からの会議のびのびうどんの日 靖山
【佳作】
うどんの日乱打乱打に日の暮るる 春畑 茜
うどんの日仏の足の血筋かな 坂石佳音
カウドンもチカラウドンもうどんの日 櫂未知子
うどんの日踏まれる力生まれけり 望月暢孝
うどんの日きれいな体の男来る ユースケ
パンドラの箱覗いていて煮詰まったわうどんの日 北川 梢
うどんの日裸のままに走り来る 正美
【選評】
天の句のこの長閑さはどうだ!
瀬戸内の島々を(瀬戸の花嫁を乗せて?)
ポンポン蒸気が行く。
島に着いたらさぬきうどんでも食うのだろうか。
地の句、確かにそうだろう。
うどんの日に「僕はラーメンが食べたい」などと言えば
とんでもない目に会わされそう。
人の句、会議会議に追われる身にはよくしみる句。
うどんと伸びるの掛詞もなかなか。
佳作。「乱打乱打」、
リンダリンダと歌いながらのうどん打ち。
「仏の足」はうどんをこねる足つきが天才的で親譲り、
こういうものにも血筋とか遺伝はあるのだろうか。
「カウドン」って何だあ?
「力うどん」を読み違えた人でもいたか、
よく分らないながら惹かれる、変な句。
「踏まれる力」は真っ当な句だ、これぞ本当の力うどん。
「きれいな体」はアブナイ句、
裸系? 衆道の匂いがぷんぷんする。
「パンドラの箱」とうどんの組合せが意外でいい、
煮詰まった頃に希望が顔を出す。
「裸のままに」裸系第二段! 何で、と思わせたら成功。
【選者詠】
庭先を蛇が横切るうどんの日 寒蝉
【天】
童謡の日のカナリアの虚言癖 媚庵
【地】
童謡の日の地にはづむ鞠の影 春畑 茜
【人】
童謡の日替え歌ばかり思い出す 野月寛紀
【佳作】
童謡の日を溢れくるゆふやけ みずき
国挙げて「七つの子」顕彰童謡の日 淡々
たまごぼーろにむ・む・むせて童謡の日 櫂未知子
童謡の日や朝飯はなんだつたつけ 春おぼろ
童謡の日いつもと違ふ烏なり 文平字
童謡の日や棒に振るものもなく 中村安伸
童謡の日桜桃の採り難き高さかな 北川 梢
【選評】
他の記念日も概ねそうかも知れないが
童謡の日の俳句はきれいに二つに分れる。
童謡の題や内容に基くものと
全然関係ないものを取り合わせたもの。
天の句は前者。歌を忘れたカナリアなのだが、
忘れたままにしないでしっかり虚言で取り繕っているところが可笑しい。
こういう人いません?
地の句は後者。
かなりきれいにまとめていて相当の力量を感じさせる。
鞠が童謡との関係を辛うじて繋いでいる。
「影」で締め括って
漠然とした記念日という対象に実体を持たせた、
やはり俳句は理屈でなく物に語らせるのが一番。
人の句には笑った。
確かに童謡の替え歌は多く、しかも地方性があったりする。
全国的な「烏の勝手でしょ」とか「さっちゃん」とか。
童謡ではないが私の幼い時には「森とんかつ泉にんにく・・・」なんてのが流行った。
元の歌を思い出せないこともあって本末転倒。
佳作。
「ゆふやけ」は童謡の歌詞からの連想を美しい自然詠に転じた。
「七つの子」を国を挙げて顕彰しているとは寡聞にして知らなかったが
「烏の勝手」を皮肉ったものか。
「たまごぼーろ」は実に懐かしい、
これだけで一編の詩になる。
俳句の上でもむせているのが面白い
(でもこれって実は高度なテクニックなのだ)。
「朝飯は」は、意味は今ひとつつかみきれないが、
とぼけた味わいが童謡に通じていていい。
「いつもと違ふ」はやはり七つの子に基くか。
いつもはゴミを散らかしたり人を襲ったりと憎らしい烏だが
童謡の日ともなれば少し見る目が違ってくる。
「棒に振るものも」なくてどうなのか、
作者の意図はよく分らないものの、
たぶん棒に振るものを未だ持たない幼少期を懐かしんでいるのだろう。
「桜桃の」も幼い頃ならではの背の低さを言っている。
桜桃を盗む子も今はいまい。
【選者詠】
パラパラ踊る童謡の日のかたつむり 寒蝉
【天】
べろ出してアインシュタイン記念日の義母 淡々
【地】
アインシュタイン記念日神より速い妻 中村安伸
【人】
アインシュタイン記念日人類月に行つたらし 大西龍一
【佳作】
アインシュタイン記念日悪魔の目覚めけり 中塚涼二
アインシュタイン記念日留年生威張る 島田牙城
アインシュタイン記念日ほっさ的だなんて ああた みずき
アインシュタイン記念日人体の不思議展 谷口純子
アインシュタイン記念日カズーで奏すカノンかな 信治
アインシュタイン記念日ならではのきんぴら 櫂未知子
アインシュタイン記念日の天道虫 正美
【選評】
アインシュタインが相対性理論の最初の論文となる「運動物体の電気力学について」を発表した日。
生きていらしたらぜひぜひお喋りしてみたいおじさん。
「天」淡々氏。べろを出すあの写真が印象深いようで、その関連が多かった。
その中でもアインシュタインの顔を切り抜いて差し替えても
きっとおかしく無さそうなのがこの義母上のあっかんべー。
「地」中村安伸氏。神はサイコロを振り賜わず、
妻が持っていってしまったので?
「人」大西龍一氏、目の前で見ていないことは信じがたい。
黒目銀河ってほんま?
「佳作」
・中塚涼二氏、悪魔はどこに棲む。
・島田牙城氏、エジソンも変な子。
・みずき氏、発作的に行動するときは人は自分が冷静だと思っている、
えへへ。
・谷口純子氏、アインシュタインの脳は7%だけ活動していたとか、
私の脳は全冬眠中。(現在きっぱり夏ですが)
・信治氏、頭と口がびりびりしそうです、いつまでも終わらない永遠の夏。
・櫂未知子氏、牛蒡とは限らず、奇想天外な何かを刻んで
ぴりっと辛味の勝った味。
・正美氏、登って登って登って、昇って、天へ。
【選者吟】
Sも指すコンパスアインシュタイン記念日 坂石佳音
【天】
ヤア!ヤア!ヤア!今日はビートルズ記念日 ミキ
【地】
ビートルズ記念日汁が冷めてゐる 春畑 茜
【人】
距離感はいまも変わらずビートルズ記念日 谷口純子
【佳作】
黒白の72回転ビートルズ記念日 大西龍一
黒髪が絡むビートルズ記念日 月野ぽぽな
おぢさんの語りは長いぞビートルズ記念日 寒蝉
ビートルズ記念日髯の濃きマスター 小池真見
ビートルズ記念日生きてゐる余人 島田牙城
鮭缶の脇腹ビートルズ記念日 櫂未知子
ビートルズ記念日座布団二枚山田君 文平字
【選評】
世界中の音楽ファンに愛されたイギリスのロック・グループ
「ザ・ビートルズ」が1966年(昭和41年)の今日、最初で最後の
来日の記念の日。
先日英会話教室の先生がおっしゃるのに、父親がビートルズファンの
お宅の生徒さんは耳が慣れていて発音がいいとか。
「天」 ミキ氏。すとれいとにビートルズ。まったくビートルズ。
「地」 春畑茜氏。ビートルズ記念日ですぱっと切れて、クールに後半へ。
「人」 谷口純子氏、歌うあなた達、そして聴く私、その距離の心地よさ。
「佳作」
・大西龍一氏、レコードを大切に持っている人、たくさんいらっしゃる
でしょうね。72回転という数字が懐かしい。45と33だけに
なったのでした?
・月野ぽぽな氏、はずせない女性。
・寒蝉氏、そんな方を存じてをります、をぢさま。
・小池真見氏、語らず珈琲を、いれる人にはやはり髭でしょうか・・・。
・島田牙城氏、肉体がなくなっても死ぬことの無い魂、まだ肉体の中の魂。
・櫂未知子氏、どうしてビートルズで鮭缶なのかわからなかったのですが、
どうしてもはずせませんでした。
声に出して読んだ時、これが一番心地いい。
・文字平氏、そして、ああ、いただいてしまった。「ちゃうちゃう、
それはずーとる・・」
【選者吟】
背中に壽ビートルズ記念日 坂石佳音
【天】
珈琲の濃くて貿易記念日は 櫂未知子
【地】
貿易記念日喧嘩売られて買ひにけり 春おぼろ
【人】
貿易記念日水際に犬並ぶ 中村安伸
【佳作】
貿易記念日星屑を売るなかれ 島田牙城
印籠は手放せませぬ貿易記念日 大西龍一
貿易記念日のランゲルハンス島 月野ぽぽな
貿易記念日自給のできぬ国に住み 寒蝉
眺むれば芝青青と貿易記念日 文平字
貿易記念日のタイピンはカンサイヤマモト ユースケ
貿易記念日けふ快晴の海の道 春畑 茜
【選評】
1859年5月28日、徳川幕府が5か国との間に友好通商条約を結び、
自由貿易開始を布告した日。
まづは「何売ろか」やろか、「何買おか」やろか。
「天」 櫂未知子氏。濃さがつらくてでもいつのまにか慣れてもいたり、
慣らされてもいたり。
「地」 春おぼろ氏、売られたもんは買いまっせ。それが商売の醍醐味?
友好£ハ商条約ですし。
「人」 中村安伸氏。首輪に鋲、何でも嗅ぎわけますと背筋を伸ばす大きな犬。
端っこに居眠りの子も。
「佳作」
・島田牙城氏、光が見えているだけの星までやりとりなんて、と言いつつ
買う人があるからなりたつのがお商売。
・大西龍一氏、なにもかもそれがあれば通る魔法のグッズ。ご老公、印籠の
賞味(?)期限は?
・月野ぽぽな氏、チョコレートもヌガーもキャンディーも取引停止。
・寒蝉氏、輸入禁止にしたら暮らしていけるやろか・・・という不安を
思わぬように暮らす一日一日。
・文字平氏、よそ見ばかりしていれば自家の芝は枯れ枯れ。瑞穂の国に
野生のお米はありません。
・ユースケ氏、えーっと彼は日本人でしたよね。
・春畑 茜氏、どこまでも見通すことのできる海の上、平和に船が行きかう
あをとあをのあはひの幸ひ。
【選者吟】
貿易記念日ぎやまんにしやうゆ 坂石佳音
【天】
ちらし寿司の日やおかみさんは良き響き 緋色
【地】
父さんの枕は匂うちらし寿司の日 あまっとう♪
【人】
ちらし寿司の日明るいうちにお風呂かな 信治
【佳作】
隣人の本名知らぬちらし寿司の日 大西龍一
ちらし寿司の日をこぼるる嗚呼のこゑ 春畑 茜
扇風機に吹き飛んでちらし寿司の日よ 中塚涼二
穴子だけ除けてゐる子やちらし寿司の日 寒蝉
ちらし寿司の日庭から木の芽摘んできて ミキ
ちらし寿司の日師系たどればつながりぬ ユースケ
胃の中に天橋立ちらし寿司の日 文平字
【選評】
サンドイッチにサンドイッチ伯爵、ちらし寿司に池田光政公?
お店でいただく大きな具の並んだちらしも、お家で食すちらしも美し。
「天」 緋色氏。ちらし寿司はおかみさんの仕事。なんだか嬉しい彩り。
「地」 あまっとう♪氏、こちらは大きな半切でお家でちらし寿司。
お父さんまだ寝てるの?あら、いない。
「人」 信二氏。お客様でしょうか、お祭りでしょうか、錦糸玉子にわくわくドキド
キ
早めのお風呂です。
「佳作」
・大西龍一氏、おとなりでいただいたのー。おお、隣の奥さんのは美味いからな
あ。
と、いつまでも「おとなりの○さん」からぬけられない。
・春畑 茜氏、半切からお手塩へ。ああ、椎茸が落ちた、玉子がくずれた・・・。
・寒蝉氏、私はキュウリをよけます。
・ミキ氏、棘に気をつけてね、と母の声。
・ユースケ氏、あらら、みんなひとつのまるの中。
・中塚涼二氏、おじいちゃん、具がのってから扇風機はいらないのよ。
・文字平氏、想像してしまいました、胃の腑に広がる絶景。
【選者吟】
ちらし寿司の日渋団扇に梶取と 坂石佳音
【天】
露天風呂の日日本人の眩暈 中塚涼二
【地】
たらちねのははあふれてる露天風呂の日 淡々
【人】
露天風呂の日雉子をお供に加へたり 島田牙城
【佳作】
尖らせて露天風呂の日の乳首 やそおとめ
露天風呂の日の大むじな小むじな 谷口純子
石釜で焼いているピッツァ露天風呂の日 あまっとう♪
露天風呂の日長庚をわが空に 春畑 茜
露天風呂の日手ぬぐいの海坊主 小池真見
露天風呂の日蛙坐りで母と子は みずき
青葉木菟露天風呂の日のぎよろ目かな 伊波虎英
【選評】
6.26の語呂合わせから岡山の観光協会、旅館組合が立ち上げた記念日。
単なる大きなお風呂ではなく露天風呂となると旅心とくつろぎの心満載。
ああ、露天風呂、行きたい・・・・。
「天」 中塚涼二氏。てやんでい、こちとらからすの行水・・・
でも露天風呂ならばゆったりのんびりと長湯を。
頭寒足熱で気持ちいいのが曲者です。
「地」 淡々氏。こちらもすっかりリラックス。
旅の母あり、地元の母あり、皆元気。
「人」 島田牙城氏。犬猿そして雉つれて鬼が島の前にひとっ風呂。昔話には無かったなぁ。
「佳作」
・やそおとめ氏、天井が無いということは気持ちいいことであり、しかし緊張も。
お空が見ていますから。
・谷口純子氏、一緒に入る?いいえ、もう入ってます。
・あまっとう♪氏、木桶もいいですが岩がごつごつ組んであるのがやはり露天風呂の醍醐味かと、
遠赤外線効果です。
・春畑 茜氏、ひたすら美しい空、湯に映るもわが空。
・小池真見氏、子連れのおとうちゃん、おかあちゃんきっとやります。駄目ですよ、
手拭はお湯につけないこと。
・みずき氏、蛙坐りがわからず調べると「しゃがむ」派と「正座の真ん中に尻をとす」派と。
後者を私はとんび座りと呼んでいます、たぶんそれの方かと。
この母子は桶にしゃぼんだま作りでしょうか。風邪引くよ。
・伊波虎英氏、夜の向うからこちらを見ている。いつもより大きな目で、Who?
「選外」ですが月野ぽぽな氏、とてもきれいで好きなのですが
雪を思ってしまい、6月26日とはずれてしまいました。
【選者吟】
露天風呂の日Uピンに真珠粒 坂石佳音
【天】
住宅デー捨て猫が五匹ゐる 園を
【地】
ガリバーの止めし鼻息住宅デー まなぶ
【人】
撒水車の泥乾き行く住宅デー 正美
【佳作】
ニッカポッカけふもぽかぽか住宅デー 伊波虎英
住宅デーの割箸と爪楊枝 島田牙城
三食とも食べたがるひと住宅デー 櫂未知子
住宅デーぬさぬさ殖えたり減ったりす 緋色
住宅デーわが身ひとつがをさまらぬ 春畑 茜
三界に家ある女住宅デー 谷口純子
住宅デーのデーの南にマンション建つ みずき
【選評】
選評あとがき。
ついに選句最終日である。
たくさんの句、言葉と真っ正面から向き合うことができ、
僕にとって貴重な財産となった。
俳句の命が俳なら、選評にも俳の精神が表れなければいけないと心がけた。
果たせたかどうかは心許ない。
多くの句が選から漏れた。
しかし、漏らしたことによって恥をかくのは僕である。
今日は住宅デー。
住宅顕信とはまったく関係ない。
建築職人さんの記念日である。
「天」の園をさんの句、読者がいろいろな状況を自由に楽しめる。
それも俳句の魅力のひとつだと思う。
なぜ捨て猫が「五匹」なのだろう。
五匹とも生まれたばかりの子猫だろうか。
極度に省略された限定が、いっそう想像力を刺激する。
この句は強烈な人間批判だと思う。
住宅は人間の象徴で具体的な顔は見えない。
スポットライトがあたっているのはあくまでも五匹の猫。
静かな住宅デーの風景が、人間のエゴイズムで縁取られている。
「地」のまなぶさんの句には思わず頬がゆるんでしまった。
まなぶさんのガリバーは、なんて優しいんだろう。
よく俳句にできたと思う。
メルヘンチックな鼻息で、住宅デーが輝いた。
「人」の正美さんの句。「泥乾き行く」にポエジーを感じる。
そのポエジーは俳に通じる。
住宅は太古から現代まで時代とともに姿形を変えてきた。
しかし、泥が乾いていくさまは数百年前となんら変わりがない。
時代によって建築の様式が変わっていくのは大きな時間である。
泥が乾いていくのは小さな時間である。
大きい小さいは人間の時間である。そこに俳がある。
いい句だと思う。
「佳作」
虎英さんの句は、まさに住宅デーの趣旨にうってつけの句。僕はへそ曲がりなところがあるので、すぐに「けっ、何が住宅デーだよ」と思ってしまいがちなのだが、
少しだけ考えを改めた。
私事だが、僕も学生時代はニッカポッカをはいて建築現場を闊歩していた。
あのニッカポッカの妙ちくりんな子持ちシシャモのようなふくらみに
「ぽかぽか」が象徴されている。
牙城さんの句。成長魚を思い出しておかしかった。
爪楊枝→割箸→住宅→環境破壊、
やっぱり牙城さんの句だ。
尻から意味をまくっていくところなど、英語的で新鮮。
未知子さんの句。「三食とも食べたがる」という表現には、あなた本当に三食とも食べるのという厳しい視線を感じてしまうのである。
対象は建築現場で働く人か住宅に一緒に住んでいる人か。
当然、同居人であろう。
僕はその同居人を20年近くやっている。
緋色さんの句は、ぬさぬさという擬音が重たい。
でも、この擬音、どういう場合に使うの?
緋色さん、教えてくだされ。
僕の連想は地鎮祭、建前のときの神主さんの幣(ぬさ)。
殖えたり減ったりするのは世のならい。
人生、楽ありゃ、苦もあるさ。
茜さんの句。「わが身ひとつがをさまらぬ」のは、
だいたい誰だってみんなおさまらないのである。
おさまってしまったら、おさまらない自分をつくりだしてくしかない。
ゆえに住宅デーは、おさまらない自分のリトマス試験紙ともなるのであった。
純子さんの句。三界に家ありですか。でも、そのとおり。
少子化ですし。僕は奥さんに謝るしかない。純子さんの句が正しい。
みずきさんの句。「高層マンション建設反対!」の旗竿がデーの南側一帯に立っていそうですね。
でもデーですからね。ル・グィン的世界が建設される余地が
デーの南側にあればいいのですが。
【選者吟】
住宅デーと心中せり 三亀
【天】
空飛ぶ円盤記念日グリコを買ふ 園を
【地】
空飛ぶ円盤記念日空飛ぶ新仲見世 中村安伸
【人】
揺れてみたいな空飛ぶ円盤記念日 まなぶ
【佳作】
空飛ぶ円盤記念日風が強すぎる 島田牙城
空飛ぶ円盤記念日ワ・タ・ク・シ・セ・ン・ゴ・ウ・マ・レ・デ・ス 大西龍一
昆布(こぶ)の傷さうだ空飛ぶ円盤記念日 櫂未知子
空飛ぶ円盤記念日の胃酸過多 月野ぽぽな
空飛ぶ円盤記念日猫じゃらし揺れやまず 北川 梢
猪八戒のちょっかい空飛ぶ円盤記念日 ミキ
空飛ぶ円盤記念日だから蛸壺に恩赦 二健
【選評】
子供だったときは
テレビの「宇宙人ピッピ」「宇宙家族ロビンソン」が大好きだった。
長じてからはディック、ストルガツキー兄弟、レム、カードなどのSFに熱中。
日本では神林長平。
というわけで、僕、SF好きであります。
だからといって空飛ぶ円盤が好きだとはかぎらないのでした。ペコリ。
「天」は園をさん。句の立ち姿がすっきりしている。
さりげないから、こちらの思い入れをぶつけやすい。
グリコのおまけはランラララン♪なのだ。
あの小さな箱の中に空飛ぶ円盤が入っていたかどうかは分からないが、
入っているべきだと思わせるところがグリコたる由縁である。
親指と人差し指で簡単に潰せる小箱には
子供の無限が詰まっていた。
「地」の安伸さんの句。空飛ぶ円盤の勢いを借りて、
こともあろうに新仲見世が飛んでしまった。
今回の句の中では一番(視角的に)SFチック。
視点を変えれば「こち亀」か。
だとしたら、スラップスティック。
人形焼き屋のおやじ、さぞや驚いただろうなあ。
「人」のまなぶさんは、単純明快な願望俳句。
願望の裏側で俳が息をひそめている。
今度、僕が歌舞伎町をご案内しましょう。
空飛ぶ円盤記念日を楽しくすごすこつは「よく働きよく学びよく揺れる」です。
「佳作」
牙城さんの句。「風が強すぎる」って、なんて脆弱な空飛ぶ円盤なんだ。
偶像を地におとしめる俳の精神で、佳作筆頭。
龍一さん。きっと空飛ぶ円盤記念日が言葉を話すとこんな宇宙人口調になるのでしょう。
記念日に台詞をしゃべらせるという発想がとっても変(記念日協会HPの由来参照)。
未知子さん。昆布の傷で「さうだ」とは尋常ならざるリアクション。
「え、何? どうしたの?」と聞きたくなる。
答は「空飛ぶ円盤記念日よ!」。
うーん、この訳のわからなさ。嬉しくなってしまう。シュール!!!
ぽぽなさん。この記念日に胃酸過多とくれば、
ミクロの決死圏しかありません。
空飛ぶ円盤を空を飛ぶ未確認飛行物体と思いこむと、吐血します。
梢さん。猫は猫じゃらしに魅せられ、猫じゃらしは空飛ぶ円盤に魅せられる。
猫じゃらしが円盤に手を振っている奇怪な光景。
猫は空飛ぶ円盤に嫉妬するだろうか。
ミキさん。この手の脱力タイプの俳句に僕は弱い。
容易に空飛ぶ円盤と結びつく孫悟空ではなく、
食欲・色欲の猪八戒を主役としているところも好ましい。
二健さん。発想は火星人=蛸だろう。
安易である。しかし、この句が焦点をあてているのは蛸ではなく蛸壺。
空飛ぶ円盤記念日に免じて蛸壺を許してあげるというのだ。
結論は空飛ぶ円盤=蛸壺。ちゃんちゃん。
【選者吟】
妻は人妻だった空飛ぶ円盤記念日 三亀
【天】
玉入れもあればいいのにオリンピツクデー 寒蝉
【地】
宮本のオリンピックデーの武蔵なり 二健
【人】
オリンピックデーハレー彗星じつと待つ 大西龍一
【佳作】
永久に輝けオリンピックデーの肛門 ユースケ
オリンピックデー障子の桟に綿ぼこり 園を
オリンピックデー知恵の輪ののびきつて 伊波虎英
オリンピックデーの金箔の鳥瞰図 谷口純子
オリンピックデーをとびたつ金の鳩 中村安伸
来歴はあじさいのなかオリンピックデー 緋色
オリンピックデー寄席やーい五厘の日 淡々
【選評】
最近、虚子の俳論を文庫で読んだ。記念日俳句はその虚子の主張をことごとくしりぞ
け(緩和し)ており、感心してしまった。投稿者の果敢な句づくりが試される記念日
俳句こそ「記念日俳句の日」として記念日に登録されてもよいのでは。
「天」は寒蝉さん
(また里同人かと言わないでください。
俳号は句の末尾に勝手にくっついてくるだけです)。
うーん、いい句だ。
単純な分かりやすい句は深いと改めて思う。
難しい言葉を使ったり高度な知識を必要とする句は、
深いがゆえに俳句として浅くなってしまう。
だって、この句、小学生がつくったんだよ、といっても通じる。
こういう俳句を見ると嬉しくなりませんか?
玉入れは運動会の定番競技。
幼稚園や小学校低学年、町内会や老人会などでよく行われる。
玉入れは個人の成果が特定されない。
他の競技とちょっと変わっている。
活躍した人もしなかった人も闇の中。
競技に参加した本人すら自分がどの程度貢献したか把握することがむずかしい。
そんな種目がオリンピックに採用されたら、
アナウンサーはどんな実況放送をするのだろう。
考えただけで楽しくなる。
「地」は二健さん。たぶん武蔵の「五輪書」にかけたのだろう。
オリンピックと「五輪書」の思想を比較考察すれば面白いのかもしれないが、それは俳句の任ではない。
宮本武蔵の真ん中に記念日名を入れただけのばかばかしさに「俳」が見え隠れする。
この句を見たとたん、全身の力が抜けてしまった。
その脱力俳パワーに「地」を献上。
「人」は気の長い龍一さん。
なぜ気が長いかというと、
ハレー彗星は76年に1度しかやってこない。
それをじっと待つというのだ。
76÷4=19。おお、19回もオリンピックが……。
「佳作」
ユースケさんの句。肛門でクーベルタン男爵の高邁な精神を諧謔。
園をさんの句。生活の瑣末世界、綿ぼこり舞う祭典。
虎英さんの句。五輪ものびきって、輪をなしていない。
純子さんの句。金箔は剥がれやすく、鳥瞰図はごまかしやすい。
安伸さんの句。金の鳩は何をくわえて戻ってくるのだろう。
緋色さんの句。藪の中ならぬ、あじさいのなか。
淡々さんの句。二健さんの向こうをはるバカバカしさ。
【選者吟】
オリンピックデー犬が餌箱をひっくり返す 三亀
【天】
浪士一行ボウリングの日遠出せり 島田牙城
【地】
転がればよろしボウリングの日 北川 梢
【人】
ボウリングの日を昏れなづむ擂り鉢 櫂未知子
【佳作】
マイボールボーイフレンドボウリングの日 ミキ
ボウリングの日天道虫を避けにけり 文平字
友死ねばボウリングの日まろびゆく ユースケ
ボウリングの日や眼帯の敵役 信治
ボウリングの日へファスナー伸び縮む みずき
町内会ボウリングの日の溝浚い 淡々
ボウリングの日のよく光る靴の先 坂石佳音
【選評】
初めてボウリング場に行ったとき、
三本の指を玉につっこむとは、
人間の道から逸れた行為なのではないかと思った。
妖怪人間になった気分だった。
玉を投げるまでの動作を人に見られるのも恥ずかしかった。僕にとってボウリングは含羞のスポーツである。
「天」の牙城さんの句にはロマンがある。
風雲、急を告げる明治維新間近の日本、
浪士らはなぜ藩籍を離れたのか。
どこまで遠出したのか。どんな使命をおびていたのか。
ボウリングのピンは10本。
玉をかわし倒れずに残ったピンもやがて払われてしまうの
か。
歴史のうねりとボウリングの日のマッチングが
緊迫感ある見事な物語性を獲得した(記念日協会HPのボウリングの日の由来参照)。
「地」の梢さん。好きです。
そのぶっきらぼうな句の姿。
ぶっきらぼうといっても、
ぶっきらぼうは、ぶっきらぼうなだけでは成り立たない。「よろし」という語がすべてを贖っている。
生きる勇気が湧いてきます。
「人」の未知子さん。夕闇を抱いた擂り鉢のたたずまいが、ボウリング場のかまびすしい音を消し去る。
ざらついた静寂がボウリングの日を歪曲している。
「佳作」
ミキさんの句。片仮名の連打にボーっとしてしまった。
ああ、みそ汁がのみたい。
「の日」の二文字だけで、
ボーの攻勢をくい止めている形が面白い。
文平字さんの句。天道虫が嫌いなのですね。
怖いのですね。ふふふ。
ユースケさんの句。滑稽なみじめさが友の死で滑って、
救いを失っている。
信治さんの句。
眼帯をしてボウリングをしている人を僕は見たことがない。
みずきさんの句。エロチックに読むと怒られるだろうか。
ボウリングはピンもボールもレーンも妖しい。
やはり、ボウリング場は恥ずかしい。
淡々さんの句。
ガーターベルトをちらちらさせながら溝浚いをする人はいないでしょう。
佳音さんの句。
ボウリングの用具はたしかによく磨きこまれている。
靴先よ、お前もか。
【選者吟】
ボウリングの日妻が立派な首輪をしている 三亀
【天】
そこは見ぬ方がいい冷蔵庫の日 櫂未知子
【地】
銀婚式が冷蔵庫の日と重なる 淡々
【人】
冷蔵庫の日の蒲鉾と蒲鉾板 島田牙城
【佳作】
歯科医冷蔵庫の日の酵素入れ生かし 二健
冷蔵庫の日冷蔵庫の立場になつてもみる ユースケ
コズミック・ヴァイブレーション冷蔵庫の日 信治
冷蔵庫の日の乙女座の黒き穴 伊波虎英
冷蔵庫の日麒麟を出して象入れて 月野ぽぽな
冷蔵庫の日給料袋入れておく 大西龍一
屈まりて眠りにつかむ冷蔵庫の日 文平字
【選評】
ありゃま、ずらっと「里」同人が並んでしまった。
俳句本位で選句するのは言うまでもないが、
名前が見えていると思いが千々に乱れる。
俳句本位を微妙に邪魔するのだ。
しかし、その微妙さも「俳」のひとつ。
「俳」との格闘を5日間楽しみたいと思う。
「天」の未知子さんの句は不気味で怖い。
簡単そうでいてなかなかこうはいかない。
怖い句をものにするのは至難の業。
迷わず、天。
具体的な単語は冷蔵庫だけ。
もういやがうえでも想像力をかきたてられる。
口語体がよく効いている。
淡々さんの「地」の句。
我が身の将来をおもんぱかる。
作者はもう銀婚式を迎えたのだろうか。
銀婚式と冷蔵庫の組み合わせは、
人生の皮肉でありまた大方の真の姿でもあるのだろう。
結婚8年目は電気器具婚式だという。
やっと世間並みの冷蔵庫が買えるようになった。
それから17年後の銀婚式、
冷蔵庫もさぞや立派なものに買い換えられているのだろう。
冷え方も倍増して……。
牙城さんの「人」の句。
蒲鉾は鉾とあるくせに丸みを顕現しているなあと漢字を見て
思う。
なんで鉾なのだろう。
ガマ(植物)の先端という意味だろうか。
それはさておき、蒲鉾は練り物なので日持ちがしない。
よって冷蔵庫のお世話になる。
でも蒲鉾の板は日持ちには関係ないのに一蓮托生で冷蔵庫に。
冷えた板の虚しい存在に我が身を重ねて「地」。
「佳作」
二健さんの句。回文である。なんじゃ、これは。
屁のつっかいにもならない。
しかし、見渡せば屁のつっかいになる句ばかりである(汚い表現でごめんなさい)。
回文という装置を使って意味をつむぎだそうとして、
結局意味を獲得できなかった。
でもね、回文の面白さはそこにあると思う。
フロックな意味を得るのではなく、
意味を消去する過激さ。よって、佳作筆頭。
ユースケさんの句。
「なってみる」ではなく「なってもみる」という無責任さがいい。
冷蔵庫の日なんてどうでもいいということをうまく句にしている。
信治さんの句。
宇宙が振動しているのだろうか。
そういえば、冷蔵庫はチック症のようにときどきブルッと震えるなあ。
そして宇宙が……。大きい、大きい。
伊波さんの句。
ブラックボックスとブラックホールをかけたのかな。
そんなことより、乙女座と黒き穴の取り合わせで、
僕はフロンガス的吐息をつきました。
月野さんの句。ははあ、ビールを冷蔵庫から出したのだね。
おやっ、代わりに入れたのはエレファント?
魔法瓶を冷蔵庫に入れるバカはいないでしょう。
そんな論理を見事に裏切って
非条理も現実であるという奈落をかいま見せてくれた。
大西さんの句。暑がりの人は冷え症である。
給料袋はそうとう厚そうである。
文平字さんの句。屈葬者は冷蔵庫の夢を見るか。
私の祖母は座棺で墓地に埋められ、
冷蔵庫がこの世に生まれることなど夢にも思っていなかった。
【選者吟】
妻がよじれて冷蔵庫の日 三亀
【天】
やかなけりペパーミントの日と思ふ 島田牙城
【地】
自己紹介が拙いペパーミントの日 ユースケ
【人】
ペパーミントの日の芸能界 谷口純子
【佳作】
やっぱり貴女でしたかペパーミントの日 淡々
ペパーミントの日千葉ロッテが快勝する ますみ
どこ吹く風のこいびととペパーミントの日 緋色
ペパーミントの日の強制接吻 櫂未知子
お菊皿数えペパーミントの日 中性子
ペパーミントの日船僅かなる港かな 北川 梢
はためくは百のTシャツペパーミントの日 大西龍一
【選評】
北海道北見市の「まちづくり研究会」が、
特産品であるハッカ(ペパーミント)をPRしようと制定した日。
ということで、梅雨のない北海道らしい爽やかな句がたくさんあった。
「天」の島田牙城さんの句。
俳句にとって、切れ字はペパーミントのような存在。
「地」のユースケさんの句。
初々しい感じがなんとも爽やかでいい。
「人」の谷口純子さんの句。
下五の欠落した自由律俳句として読んだ。
一見「ペパーミント」と即き過ぎのようだが、実際の所は
夢を売る世界の裏側は相当ドロドロしているにちがいない。
それとも林家ペー・パー子からの発想か。
淡々さんの句。
状況のまったく不明な句なのだが、記念日名の効果だろうか、
爽やかな風が吹きぬけていくような読後感がした。
ますみさんの句。
パ・リーグ独走中のロッテは、初のセ・パ交流戦も制した。
ペパーミント味のチューインガムのおかげか。一方、北海道を
本拠地とする日本ハムはロッテのように快勝とはいかず。
緋色さんの句。
こんなすっとぼけた恋人と、どっぷり二人だけの世界に
浸るのもたまにはいいかも知れない。
櫂未知子さんの句。
恋人同士のただの甘い接吻でなく、「強制」を冠した所が技あり。
中性子さんの句。
「皿屋敷」のお菊さん。
さわやかさを通り越して、背筋がゾクゾクッとした。
北川梢さんの句。
「ハッカ」と「僅か」を掛けた。
大西龍一さんの句。
洗濯用洗剤のCMを思い起こさせる直球勝負の一句。
【選者吟】
ペパーミントの日SHINJO伝説よ永遠なれ 伊波虎英
【天】
朗読の日やカツサンドほのぬくき 櫂未知子
【地】
身じろがずゐる朗読の日のガガンボ 坂石佳音
【人】
朗読の日の大空をめくりましょう 月野ぽぽな
【佳作】
朗読の日留守電の灯が瞬けり 文平字
朗読の日に速読の勧誘者 中塚涼二
あきつしま大和し美し朗読の日 園を
読点と読点の狭間にいる朗読の日 ますみ
朗読の日の テノール・バリトン・バス・ソプラノ やそおとめ
朗読の日諸行無常の響きあり 大西龍一
朗読の日「メロスは激怒した。」 野月寛紀
【選評】
朗読を年齢を問わず、大衆に支持される芸術文化として普及させようと、
日本朗読文化協会が2001年11月14日に制定。
「天」の櫂未知子さんの句。
紙の包装箱から伝わるカツサンドのほの温かさとずっしり感は、
あたかも一冊の書物を手にしているよう。また、
箱を開けば文庫本が何冊も並んでいるようにも見える。
知識欲と食欲を同時に刺激して、幸福感をほんわかと感じさせてくれる一首。
「地」の坂石佳音さんの句。
記念日名に、「ガガンボ」という夏の季語をうまく配した。
「大蚊」「蚊の姥」とも呼ばれる気色悪い虫。さすがに
哲学者には見えないが、朗読に耳を傾けているようには見えなくもない。
「人」の月野ぽぽなさんの句。
鬱陶しい梅雨空をめくって……。なんとも雄大な一首。
文平字さんの句。
留守電のメッセージも朗読みたいなものか。
たしかに留守電にメッセージを残すのは緊張する。
中塚涼二さんの句。
電話の向こうで、勧誘マニュアルを流暢に朗読する人。
園をさんの句。
日本語の美しさ、ひいては日本のすばらしさを再発見。
ますみさんの句。
朗読には、スピードや間合いも大切で、読点を侮ってはいけない。
「読点と読点の狭間」が集まったものがセンテンス。さらに
そのセンテンスが連なったものがストーリー(人生)か。
やそおとめさんの句。
声質も、朗読にとって大切な要素のひとつ。
大西龍一さんの句。
『平家物語』の一節を「 」で括ってしまわなかったことで、
平板になることなく、句に深みが出た。
野月寛紀さんは、『走れメロス』を朗読。
「朗読の日」の今日は、桜桃忌でもある。
ということで、選者吟でも、
太宰治の「秋」という小品を朗読してみた。
(「秋」とは季節外れなタイトルだが、作品中に
「秋ハ夏ト同時ニヤッテ来ル。」という一節がある。)
【選者吟】
朗読の日「芸術家ハ、イツモ、弱者ノ友デアッタ筈ナノニ。」 伊波虎英
【天】
目で殺すおにぎりの日の座長かな 信治
【地】
気の合はぬ母を迎へにおにぎりの日 櫂未知子
【人】
おにぎりの日の香具山や畝傍山 春畑 茜
【佳作】
おにぎりの日のもれいづる砂金かな 島田牙城
おにぎりの日のセロハンのけなげなさ 望月暢孝
おにぎりの日の祖母に経腸栄養食 寒蝉
おにぎりの日竹の皮より夏匂う みずき
おむすびと呼んでくださいおにぎりの日 やそおとめ
おにぎりの日白き少年具となりぬ 文平字
おにぎりの日のシャルルアズナブルに黙 月野ぽぽな
【選評】
「あれ、「おにぎりの日」って前にもあったのでは……」
と思ったら、1月17日は「おむすびの日」だった。
記念日俳句のお題は2週間単位で発表されているので、
「おむすびの日」を投句する際に、今日の「おにぎりの日」
を意識していた人は僕を含めほとんどいなかったにちがいない。
(僕が「おむすびの日」に投句した俳句は、記念日の由来からいけば、
今日の「おにぎりの日」のほうがふさわしかったかもしれない。)
もちろん記念日の由来は異なっているし、また
季語としても夏と冬まったく正反対の記念日である。
当然、そういったことがどういう形であれ、
俳句に反映されていなければならないはずだし、
「おにぎりの日」と「おむすびの日」が置き換え可能で、
どちらでも成立するような俳句はNGということになるのだろう。
ずっと選句・選評を読んできて、またこうして選をしていても、
「二物衝撃」における当該記念日(季語)の必然性について
思いを巡らすことがしばしばある。たとえば、
「佳作」の文平字さん、月野ぽぽなさんの句。難解で、僕は
明確な批評のことばを持たないが、非常に印象に残ったのも事実。
「天」の信治さんの句。
「おにぎり」ではなく「おひねり」が飛び交う舞台。
流し目の杉サマか、はたまた大衆演劇の座長か。
「地」の櫂未知子さんの句。
いくら気が合わないといっても、母親との思い出に
おにぎりは切っても切れないものだろう。
「人」の春畑茜さんの句。
記念日の由来からすれば、1月17日の「おむすびの日」ではなく、
今日の「おにぎりの日」にこそふさわしい一首。
島田牙城さんの句も、
いにしえへと誘(いざな)ってくれる。
望月暢孝さんの句。
そもそも包装シートとはそういうものなのかもしれないが、
コンビニのおにぎりの味気なさから少し視点をずらした所がいい。
寒蝉さんの句。
おにぎりの思い出が、おばあちゃんと結びつく人も多いはず。
みずきさんの句。
俳句らしい作品という印象を持ったが、さて。
「竹の皮」も夏の季語なのかあ。
やそおとめさんの句。
「おむすびの日」を制定した「ごはんを食べよう
国民運動推進協議会」の訴えと解釈してみてもおもしろいのでは。
【選者吟】
おにぎりの日やおふくろの感情線 伊波虎英
【天】
誰も見ずおまわりさんの日の雲梯 ユースケ
【地】
おまわりさんの日L字になりきれぬ拳銃 中村安伸
【人】
おまわりさんの日とはこちらが恐れ入る 中塚涼二
【佳作】
終わりませぬおまわりさんの日のじゃんけん 緋色
血塗れの詩を拾ひたりおまわりさんの日 文平字
おまわりさんの日のおのぼりさんにおしぼり 月野ぽぽな
おまわりさんの日ひまわり育つ駐在所 寒蝉
おまはりさんの日の自転車の影ゆらり 春畑 茜
おまわりさんの日前かごの大根葉 坂石佳音
制服のコンパス長きおまわりさんの日 まなぶ
【選評】
1874年(明治7年)のこの日に巡査制度がスタートしたことに由来。
「天」のユースケさんの句。
子供にとって学校でさえ安全な場所とはいえなくなってきているが、
子供たちのいない校庭や公園ほど寂しいものはない。運動遊具の中から、
漢字表記が天国への階段を想起させる「雲梯」を選択したセンスが光る。
「地」の中村安伸さんの句。L字になりきれないのは、
回転式弾倉と引き金が出っ張っているからか。なかなかシュールな句。
「人」の中塚涼二さん。警察権力への痛烈な皮肉が感じられる一句。
「おまわりさん」は親称だが、「おまわり」と呼び捨てにすれば蔑みとなる。
「佳作」から、緋色さんの句。
「迷子」ならぬ「あいこ」か。「おまわり」が堂々巡りを連想させるのと、
延々とあいこの続くじゃんけんの即かず離れずの塩梅がいい。
文平字さんの句。
詩人の血か、それとも見知らぬ読者の血か。交番に届ける必要はない。
拾った彼もまた、自らの血でこの詩を汚し、己の血と為せばよいのだから。
月野ぽぽなさんの句。韻を踏んで一気に詠ませる。
おのぼりさんにとっては、どちらもありがたいものだろう。
寒蝉さんの句も韻を踏んでいる。「駐在さん」と呼ばれて、
地域に溶け込んでいるおまわりさんと平和な町が目に浮かぶ。
春畑茜の句も、のどかな町の駐在さんの姿か。
坂石佳音さんの句も自転車だが、こちらはママチャリ。
子供を前後に二人乗せて走っているたくましいお母さんを
時々見かけるけれど、もちろんこれは違反。
まなぶさんの句。
「就職難だし警察官にでもなろうか」と考える若者もいるとか。
スマートなのは外見だけで、内面は武骨で正義感に燃えた
おまわりさんであってほしい。「長し」と切ったほうがよかったのでは。
選外から、いくつか。
おまりさんの日わたしが誰かわからない 園を
「わ」が抜けて「おまりさん」になっていたのが残念。
おまはりさんの日のがきデカこまはり君「シケイ!」 やそおとめ
小学生の時、『がきデカ』派と『まことちゃん』派に男子は分かれていて、
僕は『がきデカ』派だったので採りたかったのだけれど、
「がきデカこまはり君」はくどいし、リズムが悪い。「こまはり君」だけで十分。
【選者吟】
おまはりさんの日のポケットに暗射地図 伊波虎英
【天】
弥次さんが喜多さん殴る麦とろの日 谷口純子
【地】
麦とろの日の聖職をかなしめる ユースケ
【人】
麦とろの日の白昼の口が開く 春畑 茜
【佳作】
頽れて麦とろの日に女体抱く 文平字
副校長麦とろの日の無為無策 中村安伸
シヤラポワの脚見てをるや麦とろの日 寒蝉
木曜を休みにしたし麦とろの日 大西龍一
麦とろの日背中合わせにライバルも 望月暢孝
麦とろの日のたくましき未亡人 櫂未知子
麦とろの日やつつがなく脱稿す 緋色
【選評】
麦ごはんのイメージアップと普及をめざして「麦ごはんの会」が制定した記念日。
歳時記によると、「麦とろ」は秋の季語で、「麦飯」は夏の季語となっている。
イエス・キリストは「人はパンのみにて生くるにあらず」と言ったが、
それは、我々が<パン>なしでは生きてはゆけないことの裏返しでもある。
「地」のユースケさんは、その人間の哀しみを、そして
「人」の春畑茜さんは、人間のたくましさを詠んだ。
「天」の谷口純子さん。
『東海道中膝栗毛』には、丸子宿で夫婦喧嘩に遭遇し、
名物のとろろ汁を食べ損ねる場面があり、それをひと捻りしてみせた。
蒸し暑いと食欲がなくなるだけでなく、イライラして怒りっぽくなるものだが、
「弥次さん喜多さん」という固有名詞を詠み込むことで句におかしみが出た。
次に、「佳作」。
文平字さんの句。
頽れているのは心か。「麦とろ」との取り合わせが何ともエロティック。
中村安伸さんの句。
「副」や「次」の付く役職の方のご苦労を思わずにはいられない。
寒蝉さんの句。
シャラポワの胸ポチでなく脚に目が行くのは、かなりバテている証拠?
大西龍一さんの句。
願わくば麦とろの日の非番 二健
朝会をパス麦とろの日にあれば 島田牙城
と同様の発想。水曜でなく木曜としたところに工夫があり、健気さも感じる。
望月暢孝さんの句。
夏バテ予防に必死なところをライバルには見せたくないもの。
麦とろを啜る音の威勢のよさでも張り合っていそうで滑稽。
櫂未知子さんの句。
「未亡人」と「麦とろ」の取り合わせが絶妙。
ただ、「たくましき」は言わずもがなか。
緋色さんの句。
無謀にも引き受けてしまった特別選者、「つつがなく脱稿」といきたいもの。
みなさま、5日間よろしくお願いします。
選外では、坂石佳音さん。
麦とろの日や一一一一一 坂石佳音
ズズズーッと麦とろを掻き込む音が聞こえてきそうな句で注目したが、
横書き表記のみに視覚的効果が限定されるのが惜しかった。
【選者吟】
麦とろの日の現実を流し込む 伊波虎英
【天】
千葉県民の日本州の肘鉄砲 坂石佳音
【地】
濃きだしを取る千葉県民の日といへば 櫂未知子
【人】
黄の花や千葉県民の日を占めて 春畑 茜
【佳作】
千葉県民の日の着ぐるみや濡れねずみ 伊波虎英
千葉県民の日一樹に一つづつ木霊 月野ぽぽな
千葉県民の日泥土にひかる青空 みずき
千葉県民の日に立ち上がる千葉県民 中塚涼二
習志野は月の彼方に千葉県民の日 中村安伸
千葉県民の日をひた歩く海市ツアー 仲 寒蝉
長嶋茂雄の祝辞代読千葉県民の日 淡々
【選評】
1984年(昭和59年)に県の人口が500万人に達したのを記念して設けられた日。
「栃木県民の日」でもあるらしい。
栃木ではダメで、千葉ではなくてならないかを基準のひとつとしましたが、
なんだかローカルだけど焦点の絞りきれない県民の日ではあります。
「天」の坂石佳音さんの句は千葉県の形ですが、
軟弱な日本国への揶揄あるいは期待も籠められている。
同じ見立ての「千葉県民の日シオマネキの腕が地図にあり 望月暢孝」は
「地図にあり」では言い過ぎていて、残念。
シオマネキはとてもいいのに。
そういえば鉄砲漬は千葉のふるさと料理で、
歯ごたえのよい瓜の漬け物。
「地」の櫂未知子さんの句。
ここまで関係ないものをぶつければ、もう、
そうかと納得させられてしまう力業。
それなのに栃木ではダメ。
海と山のイメージの強い千葉でなければ。
「人」の春畑茜さんの句。
房総の菜の花畑ェに入り日うすれ〜♪
伊波虎英さんは雨の日のディズニーランド。
ぽぽなさんとみずきさんは爽やかな六月。
栃木県も爽やかだと異議は出るかもしれませんが、
県民の日という記念日に相応しい。
中塚涼二さんの句は千葉県でなければならない。
千葉県民による千葉県民のための佐倉惣五郎の千葉。
仲寒蝉さんの句はなんだか可笑しい。
鯨を見るツァーは、歩きもせずひたすら眺めるらしいですよ。
淡々さんの句。
佐倉高校の長嶋が日本の長嶋になったんだから、代読も許そう。
だって長嶋だもん。
「落花生つるつる踊るよ千葉県民の日 緋色」も好きだったのですが、
お名前が抜けていたので涙を飲んで選外に。
祝日気分が楽しい句。
落花生って不思議な生え方なんですよね。
選句は選者が学ばせていただくものだとよく分かりました。拙い選評にお付き合いいただき、有り難うございました。
【選者吟】
満員御礼東京ディズニーランド千葉県民の日 園を
【天】
映倫発足の日耳毛伸びる 三亀
【地】
映倫発足の日この国は雨季さなか 春畑 茜
【人】
魔法瓶の奥や映倫発足の日 谷口純子
【佳作】
映倫発足の日は愛のコリーダ玉子を産め やそおとめ
前後賞壱拾萬映倫発足の日 伊波虎英
映倫発足の日ペケコの歌ごよみ みずき
惚れた強みで押しかける映倫発足の日 緋色
映倫発足の日東京湾を埋めてゆく 蝸牛
映倫発足の日ここぞとカスタネット打つ 信治
映倫発足の日リンは林檎のリン 坂石佳音
【選評】
1949年(昭和24年)のこの日、
映画倫理規定管理委員会(映倫)が発足したことから生まれた日、
ということは選者と映倫は同い年と分かって、
急に親近感を感じたりしてますが、
むろん映倫と言えばボカシとか××とかで、
検閲には異議ありの表現者。
その辺りに着目の句が多かったのは当然ですが、
そこをもひとつ外して欲しいわけです。
「天」の三亀さんの句は、
そうなんだけど素知らぬ振りを決め込んで、
でも鼻ではなく耳であるところに「そうなんだ」が隠されていて巧い。
「地」の春畑茜さんの句。
俳句の王道の季感に溢れ、さらに映倫という本邦の制度の湿っぽさだけではなく、
画面に降る雨のシーンまで感じます。
「人」の谷口純子さんの句。
魔法瓶の奥は手も目も届かない。
もどかしさがあります。
やそおとめさんの句。
当時、仏蘭西在住の友人が「愛のコリーダ観たよ」と言ってきました。
在日の私が観たのは修正版。
玉子産むくらいのを観たかったかも。
卵ではなく「玉子」なのが巧み。
やそおとめさんは語句を丁寧に使っておられる方。
伊波虎英さんの句。
前後賞というのが映倫の日陰のイメージを彷彿とさせて、
漢字多用できましたか。
伊波さんの句はバラエティーに富んでます。
みずきさんの句。×の句は
「×××××××××××や映倫発足の日 大西龍一」もあったのですが、
ペケコというとぼけた名前が明るい。
緋色さんの句。倫理など惚れたら相手になりません。
蝸牛さんの句。東京湾は埋め立ての歴史でもあります。
信治さんの句。
子どもの頃、合奏でカスタネットなんか振られた時の気分
坂石佳音さんの句。
映倫て「リン」の音が響くんですよね。爽やかな林檎の取り合わせのよさ。
【選者吟】
映倫発足の日蠅取り紙の長さかな 園を
【天】
鉄人の日やぼろぼろの湯帷子 中村安伸
【地】
鉄人の日をソーセージ太りをり 櫂未知子
【人】
「鉄人の日とは皮肉な……」(太宰治) 伊波虎英
【佳作】
鉄人の日を青ダモの卓袱台に 島田牙城
鉄人の日の朝めしは冷奴 月野ぽぽな
鉄人の日の陽に蔭に赤帽子 春畑 茜
もう十分夢見たでしょう鉄人の日 ロビン
鉄人の日5−56を注すを見つ 文平字
白黒のテレビ壊るる鉄人の日 蝸牛
鉄人の日29号は声帯付き 仲 寒蝉
【選評】
衣笠選手が連続出場の世界新記録を達成した記念日。
衣笠、好きだったな。
プレーは鉄人だけど、話すときは謙虚で、
ハングリーなイメージがあった。
物ばかり豊かになった時代に振り返ると、
衣笠の魅力が増しますね。
【天】の中村安伸さん、
いつも言葉の選び方に唸ります。
「湯帷子」とはお洒落な。
黙々と練習に励んだであろう衣笠選手の生き方をも彷彿とさせて、
迷わずいただきました。
【地】の櫂未知子さんは、
見事な食物しばりが続きます。
本日は、鉄に対してソーセージの弾力ある固さ。
むむ、
櫂流の危なさも漂う気がしてきました。
【人】の伊波虎英さんの句。
本日は桜桃忌。
この句!を採るなら、
並選というわけにはいきません。
忌日として別格とも思われる桜桃忌だからこそ、
この句は「あり」、
そして、もうこの手は誰も使えないから、お見事。
牙城さんの句。
家具に使うのは谷地ダモらしいですが、
バット素材から引退しつつあるという「青ダモ」のノスタルジー。
ぽぽなさん。
熱くて固いに対する冷たくて柔いもの。
俳句の基本。
茜さん。
広島ファンの熱気はジーコジャパンのサポーターを凌ぐ。
ファンあってのプロ野球。
ロビンさんの句。
夢見たのは誰かという疑問は拭えませんが、
俳句なんぞに現をぬかしている身には刺激的。
文平字さんの句。
KURE5−56という知る人ぞ知る金属専用の防錆潤滑剤、
らしい。
KURE、つまり広島県の呉。
知らなかったな。
知らなくても科学に必要な?が湧く句。
詩歌は意味だけではないと思う。
蝸牛さんの句。
カラーテレビの普及は東京オリンピックから。
その後も白黒で頑張った?!
家庭も精神もついに終焉。
寒蝉さんの句。
鉄人28号なら知ってます。
この頃の機械はほんとによく喋る。
【選者吟】
歌詠みのやまとことばや鉄人の日 園を
【天】
恋人の日やリゾットのうすなさけ 櫂未知子
【地】
恋人の日や顔の全部入らぬ 大西龍一
【人】
恋人の日あなたの顔のマトリョシカ 信治
【佳作】
恋人の日の看板にぶつつかる 島田牙城
恋人の日ばらばらと落ちてゆく 中塚涼二
恋人の日を巻き戻すビデオかな 春畑 茜
恋人の日や釉薬を吸ふ粘土 中村安伸
恋人の日の写真燃す額残す 文平字
風鈴買ふ恋人の日の愛人と 仲 寒蝉
美しきさくらんぼかな恋人の日 正美
【選評】
全国額縁組合連合会が制定した記念日。
というわけで、額縁に注目したのは何故か男性が多いようです。
やはり俳句は甘やかな恋に縁がないらしく、
まして「自分の写真を写真立てに入れて贈り合う」!
なんて無縁、だよね。
「天」の櫂未知子さんの「リゾットのうすなさけ」は
言い得て妙。
お洒落なようで、単なる洋風おじや。
胃には優しいが、物足りないような。
味薄めながら、食しているうちに沁みてくる程よさなんぞも。
恋人の日に食べれば、その恋長続きするかもしれません。
「地」の大西龍一さんの句には爆笑。
辛うじて定型の枠内に入るような「入らぬ」ような仕掛けが生きてます。
小顔人気の昨今、
写真からはみ出す立派な顔の持ち主にエールを。
「人」は信治さんの怖い句。
つぎつぎと出てくるマトリョシカの顔が恋人とは。
愛は限りなく奪うものなら、
奪われつくされたい方もいるかもしれませんが。
島田牙城さんの句。
恋人のことで「上の空」なのではなさそうなとこが俳味です。
中塚涼二さんの句。
額の硝子がひび割れ落ちていくところでしょうか。
恋には必ず終わりが来る。
春畑茜さんの句。
過ぎた恋は美しいという素直な思いを定型にのせて。
これもまた佳し。
中村安伸さんの、唯一、恋の情念を感じた句。
文平字さんの句。
小市民という言葉を思い出し、
あんまりな句なので大笑いしていただきました。
仲寒蝉さんの句。
愛人の部屋に吊されたのであろう風鈴に情感があります。
恋人の日にはなお。
正美さんの句。あぶない句と信じていただきます。
【選者吟】
恋人の日の残業の出前蕎麦 園を
【天】
梅酒の日泳いでも泳いでも割烹着 中村安伸
【地】
梅酒の日長女いつまでたもとほる 月野ぽぽな
【人】
深更に沈む言葉や梅酒の日 春畑 茜
【佳作】
客人はほたるでありぬ梅酒の日 谷口純子
梅酒の日祇園にひらく傘の音 伊波虎英
蟻が来て仕事忘れて梅酒の日 二健
梅酒の日コップで月をつかまえり ロビン
菅野美穂の山羊がうめ〜め〜梅酒の日 やそおとめ
異次元の梅酒の日に睦みあふ まなぶ
梅酒の日ことりと動く時間かな 信治
【選評】
初体験で緊張気味ですが、
本日から5日間、宜しくお願い致します。
では、早速。
「天」の中村安伸さんの句。
梅雨の湿度をどこまで行っても母(割烹着)なんですね。
薄暗い雨の日の部屋の中に浮かぶ白い割烹着が鮮烈です。
梅酒は、確かに母や家を思い起こさせますが、
この句には、ここまで持ってくるかと唸りました。
「地」の月野ぽぽなさんの句。
最近は缶入り梅酒もあるけれど、
それぞれの家の作り方があって、
母から娘、それも長女に伝えられる。
嫁いでも実家の影の伝承者である長女。
「いつまで」の措辞に永遠が滲みます。
「人」の春畑茜さんの見立て句。
「言葉」を持ってきて嫌みのないところがいい。
飴色になった梅酒の底の皺深い枯葉色の梅が目に浮かびます。
谷口純子さんの句。
「客人(まろうど)」と読むのでしょうか。
梅酒の甘やかさに蛍の夜がよく似合う。
伊波虎英さんの句。
入梅も祇園だと艶めきます。
二健さんの句。
このバカバカしい呑気は梅酒のほろ酔いのせいでしょう。
ロビンさんの句。
これもほろ酔いの見立てとして、梅酒の日ならでは。
やそおとめさんの句。
菅野美穂って山羊っぽいですよね。
記念日の制定者に敬意を表しつつ、
ことば遊びは俳句の楽しみ。
まなぶさんの句も信治さんの句も時間を意識した句。
時間がたつほどに味も色も深みを増して、
人とは違う時空間のイメージを掻き立ててくれる。
たかが梅酒、されど梅酒。
【選者吟】
風に風乗せる梢や梅酒の日 園を
【天】
耳たぶを時の記念日揉むひとり 緋色
【地】
あさつきを散らして刻む時の記念日 ロビン
【人】
三千世界の鴉に黙祷時の記念日 淡々
【佳作】
雨の日はゆっくり進む時の記念日 蝸牛
時の記念日過ぎゆくままにTO・KI・O 伊波虎英
時の記念日びいかんの脳の果 島田牙城
時の記念日針の一つは毒の針 月野ぽぽな
鼻歌まじり時の記念日のアインシュタイン 仲 寒蝉
壊れた踊り子が回る時の記念日 三亀
時の記念日の空飛んでくる新聞紙 春おぼろ
【選評】
人間は時間というものを共有している。
すなわち、人は時間によって自らの内部世界を外部世界と同期させることが出来のである。
時間を見失ったとき、人は外部世界と連なることが出来なくなって狂気にいたる。
日本記念日協会HPによると、
かつて「漏刻と呼ばれる水時計を新しい台に置き、鐘や鼓で人々に時刻を知らせた」
ということだが、そのようにして共有された時間、
日時計や砂時計の時間、クォーツや電波時計の時間などには、それぞれに異なる質感があると思う。
草二本だけ生えてゐる 時閨@ 富澤赤黄男
一字空きの断絶によって、この「草二本」は時間から切り離されているといえるか?
そうであるともいえるし、そうではないともいえるだろう。
これらは、見えているが触れることのできない別次元に、
永遠に閉ざされているようにも思えるのである。
【天】緋色さん、
記念日名となにげない動作の二物を配合した句だが、
二物の距離感も、
記念日名を挿入する位置の選択も絶妙である。
くちずさんんでみると
なんともいえない音律の心地よさがある。
【地】ロビンさん、
刻まれて散ったあさつきはもとに戻らない。
時の不可逆性を思う。
色彩の美しさもある。
【人】淡々さん、
気まぐれに三千世界のカラスを殺してしまった風狂な革命児、
高杉晋作。
天才には天才なりの時間に対する感覚がある。
【佳作】
蝸牛さん、時間に対する感覚は主観的なものであり、
さまざまな状況に左右される。季節感もある。
伊波さん、沢田研二の大ヒット曲のタイトル二つによるコラージュ風。
私がカラオケで歌うのは、もっぱらカブキロックスの「O・E・DO」である。
島田さん、どこかへ行ってしまっている。
戻ってくることができればよいが。
月野さん、毒が塗られた針は長針、短針、それとも秒針?
秒針がいちばん怖いけど、
意外と落ち着いている短針であるかもしれない。
仲さん、鼻歌まじりに理論を構築してしまう
(というイメージの)アインシュタインではあるが、
苦悩も深かったようである。
三亀さん、壊れた踊り子は時計の針の比喩ともとれるし、
文字通り疲れ果ててしまった女性をイメージすることも可能だ。
時は誰に対しても等しく残酷である。
春おぼろさん、あの日の日付の新聞紙が、
突拍子もなく目の前にあらわれて、
タイムスリップしたような気分になれたらいいな。
【選者吟】
時の記念日二本の草を千本に 中村安伸
【天】
青空はひとつの壁画ロックの日 ミキ
【地】
around-the-clock ロックの日のLAWSON 伊波虎英
【人】
ロックの日知育徳育体育を 島田牙城
【佳作】
五線譜に縦線多しロックの日 坂石佳音
青大将メタメタになるロックの日 望月暢孝
ロックの日 I CAN'T GET NO SATISFACTION 月野ぽぽな
掃除機の七転八倒ロックの日 谷口純子
バーボンを揺すれば聴こゆロックの日 園を
心臓が時々踊るロックの日 靖山
穴倉の朝日は黄色ロックの日 蝸牛
【選評】
あらゆる先行の音楽ジャンルを食い散らかす雑食性、
理性を麻痺させる強烈なリズムの力、
それらは金とセックスとドラッグによって飾られている。
私にとってロックを代表するアーチストは
なんといってもローリングストーンズで、
その代表曲は「悪魔を憐れむ歌」である。
もし、ロックがひとつの人格を得たならば、
その人物はミック・ジャガーの顔をしているにちがいない。
【天】のミキさん、
60年代、70年代に行われた野外のロックフェスティバルの雰囲気。
会場を埋め尽くした人々には、
もはや自分と他者を隔てる理性も衣服も残ってはいない。
ステージ上ではジミヘンが、
ジェファーソンエアプレインが、
ピンクフロイドが、
巫術のようにひたすら大音響を発し続ける。
そのとき青空を流れる雲も、風も、
のこらず演奏者たちの支配下にあるのだ。
【地】の伊波さん、
ビル・ヘイリーと彼のコメッツによる「ロック・アラウンド・ザ・クロック」は、
ロックの起源ともいわれる軽快な曲。
いまでも驚くほど完成度が高い名演奏だ。
24時間活気にあふれるコンビニエンスストアの様子に、
時計を思わせるドラム音がベストマッチ。
【人】の島田さん、ロックは子供たちの精神を蝕み、
「不良」への道すじをつけるものとして大人たちから敵視されてきた。
こうした大人たちがいてはじめて、
反骨精神という言葉に意味が生じるのである。
きちんとした大人の
きちんとした発言が軽視されてしまう世の中であってはならないと思う。
さりげなく脚韻を踏んでいるところが芸。
【佳作】
坂石さん、
ほとんどのロックミュージシャンは五線譜など読み書きできぬと思うが、
たしかに縦線は多いのかも。
あと、繰り返しも多いはずである。
望月さん、「エレキの若大将」では、
法被を着て笠をかぶり、
エレキギターで民謡を演奏する若大将たちが
最もロックだった。
月野さん、ストーンズといえばこの曲もある。
ストレートに欲望むき出しなところがロック。
谷口さん、何でも吸い込む掃除機はロックだ。
園をさん、バーボンが似合う大人のロックもある。
靖山さん、ちょっと体調が心配になる。
やはりロックである。
蝸牛さん、ロックはあくまでも娯楽であり、
だからこそいくら溺れても日常に戻ってくることが出来る。
少しくらい太陽が黄色く見えたとしても、
すぐに馴れてバリバリ働くことが出来るはずだ。
【選者吟】
新宿を出で入る猫やロックの日 中村安伸
【天】
成層圏発見の日花嫁のベールを 信治
【地】
成層圏発見の日の冷蔵庫 谷口純子
【人】
月見るに邪魔にはならぬ成層圏発見の日 靖山
【佳作】
成層圏発見の日葡萄の皮を吸い尽くす 月野ぽぽな
成層圏発見の日を射る噴泉 伊波虎英
モヤシ炒めや成層圏発見の日 二健
成層圏発見の日を煮立つ蛸 櫂未知子
成層圏発見の日を完封す 春畑 茜
金魚のきもち成層圏発見の日 坂石佳音
悪い夢だったな成層圏発見の日 中塚涼二
【選評】
日本記念日協会HPによると、
成層圏とは
「約50キロメートルの厚さで地球をとり巻いている大気の層。」
とのことである。
われわれが住む、おそらくは一生そこから出ることはない地球。
その地球を宇宙からへだてている大気の衣に思いを寄せる日。
このような大規模な記念日に、
宇宙や太古など同程度の規模の言葉を取り合わせたのでは
散漫な印象になり易い。
むしろ、
日常生活規模の言葉を取り合わせた句が成功しているようだ。
【天】の信治さん、
成層圏とベールの類似性による取り合わせで、
花嫁の聖性が地球のそれと比肩するかのごとく増幅される。
そしてこの句のすばらしさは、
語尾を「を」と言いさしにした点。
ベールを荒々しくとりはらったら、
どれほどすばらしい生命がむき出しになるか、
期待がどうしようもなく高まる。
【地】の谷口さん、
宇宙のなかの地球のようにマンションの中に冷蔵庫はある。
【人】の靖山さん、
たしかに成層圏が発見されたからといって、
月の見え方はそれ以前となんら変わらない。
【佳作】
月野さん、
葡萄が地球の暗喩だとすると文明批判的な意図も透き見える。
伊波さん、
内側から成層圏に対峙する噴泉の図。
二健さん、櫂さんはキッチン系。
日常感、生活感のつよいものをとりあわせればおかしみが出る。
櫂さんの「煮立つ蛸」は音感もおもしろい。
春畑さん、すっきりと爽快にまとめた。
坂石さん、金魚のきもちも発見されたがっているか?
中塚さん、夢の中での気分もすぐに忘れて
いつもの一日がはじまるはずである。
【選者吟】
成層圏発見の日塗装工の涙 中村安伸
【天】
母親大会記念日塗りたての壁 やそおとめ
【地】
母親大会記念日待ち針奪還の旅に出る ロビン
【人】
母親大会記念日の如き夕立 文平字
【佳作】
十薬の香る母親大会記念日 正美
母親大会記念日リュート弾く子にも 島田牙城
母親大会記念日鍵に鈴 月野ぽぽな
百人のおむすび母親大会記念日 坂石佳音
倍数の胸襟開き母親大会記念日 まなぶ
母親大会記念日から出た駒だ 中塚涼二
母に母そのまた母の母親大会記念日 園を
【選評】
「母親」しかも「大会」しかも「記念」と蒔絵の重箱三段重ねといった趣。
なんとも過剰な語感、しかし伝統のある記念日だそうである。
ステレオタイプな母親のイメージを配合してしまった句が少なくなかったが、
この記念日名のおおげさな印象を生かした句に面白いものがあった。
【天】のやそおとめさん、塗りたての壁は意識下の「母」の表象だろうか。
常識的な母のイメージをすべてとりはらって「塗りたての壁」をイメージしたとき、
空恐ろしさが立ち上ってきた。
【地】のロビンさん、待ち針も母親からイメージされやすいアイテムのひとつだが、
「奪還」という極端に誇張された表現が、記念日名の印象にマッチしている。
【人】の文平字さん、「母親大会記念日」と「夕立」の順序が逆だったら、
一般的な直喩であるが、逆転させたことによって詩的飛躍が生まれた。
【佳作】
正美さん、十薬は母の力強さ、慈悲などの象徴ともうけとれる。
島田さん、美しい景、うつくしすぎるのが玉に瑕。
月野さん、ノスタルジーを感じさせるアイテムをもってきて成功。
坂石さん、想像上の「母親大会」の景として素直。
まなぶさん、「倍数の胸襟」という謎めいたフレーズが、記念日名の過剰な感じにマッチしている。
中塚さん、慣用句を生かしてシュールレアリズム的な句に仕上げている。
園をさん、家系図には記されない母から母をたどる系譜。
その母たちが全員集合するのがもうひとつの、天上の母親大会なのである。
【選者吟】
母親大会記念日鳥辺山のカラス 中村安伸
【天】
春でもないのにかへるの日とは納得行かないわ飴美味しいわ 櫂未知子
【地】
かへらないかへりますかへるかへるときかへれかへらうかへるの日 伊波虎英
【人】
かへるの日いづれが杜甫かはた李白 春畑 茜
【佳作】
かえるの日闇の向かふに電車道 坂石佳音
ロビンと柳とかえるの日、なくわ ロビン
かえるの日又ばっちゃんのすっ呆け みずき
身についた殿様商売かえるの日 二健
かえるの日のベッドもぬるぬる 三亀
蛇の日はなくてもよろしかえるの日 仲 寒蝉
聴くともなき森山直太郎かなかえるの日 緋色
【選評】
日本記念日協会のHPによると、
「かえるの鳴き声の「けろけろ」から6の重なるこ
の日を記念日とした」とのこと。
ちょっと無理があるかも。
ちなみに私にとって6月6日は「ドラえもん絵描き歌にてUFO墜落の日」である。
【天】の櫂さん、
虚子の「凡そ天下に去来程の小さき墓に参りけり」を超える長律ながら、
ぎりぎり定型感をとどめている見事な力技。
内容面では終盤の気まぐれな展開がコケティッシュ。
ご指摘どおり「蛙」は春の季語である。
【地】の伊波さん、
かえるという語の音に着目した言葉遊び的な作品は他にもいくつかあったが、
同音の動詞「帰る」の活用がいつのまにかドラマになっているという、
この句の仕掛けが最も面白かった。
【人】の春畑さん、この記念日の本来の意図に沿った作品といえるか。
鳥獣戯画と唐詩選を綯交ぜにした滑稽プラス幽玄ワールド。
【佳作】
坂石さん、意識下の景を浮かびあがらせた。
蛙のぬるりとした皮膚は無意識そのものの質感かも。
ロビンさん、花札の図柄をモチーフにした自己劇化。
過激でおもしろい。
みずきさん、蛙のユーモラスなルックスから日常の笑いへつなげようとしている。
二健さん、殿様の名を冠せられた蛙は滑稽である。
殿様という存在じたいが滑稽なのである。
三亀さん、蛙の質感から。下半身が蛙の美女などを想起。
仲さん、蛙は赦せても蛇は赦せない。
緋色さん、森山直太郎もどことなく赦せない。「かな」は不要かもしれません。
【選者吟】
かえるの日ひとりにひとつ頭陀袋 中村安伸
【天】
世界環境デーおんなたちの重き爪 緋色
【地】
世界環境デー誰にも知られず放屁する 三亀
【人】
団子虫あわてて世界環境デー 二健
【佳作】
立ち小便推奨世界環境デー 仲 寒蝉
世界環境デー[地球は黒かった]との声 望月暢孝
世界環境デー帆袋と格闘す みずき
人間が土買う世界環境デー 月野ぽぽな
世界環境デー三界の暮れのこる 春畑 茜
粗大ゴミがゴミ出ししてる世界環境デー 靖山
恒河(ガンガー)に骨積るらむ世界環境デー 伊波虎英
【選評】
世界環境デーは
1972年の国連人間環境会議の「人間環境宣言」の採択を記念して設けられたが、
日本ではその前年に環境庁が発足し実質的初代長官に大石武一氏が就任した。
就任早々、
長官は列島改造をごり押ししている田中角栄通産大臣(当時)に真っ向から反対して
開発から尾瀬を守った。このことはもっと記憶されていい。
「天」
成長の限界が云々された70年代からの地球の宿命を
ヴィジュアルに表現している。
荒廃した大地を素手でまさぐっている女たちの爪のイメージは強烈。
「地」
環境問題への対応を皮肉るこの「透かし屁」はよく利きますね。
「人」
そう、土壌再生に取り組んでいる団子虫を見習おう。
「佳作」
寒蝉さんの句。
自家製の循環型有機肥料を無駄にすることはありません。
望月暢孝さんの句。
皆既月食で地球の陰に入った暗く荒涼とした月面を
望遠鏡で眺めたときのことを思い出す。
近未来ではないこれが現実か。
みずきさんの帆袋は、
無寄港世界一周のヨットレースの一場面か。
環境問題への多角的取り組みを示唆しています。
月野ぽぽなさんの「土」は
「土地」では当たり前だが、
土を買うとは具体的にどういう行為なのだろうか。
汚染された土地の表面に買った土をまいているのだろうか。
春畑 茜さんの三界の暮れのこる。
そして人類はさまざまな汚染で死滅して行く。
映画「渚にて」の最終場面を思い出す。
靖山さんの句。
大都会そのものが巨大な粗大ゴミだとすれば、
その底辺をうごめく我々はへっぴり虫そのものですね。
【選者吟】
目張りしてどこかもれてる世界環境デー 淡々
【天】
虫歯予防デーなのにせまってくる奴だ 中塚涼二
【地】
虫歯予防デー猫騙しくらひけり 島田牙城
【人】
虫歯予防デーのくちびる桃の味 緋色
【佳作】
虫歯予防デー芋虫這ひまはる 大西龍一
虫歯予防デー夏富士を囓りたし 伊波虎英
虫歯予防デーコップの取っ手は象の鼻 月野ぽぽな
虫歯予防デー重吉の大あくび 春畑 茜
あの人もこの人も医者虫歯予防デー 信治
虫歯予防デー歯の多い人ほど原始人 仲 寒蝉
泡立て器干して虫歯予防デー ミキ
【選評】
虫歯も歯槽膿漏も日頃の予防が大切。
新聞報道によると、最近の児童に乳歯が抜けた後、
永久歯が出てこないケースが頻発しているとのこと。
誠に由々しき問題ではないか。
CMではやけに真っ白い歯を剥き出しにしているスポーツマンやタレントが多いが、
清潔で、丈夫な歯こそ大切。
この場を借りて大いに警鐘を鳴らしておく。
記念日協会がこんなに有名な語呂合わせの記念日なのにと
ぼやいているのが秀逸でした。
正直に言って今回の天地人は
紙一重もない微差だというのが私の感想ですが…。
「天」迫るほうも迫られるほうもどっちもどっちという感じだが、
「虫歯予防デー」を口実にしているところが面白い。
「地」の句。「猫騙し」は相撲の奇襲戦法の一つ。
肩透かしみたいなところが今回の記念日にふさわしいと選者の独断。
「人」の句。アメリカのフリーウエイで
マリリン・モンローの巨大屋外看板を見た(映画で?)記憶が鮮やか。
この句、来年の全国キャンペーンのキャッチ・コピーに使えます。
「佳作」
歯と芋虫。虫歯より歯槽膿漏のイメージだが
「歯の衛生週間」のPRには効果的。
夏富士と象の鼻。虫歯予防のうじうじしたイメージを払拭する効果絶大。
「重吉のあくび」は難解句。
私は大分古いが宇野重吉のことかなと。
昔隣に住んでいたので、
どてら姿で楊枝を銜えた姿が目に浮びます。
なんとなく総入歯ッてイメージですが…。
信治さんがいう「あの人もこの人も医者」の一人、
仲 寒蝉さんの「歯の多い人ほど原始人」は誉め言葉ととっておきます。
因みに60代半ばを過ぎて全て自前の歯を維持している私は、
月一回通っている歯科医院の椅子を偏愛し、
歯磨きが趣味だといって担当の女医先生のご機嫌を伺っています。
【選者吟】
口あけて白河夜船虫歯予防デー 淡々
【天】
ムーミンの日や噴煙に目鼻あり 島田牙城
【地】
ムーミンの日の底見えぬ蜜の壺 櫂未知子
【人】
ムーミンの日のしもぶくれ やそおとめ
【佳作】
屋上のムーミンの日の金魚かな 二健
ムーミンの日のパパはまたパチンコ屋 中塚涼二
エプロンをはずしてくださいムーミンの日 三亀
ムーミンの日よ友はみな種属ちがい 信治
ムーミンの日の足早のスナフキン 仲 寒蝉
ニョロニョロの生えさうな丘ムーミンの日 坂石佳音
ムーミンの日に桑の実を纏め食い 正美
【選評】
「ムーミン」と「ユーミン」との区別もつかない私にとって
一番悩ましい記念日。
頼りにしている記念日協会の解説も
「ムーミンを愛するファンの制定した日」
とたったの一行。素っ気ないですね。
ネットのイメージ検索と青い鳥文庫のムーミン童話を拾い読みしてみましたが…。
牙城さんの「天」の句。
ムーミンの日にふさわしい壮大なイメージ。
でも、物語によると噴煙の後、ムーミン谷は大洪水に見舞われることになっていますが・・・。
櫂未知子さんの「地」の句。
地元の図書館でムーミンの絵本をと尋ねたら、
大人が読むのなら中央図書館に「ムーミンの哲学」という本があるといわれました。
この句には私にはわからない深遠な哲学が秘められていそうですね。
「人」の句は、ムーミン初心者には一番親しみやすい。
天に採りたかった句です。
「佳作」
二健さんの「金魚」。
ムーミンは河馬かと若い世代に聞いたところ「お化け」という人がいた。
装飾過多の金魚との屋上対決。
中塚涼二さんの句。
「ムーミンパパ」の方が活き活きとしていますね。
三亀さんの句。
ママはムーミンも人間も忙しく働いているのがわかります。感謝。
信治さんの句。
ムーミンの仲間はさまざま。
でも言葉は通じるから皆仲良しなのですね。
スナフキンとニョロニョロの句。
ムーミン童話を少し齧ったところを見せておきます。
正美さんの句。
ムーミンならどのくらい食べるか。
お腹をこわして絹糸を放出したら面白いですね。
【選者吟】
ムーミンの日高等遊民を気取る 淡々
【天】
路地の日の口中すこし荒れ気味で 緋色
【地】
影法師のびる路地の日神隠し やそおとめ
【人】
団体縫い路地の日の白犬いたんだ 二健
【佳作】
路地の日や時間を留める大西日 蝸牛
路地の日やむかし鴨居は高かりし 大西龍一
路地の日や風無く落つる花擬宝珠 北川 梢
路地の日の路地をなぞればあみだ籤 ミキ
路地の日の穢土を離るる夜汽車かな 中村安伸
路地の日のきのふは母がをりました 島田牙城
路地の日や蝋石ちびて老ゆる子ら 伊波虎英
【選評】
路地といえば荷風の濹東綺譚の玉の井遊郭界隈や
滝田ゆう描くところの「寺島町奇譚」(現墨田区東向島)の「抜けられます」に尽きると思っているが、
土地土地に路地があり
庶民の生活があるという当たり前のことを教えられた。
今年3月に亡くなられた菖蒲あやさんの句集『路地』の世界、
墨田区京島周辺も私の散策コース。
緋色さんの「天」句の<口中荒れ気味>は、
勘当され路地裏に逼塞している若旦那の流連荒亡を活写しています。
落語の世界がそのまま今に残っているのが下町の路地の所以。
「地」句…
どこからか「ことろことろ」の唄声が聞こえてくるようです。
「人」二健さんの回文俳句。
先日、桂枝雀の「鴻池の犬」のテープを聴いていたので、
路地の白犬は是非とりたいと思ったが、
上五の解釈が難しい。
はとバスの下町探訪のご一行様と見ると情景が浮ぶ。
「佳作」
蝸牛さん。そう、
時間が止まったところから路地の日の逢魔が時が広がります。
大西龍一さんの鴨居の句。
脚立から飛び降りて敷居に顎をぶつけた古傷が今も残る私の郷愁を
上手くなぞっていただいた。
北川 梢さん。うーん。枯淡の境地ですね。
ミキさん。阿弥陀籤の本来の意味を教えていただきました。
路地遊びとか流行りそう。
中村安伸さんの夜汽車。
<路地裏を夜汽車と思ふ金魚かな 摂津幸彦>
を下敷きにしていると思いましたが、
中七が私にはわかりにくかった。
【選者吟】
路地の日の木歩の墓や菖蒲枯る 淡々
【天】
麦茶の日いい風ですねお父さん 月野ぽぽな
【地】
麦茶の日二人がかりで持つ薬缶 坂石佳音
【人】
父まねて子もプハーせり麦茶の日 文平字
【佳作】
黒髪は密にありけり麦茶の日 大西龍一
麦茶の日地球に生れてよかつた 仲 寒蝉
シュミーズのおばちゃんの呼ぶ麦茶の日 信治
傷口が無茶なこと言ふ麦茶の日 中村安伸
見えてゐる川面たはめり麦茶の日 島田牙城
麦茶の日からんと晴れてゐる真昼 春畑 茜
煎餅の裏側を見る麦茶の日 櫂未知子
【選評】
飲食物の俳句は、
当たり前のことですが、おいしそうかどうかにつきます。
麦茶は熱いのか冷えているのか。
天気も味覚に影響しますね。
麦酒と勘違いしているような句もありましたが、
ビールよりおいしく感じさせるのが句の手柄です。
最近は麦茶より烏龍茶が優勢なご時世。
この夏は自宅で麦茶を冷やしましょう。
月野ぽぽなさんの「天」句。
「おとうさん」は配偶者のことでも、父親でもいいと思います。
自家製の麦茶を切子のグラスか京焼きの薄手の茶碗でいただいている。
本当にいい風が吹いています。
「地」の大きな薬缶の中味は温かい麦茶(と選者の独断)。
大勢の人が集まっている法事かなと思いますが存在感があります。
「人」句。パパは麦酒、子どもは麦茶で「プハー」と仲のいい親子。
「佳作」
大西さんの「黒髪」は、麦茶の原料の大麦の収穫「麦秋」のイメージ。
冷たい麦茶も先ず煮立てますから、その大釜からの連想かとも。
寒蝉さん。麦茶一杯でこれだけオーバーに言える天下泰平がいい。
冷え冷えの麦酒の日だったらなんと仰るのでしょうかね。
信治さんの「シュミーズのおばちゃん」と
アッパッパのお婆ちゃんはどっちが昔なのでしょうか。
麦茶には郷愁の味もありました。
中村さんの句。
アチャコの口癖「無茶苦茶でござりまするがな…」を思い出しました。
牙城さんの句。いかにも名句の風格がありと鑑賞しましたが、
私の電子辞書と小型古語辞典では、
中七の「たはめり」が戯る(たはむる)か撓む(たわむ)かがわかりませんでした。「川面撓(たわ)めり」と読みました。
初めての臨時代行選者の所感。
大変な労苦ですね。
日ごろの選者各位のご努力に改めて感謝と敬意を表します。
【選者吟】
麦焦がし土瓶にぬるき麦茶の日 淡々
【天】
世界禁煙デー意志弱きものは去れ 中村安伸
【地】
モザイクのボガード世界禁煙デー 文平字
【人】
ご隠居の煙管も世界禁煙デー 中性子
【佳作】
世界禁煙デーゴキブリを飼ひならす 島田牙城
半身をどっぷり浸かる世界禁煙デー まなぶ
世界禁煙デー帰宅したら妻が縮んでいた 三亀
世界禁煙デー稲穂のポーズで乗り切る ロビン
世界禁煙デーギヤマンのただの皿 坂石佳音
世界禁煙デー去年の祭の金魚死す 花月 香
世界禁煙デー海昏れるまでガム噛んで 月野ぽぽな
【選評】
「国連の世界保健機関(WHO)が、世界人類の健康のためにと設けた日。
欧米では、タバコをやめられない人は意志が弱いとされる。」だそうな。
やめられなくなる前にやめておけばいいと思うのだが。
世の中は思った通りには進まない。
弊店に昨夜来店した常連客が、ラーク・メンソール・マイルドをおもむろに
取り出して、「最近のタバコは、こんなことがでかでかと書いてあるよ。
いっそのこと買うのやめてやるかな」とぼやいておられた。
別卓に残されたピース・ライトの空き箱も、同様な表示がされてた。
よく見ると詳細は厚生労働省のHPを参照すべくURLが記されていた。
煙草産業と国家は確信犯で、喫煙者は確信被害者兼確信加害者か。
人間の業を穿つべく最も俳諧味ある課題で、全投句がそれなりに
面白く、俳句と川柳に分け隔てがない領域であることも実感できた。
全28句の全てが、わが予選通過となり、10句に絞り込んで4段階に
振り分けるのは至難の技だった。
俳句として、かような題では、賛否中立の意思表現ではなく、
人やその社会への諧謔、しいては人心の擽りこそ眼目である。
「高貴な俳句のつもりが卑俗な川柳になってしまい浅はかだった」と、
後悔するなかれ。軽々しくふてぶてしく行こう。
【天】
安伸氏、俳句、川柳のカテゴリーを超克し、
どうどうと標語しているふてぶてしさ。インパクト最高。
時にストレートな物言いが偉大な諧謔の力を持つことがある。
常識を翳して常識を打ち破らんとする潔さに脱帽。
わが選の千秋楽を飾るに相応しい。
【地】
文平字氏、屈折したイメージが具体性をもって迫ってくる。
「モザイクのボガード」だけをぶつけて言い切った秀逸作品。
【人】
中性子氏、ちょっと時代遅れなほのぼのとした景の提示でのソフト諧謔。
主な対象は、量産され、巷にはびこっている紙巻のシガレットかと思うが。
【佳作】
・牙城氏、強烈な比喩の諧謔。ゴキブリ役はだれにでも当てはまる。
・まなぶ氏、是非ではなく景のみ描く俳句骨法。
・三亀氏、ダッチワイフではあるまいか。寝煙草で穴あけちゃったのでは。
・ロビン氏、頭を垂れる稲穂かな。ヨガのポーズかな。
・佳音氏、ポール・ギヤマンじゃなくて只のびいどろの灰皿。
・香氏、儚き金魚の死を無にせず。祭、金、死、うーん。
・ぽぽな氏、唯一抒情でのアプローチ。
※この際、世界禁煙デー俳句のオンパレードで締め括る。みんな面白いので。
昼食は平和に世界禁煙デー 櫂未知子
大笑いして居る世界禁煙デー 中塚涼二
世界禁煙デー黄砂に消えた屍 みずき
毒の薬のと世界禁煙デーを吸ふ 百花
ビール腹の増える世界禁煙デー 雪虫
ポケットに女王陛下世界禁煙デー 大西龍一
いづこも同じ世界禁煙デーの夕ぐれ 春畑 茜
世界禁煙デー海昏れるまでガム噛んで 月野ぽぽな
カルチェ・ダンヒル・火打石みんな没収世界禁煙デー 淡々
世界禁煙デーああ〜レット・バトラーの匂ひが遠い やそおとめ
世界禁煙デー嗅ぎ煙草噛み煙草の命運は 望月暢孝
喫煙デーはどうしたの世界禁煙デー 靖山
命より煙取らんとは世界禁煙デー 流鬢力
世界禁煙デー大統領を煙に巻く 園を
缶ピース香るや世界禁煙デー 昭雄
木苺の熟れず世界禁煙デー 正美
蛍火の愁いや世界禁煙デー ミキ
世界禁煙デー会議後の一服 蝸牛
【選者吟】
こんにちわ皆さま世界禁煙デー 二健
【天】
逆立ちの糞転がしやお掃除の日 ミキ
【地】
お掃除の日の砂肝と見つめあふ 櫂未知子
【人】
お掃除の日連理の枝の裏磨く 百花
【佳作】
河馬寝ていますお掃除の日の動物園 坂石佳音
お掃除の日にどつさりと鯖届く 信治
「お」を削りお掃除の日を芥箱へ 淡々
お掃除の日の昼飯を作る父 島田牙城
お掃除の日雨女が雨降らす 花月 香
先祖の写真ずらりとお掃除の日 望月暢孝
来年のお掃除の日を決めている 蝸牛
【選評】
530(ゴミゼロ)の語呂合わせから、二団体が空き缶公害や梅雨時に向けて、
掃除の大切さを呼びかける目的の記念日。言うは易く、やるは難いのがこれ。
わが皿洗い家業も立派なお掃除労働か。食器洗い機に負けずに勤しもう。
掃除とは下層階級に割り当てられた労務みたいで俳諧味ある言葉だ。
我想うに、掃除は禅定なり。動物や虫は掃除をしないと思われがちだが、
実は人間とは比べものにならないほどの掃除屋さんだ。
食物連鎖や弱肉強食や棲み分けなど。生きていること自体が掃除なのだ。
天の句を筆頭に、そんな諧謔を斡旋した句が印象に残った。
選外だが、「人間を掃除する人間お掃除の日 三亀」
「お掃除の日の地球まるごと護美捨て場 やそおとめ」
言葉に切り込んだ句もあった。
いまだもってメタ言語(?)という意味が分からない。どなたか教えて欲しい。
「小言も拭いちゃお お掃除の日は みずき」
「なごや弁りやあみやあ蔓延お掃除の日 春畑 茜」
「『お』を削りお掃除の日を芥箱へ 淡々」(佳作)
「お掃除の日のEメール Re:Re:Re: の Re: 伊波虎英」
その他、心の隅のお掃除の句も多々あった。
【天】
ミキ氏、逆立ちになり、前足で地面を蹴り、後ろ足で糞の玉を器用に転がして
巣へ運ぶフンコロガシの生態。虫を見つめた軽妙な名句がまた一つ生まれた。
箒を立てるまじないも含めて、滑稽で可愛くて健気。俗語俗習の功名。
【地】
未知子氏、よりにもよって砂肝など写生して良い句ができましたか。
ばかばかしいが付かず離れずのよろしさ。
「お前もお掃除の日の功労者なんだねぇ」とか。
【人】
百花氏、「連理の枝」(仲の良いカップル)とは含蓄深い。
その裏を磨くお掃除は正に裏技神業。掃除に表裏あり。
【佳作】
・佳音氏、河馬と猫は寝るのが仕事。歯滓をお掃除する鳥もいたりして。
・信治氏、忙しい時のありがた迷惑かも。せめて干物にして。
・淡々氏、そうそう「掃除の日」でいいと思うが。
・牙城氏、役割分担の大波小波。父さんは洗い物までするのかな。
・香氏、雨女にはほとほと参る。すとすとぴっちゃんすとぴっちゃん。
・暢孝氏、格式のある家の格式あるお掃除。先祖が見つめている手前手が抜けない。
・蝸牛氏、気が早い段取りおばさんか。季語が動くかも。
【選者吟】
長碑の字嘘おましゃろ八島お掃除の日かな 二健
【天】
○△□こんにゃくの日の手話問答 淡々
【地】
こんにゃくの日の病巣がかがやいて 中村安伸
【人】
ずるけてはこんにゃくの日の山登り 島田牙城
【佳作】
跳ねているこんにゃくの日の蛙の子 みずき
賑やかな銭湯が好きこんにゃくの日 望月暢孝
こんにゃくの日の螺旋階段は意地悪だ 三亀
笊いっぱいこんにゃくの日を千切りおり ロビン
こんにゃくの日も変わらずに呑んだくれ 昭雄
スピーチ旨く出来ないこんにゃくの日 蝸牛
目測はいつも誤つこんにゃくの日 信治
【選評】
語呂合わせから、日本コンニャク協会が1989年(平成元年)に制定した記念日。
出身県の「葱とこんにゃく下仁田名産」という上毛カルタが思い出される。
石頭の対語としての「こんにゃく頭」や落語の「こんにゃく問答」という言葉もあ
る。
下敷きが見え見えの「難解な論争楽しこんにゃくの日 正美」という句もあった。
胃袋の砂払いを踏まえた「砂払いってなーにこんにゃくの日 靖山」も近過ぎた。
【天】
淡々氏、記号使用は種々の難点があり、私は控えめだが、この句は生きた。
生かされた。漫画「おそ松くん」のチビ太のおでんを彷彿して面白い。
しかし「手話」という深刻の陰影が深く刻まれておりやがて哀しき何とやらに至る。
「こんにゃく問答」も巧みに踏まえた。創作性抜群の句だ。
しいて好みを言えばこんにゃくの造形が頭にくる△○□の順がいい。
【地】
安伸氏、「病巣がかがやいて」とはなんたる背反。俳の視点。
浅はかな常識では不心得者の濡れ衣を着せられかねないが、
詩俳を極めた者の視座ならでは。こんにゃくの象徴性に生命感が漲っている。
【人】
牙城氏、そこに山があるから上る。そこにこんにゃく玉があるから掘る。
そこにおでんがあるから食う。物事の優先順位は臨機応変に入れ替わる。
狡とはエゴとエゴによって生じる抽象概念。うーむ。
【佳作】
・みずき氏、けなげに生きている。こんにゃくは元気の元。
・暢孝氏、生活実感、やはり生命感。素直な謂いが生きた。
・三亀氏、ぐるぐる目が回る。こんにゃくの木(草)は魔法使いのよう。
・ロビン氏、…日を千切るのだ。記念日制定もそのようなものだ。
・昭雄氏、こんにゃくで解毒を。こんにゃくのゲロはやめて。
・蝸牛氏、つかみどころがないか。旨くなくても心は通じる。
・信治氏、反省しきり。次はメジャーでちゃんと計って。家具買う時など。
<こんにゃく問答に非ず>
次の5句は、記念日名の仮名表記を変えているので選を留保させてもらった。
・ゐないゐないばあこんにやくの日のぶるぶるん やそおとめ
・こんにやくの日の夕庭が濡れてゐる 春畑 茜
・こんにやくの日低アルコールビアをがぶ飲みす 伊波虎英
・こんにやくの日や水分減らしたるウエスト 百花
・こんにやくの日のこんにやくをいぢめをり 櫂未知子
記念日名を旧仮名に書き換える理由は、作者が主義として旧仮名表記の俳句表現を
旨としているからであろう。その作者側の拘りの理由と、現在の通常的普遍性の
上にある記念日、そしてその記念日俳句のあり方としての理由を、比較検討された
い。
記念日俳句は、広く一般に広がるべきだという観点から、私見は、
(ことに記念日俳句に限っては)世間で流通している現仮名表記が妥当と思う。
一般の人が記念日俳句から俳句そのものに興味を持って、文語旧仮名有季定型へと
掘り下げて進むためにも、受け皿は理屈なしに平明で日常的のほうがいい。
記念日俳句創作で、あくまでも旧仮名表記を通すなら、
「こんにゃくの日徳川夢声とふ活弁屋 園を」の句の様に、
新旧仮名表記混在になってしまうが、確定されている記念日名は弄らずに、
付け足す語句の範囲内でやるべきではあるまいか。
もし記念日名を旧仮名に書き換えることが認められるなら、
漢字も正字への書き換えが許されるだろう。
飛躍して解釈すれば、己の常なる主義や拠所とする俳句形式の都合によって、
記念日の名称表記を勝手に変更していいことになる。
わが一存では済まないので、主催者らのご見解を賜りたい。
〔参考〕
※旧仮名への書き換え例
こんにゃくの日→こんにやくの日、おまわりさんの日→おまはりさんの日
かえるの日→かへるの日、ちょうちょうの日→てふてふの日
※正字への書き換え例
麦とろの日→麥とろの日、 朗読の日→朗讀の日
【選者吟】
やよこんにゃくの日の苦や忍来よや 二健
【天】
ろくろ首がこんがらがるゴルフ記念日 三亀
【地】
ゴルフ記念日福助のパンティストッキング ミキ
【人】
ゴルフ記念日ぴたと決まる茶柱 坂石佳音
【佳作】
蝦蟇ぼっとゴルフ記念日の芝生 正美
ふりかけの偏るゴルフ記念日よ 櫂未知子
寝転んで行方見守るゴルフ記念日 まなぶ
ゴルフ記念日くちに放り込む棒棒鶏 伊波虎英
人工芝ゴルフ記念日のパラサイト・シングル 淡々
ゴルフ記念日テニスウイドウも又ありて 百花
ゴルフ記念日女医の大股大笑い 望月暢孝
【選評】
1927年(昭和2年)の5月28日、第1回日本オープン・ゴルフ選手権が、
横浜・保土ヶ谷ゴルフ場で開かれたことに起因するそうな。
好みが合うのだろうが、わが選にはいつも同じ顔ぶれが並びやすい。
作品本位での選句を旨としているにもかかわらずである。
天地人の句は衒わないで社会や人心の機微を描いている。
【天】
三亀氏、江戸時代の魑魅魍魎が首を捻り過ぎてこんがらがる程の、
駆け引きありの接待ゴルフ。秀逸な風刺。
【地】
ミキ氏、縁起かついだコンペの景品なり。略さない丁寧さがいい。
【人】
佳音氏、今日のゴルフは決まるぞ、という朝の前ぶれ。
【佳作】
・正美氏、含蓄のある蟇蛙の登場。もの言わずして語るあり。
・未知子氏、慌ただしく粗食掻き込み、いざゴルフ場へ。ああ日本人。
・まなぶ氏、それが一番。主語は人とは限らないのがミソ。
・虎英氏、こちらは豪華に蒸し鶏の料理。
・淡々氏、ネットで囲まれた練習場の設定。ささやかなな幸せ感。
・百花氏、ウイドウとは置いてけぼりにされた一種の未亡人。
・暢孝氏、大ぼら大食いも。
【選者吟】
雨ニモ負ケズ夏ノゴルフ記念日 二健
【天】
シャッフルに硬く百人一首の日 ミキ
【地】
婿殿を新茶で百人一首の日 百花
【人】
処世術下手な百人一首の日 蝸牛
【佳作】
百人一首の日縮れっ毛抜ける みずき
百人一首の日の百人落首書き やそおとめ
河鹿鳴く百人一首の日の禅堂 正美
ひらかなの迷宮百人一首の日 坂石佳音
不機嫌な百人一首の日の式部 中塚涼二
さればとて百人一首の日非吾事 園を
サンドイッチの卵可愛い百人一首の日 櫂未知子
【選評】
1235年(嘉禎元年)の今日、
藤原定家の撰による『百人一首』がまとまったことに因るそうな。
100首中、恋詠43首、四季詠32首、旅詠4首、離別詠1首、雑詠20首だとか。
和歌は俳句の古里でもあるからして、有季も無季も生かされるべし。夫々然り。
常人の為る詩歌俳句は、諸色恋沙汰から諸雑(ぞう)に至る間の季や旅等、
美味しい処取りばかりする傾向常にあり。真の美味しい処取りは全てなり。
今日は、いにしへの都言葉でやらさせて頂きまんな。
(小生は上州生まれの東京在住故、ちょっとおかしな言葉遣い堪忍ね)
【天】
ミキはん、トランプじゃおまへんでー。あんさんも、まだまだ現役やなー。
【地】
百花はん、さあさあ、ごくろうはんどした。一杯召し上がりなはれ。
新茶のぶぶ浸けも、どや?
【人】
蝸牛はん、ええんや、それで。あんたらしかりょうて。
【佳作】
・みずきはん、わざと抜いたんじゃおまへんか。
・やそおとめはん、落首の対比とはおもろいでんなー。
・正美はん、そりゃーええカジカガエルの美声が響きまっしゃろ。
・佳音はん、日本語は男文字と女文字の混ぜこぜが素晴らしいでんなー。
・涼二はん、稿料もろうとらない式部はんを慰めなはれ。
・園をはん、えろーむつかしいこと言わはるので苦労させられまっせ。
・未知子はん、色気より食い気やなー、ほんまに。
ほな、さいなら。
【選者吟】
都忘れへたりて百人一首の日 二健
【天】
東名高速道路全通記念日の余花 正美
【地】
東名高速道路全通記念日うなぎパイ齧り ミキ
【人】
釣はいらねえ東名高速道路全通記念日 島田牙城
【佳作】
どえりやあて東名高速道路全通記念日 春畑 茜
茜さす東名高速道路全通記念日 月野ぽぽな
東名高速道路全通記念日手相見る 大西龍一
東名高速道路全通記念日たわむ 中村安伸
東名高速道路全通記念日ミントガム二枚 坂石佳音
東名高速道路全通記念日締切間に合うか 中性子
東名高速道路全通記念日に蛇(くちなわ) 園を
【選評】
1969年の今日、全長346キロの東名高速道路が全通した。私は高校三年生だった。
田舎の親に内緒で教会に通っていた。下宿生活だったので一つの拠所だった。
1964年10月1日、東海道新幹線が開業し、10日に東京オリンピック開会式。
その5年後になる。「5.24:ゴルフ場記念日」もそうであったように
日本経済の高度成長真っ只中の当然のような出来事であった。
記念日季語自体が19音もあり、なかなかのものだ。
【天】
正美氏、3文字3音で見事に仕立て上げた。
盛りを過ぎた余花のイメージがしみじみと働きかける。
【地】
ミキ氏、その日のその日にちなんだことなのだろうが、
ささやかな気の利かし方かたが独善的で面白い。
【人】
牙城氏、高度成長期にはそういう景気のいい言葉が聞かれたものだ。
口語ならではの俗なリアリティが生きている。
【佳作】
・茜氏、名古屋弁が生かされている。
・ぽぽな氏、日に掛かる枕詞が生かされている。
・龍一氏、大道対個人的運命の対比が生かされている。
・安伸氏、単純な動詞が生かされている。
・佳音氏、爽やかさが生かされている。
・中性子氏、切実感が生かされている。
・園を氏、象徴性が生かされている。
【選者吟】
竹皮を脱ぐ東名高速道路全通記念日 二健
【天】
毛虫焼くほどの広辞苑記念日 正美
【地】
広辞苑記念日厚焼き卵を焼いており 花月 香
【人】
天丼の海老がやせている広辞苑記念日 三亀
【佳作】
広辞苑記念日月の出ぬ草叢 中村安伸
広辞苑記念日小さい人が手を挙げる 信治
広辞苑記念日サミダレとひいてみる 坂石佳音
一枚の中に収まり広辞苑記念日 まなぶ
マルソーの手首から薔薇広辞苑記念日 園を
広辞苑記念日デボン紀へ急ぐ 春畑 茜
広辞苑記念日戀の旧字に糸二本 ミキ
【選評】
昔、人並みに広辞苑を買って書棚に備えたのだが、
ほとんど使うこともなく、後にセイコーの電子広辞苑を買って、
今もってこれを愛用している。
電子辞書と言っても今のものではないから、
広辞苑が一冊しか入っていないし、逆引きもできない。
先日、句会で使っていたら大学生から「それなんですか」と言われた。
見れば分かると思うが、彼には電子辞書には見えなかったらしい。
それほどまでにおぞましい物体なのだろう。
さて、45年間も発行され続けている広辞苑の初版が出た日の記念の日。
その電子辞書を、ほぼ毎日使うからして身近な記念日だ。
【天】
正美氏、記念日俳句は、忌日俳句よろしく季重なりは気にならない。
「ほどの」は通俗的だが、掛かるところとの非常套性で返って効果的だ。
この時期に毛虫が出るかどうか定かではないが、比喩として捉えられる。
苑の字があるから毛虫もいそうだし、何よりも軽い諧謔が効いている。
【地】
香氏、「厚」の共通性が見え見えだが、書斎とキッチンの開きは、
学問と労働の家庭内事情で妙なリアリティがある。
【人】
三亀氏、だからどうしたのか、その不満げな人の心の可笑しさは、
立派な書物の日だからこそこみ上げてくる。
【佳作】
・安伸氏、只事ではなくて曰くありげな景。
・信治氏、どんな人なのか、何故そうなのか、肉付けを任された。
・佳音氏、実用をもって生かされた。カワタレも引いてみた。
・まなぶ氏、新聞紙で広辞苑を包んだと読み取った。
・園を氏、薔薇が臭いが、作為は創作的。
・茜氏、広辞苑の英知の深さは古代へも通じているのだろう。
・ミキ氏、発見した他愛ない喜び。大辞林には木が二本。
次のギャグ句には辟易させられた。【愚作】の項目も欲しいものだ。
広辞苑記念日聖徳太子が見つからぬ 月野ぽぽな
広辞苑の日「はやし」もあるでよー 望月暢孝
広辞苑記念日「アナタハカミヲシンジマスカ?」 伊波虎英
【選者吟】
広辞苑記念日日に日に嬶の圧舌子 二健
【天】
ゴルフ場記念日豚に名前をつける 三亀
【地】
ゴルフ場記念日シャボン玉飛ばす 文平字
【人】
ゴルフ場記念日ポケットにベーゴマ 坂石佳音
【佳作】
ゴルフ場記念日まくなぎるらりるらり 月野ぽぽな
ゴルフ場記念日明石のタコをみはるかす 櫂未知子
ゴルフ場記念日大穴牟遅神(おほなむちのかみ)雨に濡れ 伊波虎英
ゴルフ場記念日温泉の湯気窓曇る 花月 香
入梅の青さゴルフ場記念日 正美
ゴルフ場記念日ひと山弐拾圓 春畑 茜
ゴルフ場記念日むかし松茸とれました ミキ
【選評】
ゴルフ場造成の勢いは、日本経済の高度成長のバロメーターでもあった。
明治36年、日本初のゴルフ場「神戸ゴルフ倶楽部」がオープンしたことや、
投句作品「素振りのチャップリンやゴルフ場記念日 まなぶ」の時代と、
バブル崩壊や環境問題を抱えた現今のゴルフ事情は大きく異なる。
俳句ではその功罪の如何を直接俎上に上げるべくもないのであるが、
殆どの作品は能天気を装いながらも何らかの想いの表現になっていると思う。
意外にもお父さんを読み込んだ句がなかった。
私事だが、偶然いみじくも
「二健氏がゴルフ場記念日を掃いてゐる 園を」と、
投句されたごとく、実際に高3の夏休みに「草津白根パークランド」という
高原のゴルフ場でキャディーのアルバイトを経験した。
そのバイト料で中古だが念願の一眼レフカメラ(ミノルタSRT101)を買った。
【天】
三亀氏、まったくもって面白い。想像力をかきたてられる。
このように通り相場の観念の束縛を外して欲しい。
トンベエ、ブーチャン、ブータ、トントン。
クラブにもブタにも名前呼べど答えず。
【地】
文平字氏、三亀氏と同構造で「シャボン玉飛ばす」という物と行為の
いたってシンプルな取り合わせ。
当然ゴルフボールとのコントラストを描いたわけだが、言いえて妙。
【人】
佳音氏、物とその所在のみ提示し、イメージは読者に委ねられる。
作者として慎ましくて好感がもてる。
【佳作】
・ぽぽな氏、小さい虫が目の前を、るらりるらりされるとうっとおしいものだ。
・未知子氏、なんと目が良くて、なおかつ眺めのいい場所なんだろう。
・虎英氏、濡れたヤソガミさまにストーブを。
・香氏、ごもっともな現象だが、殊にこの日はそう感じられる。
・正美氏、季節柄またしてもごもっとも。
・茜氏、砂場でのことか。金銭感覚の麻痺か。
・ミキ氏、松茸が採れるかどうか、そこが問題だ!
【選者吟】
ゴルフ場記念日盆栽に水やらなくっちゃ 二健
【天】
ラブ・レターの日大停電なりけり 大西龍一
【地】
ポスト紅潮せしラブ・レターの日 蝸牛
【人】
ラブ・レターの日を歩きだす内親王 中村安伸
【佳作】
ラブ・レターの日髣髴の一瞬 みずき
燃やしラブ・レターの日の垂れブラジャーも 二健
新着メール24件ありますラブ・レターの日 中性子
匿名さんの不発爆弾ラブ・レターの日 園を
リクエストはレターメンでラブ・レターの日 流鬢力
ラブ・レターの日互いに違うボタンを掛け 望月暢孝
禿頭を垂れ感謝するラブ・レターの日 信治
【選評】
投稿句のほぼ全てが、記念日そのものと
かなり密着している珍しい日でした。
その中で、【天】の大西龍一さんの句、実に堂々たる作品で。
〈大停電なりけり〉、思わず使いたくなりますね。
何年前だろう、2週間ぐらい続いた(はず)
ニューヨークの大停電がありました。
その約10ヵ月後には、たくさん赤ん坊が生まれたと聞いております。
停電は愛を育むんですね。他にやることないもんね。
龍一さんはそんなつもりではなくて、
「停電だとラブ・レターも書けない」と
思っただけかもしれませんが、そこはお許しを。
【地】の蝸牛さんの句、ポストはもともと赤いのですが、
そこをひとひねり。なんと可愛い句でしょう!
【人】の中村安伸さんの句、よくもまあ、
〈内親王〉を持ってきたこと。〈歩きだす〉も上手い。
【佳作】の中性子さんの句と、
選外の〈ラブ・レターの日スパムメールや淡き夢 雪虫〉は
内容は似ているのです。
雪虫さんの句は三つに切れちゃってて惜しかった。
中性子さん、たまにはスパムメールに引っかかって、
大火傷するのもいいですよ(これは前にも言いましたね)。
それにしてもこの記念日、
ラブとレターの間に「・」(中黒)があるのが何とも嬉しい。
もっともらしくて。
【選者吟】
焼きすぎかもラブ・レターの日のきんつば 櫂未知子
【天】
緊縛するのだガールスカウトの日 三亀
【地】
唄い出す小田急線よガールスカウトの日 信治
【人】
十薬の仄かにガールスカウトの日 正美
【佳作】
みんな同じ顔ガールスカウトの日 蝸牛
緑蔭やガールスカウトの日来る 春畑 茜
ガールスカウトの日わたくし火の輪くぐれます 大西龍一
ガールスカウトの日尼御前に補導歴 中村安伸
ガールスカウトの日の補導者数・渋谷警察署 望月暢孝
ガールスカウトの日だ断固サボタージュ みずき
制服の中にガールスカウトの日 まなぶ
【選評】
この日は「???」の句がやたらと多い
不思議な記念日でありました。
〈ロイケリンの終わったガールスカウトの日 雪虫〉
〈ガールスカウトの日曾祖母さんのもんぺりえ 淡々〉
〈ガールスカウトの日先頭の恵比寿様 島田牙城〉、
ね、ほら、不思議でしょ?
(よく考えると【地】の信治さんの句も不思議なのですが、
理屈は抜きにして「あ、有り得るかも」と
思わせてくれたので、【地】です。)
雪虫さんの〈ロイケリン〉って白血病の薬なんですね。
淡々さんの〈もんぺりえ〉は、
ひいおばあさんのモンペと仏蘭西のモンペリエ?(掛詞?)
ううむ、わからん。
島田牙城さんの〈恵比寿様〉は…ああ、推測不可能だ。
こんなに悩む記念日も珍しい。
記念日の由来以外の資料を検索しまくれば、
用いられた言葉の出所がわかるかもしれませんが、
そこまでやることは選をする側の義務でもなさそうだし、
うん、つらい。
【天】の三亀さんの句、とてもヘンテコリン。
でも、規則の厳しそうなガールスカウトにぴったりですね。
それにしても、制服というものは、
年少であればあるほど可愛いのはなぜでしょう。
私は中学校・高校の制服は基本的に嫌いですが、
幼稚園・小学校低学年の子の制服は可愛いなあと思っています。
色気のない衣服に小さな体がおさまっている、それがいいのかな。
【選者吟】
ガールスカウトの日や冷め際の八宝菜 櫂未知子
【天】
少年は男根で飛ぶ翼の日 翼(ただし、幻【天】)
【地】
リンドバーグ翼の日に笑う薔薇 正美
【人】
障子の向かうにリンドバーグ翼の日 まなぶ
【佳作】
今日は肉屋の特売日リンドバーグ翼の日 三亀
欲望延ばすリンドバーグ翼の日 蝸牛
かの人は猿に微笑みリンドバーグ翼の日 信治
リンドバーグ翼の日かすてら食べし犯人は 大西龍一
黒焦げのハンバーグリンドバーグ翼の日の 伊波虎英
リンドバーグ翼の日です女装する 淡々
骨うるはしきリンドバーグ翼の日 春畑 茜
【選評】
選の結果を見ると男性がなぜか多いようで…。
特別な理由はないと思いますが。
ここでお詫び。
「あ、これ、【天】ね」と決めてから選評を書こうとしたところ、
なんと、〈リンドバーグ〉が抜けてるじゃありませんか!
しかも作者は翼君じゃありませんか!
ご自分の名にちなんで出してくれたのはいいけど、
肝心の〈リンドバーグ〉が抜けてちゃいけない。
ではここで他の句と差し替えようか、とも思ったのですが、
この句のヘンな味わいは捨てがたく、
「幻の【天】」として残します。皆様、ごめんなさい。
【地】の正美さん、ロマンティックになり過ぎないぎりぎり。
ちなみに正美さんは見かけは男性です。
実際にどうかはわかりませんが。
【人】のまなぶさんの句、俳句で〈障子〉は冬の季語ですが、
現在の障子は冬の季感が弱いし、
無理なくおさまっているのでよしとしました。
【佳作】のうち、淡々さんの句、
最初は「どうして女装するのだろう。
リンドバーグは女装癖があったのかしら」と思いました。
しかしこれ、「幻の【天】」の翼君にひっかけているんですね。
彼は朗読の時、いつも女装するので。
でも、それを知らずとも、面白い句だなと思います。
【選者吟】
リンドバーグ翼の日なりけり発芽玄米 櫂未知子
【天】
年輪へローマ字の日の雨が降る みずき
【地】
O脚の受け容れがたくローマ字の日 ロビン
【人】
ローマ字で話す人ゐてローマ字の日 信治
【佳作】
外車なしローマ字の日の駐車場 月野ぽぽな
母・子・母・子・子・母・乳母車ローマ字の日 春畑 茜
ローマ字の日の老鶯につづり無し 正美
寄せ書きのような雲湧くローマ字の日 ミキ
かたくなにローマ字の日のジャムの蓋 島田牙城
ローマ字の日や鍵付きの日記帳 坂石佳音
釘煮ならお茶漬け二杯ローマ字の日 谷口純子
【選評】
〈ローマ字〉そのものに忠実というべきか、
ローマ字→外国・日本といった発想の目立つ記念日でした。
選外でいえば、大西龍一さんの〈スシより寿司〉、
やそおとめさんの〈「あ・い・う・え・お」〉、
まなぶさんの〈イニシャル〉、
花月香さんの〈フランス人形〉などなど。
【天】のみずきさんの句は
静かでありながらかなり異色でありました。
「切り株」といわず〈年輪〉としたあたり、
さりげないけれどうまいなあ、と。
【地】のロビンさん、作者が読者より先に
笑っているわけではない詠みぶりがいい。
受け狙いではなく、大真面目におかしなことを
詠んだ作品の良さがあります。
【人】の信治さん、不思議な感覚の句ですね。
いつも地から3センチ浮いてるような人がモデルのようで。
【佳作】の春畑茜さんの句、最初、深く悩みました。
Haha・ko・haha…と書き出してみたりして考えて、
「ああ、母音字・子音字の〈母・子…〉か」
と思うようになった次第。
ミキさんの句、ゆったりしていていいですね。
坂石佳音さん、啄木の『ローマ字日記』が底にあるのでしょうか。
句またがりが効果的です。
【選者吟】
ローマ字の日よ火中なる鮎の目よ 櫂未知子
【天】
ベサメムーチョを口ずさむボクシング記念日 三亀
【地】
ボクシング記念日大和の茶粥でもてなさん 流鬢力
【人】
ボクシング記念日白砂糖より黒砂糖 花月香
【佳作】
赤巻紙黄巻紙やボクシング記念日 大西龍一
黒揚羽空にまぶしきボクシング記念日 谷口純子
ボクシング記念日女滝太りけり 伊波虎英
ボクシング記念日に覗るアリ地獄 園を
ボクシング記念日嬰児に預ける指一本 百花
ボクシング記念日 女に殴られる 中塚涼二
ボクシング記念日あしたはどっちだ 月野ぽぽな
【選評】
この記念日、「うん、たぶん、ボクシングべたべたの句が多いだろうな」
と思っていたのです。
ところがところが、
結構飛びまくっている作品が多くてびっくり。
大西龍一さん、なんで〈赤巻紙黄巻紙〉なの!
赤コーナーとか青コーナーとかが、
早口言葉に転生したのでしょうか。
伊波虎英さん、どうして〈女滝〉なの!
(女性の間では、ボクシングがはやってるらしいけど。)
【人】の花月香さんに到っては〈白砂糖より黒砂糖〉!
(なんだ、これは。)
さらに凄いのは【地】の流鬢力さんの〈大和の茶粥〉です!
あまりに感覚派を気取った句が
かえって陳腐に見えるのに対して、
そこらへんにあるもの・意外性のないものを、
全然無関係な記念日につけると
ぶっ飛び句になるという例の多い記念日でした。
その極みは、【天】の三亀さんの句。
〈ベサメムーチョ〉って、「熱烈にキスして」
というような意味のタイトルでしょう?
このめちゃくちゃさ、素晴しいですね。
もっとも、ハチャメチャだからいい句になるというものではなく、
その句全体が力を持っていないと、
破天荒な取り合わせは生かされませんが。
【選者吟】
ぼた餅の気持ボクシング記念日 櫂未知子
【天】
火のついた柱を見つめことばの日 中村安伸
【地】
ことばの日鬣二十五画かな 坂石佳音
【人】
耳たぶの固さがよいとことばの日 二健
【佳作】
吾絵胃鵜餌緒亜御蚊毛機句ことばの日 大西龍一
おんぎやぁと生まれあぁうぅぅで終ふことばの日 やそおとめ
ことばの日ファミ○○レス○○○ファ○ザ○コン○○○○○ボール○○○○ペン 伊波虎英
五月雨に呟くことなきことばの日 正美
ことばの日俳句を始めて約半年 花月 香
まいねはんではやくとろけてえことばの日 中塚涼二
ことばの日男女の澱も浮かび出て 望月暢孝
【選評】
うむ、「言葉を正しく使おう」か…。
でも、正しい言葉、正しい日本語って何なのだろう。
若い人達の間では、「普通に美味しい=とても美味しい」という意味だと、
週刊誌には載ってました。
ことばはいきもので、常に変化してゆきます。
どれが絶対に正しいと叫ぶ前に、
私は自分の愛することばを残したい、それだけかな。
今日の【天】、またまた中村安伸さんで…
困りましたね(あ、困りませんか)。
安伸さんは一時期、
「とても工夫しているけれど選者の共感を得にくい作品」を連発して、
選になかなか入らない時期がありました。
しかし、過日、茶屋にお書きの通り、
何かを得たのではないかと私は思います。
この句の〈火のついた柱〉を
変貌してゆく日本語=ことばと見ることは簡単です。
しかし、それだけでは終わらない迫力というか、
有無を言わせないパワーを獲得しつつある、そのことを私は喜びたい。
人と人をつなぐのはことばです。
俳句は世界最小の詩型ですから、
一句の中で一つ一つの言葉が命を得ていなければ
それは即、死を意味します。
その意味で、この記念日は面白かった。
【地】の坂石佳音さんの〈鬣〉(塩竈の竈もイヤですよね)、
【佳作】の花月香さんの素朴な呟き等、
一句一句が新たな喜びを与えてくれました。
【選者吟】
不穏なる中華鍋ありことばの日 櫂未知子
【天】
生命・きずなの日なりレンジの回り舞台 中村安伸
【地】
隠沼の明けゆく生命・きずなの日 月野ぽぽな
【人】
中黒の点(ぽっち)大切生命・きずなの日 淡々
【佳作】
臍隠しいたり生命・きずなの日 迷子
生命・きずなの日水母ひるがえり ミキ
猫に吾に胃ぶくろ生命・きずなの日 谷口純子
抽斗に眠る生命・きづなの日 春畑 茜
生命・きづなの日のツナドーナツかな 伊波虎英
生命・きずなの日電信柱濡れてゐる 中性子
生命・きずなの日二次元の蚊が掌に 文平字
【選評】
旧かなですと「きづな」と書くこの記念日、
あまりにも正面から取り組むとかなりクサい句になります。
要注意です。
自分の体が他人の命を救うことになるという
この記念日の趣旨は尊いし、納得できるのですが、
それをストレートに「生命と絆讃歌」にしてしまうと、
標語と変わらなくなってしまう。
思い切りズラせとは言いませんが、
どこかにドライさが必要でしょう。
【天】の中村安伸さん、私も〈レンジ〉を
句に詠み込んだことが2、3回ありますが、
〈回り舞台〉は思い付かなかった。
灯りながら回るレンジの哀愁とでも呼ぶべき句。
【地】の月野ぽぽなさん、
古典的な〈隠沼(こもりぬ)〉を持ってきたのは上手い。
【人】の淡々さんの句、坂石佳音さんの
〈生命・きずなの日黒々と書くマル〉と似ているのですが、
句の滑らかさで淡々さんの作品が選に入りました。
【佳作】の春畑 茜さんの句、
なんとも不思議なような怖いような雰囲気もあり、惹かれました。
文平字さんの句、最初、「?」と思ったのですが、
えいっと潰した蚊がぺっちゃんこ、という景なのでしょう。
だから〈二次元〉なんですね。日常、われわれが
よく経験していることを非日常的に描いた例です。
こういう冒険も面白いですね。
谷口純子さん、猫のように小さないきものも
人間である自分もちゃんと胃袋を持ち、
食べることで今日の命をつないでいます。
人に多くを求めない猫の尊さが伝わってくる句でした
(あ、猫派の深読みになってしまった)。
【選者吟】
どんぶり飯差し出す生命・きづなの日 櫂未知子
【天】
旅の日や下呂温泉に忘れ物 中村安伸
【地】
つややかに金子兜太の旅の日や 園を
【人】
旅の日や無一物てふ大荷物 坂石佳音
【佳作】
旅の日や片手で拝む辻地蔵 みずき
旅の日や死に装束を一揃ひ やそおとめ
旅の日とつぶやいてみる遠い雲 月野ぽぽな
旅の日や銀河鉄道待ちながら 春畑 茜
旅の日の蚯蚓のしっぽと頭かな 二健
旅の日の外を見るのが好きな犬 信治
旅の日は仮面の取れる日なりけり 望月暢孝
【選評】
これは大変な記念日です。なんたって芭蕉関連ですから。
記念日としては音数の少ない四音ですし、芭蕉ですし、
作者の腕の見せどころですね。
こういう記念日の場合は、
古典的な俳句の作り方に素直に乗ったほうが
納得の行く作品になるようです。
たとえば【天】の中村安伸さん・【地】の園をさん・
【人】の坂石佳音さん・【佳作】のみずきさん・
やそおとめさん・春畑茜さんの切字〈や〉の安定感を見ると、
「ああ、俳句だな」としみじみ。
二健さんの〈かな〉、望月暢孝さんの〈けり〉も落ち着いてますね。
(二健さんの句は中七が八音ですが、この際目をつぶります。)
とにかく、俳句が本来持っている定型感を
生かせる記念日なのだな、と思いました。
【天】の中村安伸さんの句のそこはかとない滑稽感を生かせるのは
定型・切字の存在ゆえ。
〈金子兜太〉という、間違っても歌人にはいないキャラクターを
生かしえた【地】の園をさんの句も、定型と切字の力ゆえ。
【人】の坂石佳音さん、
鷹羽狩行さんのお許しがないと
使えなさそうな〈無一物〉をよくぞここまで。
【佳作】のみずきさんの、
見る人によっては「その筋のかた」とも取れる拝み方が
楽しく思えるのも句の骨格がしっかりしているからです。
私は、定型万能・切字万能を唱える立場にはいませんが、
こういう記念日の場合は、やはり原点を大切にしたくなります。
【選者吟】
旅の日や濡れて久しき干し葡萄 櫂未知子
【天】
足の短い分だけ臍出している青春七五三 淡々
【地】
出てくるな青春七五三の日の句会 島田牙城
【人】
青春七五三横顔のち笑顔 坂石佳音
【佳作】
腹話術を習いなさい青春七五三 三亀
青春七五三洗濯ばさみでドミノする ロビン
青春七五三あしたの日本はどっちだ 雪虫
放課後は揺りかご青春七五三 月野ぽぽな
ちよつと嫌かも青春七五三 谷口純子
顔中に顔描いて青春七五三 信治
還暦のいよよ青春七五三 百花
【選評】
天の句、これは痛烈だ。
かつての臍出しルックといい最近の半ケツ状態といい、
オジサンから見れば若者のファッションセンスは理解を超えており、
ついこういう憎まれ口をききたくなる。
でも「足の短いあんたに言われたくないよ」と反撃されて
オジサンは落ち込むのであった。
地の句、句会の代表者が句会に出てくるなとは度肝を抜かれるが
これは反語であろう。
句会になんか出ずに青春を謳歌せよという親心か、
君達みたいなひよこがいなくてもいいもんねと拗ねているのか。
人の句の「横顔のち笑顔」という表現には感心した。
感心したが冷静に考えるとよく意味が分らない。
こういう句は理屈でなく感覚で読むべきなのだろう。
佳作。
「腹話術」相変らず笑わせてくれる、
朗読火山俳のあの独特の間を思い出す。
「洗濯バサミで」ドミノする奴がいるのだろうか、
若気の至りということか、
いずれにせよいい年した大人はやらない。
「あしたの日本」を流行りのフレーズに乗せて茶化している、
どっちにせよ若者の肩にかかっているのだが。
「放課後は揺りかご」とは実にいいフレーズではないか、
CMのコピーにでも使えそう。
「ちょっと嫌かも」うん、たしかに七五三は可愛いけど
十七五三は可愛くないもんね。
「顔中に顔」を描くとはどうするのだろうか、
ドラえもんのマスクの下にドラえもんというようなものか。
「還暦の」の元気さもよーく分る、
選者詠も自分の世代と自分へのエールなのだ。
がんばれオジサン、オバサン!
【選者詠】
四十路なるわれらも青春七五三 寒蝉
【天】
温度計の日腋といふ抽斗ひらく 月野ぽぽな
【地】
ぐんぐんと温度計の日の揚げ雲雀 谷口純子
【人】
温度計の日魚籃観音の背泳ぎ 中村安伸
【佳作】
紙燃える四五一や温度計の日 大西龍一
温度計の日体温計を湯煎する 淡々
温度計の日これよりうへにまゐります 春畑 茜
だいぢやうぶだわん!温度計の日の排卵日 やそおとめ
今日までの湯加減が熱し温度計の日 流鬢力
温度計の日恒温動物装へり 文平字
温度計の日フランス人形の咽喉赤く 望月暢孝
【選評】
天の句は腋を抽斗に喩えたところが秀逸。
腋を開けるのは勿論体温計を挿すための行為だが、
こう言われると崇高な儀式に思えてくる。
地の句は温度計の棒が上がることからの発想だが
季節感もあっていい。
人の句、魚籃観音自体がどういうお方なのかよく知らないが、
まあ観音なのだから仏様、
それが背泳ぎしているとは! 何という神秘、
というか阿呆らしさに一票。
佳作。
「紙燃える」は華氏で紙が燃えるといわれている温度(だね?)、他にも華氏に触れた句はいくつかあった。
「体温計を」どうして湯煎するのか、不思議な行為だ。
「これより」は温度計の棒の上下をエレベーターになぞらえたも
の。
「排卵日」の口語はちょっとふざけ過ぎの感があるが、
こういう使われ方が
実は世の中で一番温度計(体温計を含め)が役に立っているシーンの一つかもしれない。
「今日までの」はやや思わせぶりで、
文字通り今日までは熱い湯に漬かっていたということか、
それとも世間的な意味で今日までの俺を取り巻く湯は熱かったということか。
「恒温動物」は温度から動物の体温調節へと連想が飛ぶ。
よく考えると変温動物である蛙や蜥蜴も美しい肌をしているのだが
この恒温動物は矢張り人類を指すのかもしれない、
そう考えた方がすっきりする。
「フランス人形」の咽喉が赤いということは彼女も風邪をひくということか。
【選者詠】
水銀の需要減りしも温度計の日 寒蝉
【天】
メイストームデーからつぽの無蓋貨車 春畑 茜
【地】
メイストームデーを天ぷらにしておく 片栗粉
【人】
いやに優し過ぎる夫メイストームデー 蝸牛
【佳作】
板チョコの余りありけりメイストームデー 大西龍一
メイストームデー水虫に占拠されていた 三亀
メイストームデー凪いで「通話圏外です」 雪虫
メイストームデーザリガニのごと沈黙す みずき
大揺れのメイストームデーの観覧車 谷口純子
メイストームデー竿竹売りのテープ音 正美
メイストームデー他人のものを欲しがっている ますみ
【選評】
天の句はメイストームデーの激しさ(この日の由来を見て私は恐れおののいた)
とからっぽの無蓋貨車の静かな感じとが対照的で面白かった。
地の句は「日」そのものを天ぷらにするのだからすごい。
実にシュールだが
この記念日ならこういうこともあっていいかもしれない。
人の句も夫の下心というか卑屈さが垣間見えて可笑しい。
そういうことをしなければいけないほど
この夫婦は危機的状況ということだ。
佳作。
「板チョコ」はバレンタインデーからホワイトデー、オレンジデーと続いてきたカップルの
破局に臨んでそもそもの始まりの板チョコに思いを致した点がいい。
「水虫に」はナンセンスの極致、この作者の面目躍如。
「通話圏外です」も凪いでいながら
コミュミケーションを拒絶されているようなうそ寒さがある。
「ザリガニの」は比喩が適切かどうかは議論の余地あるが
少なくとも個性的。
「大揺れの」は観覧車というカップルの大好きなアイテムを揺らしてみせた。
「竿竹売りの」は離れていながらも
可笑しみと生活感で救われている。
「他人のものを」は言わば愛とか恋とかいう物の本質に迫るアフォリズム。
【選者詠】
どうせならこじれにこじれメイストームデー 寒蝉
【天】
看護の日わたしの脈はとりにくいぞ 信治
【地】
卯の花の夕べの白さ看護の日 正美
【人】
ネクタイをして湯に入る看護の日 中村安伸
【佳作】
看護の日十指に夜の火が匂ふ 春畑 茜
看護の日メンズエステを予約する 三亀
お母さんは減塩食よ看護の日 櫂未知子
看護の日韓語で「キブニオットセヨ?」 伊波虎英
見学だけさしてもらひます看護の日 百花
蛇口から水のきれいな看護の日 ミキ
白衣脱ぎし手に焼酎看護の日 蝸牛
【選評】
天の句は、
キレイを詠んだ句が多かった(皆さん白衣の天使に憧れていらっしゃる)中では
唯一看護師の仕事がわが身に降りかかってくるものとして詠んでおられた、
しかもユーモアを交えて、という点を評価。
地の句は美しすぎるけれど
まあ今日くらいはいいじゃないかという感じ。
卯の花もいいが夕顔もいいかも。
ただ夕顔だと看護婦の女が強調されすぎるが。
人の句はよく分らないながらも可笑しみがあってとった。
こんな人いるのかねえ。
看護の日なので病棟での入浴なのかもしれない。
看護師さんの手前威儀を正しているのか。
佳作。
「十指に夜の」も実はよく分らなかった。
「夜の火」が何を意味するのか。
煙草の火だと十指は大袈裟、
看護師の夜勤のことなら「灯」でなくて「火」なのが分らない。
なぞを残しながらも取らせて貰いました。
「メンズエステ」は白衣の天使に対する敬意と見栄か。
「お母さんは」という台詞を実は看護師が自分の家ではよく口にしているらしい、
自分はどうなのかね。
「韓語」は駄洒落だが本当にそういうのかは知らない。
ただ何となく可笑しいといったら韓国人に失礼か。
「見学だけ」はどういうシチュエーションか、
例えば高校生の体験学習なんかを想像すると
このように言う人はいる。
何せ看護師の仕事は大変(力仕事もある)で汚い物にも触れなければならない。
「蛇口から」は飽くまで憧れの段階。
「白衣脱ぎし」は同僚としての看護師達と毎日会っている私としては
よーく分る。
まあ彼女達は兎に角よく飲むし酒に強い奴が多い。
飲まずにいられるかという職場でもある。
憧れている人達を幻滅させてしまったか。
【選者詠】
キャップ不要と誰が言ひしや看護の日 寒蝉
【天】
河馬がうがいする長良川鵜飼い開きの日 三亀
【地】
ナイターの灯点し頃や長良川鵜飼い開きの日 流鬢力
【人】
長良川鵜飼ひ開きの日の絞殺魔 やそおとめ
【佳作】
長良川鵜飼い開きの日のアヒル 島田牙城
長良川鵜飼い開きの日の自棄喰ひ 春畑 茜
鵜匠に曾孫長良川鵜飼い開きの日 淡々
長良川鵜飼い開きの日の胃散 谷口純子
長良川鵜飼ひ開きの日のカフカ 伊波虎英
長良川鵜飼い開きの日の鷺め 中塚涼二
長良川鵜飼い開きの日の電気鰻 片栗粉
【選評】
今回は「長良川鵜飼い開きの日のナントカ」という形式の句が多かった。
だから甲乙つけるとすればその取り合わせがどうかという点に尽きる。
天の句「鵜飼い」と「うがい」の駄洒落でもあるが、
鵜が魚を飲み込むのと河馬が水を吐き出すのとが対になっているという二重構造に感服。
地の句では「ナイターの灯点し頃」という美しい表現、
ナイターと鵜飼いの季節感、
遠くのナイターの電灯と目の前の鵜飼いの灯の遠近感等に惹かれた。
人の句には先ほど述べた取り合わせの中でもちょっと恐いものを選んだ。
確かに鵜匠が鵜の頚を締めて魚を吐き出させる光景は一見残酷だ。
佳作。
「アヒル」は同類ながら何だか可笑しい。
「自棄喰ひ」は鵜の気持ちとすれば哀れだ。
「鵜匠に曾孫」はその子が鵜匠を継ぐのかな? と要らぬお節介を言いたくなる。
「胃散」は矢張り鵜が魚を吐き出すことからの発想か。
「カフカ」は飛躍が激しくて面白い反面ついていけない面も。
「鷺め」も同類だが「詐欺」の音が隠されているので重層的な読みが可能。
「電気鰻」も取り合わせとしては無理のない程度に面白かった。
【選者詠】
面白うてやがてかなしき長良川鵜飼い開きの日 寒蝉
【天】
コットンの日黒人霊歌が聞こえくる ますみ
【地】
羊数えてコットンの日の寝息 坂石佳音
【人】
コットンの日にあえて読む虚子全集 媚庵
【佳作】
コットンの日や人類の多産の日 大西龍一
コットンの日をはみだして子ら眠る 春畑 茜
コットンの日豆腐のフィギュアなるものが 信治
無人駅カッタンコットンの日の暮れて 片栗粉
コットンの日嵐が丘に花粉症 ミキ
ハードカバー抱えて歩くコットンの日 蝸牛
コットンの日見知らぬ駅で夏を知る 文平字
【選評】
天の句の「黒人霊歌」は合衆国南部の綿花農場からの発想であろうが、
繋がりもよく、つきすぎてもおらず、少ししんみりした佳句。
地の句は羊毛からの発想。
蒲団からの連想があるせいか眠りを扱った句が多かったが
一番心地よさそうなのがこれであった。
子供の寝顔が思い浮かぶ。
人の句は全然関係のないところへの飛躍が成功している。
「あえて」は要らなかったかもしれないが、
何だか作者が意地になっているようにも見えて微笑ましい。
佳作。
「人類の多産の日」は人類の作り出したものを指すのか、
人類自体の繁栄(子を産むという意味で)を指すのかがやや曖昧。「子ら眠る」は柔らかいコットンに包まれた眠りが気持ちよさそう。
「豆腐のフィギュア」には笑ってしまった。
面白さでは随一だがコットンの日でなくともとの感は残る。
「無人駅」は擬音語の「コットン」からの発想。
同様の句が幾つかあったが無理もなく静かな風景を描写したこの句を選んだ。
「嵐が丘」に花粉症とはすごい飛躍だがありそうにも思える。
ヒースクリフが実は花粉症だったと考えるのも楽しい。
「ハードカバー」も無理のない程度の飛躍あり、
虚子全集くらいの強引さがあってもよかったか。
「見知らぬ駅」で夏を知る人もいるだろう、
特別でない日のちょっとだけ日常から離れた気分を詠んでいて好感が持てる。
【選者詠】
コットンの日のイメージガールは太田裕美 寒蝉
【天】
反省せよ黒板の日の白板 中塚涼二
【地】
黒板の日や消せさうで消せぬ痣 伊波虎英
【人】
黒板の日の折れやすき自尊心 月野ぽぽな
【佳作】
黒板の日爪がはがれる 三亀
桃ではない球体である黒板の日 大西龍一
「五月九日 黒板の日」と白板に大書 淡々
チョーク新品黒板の日の日直 坂石佳音
黒板の日消しても残るもの思ふ 百花
日の沈む窓大きくて黒板の日 蝸牛
チョークがいじけている黒板の日 ますみ
【選評】
天の句、反省せよと言われてもねえ。
何で黒板の日だからって白板が反省せねばならんのだ?
と白板の抗議が聞こえてきそう。
この不可解な理不尽さが何とも言えぬ味を出している。
地の句は俳句として実に折り目正しい姿。
色んな人が色んなものを描いたり消したりしてくれたが
痣を持ってくるとは。
黒板と痣の微妙な間合いがいい。
人の句の「折れやすき」はチョークからの発想であろうが
黒板で講義を受けている中学高校生の壊れ物のような自尊心も思わせて
優れた一句となっている。
佳作。「爪がはがれる」
そう言えば黒板に爪を立てる馬鹿がどのクラスにもいた、
そいつの爪はいつか剥がれるのだろうな。
「桃ではない」の意味はよく分らないながら
球体でないものを球体であると断言する臆面の無さに感激。
「白板に大書」は間が抜けていていい。
「チョーク新品」そう言えば日直とか日番とか言うものがあった、
新品のチョークは生徒にとっても嬉しいもの。
「消しても残るもの」とは何か? 考えさせられる句だ。
「日の沈む窓」は懐かしい教室の風景だ。
「チョークがいじけて」は選者詠と発想は同様。
【選者詠】
黒板の日の黒板消しのぼやきける 寒蝉
【天】
童画の日ももいろ鯨は空を飛ぶ 園を
【地】
真つ黒な渦が太陽童画の日 中村安伸
【人】
童画の日あたまでつかちもいいものだ 百花
【佳作】
鼻腔を洗ひ終はる童画の日の真昼 島田牙城
童画の日生まれて水に目をひらく 春畑 茜
そよかぜを握りしめたり童画の日 谷口純子
童画の日画板の縁の百彩 坂石佳音
ひいふうみいばあちゃんの声童画の日 花月 香
童画の日どうかしている日のガウディ 中塚涼二
童画の日車内転がる珈琲缶 中性子
【選評】
天の句。「ももいろ鯨」の色彩、
鯨が空を飛ぶという童謡や絵本の世界ではよくある(?)光景が
俳句と合体すると不思議な魅力を醸し出す。
童画という題材に実によく似合う。
ちなみに童画とは最初子供の描いた絵ではなく
子供のために大人、それもプロの画家が描いた絵を指した。
名付け親は信州は岡谷が産んだ日本のクレー、武井武雄氏である。岡谷に彼を記念してイルフ童画館がある。(イルフとは「ふるい」を逆から読んだので新しいの意、武井氏の造語)
地の句は一転して暗い病的な世界。
こんな子供がいると世の中によからぬ事が起こりそう。
でも一番可哀想なのは当の子供のこころ。
人の句を一読したとき
「みな総論としては情操教育とかこころを大事にしろとか言うけど
その実自分の子はいい大学に入れてやりたいと思っている。
それを皮肉って正直にあたまでっかちもいいものさと言ってやた」
というように受け取ったのだがどうだろう。
子供の絵は
頭を大きく描いて身体は付け足しのようになっていることが多い。
そのことを言っているとも取れる。
佳作。「鼻腔を」洗うことは(普通の人は)あまりない、
それだけに印象強烈、
アレルギー性鼻炎の人(子供?)に捧げる句か。
「生まれて水に」は言われてみれば生まれて初めて見る風景は
産湯の盥の中の風景かもしれない、
それが童画の源風景か。
「そよかぜを」は童画にぴったりの表現。
「画板の縁」は写生と称して学校の外へ行った
(遠足同様の開放感があった)昔を思い出す。
「ひいふうみい」も童画風で楽しい。
「どうかしている」は駄洒落?それは冗談としてガウディの建築、
特にグエル公園などは彼の幼な心がしからしめた造型と言える。
「車内転がる」の珈琲缶と童画の付かず離れずの距離感がいい。
【選者詠】
童画の日武井さんちの武雄くん 寒蝉
【天】
コナモンの日の現実を裏がへす 春畑 茜
【地】
むつつりとコナモンの日の右門かな 谷口純子
【人】
出番待つコナモンの日の片栗粉 片栗粉
【佳作】
コナモンの日の松竹座やや焦げて 中村安伸
やんごとなき際にはあらぬがコナモンの日 ロビン
短歌旦那やコナモンの日のんーもー名古屋何だかんだ 二健
何さらしてけつかんねんコナモンの日 三亀
コナモンの日よ散骨は磨り潰し 百花
レモンシナモンカルダモンポケモンコナモンの日 櫂未知子
コナモンの日の顔をあげたらばか殿様 やそおとめ
【選評】
みなさんこの日の由来にはびっくりなさったでしょうね。
三亀さんや櫂未知子さんの狼狽ぶりが、
作品にくっきりと表れているのには、笑わせていただきました。
狼狽してしまったら徹底するというのもいいものです。
二健句は、微妙に面白くって、春日井建さんがいたり、一時期豊橋には岡井隆さんがいたりということもあり、
なぜか名古屋は歌人が多いのです。
記念日俳句頁を構築・管理してくださっている荻原裕幸さんも名古屋です。
「旦那やコナモンの日のんーもー名古屋何だ」で止めておいても、いやそのほうが定型感は出るのだけれど、
「短歌……かんだ」まで持ってきたしつこさに感服したのでした。
ロビンさんの大仰なとぼけぶり、
やそおとめさんのばかばかしさ、
百花さんの深刻ぶりもなかなかのものです。
中村安伸さんの叙情はあいかわらず冴えてます。
で、人の片栗粉さん、そうか、今日はあなたの日なのですね。おめでとうございます。
(・_(・_(・_・。)ノ☆・゚:*☆【ネ兄】;:*:;゚:*☆ヽ(。・_・)_・)_・)
地、もんもんと「もん」で締めた谷口純子さんも、狼狽されたお一人のようです。
そしてしっかりとこの日を受け止めた春畑茜さんに天を差し上げましょう。
あのヘラは現実を裏返すためにあったのですね。ぎゃふんと言わされました。
【選者吟】
妻たちのコナモンの日の密め事 島田牙城
【天】
ゴムの日の長靴にゐるだんご虫 坂石佳音
【地】
ゴムの日のゴムが命中する背中 ミキ
【人】
ゴムの日の三千世界もどかしく 中村安伸
【佳作】
ゴムの日や行く末は握られてゐる 文平字
女々しいゴムの日の婿いじめめ 二健
一箱分輪ゴムつないでゴムの日や ロビン
ゴムの日やチュウインガムをかみてゐる 章司
ゴムの日のダックスフンド抱いている 中性子
ゴム跳びの大阪跳びのゴムの日よ 媚庵
ゴムの日の腰紐きつく締めてゐる 百花
【選評】
語呂合わせから「身の回りにあるゴム製品を見直してみようという日」(記念日協会HP)
という日らしい。
二健さんの回文俳句、真骨頂というところか。
「婿いじめめ」のラストの「め」が、
二健節なのだ。作者の顔がはっきりと見えるということ。
ロビンさんは、今日も休日なのだろうか。
そんな暇なこと、よくやるねぇ。さて何メートルになるのだろう。
章司さん、時代がかった「かみてゐる」という文語表現が、
語呂合わせの軽さを皮肉っているようでもありますね。
中性子さんの句には笑いました。
ダックスフントって、犬が伸びきった感じなんですよね、確かに。
媚庵句、さて?はて? 大阪跳びとはどんな飛び方なのだったか……
何重にも足に絡ませたあとに跳ぶとか……こてこての跳び方なんでしょうね(^^)
ゴムの日からゴム跳びを思ったのは、男の媚庵さんだけでした。
そうか、ロビンさんはゴム跳びのためにゴムをつないでいるのだろうか……
僕らの時代には辻辻で、そして校庭で、普通に見られたゴム跳び。
僕もやらせてもらったものですが、
見なくなったなぁ……(感慨)
媚庵さん、ご退院おめでとうございます。
ゴム跳びが出来るくらいに快復なさったのでしょうか……(^^)
百花さん文平字さんの句に潜む中年の苦渋……
これも見逃せませんでした。
さて、人、
どうしてゴムの日から「三千世界」が出てきたのか知れないのですが、
この言葉、一世界→小千世界→中千世界→(大千世界→三千界→三千世界→三千大千世界→一大三千大千世界)
ともどかしく伸びるのでした。註=( )の中は同じ意味
地、この「ズバリ」感はいいなぁ。
ゴム鉄砲で、片思いの思い人の背を狙ったのでしようか。
思わず「おめでとうございますーーーー」と叫びたくなりました。
天は佳音さん。ゴムから長靴というのは、「身の回りにあるゴム製品」に適いますし、
その中にいるだんご虫という発見は、まさに俳ですねぇ。
昨日立夏でした。そろそろだんご虫も動き始めます。
そしてこのだんご虫もまた、伸びたり縮んだりするのでした。
【選者吟】
ゴムの日を妻でてんてんてんまりを 島田牙城
【天】
こどもの日姨捨山はよく晴れて 望月暢孝
【地】
おととしの脛に疵もつこどもの日 淡々
【人】
もう一人居るはずなんですこどもの日 園を
【佳作】
こどもの日折紙のこひ浮かべたり 文平字
こどもの日空飛ぶ夢を語る夫 花月 香
ちょっとだけ子供の顔でこどもの日 昭雄
いつまでもおやつの時間こどもの日 三亀
弁慶の扮装で来るこどもの日 中村安伸
ドーナツの穴を食べたいこどもの日 櫂未知子
こどもの日風の午後より戻り来る 春畑 茜
【選評】
難しい日だ。すでに歳時記に登載されているので、
さてどんな例句があるのやらと眺めてみたけれど、
やはり、面白い句はほとんどない。
二つの歳時記の十九句を読んでみたけれど、
かごめかごめなんぞなく暮るる子供の日 石 寒太
樹のそばにゐて樹になりぬ子供の日 中尾寿美子
程度しか、共感出来なかった。
櫂未知子さんの無邪気な童心。
春畑茜さんのいつもながらのメルヘン。
中村安伸さんの突飛なあそび心。
三亀さんのやさしい目線。
ただ、こどもの日に子供を詠むというだけでは、
芸がない。
「ああ、そうですねぇ」という同調者は得られるかもしれないけれど、
飛躍した鑑賞自由の空間は生まれにくい。
それは、昭雄さんや花月香さんの句、こどもの日の大人を詠むという作り方でも同じ。
天地人の三句は、そこが少し違う。
園を句、死産、流産、中絶、病死、事故死……いや、離婚などによる離散もありうる。
目の前にはたしかに子供がいる。しかし、足りない……この欠落感がせつない。
淡々句、これはこどもの日に子供を詠んでいるのだけれど、
洒落心が効いている。
誰もが知っている、「柱の疵はおとと〜しーのーーーーー」から
「脛の疵」への大転換。
まぁ、「大」を付けるほどではないけれど、気の利いた洒落っ気が
おととしの何らかの事件なり失態なりへと、無理なく読者を誘(いざな)ってくれる。
そして天の望月暢孝句。
信州に越してきて、僕に姨捨山が身近になったこともあるけれど、
こどもの日に自然詠をもってきたことに感心した。
子供→姨捨という連想ではあったろうが、
今や悲しい風習も歴史の彼方、ぴいかんと晴れ渡っているこの里山のたたずまいと
こどもの日は実にいい味なんだなぁ。
【選者吟】
妻の手の督促状やこどもの日 島田牙城
【天】
今朝眼鏡割れたラムネの日だからか 中性子
【地】
ラムネの日言葉閊へてゐるのみど 春畑 茜
【人】
祝ふとは泡立つことかラムネの日 中村安伸
【佳作】
シュポぐぐぐコンカランコンラムネの日 坂石佳音
おとうとを叱るラムネの日の夕べ 園を
ラムネの日君の大きな喉仏 ミキ
面影は木っ端微塵のラムネの日 中塚涼二
ラムネの日盥に満たす空と雲 月野ぽぽな
桐大樹老いて花なしラムネの日 正美
ラムネの日不思議の国がありし頃 文平字
【選評】
1872年(明治5年)の今日、
東京の千葉勝五郎さんが、
ラムネの製造販売の許可を初めて得たことに由来する。
ラムネはレモネードがなまったもので、
当時は「ジンジンビヤ」などと呼ばれていた。
ここまでが記念日教会HPからの引用。
そうか、千葉勝五郎さんはこうして歴史に名を刻んだわけだ。
採れそうでいて採れない句が多かったなぁ、というのが実感。
十八歳以上だけれどラムネの日 百花
が象徴的なのですが、
ラムネ=子供時代=追憶
という単純な連想の中で作られた句が多かったということでしょう。
あの玉を取り出したかつたラムネの日 仲 寒蝉
ラムネの日取れさうで取れぬ泣きぼくろ 伊波虎英
ビー玉を舐め取る技やラムネの日 媚庵
うん、やはりあのビー玉のなぞは、定番なのでしょうね。
中でも媚庵句には驚いて、本当にそうした技があるのかしらんと、
検索機能を使って調べたのですが、分らず仕舞でした。
ただ、検索中に、全国清涼飲料協同組合連合会の頁に入り込み、
ラムネ俳句大賞というものがあることを知りました。第二回は、
子の昼寝ラムネ持つ手がほどけゆく
という句が特選なのですが、作者の進藤勝彦さんにはなんと、
200.000円が渡ったようです。
世も末と写るか、来年は応募しようとなるのか……ご報告まで……
文平字さん、子供時代を「不思議の国のありしころ」とメルヘンティックに表現できたことを買いました。
正美さん、この句ご自身の姿を詠んでいるようでもあり、切ないですね。
月野ぽぽなさん、子供の遊びが具体的にでていて好感が持てます。
中塚涼二さん、「木っ端微塵」が痛ましい。
ミキさん、のど仏は地の春畑茜さんもおやりでした。それぞれいいのですが、ミキ句には若干類想が感じられるのです。
園をさん、やさしいお姉さま、男兄弟だった僕には羨望の的であります。
坂石佳音さんの自棄ぎみの一句、僕も自棄になって採ってしまいました(^^)
中村安伸さん、上手いなぁ。降参ですね、もう。納得の叙情です。
春畑茜さん、「閊へ」「のみど」という、難しい漢字や古語の使用の大仰さ加減に惹かれました。
そして今日の天は中性子さん。この語呂の悪さ、
そこに逆に惹かれたのです。
一瞬、回文?と思ったほどでしたが、そうじゃなく、17音を
2・3・3・5・4
と、ぶちぶちに切っているからなんでしょうね。
それがラムネのスパークリング感を引き出しています。
その上、母音を列挙してみますと
EA・EAE・AEA・AUEOI・AAAA
E音とA音の連続、繰り返しが妙な音感を残すのです。
お見事と言っておきましょう。
【選者吟】
頂に石置くラムネの日の妻は 島田牙城
【天】
セ・パ交流戦前前前夜憲法記念日 伊波虎英
【地】
憲法記念日ティッシュを町にもらいに行く 信治
【人】
憲法記念日たまねぎを微塵切り 園を
【佳作】
抗菌のわたしに憲法記念日に 佐藤千香
憲法記念日カーフェリーで旅の途中 花月 香
動員の憲法記念日の価値よ まなぶ
憲法記念日よっしゃよっしゃと髪切られ 望月暢孝
憲法記念日塔は逆光浴び ミキ
憲法記念日石碑の文字は読めざれど 媚庵
憲法記念日暗証番号忘却す 月野ぽぽな
【選評】
また難しい日が回ってきました。
俳人九条の会とか、川柳人九条の会とかが出来ているようです。
歌人九条の会もあるのでしょうか。
僕はあらゆる政治家は権力者であると思っていますし、
その政治家のする九条論議には覚めた目線を送っていますが、
今日が国というものを考える契機にはなるのでしょう。
憲法記念日あなたが泣いてはならない 雪虫
憲法記念日のあなた六法全書読んだことあるん? やそおとめ
笑っても泣いても憲法記念日 ますみ
憲法記念日の庭やムスカリは折る ロビン
セロテープ貼つて繕ふ憲法記念日 春畑 茜
憲法記念日後の正面だーれだ 淡々
あたりは正面からこの日に喰らいつこうとした作品。
ただ、やはり採れないのは、分りすぎるんだよね……ということです。
俳句を作ることを「ひねる」といいますが、
以前大嫌いだったこの「ひねる」、最近好きになってきたのです。
いかに「ひねる」かは腐心のしどころです。
媚庵句のひねりはいいですねぇ。この石碑には憲法が刻まれているのでしょうか。
まなぶ句の「動員」もまた意味深です。
学徒動員・勤労動員を思い出す人もいるでしょうし、
国民投票を必要とする改憲には、今後さまざまな動員がかけられることでしょう。
ミキ句の「塔」は「あららぎ」と読ませているのでしょう。「逆光」に思いが籠もります。
月野ぽぽな句、望月暢孝句のような、日常にもいい味がありますが、
「忘却」「よっしゃよっしゃ」が、僕には生(なま)過ぎると写りました。
花月香句は「海の向こうに何がある」という思いがこの日に適いますね。
佐藤千香句の訳の分らなさを面白くおもいました。
「抗菌の」は「私に」にも「憲法記念日に」にも掛かっているのでしょう。
抗菌というのは、どこまでも抗うだけで、滅菌でも殺菌でもない。
この抗う姿にこそ、「俳」が潜むのです。
で、この句、抗菌の私に、抗菌の憲法記念日に、の後がまったく省略されてしまっている。
そこにまた、新たな抗いが見えてくるのでした。
さて、地人天の日常をご堪能ください。
解釈すればするほど、むなしくなるような三句です。
園を句には憲法への思いが深く残っているようですね。だからこそのたまねぎの諧謔。
信治句はおかしいなぁ。ティッシュが切れて、買いにいくんじゃないのだもの。
「そこの角でサラ金が配ってたよ」
「あっそう、じゃぁ、貰ってこよ」
という会話が交わされたのかどうか……
この重い日への俳的一撃です。
そして、伊波虎英句。
野球音痴の方に説明しておきますと、
今年から活性化の一環として、セリーグのチームとパリーグのチームが交流戦を行い、
リーグ戦の成績に反映されるのです。
それが5月6日から約四十日続きます。
阪神vsソフトバンク
というカードが組まれるということで、
わくわくしている野球ファンが多いのです。(僕もその一人ですが)
そのわくわく感が「前前前夜」なのです。
庶民の娯楽は憲法論議に勝つという訳です。
【選者吟】
憲法記念日一人前の妻になれ 島田牙城
【天】
喉元を過ぎてしもうた緑茶の日 佐藤千香
【地】
橋姫が着飾つてゆく緑茶の日 仲 寒蝉
【人】
隠元橋ぬりかえられて緑茶の日 谷口純子
【佳作】
水上バスのやうに寝そべり緑茶の日 中村安伸
緑茶の日湯呑ひとつで足りてゐる 文平字
緑茶の日濃い目の焼酎割りにする 正美
丘を越え丘に居るなり緑茶の日 蝸牛
緑茶の日 拈華微笑の夢ありき 中塚涼二
緑茶の日団子のような夫婦です 月野ぽぽな
噴煙を借景として緑茶の日 櫂未知子
【選評】
今日は八十八夜。
「毎年八十八夜の日を緑茶の日と制定している。古くから仙薬と称されるほど八十八夜の新茶は栄養価が高いとか」
と記念日協会ホームページにある。
だからどうしても日本的な情緒に作品がひっぱられる。
「やはり正統派ゴシック・ロマンは私の夢であった。ああ、壮麗な洋風のお屋敷で、美少女を思う存分怖がらせてみたい。」と恩田陸さんをして言わしめるゴシックロマンを配した媚庵さん、
フランスのサン・マクレール教会と関係があるのか、マクレール通りを配した望月暢孝さん、
日本情緒から逃れようと足掻いてはみたものの、という出来か。挑戦の精神は買います。
佳作の中では文平字さんや月野ぽぽなさんのおどけた長閑さがいいですねぇ。
文平字さんの侘しさとぽぽなさんのほのぼの系と、好対照ですけれど、
裏で俳句を支えているおどけ心は共通だと見ました。
中塚涼二さんの「拈華微笑」。釈迦と迦葉の以心伝心。そんな「夢」。
分ったような分らないような、でも、お茶を一服したときの至福を語っているのでしょう。
「緑茶の日」の後に置かれた半角空きは無用でしょう。
正美さんはいつも通り「酒」俳句です。
お茶割りって、僕もよくやります。「濃い目の」で思い入れがたっぷり出ましたね。
中村安伸さんと蝸牛さんは、このころの季節感をしっかりと掴んでおられます。
櫂未知子さまには、お礼を申し上げねば……
今も噴煙を上げ続けている浅間山を背に暮らす僕たち佐久人への挨拶句なのでしょう。
お茶処・宇治をさりげなく出した谷口純子さん、
「ぬりかえられて」の平仮名表記がやさしいなぁと思いました。
お茶の香りをたっぷりたたえた五月の風を運んできてくれるような平仮名です。
煎茶は隠元禅師の将来物だと今回知って、驚いております。
地の寒蝉さんも、宇治物ですが、
「外面似菩薩内面如夜叉」のようで、ぞっとしますね。
鬼と化した嫉妬の象徴のような橋姫が着飾ってゆく……
さてどこへ行くのでしょうか。夫の浮気現場へでも赴くのでしょうか。
それを横目に、寒蝉さんがにっこりお茶を飲んでいる。
身に覚えのある男性にはこたえる構成です。
で、この句を受けたかのように、
佐藤千香さんの句が来ます。
「喉元を過ぎてしもうた」の二重構造が絶妙です。
「橋姫」をでんと突きつけられるのも怖いですが、
身に覚えのある男性にもっともこたえるのは、こういう醒めた目線なのではないでしょうか。
今日はぞくぞくさせられました。
なお、八十八夜に因む緑茶の日は、多くは五月二日ですが、たまに五月一日になります。
二十四節気の立春から八十八日目だからです。
このことから、二十四節気は旧暦で古いとおもわれがちですが、
この感覚は間違っています。
日々の暦が地球の自転を一日とする太陽暦なのに対し、
二十四節気は地球の公転を一年とする太陽暦なのです。
昔からあるものですけれど、古びることのない暦であることを書き添えておきます。
【選者吟】
妻の手に揉まれてをりぬ緑茶の日 島田牙城
【天】
窄んでくスズランの日の鼻ちょうちん みずき
【地】
縒りを戻さむスズランの日の国と国 望月暢孝
【人】
鐘楼やスズランの日の猫ちぢむ 片栗粉
【佳作】
ズック履きデモに加わるスズランの日 正美
どっぷりと恋をしてますスズランの日 ますみ
制服の桃色吐息スズランの日 淡々
スズランの日を結ばれてゐるリボン 春畑 茜
高崎の白衣観音スズランの日 二健
高崎にスズランデパートスズランの日 仲 寒蝉
シャボン玉微かに香るスズランの日 花月 香
【選評】
「幸せを運ぶ花とされるスズランを誰もが路上で売ってもいい日。
そんなパリの風習が伝わったもの。
フランスではこの日に、
スズランの小さな花束を家族や先生、友達などに贈り、親交を深めるという。」
と記念日協会HPにはある。
日本赤十字社創立記念日でもあるらしい(創立に尽力した大給恒は、佐久の五稜郭・龍岡城の城主でした)。
また、メーデー。所得番付発表の日、扇の日、省エネルギーの日などとも、
検索していると出てくる。
ズック履きデモに加わるスズランの日 正美
は、メーデーと掛け合わせた。
縒りを戻さむスズランの日の国と国 望月暢孝
は、「国と国」で面白くなった。ブッシュが金正日を暴君呼ばわりしている。
拉致被害者家族が言うなら分るが、大統領が言うところにきな臭さが付きまとう。
まぁ、某日本国の首相には言う度胸もないだろうが……
そうか、中国共産党と国民党とも取れるね。それにしても「連戦」という党首、すごい名前だなぁ。
どっぷりと恋をしてますスズランの日 ますみ
「どっぷりと」ねぇ。欲求不満型恋愛願望句也(^^)
制服の桃色吐息スズランの日 淡々
こちらは、スケベおやじの目付きか……(^^)
スズランの日を結ばれてゐるリボン 春畑 茜
は、上手いなぁ。「結ばれ」でいいのかどうか。反転して「解けゆく」を一考するのも「俳」。
僕なら「解けゆく」を取る。
高崎の白衣観音スズランの日 二健
は、どうして高崎観音なのだろうと、不思議だったのですが、
高崎にスズランデパートスズランの日 仲 寒蝉
という句もあって、あっそういうことなの? と妙に納得してしまいました。
「高崎」というなんとなく泥臭い田舎の都市とスズランのマッチングは、
皮肉っぽくていいですねぇ。思わず二句とも取ってしまいました。
鐘楼やスズランの日の猫ちぢむ 片栗粉
の構成は完璧。僕は長いこと日本人をやってますので、お寺の鐘楼をおもいましたが、
フランス仕様の記念日ということで教会の鐘楼を思ってもいいのでしょう。
その裾に小さくなって丸まっている猫。
恋の季節もほぼ終わった負け猫なのでしょうか。
シャボン玉微かに香るスズランの日 花月 香
もいいなぁ。そういえば、シャボン玉にも石鹸の匂いはたしかにあるに違いない。
ちなみに選外だけどロビンさんが「パフューム」という単語を使っていた。
検索機能で遊んでいたら「『幸福のスズラン』という名の今作は、天然成分のみを使用してスズランの香りを忠実に再現した至高の逸品です。」
という言葉に出会った。そうか、女性たちはスズランから香水を連想するのかと、納得。
窄んでくスズランの日の鼻ちょうちん みずき
この見立てには、笑わせていただきました。
鼻ちょうちんが鈴生りになっている図を想像すると、
存分に楽しめますね。
ところで、
スズランの日のカタカナが気に入らぬ 櫂未知子
という句がありました。僕たちは犬を「イヌ」、林檎を「リンゴ」と書くことに馴らされています。
これ、どうしてかご存知ですか?
1946年告示の「現代かなづかい」によって、「動植物名はカタカナで書く」と決められ、
主な動植物の漢字が「当用漢字表」から外されたからなのです。
国策で自国の文化を否定するという逆説も、敗戦の悲劇でした。
今日の天も「鈴蘭の日」とすると、鼻ちょうちんがもっと明らかになりますよね。
【選者吟】
スズランの日の丑三つや妻が泣く 島田牙城
【天】
教科書に雨が流るる図書館記念日 まなぶ
【地】
図書館記念日バス停遠きこと 蝸牛
【人】
アレキサンドリア炎上図書館記念日 仲 寒蝉
【佳作】
指定席図書館記念日の切り株 月野ぽぽな
借りて読む図書館記念日水沫集 谷口純子
四月尽図書館記念日の『斜陽』 伊波虎英
図書館記念日が黄昏れた 島田牙城
密会する図書館記念日 三亀
図書館記念日いつもの席のふたり 百花
独りでは居られぬ図書館記念日は ユースケ
【選評】
この記念日は、図書館に対するそれぞれのイメージの
違いが感じられて面白かった。
選外でしたが、〈一人でも生きていけるかも図書館記念日 花月香〉は、
【佳作】の百花さん・ユースケさんの句と内容的に似ていましたし、
質の面において同じでした。
じゃあ、どうして取らなかったの、と言われると
「ごめんなさい」しかないのですが。ホント、ごめんなさい。
内容が似ていて損した、それしか今は言えず。
同じく【佳作】の伊波虎英さん、
季語では「三月尽」「九月尽」しか本来は認めません。
(ただし、「本来は」、です。)
【天】のまなぶさんの句、シュールで実感があって。
【地】の蝸牛さんの句、もう少し音数を増やしてもよかったかな。
【人】の仲寒蝉さん、
いかにも頭で作っているように思われますが、
世界最古の図書館の名を復活させてくれた意味でサンクス。
以下は全く個人的な感慨です。
私は学者になりそこね、かといって実作一筋でもなく、
断続的に、そして一度入館したら一日中図書館に籠もっていた人間です。
今も同じです。
都内のいくつかの図書館に入り浸り、
下手すると一日の食事をその図書館で全て済ましたこともありました。
ずっと探していたことを数十冊目に見つけたときの喜びを、
どうたとえたらいいのでしょう。
大声で叫びたいほどの喜びを誰と分かち合うべきか、
ずっとわからずに来ました。
たとえば都立中央図書館、たとえば国会図書館。
私の人生の半分以上は図書館と共にあります。
その意味においても、意義深い記念日でありました。
【選者吟】
昨日と同じカレーね図書館記念日 櫂未知子
【天】
エメラルドの日アダルトメールばかり来る 中性子
【地】
海溝8412エメラルドの日 蝸牛
【人】
エメラルドの日の肉厚のお人です 島田牙城
【佳作】
薬指すうと伸びてエメラルドの日 まなぶ
昇仙峡土産の石の技は日本ぞエメラルドの日 流鬢力
予約席期待して待つエメラルドの日 花月 香
エメラルドの日をうちなびく釈迦の髪 春畑 茜
エメラルドの日の夜の猫を抱きしめる 望月暢孝
莢からとりだせば易きエメラルドの日 ロビン
エメラルドの日爆音に蛇からむ 中村安伸
【選評】
ああ、この日も難しく。
だって、エメラルドといえばいわゆる大事な宝石の一つで…
ダイヤ・ルビー・サファイヤ・エメラルドでしたよね、
高価な石といえば(私、まともな若者らしい付き合いもせぬまま、
かなり早く大人の世界に入りましたので、そのあたりは半端で)。
この記念日の選、結果だけを見ると、
男性らしき作者の句が多いようで、
どうして女性の句が少なかったのか、
選をした自分自身わかりませぬ。
エメラルドへの関心を直接持っているであろう女性作者よりも、
「よくはわからんが、グリーンの宝石らしい」と
おぼろげに感じている男性作者のほうが、
むしろ自由な作品を生み出せた、それはなぜなのでしょう。
【地】の蝸牛さまの日本海溝へのこだわり、
【人】の島田牙城さんの〈肉厚のお人〉、
ふむ、たしかに占いあたりで儲けまくったオバサマは、
肉もりもりかも。我が家のそばに某細木kさまの事務所もございます。
ところで、【天】の中性子さま。
たしかに、毎日よくわからんメールがたくさん来ます。
しかし、たまにはそのメールに引っかかってみるのも
勉強になるかもしれません。
騙されついでに
エメラルド・ルビー・サファイア・ダイヤを買いこんでは苦しむのも、
人生の大事な部分かと。
「冗談だろ!」を経験して立ち直る、それもまた素敵です。
是非、お試しください。
【選者吟】
何食ぶんになるのだろエメラルドの日 櫂未知子
【天】
庭の日や十指すべてがうすみどり 谷口純子
【地】
庭の日やむかしむかしは吾は金魚 大西龍一
【人】
庭の日やをとこなかすか宵の鰐 月野ぽぽな
【佳作】
庭の日やユンボの中にひと眠る 中塚涼二
庭の日はとりあえず雁もどき 片栗粉
庭の日の庭の隅から亀の墓 仲 寒蝉
庭の日のおやすみを言ふ躙口 中村安伸
庭の日や航空考古学者の手 伊波虎英
庭の日や落ちてきそうな十日月 靖山
庭の日や未だかんがへてゐるをとこ 春畑 茜
【選評】
この記念日も迷いました。
「ニハだから28日、で、翌日はみどりの日…だから何なの?!」など。
で、まずは選外から参りましょう。
〈庭の日やみんな生まれゆく途中 蝸牛〉
〈庭の日は亭主やをら腕まくり やそおとめ〉、
どちらも惹かれた句でした。
しかるに、中七の音数が足りないのが気にかかり、
涙と共に選外へ。
もっとも、【佳作】の片栗粉さんの句はもっと大胆で
中七は五音しかありません。
しかし、ここまで堂々と字足らずをやられ、
かつ内容が面白い時は、ついつい取ってしまうわけです。
ところで【天】の谷口純子さん、
欧米での「緑の指」の持ち主を想定されているのでしょうね。
緑の指(親指らしいけど)を持つ人は、
どんな草木も枯らさず、
青々とした葉や華やかな花を咲かせるのでした。
形が美しく、また、納得させる内容の句です。
【地】の大西龍一さん、そうでしたか、あなたは金魚で…。
この句は下五が字あまり
(「吾」をそのまま「われ」と読めば)ですが、
断定的な口調が字余り感を払拭してますね。
【佳作】の中で、中塚涼二さんの句、
〈ユンボ〉とはまあなんと色気のないこと!
でも、造成地の雰囲気が伝わりました。
中村安伸さん、〈躙口〉とは渋い斡旋。
茶道は奥の深いものですね。
【選者吟】
庭の日や石にケチャップひとしづく 櫂未知子
【天】
悪妻の日のふくらはぎふくらはぎ 月野ぽぽな
【地】
微笑にはやや自信あり悪妻の日 花月 香
【人】
悪妻の日溺れるほどのパスワード ミキ
【佳作】
悪妻の日のほんまもんばったもん 春畑 茜
悪妻の日の黄まぶしやきんぽうげ 伊波虎英
かけまくも悪妻の日に飲むサントリー 中塚涼二
悪妻の日キムチ作りの講習会 流鬢力
悪妻の日あの日あの時三人娘は 園を
句をひねり差し障りある悪妻の日 媚庵
悪妻の日にふくよかなスイートピー 正美
【選評】
なんでアタクシが「悪妻の日」の選者なのか、
運命を呪うております(この件については選評末尾でまた)。
【天】の月野ぽぽなさん、【地】の花月香さん、
ふくらはぎにせよ微笑にせよ、
本当の悪妻というものは、
ほどよく脂の乗ったフクラハギやビショウで
亭主をたぶらかすものなのかもしれませぬ。
【人】のミキさん、この句もまた、
ついつい耽溺してしまう謎の世界でございますね。
【佳作】、〈ほんまもんばったもん〉の
軽妙な詠みぶりの春畑茜さんの句が面白かった。
園をさん、状況はすぐにはわからないのですが、
私も三姉妹でございまして、なんだか気になる句。
一方、男性陣(男性と思われるかたがた)の句は、
伊波虎英さんの〈きんぽうげ〉、
正美さんの〈スイートピー〉など、
悪妻達への微妙な心遣いが感じられました。
もっとも、中塚涼二さんの句や流鬢力さんの句のように、
酒やキムチに逃げる手法もございましたが…。
流鬢力さんの句、もしかすると、
「女房がやってくれないので、自分が講習会へ出かけてゆく」
という内容でしょうか。とすれば大丈夫、
女房が逃げてもあなたは生きてゆけます。
さて、悪妻とはいかなるものか。
おそらく、亭主達に「この世はアテにならん」と自覚を促し、
「明日はくパンツがあるか」と懐疑的にさせ、
たまさか早く帰宅すれば
「ああ、俺は邪魔だったか」と哀愁を与えてくれる存在、
そういった偉大ないきものです。
遠い遠い昔のソクラテスの妻も、
100年近く前の漱石の妻も、
悪妻ゆえに夫達によき仕事をさせてあげました。
しかし、いわゆる「一見尽くしまくった妻達」は
大したことはしておりませぬ。
夏目鏡子さんは年じゅう朝寝坊で、
倫敦に行って神経症になった漱石にろくすっぽ手紙も出さず、
帰国した漱石に怒鳴り散らされた…。
なんて素敵なエピソード!
これからは悪妻ならぬ「悪夫」という言葉を作りたいですね。
「夫は朝起きもしないし、私のショーツも洗いませんの」ってね。
【選者吟】悪妻の日を凪いでゐる蜆汁 櫂未知子
【天】
七人の侍の日や喉仏 雪虫
【地】
七人の侍の日の御休憩 中村安伸
【人】
どこを切つても七人の侍の日 春畑 茜
【佳作】
七人の侍の日の家庭訪問 島田牙城
七人の侍の日の人ちがひ ユースケ
七人の侍の日が待ち伏せしている 三亀
七人の侍の日に遅刻 信治
七人の侍の日のエアポート ミキ
七人の侍の日のライパチ君 伊波虎英
七人の侍の日のフリーター 百花
【選評】
各人それぞれの「七人の侍」への思いというか、
思いのなさというか、
「あの映画のどこを切り取ってくるか」
「どこが好きか」「あまり関心がないか」が感じられ、
面白い記念日でした。
リアルタイムで観た人(あまりいないかしら)、
各地の名画座で観た人、テレビで観た人、
いろいろでしょうが、
要は句としてぴりっとしていればいいかな、と。
この記念日は音数が多いので、
「瞬間芸」めいた句がやはり目を引きます。
【天】の雪虫さん、「あ、そうか…喉仏…」で思わず【天】に。
【地】の中村安伸さん、「え、御休憩…2時間でいくらかしら」、
【佳作】の信治さん、「あら、遅刻…赤穂浪士も七人の侍も遅刻厳禁よ」、
百花さん、「ふむ、七人の侍ってつまりはフリーターだったのね」など、
ごく勝手な感想を持ちました。
【人】の春畑茜さん、一見、金太郎飴の転用のようですが、
「切る→侍が斬る」と関連していて面白かった。
【佳作】に戻れば、伊波虎英さんの〈ライパチ君〉、
つまり八番ってことですね。
七に対して八番ということで、
知的操作が気になるといえば気になりますが、
ちょっとショボい感じがあって楽しいと思います。
【選者吟】
七人の侍の日の熱々ウィンナーシュニッツェル 櫂未知子
【天】
国連記念日の不機嫌な摩天楼 中村安伸
【地】
都をどり国連記念日を舞へり 伊波虎英
【人】
何が流るる国連記念日の暗渠 媚庵
【佳作】
阿修羅目を瞠りぬ国連記念日 月野ぽぽな
シャガールの国連記念日はためけり まなぶ
国連記念日寿司だねにならぬ魚 島田牙城
チャップリンの黒帽凹む国連記念日 園を
国連記念日アラビア文字の左舷かな ミキ
種痘など忘れてしばし国連記念日 正美
明日のために米を研ぐ国連記念日 ますみ
【選評】
投稿数は少なかったのですが、
それなりに楽しめる記念日でした。
本来は、昨日の植物学の日と同様、
それほど実感のない記念日のはずなのです。
にもかかわらず面白い句が並んだのは、
道端の草や花や樹木を考えてうんうんうなるよりもむしろ、
発想の自由さを与えてくれる記念日だからなのでしょうか。
【天】の中村安伸さんの句、ドライな景でありながら、
擬人法の効果による人間くささもあって面白い。
【地】の伊波虎英さん、あまりの馬鹿馬鹿しさが
逆に感動を呼ぶように感じました。
【人】の媚庵さん、〈暗渠〉。そう、〈暗渠〉。
他の投句者の皆様には大変申し訳ないのですが、
私はこの〈暗渠〉、日暮関連の言葉同様に大好きでして。
もちろん、単語を句に詠み込むだけでは取りませんが、
この句は静かに品良くできていてとてもいいと思いました。
【佳作】の中では、月野ぽぽなさんの句の〈阿修羅〉、
まなぶさんの〈シャガール〉、ミキさんの〈左舷〉、
正美さんの〈しばし〉の絶妙さに心惹かれました。
もちろん、ある単語だけが選句の基準になるわけではないのですが、
今ひとつ実感のない記念日の場合、
「美味しい言葉」があるかないかは、大いに選と関係してきます。
【選者吟】
ハロー、ライス!ニイハオ、ビーフン!国連記念日 櫂未知子
【天】
キラワレルクサスカレルクサドチラデモナイクサ植物学の日 瑞恵
【地】なし
【人】なし
【佳作】
浅田さん(Asa,dasan)名簿の一位植物学の日 大西龍一
植物学の日に地団駄を踏んでゐる 島田牙城
植物学の日妻がサボテンになる 三亀
植物学の日怒るなよ大犬陰嚢 文平字
馬の仔の思案げなる植物学の日 正美
植物学の日端然と座す蛙 みずき
ひきがへる植物学の日をしづか 春畑 茜
植物学の日アカイハナシロイハナ 坂石佳音
植物学の日くつ下も脱いできて ロビン
【選評】
今日の記念日俳句は、今ひとつだった。
【天】の瑞恵さんの句はすんなり決まったが、
【地】も【人】も決められなかった。
投稿数の少なさもさることながら、
この記念日の難しさや、
記念日俳句そのものの中だるみが関係しているか。
でもって、【佳作】の数を増やして、入選数は確保した
(これって、許されるのかしら。でも、仕方ないですよね)。
【天】の瑞恵さんの句、いかにも奇を衒ったように見えて、
非常にこまやかな心遣いのある句だった。
一見、長々しい学名を書き連ねたように見えて、
じっくり読むと深い内容。なんだか雑草の気分になり、
切なさすら催してきた。いい句ですね。
「学名」という点で似たものに
【佳作】の坂石佳音さんの句がありました。
こちらはちょっと遠慮がちだったかな。
選外で〈植物学の日小林麻美は花だつた 伊波虎英〉がありました。
これは、映画の「野獣死すべし」に出演した頃の
小林麻美をイメージしてるのかな。
私は本当にたまたま、封切り直後にスクリーンで彼女を見、
その直後に、青山墓地近くの某喫茶店で隣の席だったことがあります。
たしかに〈花だつた〉がふさわしい人でした。
ただ、こういう内容は、もっと別の記念日のほうが
生きたのではないかと思ったりします。
【選者吟】
おかず皆路傍にありて植物学の日 櫂未知子
【天】
さて糠漬を見に行かうサン・ジョルディの日 櫂未知子
【地】
本好きの男がもててサン・ジョルディの日 仲 寒蝉
【人】
サン・ジョルディの日ひらがなで書く名前 百花
【佳作】
サン・ジョルディの日風の光を身に纏う みずき
サン・ジョルディの日虎のバター万歳 坂石佳音
喫茶店ならこちらですサン・ジョルディの日 大西龍一
頭からサン・ジョルディの日を被る 信治
監視カメラだらけだサン・ジョルディの日 三亀
以心伝心サン・ジョルディの日のさしすせそ 片栗粉
サン・ジョルディの日のベットには薔薇 いだかれる やそおとめ
【選評】
スペイン・カタルーニャ地方のバルセロナなどでは、古くから守護聖人であるサン・ジョルディをたたえ、4月23日に男性は女性にバラを、女性は男性に本を贈る習わしがあった。この伝統行事をそのまま拝借して、出版業界などが運動を起こしたのがこの記念日。
と記念日協会HPにあって、「出版業界」という単語に狼狽。
なぜに出版業界なのかを探ってみましたら、
日本書店商業組合連合会
なんですね。
よかった。いえね、僕も出版業界の端くれですので、知らないと恥でしょ。
でも、日本書店商業組合連合会は、小売書店の組合だから、厳密には出版業界ではないのですよ……
と、ここまでは余談。
佳作から
以心伝心サン・ジョルディの日のさしすせそ 片栗粉
は、上位に持っていきたかったけれど、作品に署名がなかった。
規約違反で減点。でも、この「さしすせそ」と「サン・ジョルディ」は面白いね。
監視カメラだらけだサン・ジョルディの日 三亀
長野のとある図書館で、使用規定のないままに監視カメラが設置されて、
人権問題にまで発展している。
人間を信じられない人間
信じられないことばかりしている人間
信じられない人間を見ている人間
…………
サン・ジョルディの日のベットには薔薇 いだかれる やそおとめ
うーん、ゴージャス。薔薇系では、
サン・ジョルディの日百萬本の薔薇のローン 文平字
なんていうのもあった。こちらはちょい遊びすぎか……
サン・ジョルディの日虎のバター万歳 坂石佳音
は、面白いんだけど、語呂が悪いんだなぁ。
人
サン・ジョルディの日ひらがなで書く名前 百花
さりげない優しさに惹かれました。
地
本好きの男がもててサン・ジョルディの日 仲 寒蝉
笑えますね。本好きの男って(どこまでもイメージだけれど)青瓢箪と相場が決まっている。
そいつが唯一女性の羨望を受ける日と……
天
さて糠漬を見に行かうサン・ジョルディの日 櫂未知子
本に埋もれて生活している人、
そうか、作者は薔薇に埋もれて生活してもいる。
そんな人が糠漬を気にする、糠漬を漬けているという発想がそもそも可笑しい。
どんでん返しの諧謔である。
【選者吟】
僕と妻歩けよ歩けサン・ジョルディの日 島田牙城
【天】
ガチャポンの空全しや地球の日 信治
【地】
ねむれ子よ眠れ地球の日の真昼 春畑 茜
【人】
青色のワンピース買う地球の日 花月 香
【佳作】
砂時計に愛の時差あり地球の日 ミキ
見あげればアースシャインの地球の日 靖山
地球の日施餓鬼の心ありにけり 流鬢力
溶明かはた溶暗か地球の日 伊波虎英
新しき細菌生れよ地球の日 大西龍一
地球の日アトムに雨の降りつづく 園を
凸に鳥凹に魚翔ぶ地球の日 坂石佳音
【選評】
記念日協会HPに「地球全体の環境を守るために一人ひとりが行動を起こす日。」とあった。
「環境」というのは「健康」と似ていて、
あまり僕の好きな言葉ではない。
だって、善悪がはっきりしすぎているんだな、これ。
だから、そういう運動に取り組んでいる人(健康でいえば、看護士さんも含めてね)
には、高飛車な人が結構多い。
ただ、健康と違って、「俺の体なんだから、放っておいてくれ」
とはいかないのが、環境。
「環境の日」なんて名づけられていたら最悪だけれど、
「一人ひとりが」という由来にある言葉ともども、
「地球の日」という名づけは良いよね。ぜひ歳時記に載せたいなぁ。
で、作品も取れる句が多かった。
犬が地球の日をかいでいる 三亀
地球の日着れない服がもつたいない 百花
神様の投球フォーム地球の日 中村安伸
地球の日零時の時報きつかりと 月野ぽぽな
擂粉木を減らし尽くして地球の日 媚庵
の5区が選外秀逸。最後まで悩んだ。
この日は、考えようによっては凄く重い日で、即ち
「地球の日」という記念日名を使うだけで、
すでにさまざまな属性が付着している言葉だから、
逆に軽く流した方がいいのかもしれないし、
残り12音ではあまり深刻ぶらないほうが
読者の共感を呼ぶようだ。
天、
ガチャポンて、街角で100円で何が出てくるか分らない卵の中のフィギアを狙うあれですよね。
子供はあれをやりたがるんですよね。子供の無邪気と全き空、そういう平和な何事もない街中という構図の中で
ふと地球を思っている主人公。「全し」には、若干祈りも籠められているようですね。
地、
これもさりげなく普遍的な母の「祈り」ですよね。
少子化の原因の一つに、地球の行く末を案じる女性がいるということも、考えさせられます。
子供の寝顔というのは、時に涙を誘います。
人、
これはまた、明るい。地球の健康的な青と自らの身を包む青。
嫌味もにごりもない青が、立夏間近という季節的にも素敵です。
佳作の中では、
地球の日アトムに雨の降りつづく 園を
でしょうか。意味深ですねぇ。
鉄腕アトムは、地球を守るために太陽へと自爆するのです。
そして、アトムは原子。「アトムに雨」といわれると、
背後に黒い雨も連想されます。
さて、ごみステーションへ、今日は燃えるごみだったかな……
【選者吟】
掃除機は妻を吸ひ得ず地球の日 島田牙城
【天】
ずぶぬれの男ふりむく民放の日 春畑 茜
【地】
目の位置を平均にする民放の日 まなぶ
【人】
民放の日に傷つきし野菜あり 櫂未知子
【佳作】
民放の日や日本語はやはらかい 月野ぽぽな
民放の日三時にカンカンダンス見る 文平字
こまぎれにするのが得意民法の日 ロビン
木の芽和民放の日の赤ちょうちん 正美
民放の日のあることの喜怒哀楽 媚庵
民放の日おとうと玄関までは来て 信治
民放の日大波小波来て騒ぐ 望月暢孝
【選評】
1951年(昭和26年)の今日、日本で初めて民間放送16社の放送の予備免許が与えられたのを記念して制定。
以上が記念日協会が示す由来。
民放の日の民法のセレナーデ ユースケ
民法の講義ありけり民放の日 大西龍一
「民放」と「民法」。まぁ、30句程度の投稿で発想が似てしまうということからして、
安易ということになろうか。
ぼくだって失敗するかもしれないじゃないですかと言ふほりえもん民放の日 百花
世相を掬い取って、40字以上の俳句に仕立てたのは、ご立派。
何十字あっても、早口で一気に読み下せて575の定型感がでていればいいのだ。
その観点から行くと、これちょっと長すぎる。
「ぼくだって」は5音。
「失敗するかもしれないじゃないですか」は早口の7音。
で、「民放の日」の5音で抑えれば天に取っていた。
「と言うほりえもん」が余分、且つ、説明に落ちたということだろう。
長くても俳句性は保持させなくてはならないということ。
テレビねたが多かったのはしかたのないところだろうけれど、
それだけでは安易なんじゃないかなぁ。
目の位置を平均にする民放の日 まなぶ
も、テレビねただけれど、こちら側すなわち見ている側に視点が合っていて好感が持てたので、地。
民放の日や日本語はやはらかい 月野ぽぽな
民放といっても、テレビの日ではないのだろう。ラジオも民放。
電波で届く「声」に着目したのがこの句だった。「やはらかい」ではまだまだ弱いけれど、佳作。
民放の日のあることの喜怒哀楽 媚庵
そのラジオ局で働く媚庵さんがどういう句を出されたかは、興味津々だった。
この日、民放各局は何かイベントをやるのだろうか。
「喜怒哀楽」は、媚庵さんお勤めの局の騒ぎのこともあり、
意味深だけれど、知らぬ人には見えてこないもどかしさもあり、佳作。
人の
民放の日に傷つきし野菜あり 櫂未知子
「野菜」が何かを比喩しているのではない。
一家庭風景。ただそれだけのこと。いわば「ただごと俳句」。
ただごと俳句というのは、絶大なる賛辞なのであって、
自然も人生もただごとの積み重ね。
そのただごとの一瞬を切り取る、その視線を未知子さんが示してくださったということだ。
さて、天は、
ずぶぬれの男ふりむく民放の日 春畑 茜
媚庵句のもどかしさが、この句で払拭されたように思えた。
その上で、日常のただごとの一齣のようでもあり、
雨が降る「生きる」かなにかの白黒映画がテレビに映っているのかも知れないとも取れる。
この男がほりえもんだったのか、
いや、あのニッポン放送の社長さんがこの句に似合っているか……
鑑賞自由の幅が、今日の句の中で一番広かった。
【選者吟】
我妻の下着を干せり民放の日 島田牙城
【天】
郵政記念日韋駄天は雲を履く 中村安伸
【地】
郵政記念日こうのとりから良いたより 百花
【人】
郵政記念日きりんの舌を借りました 伊波虎英
【佳作】
耳揃う郵政記念日の食パン 月野ぽぽな
抽象画か大統領か郵政記念日 大西龍一
遊星の郵政記念日メール打つ 谷口純子
郵政記念日を追い越していくものがある 望月暢孝
郵政記念日切手ぎざぎざ崖っぷち ミキ
ポスト撫づ郵政記念日のハンチング 中塚涼二
コンビニ未満一円以上郵政記念日 まなぶ
【選評】
「1871年(明治4年)の今日、それまでの飛脚制度にかわって、郵便制度が実施されたのを記念して」
と、記念日協会HPにある。
なるほど、明治に入っても三年間は飛脚だったのかと、
今更ながら驚く。
相性がいいというだけではなく、中村さんが天。
もちろん、飛脚からのイメージだろうけれど、
この「雲を履く」という見立ては、並の感性ではない。
舌を巻きました。
地の百花さんも、ほのぼのとしたいい味だなぁ。
実はこの方、実際に七回もこうのとりからのたよりを貰った人。
少子化の現在、救世主のような方なのです。
伊波さんの句は、毒を含んでいる。
きりんの舌を借りるほどの大きな切手、
それは、肥大化してどうにも身動きが取れなくなった
現在の郵政事業の象徴でもありそうだ。
でも、よりによって郵政民営化論議大詰めの今、
この記念日の選をするとは、露思わなかったなぁ。
【選者吟】
郵政記念日川蜷を食ふは妻 島田牙城
【天】
地図の日の草に朽ちたるボートかな 中村安伸
【地】
地図の日の焼きおにぎりの密度かな 櫂未知子
【人】
空だけが折り畳まれず地図の日や ロビン
【佳作】
釈迦の掌を出づることなく地図の日や 園を
地図の日の切符売り場で上を向く 百花
地図の日の羊皮紙に見知らぬ汚れ 媚庵
地図の日や獏の歩みとすれ違い ミキ
密会の地図の日なれば紅は濃く ますみ
地図の日に瓶詰めになる偉人の脳 望月暢孝
地図の日や一皮むいて延ばすヒト 片栗粉
【選評】
閏4月19日、伊能忠敬が蝦夷地の測量に出発したことに由来すると、記念日協会HPにあり、
「最初の一歩の日」とも呼ぶらしい。
閏4月19日はもちろん旧暦。現在の暦に直すと西暦1800年6月11日に当たる。
まぁ、そんな硬い話は抜きにして、入学・入社シーズンの4月に最初の一歩の日があるというのも
いいものだ。
今日は少し選が難しかった。
地図の日の地図探すため地図欲しき 仲 寒蝉
など、採ろうと思えば採れるのだけれど、
「ため」で一呼吸置かれてしまったために、「地図の日の地図」を探しているのかと読めてしまい、
この曖昧さを減点とした。
地図の日にナソベームと歩いた道 中性子
「ナソベーム」を知らなかった。博物学者が精密な論文ででっち上げた、鼻で歩行する動物らしい。
奇妙奇天烈で食指が動いたけれど、
なんとなく、危うきには近寄らずの精神状態だったということ。
ここからは余談だけれど、
これは本当にあることで、体調しだい、心の置きよう次第で選は左右される。
僕の師である波多野爽波は、雑誌投稿の選を次の日に持ち越すことを嫌った。
前の日と次の日で作品の見え方が違うから、不公平になるというのである。
「ナソベーム」、僕の冒険心の強い日なら、取っていたのかもしれない。
さて、佳作の中で気になっているのが、
地図の日や一皮むいて延ばすヒト 片栗粉
である。何を言っているのだろう。と悩んだけれど、
はじめの一歩に始まる「成長」を皮肉っぽく表現するとこうなったということだろう。
理屈を超えた滑稽観が出ている。
媚庵さんの羊皮紙、ほのかな西洋のにおい、吟遊詩人が現れそうだ。
園をさん、百花さんはうまいのだけれど、破綻がない分、余韻に乏しい。
こういう上手な句を見ると、ほとほと、俳句って難しいね、と思う。
望月さんの偉人の脳、漱石の脳は東京大学に保存されているらしい。忠敬から「偉人」が出てきたのだろうか……
ミキさん、夢のなかで旅を続けている。
ますみさん、危ういなぁ、ほどほどにね、道に迷うよと書いておこう。
空だけが折り畳まれず地図の日や ロビン
にはうなった。山も川も町も海も折りたたまれてしまう地図なのに、
折り畳まれた後にも、それまで見ていた地図の上の青空は、そのまま広がっていたというのだ。
下五の「や」止めは気になるけれど、どうしようもないのかも知れない。
地図の日の焼きおにぎりの密度かな 櫂未知子
は、うきうきしてくる楽しさがある。伊能忠敬を信念の人として褒め称えるのは簡単だけれど、
結局あの人は、測量が面白くて、楽しくて、仕方なかったのではないだろうか。そこにこそ、
偉業成功の秘密はあるのだろうと思う。
櫂さんの句を読んでいると、忠敬も食べたであろう焼きお握りや、
「始めの一歩」から想像される学生の夜食の焼きお握りやの、
きゅっっと締まっているのやら、手にした瞬間にぽろっと割れてしまうのやらが見えてきて、
楽しくなってくるのである。
天は、
地図の日の草に朽ちたるボートかな 中村安伸
僕はもう何度もこの方の句を天にしている。しなやかな叙情性を
特筆すべき作家である。
そして、てにをはにまで、神経が行き届いている。
真剣に遊んでくださっていることを、うれしく思う。
鑑賞はいいでしょう。口ずさんでみれば、良さは自ずと知れるはずである。
【選者吟】
地図の日の交差点なき妻の道 島田牙城
【天】
いつまでも発明の日や破壊する 蝸牛
【地】
ときめきもひらめきに似て発明の日 花月 香
【人】
発明の日のよく剥ける茹で卵 月野ぽぽな
【佳作】
独房に爪切りひとつ発明の日 淡々
発明の日やドアを開けドアを閉め 春畑 茜
発明の日や塀の上歩む犬 坂石佳音
発明の日の猫の尾の「の」のまるき 中性子
発明の日の王様は富士山だ 望月暢孝
発明の日の竹林に七、八賢 中村安伸
発明の日猪木の永久電池動け! 媚庵
【選評】
現在の特許法のもととなる「専売特許条例」が、1885年(明治18年)の今日、公布されたのを記念して、1954年(昭和29年)に制定された。特許庁によると、年間数十万件の特許、実用新案の出願があるが、実際に許可されるのは20%ほどとか。
以上が記念日協会HPの由来説明。特に誰かが何かを発明したという日ではないらしい。
それにしても、特許・実用新案出願が年間数十万件というのには驚く。
また、そのうち五分の四が没だというのも、性(さが)というか業というか、
この五分の四にこそ「俳」は潜んでいるのだろう。
発明というと、子供のころ、僕も例に漏れず「エジソン」の伝記を読んだ一人である。
発明の日のエジソンの通知表 谷口純子
エジソンに顔覗かるる発明の日 まなぶ
エジソンに一枚の笹発明の日 ミキ
選外なれど、気持ちは分る。
ミキさん、エジソンは笹も使ったのでしょうか?
詳しくはないけれど、京都山城の孟宗竹が使われたことは、近所に住んでいたこともあって覚えている。
発明の日や塀の上歩む犬 坂石佳音
発明の日の猫の尾の「の」のまるき 中性子
発明の日の王様は富士山だ 望月暢孝
は、「発明しなければ生きていけない人間」を横目に動物もまた山も泰然としているという
同じ発想。
佳音さんの句は、猫ではなく犬であることが面白い。
さて、犬は塀を歩けるのか、はたまた佳音さんの発明なのか……
発明の日猪木の永久電池動け! 媚庵
は、本当にそういう電池なり技なりがあるのかどうかは、門外漢だが、
いつまでも衰えない人気と迫力は、たしかに「永久電池」が仕込まれているからかとも思えてくる。
発明の日の竹林に七、八賢 中村安伸
もいいなぁ。竹林の七賢ならぬ七、八賢とあいまいにしたあたり、晩春の季節感ともぴったり。
さて、隠士たちは、何を発明しようとしているのだろうか……。
仙人になる機械かもしれない。想像が膨らむ。
独房に爪切りひとつ発明の日 淡々
発明の日やドアを開けドアを閉め 春畑 茜
の二句にはいたく納得した。爪切りにしてもドアにしても、
初めて作った人にとっては発明だったのである。
春畑さんの句はもちろん、ドラえもんのどこでもドアでもあるのだろう。
こうして見ると、今日は佳作もなかなか粒ぞろいだった。
【人】発明の日のよく剥ける茹で卵 月野ぽぽな
選外に
発明の日を俯瞰せる卵割り器 櫂未知子
があった。卵割り機の不思議以上に、僕としてはやはり、よく剥けるゆで卵がほしいなぁ。
【地】ときめきもひらめきに似て発明の日 花月 香
これには一本取られた。ひらめきは、失敗と同等に発明の母らしいけれど、
「ときめき」がなくてはならないのだった。
これは俳句にも言えて、ときめいていない人の句は輝かない。
俳句の神に愛されて逝ったのは田中裕明。
僕たちはせめて、俳句にときめき続けたいものだ。
そう、ときめきとは、愛に違いない。
【天】いつまでも発明の日や破壊する 蝸牛
これ、いいなぁ。なんの発明もできない庶民の諦め心。
組み立てられなかったプラモデルを叩き潰している子供のような邪気。
【選者吟】
発明の日に子を産んでゐる妻よ 島田牙城
【天】
地下室でなすび記念日 信治
【地】
なすび記念日公園にはユニコーン 中性子
【人】
青丹よしなすび記念日那羅にあめ 春畑 茜
【佳作】
採るなすび記念日機敏ね踵鳴ると 月野ぽぽな
坊ちゃんは松山名物なすび記念日 園を
千三屋の正価販売なすび記念日 淡々
なすび記念日や一面に馬の顔 大西龍一
履歴書になすび記念日・石垣りん ユースケ
なすび記念日ようこそ恐怖の参観日 雪虫
なすび記念日白湯は温めを好む母 みずき
【選評】
まずは由来を全文引用しておこう。
「冬春なす主産県協議会が、冬春なすの最盛期であり、4月17日を「よいなす」と読む語呂合わせから制定。なすへの関心を高めてもらうのが目的。」
で、この主産県とは、岡山・高知・徳島・福岡・熊本・佐賀の6県だそうな。昨年制定して、大いに盛り上がったイベントの写真がいくつかのHPで紹介されていた。
なすび=ナス→茄子は、夏の季語で「冬春なす」という言葉すら、僕は知らなかった。
路地ものであるのか、ハウス栽培なのかを探ったけれど、
分からなかった。
だからどうしても違和感は拭えず、
春茄子は誰に食はすのなすび記念日 仲 寒蝉
苗買うたなすび記念日みず茄子も 谷口純子
ということになってしまう。
でも、商魂は性欲や食欲と同じだろうと思うと、
そうした歪な記念日にも「俳」は確かに潜んでいるのだ。
淡々さんの「千三屋」はじめ「千疋屋」の間違えかとおもったけれど、
「千に三つだけ本当」だという嘘つきのことですね。
仲さん、谷口さんと同じく違和感の表明なのだろうけれど、
機微を感じたので佳作とした。
ぽぽなさんは頑張って回文。ちゃんと意味が取れるから面白い。
豊作でありますように、の呪文のようでもある。
大西さんの「馬の顔」は、茄子そのものが馬の顔だといっているのだろう。
それだけだと、まっすぐすぎるのだけど、
その後に控える農民・商人・役人の顔・顔・顔までが彷彿としてくる。
ユースケさんが正月以来の復活を遂げた。
ごめん、石垣りんの茄子の詩を知らない。
「私の前にある鍋とお釜と燃える火と」
という初期の代表的な詩には「イモ」は出てきていたなぁ。
庶民的であり、且つ、反戦意識をしっかり持った詩人でした。
ユースケさんの作品は語感がいいので頂きました。
雪虫さん、そうそう、4月といえば、新しい学級がはじまりますねぇ。
新しいクラスには、なすび顔もいることでしょう。
園をさん、愛媛が協議会に入っていないことを知っていたとすると、抜群です。
みずきさん、ナスも温野菜にするとおいしいですね。
人の春畑茜さん。「那羅」は「奈良」の古字のひとつ。
昨日今日できた記念日と、古代の対比が面白いですね。
青丹と茄子紺の映る雨です。心洗われるような雨ですねぇ。
「あめ」は漢字のほうがいいでしょう。
「飴」と混同してしまいそうですから……
地の中性子さん、茄子の棘はほんとに痛いのです。
あの棘から一角獣を連想なさった。
直球俳句の面白さです。
そして栄えある天は、
地下室でなすび記念日 信治
です。5・7の短句です。短句は上句と下句の二句から成る。
575の三句よりも、句と句のがちんこ勝負となるわけです。
味を出すと面白いですが、ずっこけることも多い。
川柳人は今も7・7の短句をよく作っているようです。
こういう挑戦は見習いたいですね。
記念日俳句では三亀さんの十八番(おはこ)。
信治さんの句は、人工と天然の対比と思いきや、
「なすび記念日」も人工だという痛烈な批評精神に支えられているのでしょう。
どきりとしました。
【選者吟】
妻の膝からなすび記念日生えてきぬ 島田牙城
【天】
ヴィラデスト・田園記念日わらの犬 やそおとめ
【地】
ヴィラデスト・田園記念日蚯蚓笑ふ 坂石佳音
【人】
ヴィラデスト・田園記念日愛を焼く 春畑 茜
【佳作】
ヴィラデスト・田園記念日・ポンジュース 文平字
ヴィラデスト・田園記念日ご勝手にどうぞ 望月暢孝
ヴィラデスト・田園記念日電信柱が歩きだす みずき
ヴィラデスト・田園記念日の苦き水 媚庵
ヴィラデスト・田園記念日の玉村村民の不遜 淡々
ヴィラデスト・田園記念日かに歩き 信治
ヴィラデスト・田園記念日かくれんぼ 中性子
【選評】
記念日協会の「由来」によると
「エッセイスト、農園主の玉村豊男氏が自ら長野県東御市にヴィラデストワイナリーを2004年のこの日に開設したことから制定。」
だそうな。
去年は開設の日そのものだから、実質、記念日として迎えるのは今日が始めてなのだろう。
まずは、玉村さんに、一周年のお祝いを申し上げる。
ヴィラデスト ガーデンファームアンドワイナリーのHPは、
http://www.villadest.com/
こちら。佐久のお隣で、僕も一度はお邪魔したいなぁと思っている。
ご近所の有名人だし、褒めてお近づきになりたいのだけれど、
「ヴィラデスト」は経営するワイナリーの名前なんだよね、と思うと、
むらむらと反感が湧いてくるというのが、俳人の習性。
例えば、邑書林創設の日を
「邑書林・本の記念日」とか名乗るのはどうなんだろう。
僕ならば、そんな恥ずかしいことはしないだろう。
佳作の二句。
ヴィラデスト・田園記念日ご勝手にどうぞ 望月暢孝
ヴィラデスト・田園記念日の玉村村民の不遜 淡々
あたりには、そうした反発心が読み取れる。
ヴィラデスト・田園記念日・ポンジュース 文平字
には笑った。ポンジュースって、たしか愛媛の農協でしたよね。
高級志向への庶民的な抵抗の姿なのだろう。まさに「俳」
同じ流れに、媚庵句があった。
ヴィラデスト・田園記念日電信柱が歩きだす みずき
ヴィラデスト・田園記念日かに歩き 信治
ヴィラデスト・田園記念日かくれんぼ 中性子
あたりは、純粋に頌歌になっている。電信柱までがこの日を頌めて山をめざす。
かに歩きのようなゆっくりした時間の中でワインも熟成されるし、
そこの人々ののんびり感もたっぷりだ。
かくれんぼまたしかりである。
さて、人の「愛を焼く」は難しい。さまざまに取れる。
「焼き捨てる」のか「こんがり美味しく焼く」のか……
僕は後者、パンを焼くように、朧月夜の下で若い男女が愛を焼いている、と取った。
玉村さんのぶどう園にはまだいったことはないけれど、
南に開けた丘陵地帯なのだろうと想像している。
茜さんの句はそうした地形の明るさにもマッチしていて、ゴージャスだ。
地の「蚯蚓笑ふ」にはこちらが笑ってしまった。
蚯蚓鳴くという秋の季語がある。
蚯蚓鳴く六波羅蜜寺しんのやみ 川端茅舎
だ。なれば春の蚯蚓は笑わせてしまおう、時あたかも田園記念日ではないか……という
坂石佳音さんのチャーミングな計らいである。
ところで、天。「わらの犬」。映画物は、その映画を見ている人にしか伝わらない。
固有名詞俳句の難しさだけれど、
この句の場合は、田園を目指した主人公のことを思い出せずとも、
そのワイナリーに「藁の犬」がいるのではないかと思わせて、絶妙。
勿論、映画「わらの犬」に鑑賞を遊ばせるのが真っ当なのだろうけれど、
それは、淀川長治さんにでも任せておこう。
今日はいい句が多かった。ただ、綺麗に仕立てただけでは入選まで行けないんだなと思う。
「おやつはバター」「ちちへ文」「ロックかな」などなど。
「沈黙せる蜂蜜」「ワインまだ若し」は工夫している分、さすがの年期だけれど、
選者だってそこそこ年期が入っているわけで、底が割れたということ。
*
藤田湘子さん死去。
オーバーな断定に巧みな作家だったと思う。
志低きにあれば春蚊出づ
音楽を降らしめよ夥しき蝶に
などを季節柄思い出す。
【選者吟】
ヴィラデスト・田園記念日腕立て伏せに耽る妻 島田牙城
【天】
ヘリコプターの日猫が猫の仔を生む 園を
【地】
ヘリコプターの日なり夫の誕生日 谷口純子
【人】
大和煮のぶるぶるヘリコプターの日 櫂未知子
【佳作】
蒲公英がヘリコプターの日を選ぶ 文平字
ヘリコプターの日近寄らないでください 百花
草薙におにぎり一つ腹ヘリコプターの日 淡々
ヘリコプターの日豊旗雲にワルキューレ 月野ぽぽな
都忘れヘリコプターの日のしんと 伊波虎英
春雷のヘリコプターの日バラ盗む ますみ
ヘリコプターの日ブリキのバケツ打ち鳴らす 島田牙城
【選評】
ヘリコプターの原理を考案したレオナルド・ダビンチの誕生日だそうな。
昔の全日空の尾翼にダビンチの描いたヘリコプターの絵が描かれていてた。
たしか羽がカタツムリみたいだった。
【天】園を氏、当たり前のことが当たり前でなくなる日が来るものだ。
それは幸か不幸か人の都合に拠るだろう。ダビンチの空想が現実となった。
絵画「受胎告知」が暗示するかのように猫もまた猫を生む。
【地】純子氏、偶然ご主人様の誕生日とはいえ、そのまま読み込むとは大した度胸。
上手く定型に収まった。
【人】未知子氏、食べ物とオノマトペの、パターン化した作りで、
何度も入選を浚うとは、大した底力。記念日の底力。
【佳作】
・文平字氏、蒲公英の日が出来るまでの便乗。植物にはよくある生き方。
・百花氏、風と音が煩いからなの?
・淡々氏、一語一語の意味的重なりの手の込みようったらない。
・ぽぽな氏、日本の古典と北欧神話を一堂に会した。
・虎英氏、焦点を野春菊に定め、先入観とは逆の静けさを表した。
・ますみ氏、季語が三つもあるが、物語性上うまくかみ合っている。
・牙城氏、呼ぶか追い払うかの行為かと思う。比較的単純な発想。
これで三巡目の私の選評は終わる。
記念日俳句には使わない脳を使わされて、大変刺激的だった。
記念日俳句なるものを捻って投句する30名ほどの熱心な方々の
孤軍奮闘ぶりが良く伝わってきた。
季語を中心とする定型俳句でもそうだが、
付きすぎ、説明、答え出しには気をつけたい。
形式や場は違っても俳句の精神に変わるところはない。
今後予定されている特別選者の選評が楽しみだ。
では、また合う日まで。
【選者吟】
泣かんで怖いヘリコプターの日のタブー懲り平和個展かな 二健
【天】
オレンジデーいい加減部屋を片付けなさい! ますみ
【地】
花婿のブルー始まるオレンジデー 百花
【人】
男ふたりオレンジデーのデコポン 淡々
【佳作】
オレンジデー片手鍋買ふ共白髪 坂石佳音
篭盛のオレンジデーに待たれをり まなぶ
オレンジデーいつまで続く狂おしさ 正美
オレンジデー切り刻まれてゐる写真 島田牙城
東風吹かば時計じかけのオレンジデー 片栗粉
オレンジデー添へぬならいつそひと思ひに やそおとめ
バブルカップルオレンジデーまで行き着けず 仲 寒蝉
【選評】
「バレンタインデー」→「ホワイト・デー」→「オレンジデー」
と来るそうだ。
告白・承知・成就ということだろうか。
ハッピーエンドではお話にならないから、
マイナーな念に潜む滑稽の句を選んでみた。
【天】ますみ氏、癇癪も高揚し遂に言い放った。
オレンジデーどころではないところが痛快。
記号はないほうがいいと思う。
【地】百花氏、方や寒色を負う人がいる禍福対極の温度差は
滑稽そのもの。
【人】淡々氏、仕方ないが、新種を売らんかなのデコポンの色と香り。
【佳作】
・佳音氏、所帯じみているのとコントラストが良い。
・まなぶ氏、そういう見方と言い方も面白い。
・正美氏、実際はいつということはなく平静に帰すもの。
・牙城氏、良くあること。写真でよかった。燃やしたりもする。
・片栗粉氏、季語をあしらって札付きの暴力映画に掛けた凝りよう。
・おとめ氏、思いつめてはみたものの、やはり後ずさり。
・寒蝉氏、バブルカップルは、突然オレンジデーにもなる。
オレンジデーでは、名句鑑賞というよりか、遣る瀬無さを楽しませてもらった。
5月14日は、どう進展して何デーになるのであろうか。
【選者吟】
散り際の膝を抱えてオレンジデー 二健
【天】
貴彰の日はないだろう恵美子の日 鈴木貴彰
【地】
恵美子の日ええ花やなあと西の丸 坂石佳音
【人】
恵美子の日がんばりやぁと云われても 蝸牛
【佳作】
顔文字を探しあぐねて恵美子の日 まなぶ
笑みが寂しい恵美子の日 三亀
半世紀前のことなり恵美子の日 靖山
また花粉症だなんて恵美子の日 みずき
子の付かぬ俳号選び恵美子の日 百花
恵美子の日江戸っ子恵美子に知らせねば 片栗粉
大阪市職員お手盛り上手恵美子の日 淡々
【選評】
この記念日はタレントの上沼恵美子の誕生日だそうな。
全国の恵美子名にエールを贈るそうな。
恵美子の恵美は笑みに通じ、咲くの語源ともつながる。
それらは俳の根本理念でもあるから心してかかろう。
私も4月が誕生日だから、わが記念日が制定されるよう有名になりたい。
全国的に二健名はないであろうが。
【天】貴彰氏の、思いっきり自分に引き付けた排他的物言いに好感が持てる。
皆自分のことしか思ってないし。
【地】佳音氏の、能天気こそ身に染みる。
ええ人やなぁ。しかし背景が地霊であり深遠だ。
【人】蝸牛氏も、方言の人間味が功を奏しており、
人情に困惑する俳の心情を言いとめている。
【佳作】
・まなぶ氏、恵美子の回文顔文字は
eミ⌒⌒ミe こんなであろうか。
・三亀氏、頭韻と背反で技あり、合わせて一本。
・靖山氏、現実的可能なスパンのリアリズム。
何があったのか他人様の個人的呟き。
犬も食わない可笑しさ。
・みずき氏、主客の恵美子に失礼なおしゃべりもまた滑稽。
・百花氏、何か拘りがありそうな女子名子嫌い派の(自己)満足。
・片栗粉氏、西の横綱、東の横綱、はっけーよいのこったのこった。
・淡々氏、良きにつけ悪しきにつけ何でも上手でバイタリティのある人たちの混在。
【選者吟】
火の粉見え隠れん基地でチキンレグか恵美子の日 二健
【天】
底辺掛ける高さ割る二やパンの記念日 大西龍一
【地】
パンの記念日かあさんは不機嫌 坂石佳音
【人】
耳がいたいパンの記念日 三亀
【佳作】
リラの花パンの記念日の香り 正美
強力の背に強力粉パンの記念日 淡々
パンの記念日らしくて亀戸三丁目 櫂未知子
パンの記念日パンと言ふ神降りてくる やそおとめ
パンの記念日パンの漢字が読めません 望月暢孝
パンの記念日娘はレーズン救助隊 ロビン
春暁やパンの記念日発酵す 伊波虎英
【選評】パンの日といえば、05.3.12に佳作の末尾で戴いた
「サンデーホリデーの日のクロックムッシュ・クロックマダム 櫂未知子」
を思い出す。フランスの焼き賛同一致(まぁ!サンドイッチと書こうとしたら)
のことらしく、レシピを調べたらパン焼き器が欲しくなった。
何でも詰め込んで圧縮して焼いたホットサンド食べたい。
【天】龍一氏の、算術への転換は抜きん出て素晴らしい閃きだ。深刻で滑稽。
【地】佳音氏の、かあさんはそれなりの訳があろう。察してやりたい。
【人】三亀氏は、陳腐な発想をよくぞ香ばしく焼き上げた。
【佳作】
・正美氏、普通そうでいてそうじゃなさそうなボケ加減がいい。
・淡々氏、駄洒落の力技は見事。同一単語でも読みも意味も違うのが味噌。
・未知子氏、何がどう「らしくて」なのか。読者のウイットが試されている。
・おとめ(苗字は「やそ」か?)氏、そんな神さまがおられたような。
・暢孝氏、小生はパンの漢字が書けません。
・ロビン氏、大仰な比喩は俳句の骨法。
・虎英氏、切れが強すぎる気もするので、上五は「春あかつき」を提案。
以下は、分類から読み取れるものがありそうなので、選とは別ながらやってみた。
パンの記念日に食べ物を合わせると、付きすぎになり易く景が狭くなると思う。
注) *印は入選句
〔食べもの組〕
小豆煮るパンの記念日昼さがり 谷口純子
砂糖水で絵を描くパンの記念日に 島田牙城
パンの記念日蕗のとう煮含める みずきか
パンの記念日大根おろしをうつくしく 片栗粉
パンの記念日給食当番の匙加減 百花
パンの記念日なにはなくとも米の飯 園を
パンの日蕗のとう煮含める みずき(「記念」が欠損)
〔パンの耳組〕
耳がいたいパンの記念日 三亀*
新聞の千切りし耳とパンの記念日 まなぶ
パンの記念日耳朶齧る朝も好し 文平字
〔神さま組〕
パンの記念日らしくて亀戸三丁目 櫂未知子*
パンの記念日パンと言ふ神降りてくる やそおとめ*
パンの記念日磔のキリスト像 月野ぽぽな
〔働く人組〕
パンの記念日かあさんは不機嫌 坂石佳音*
強力の背に強力粉パンの記念日 淡々*
パンの記念日娘はレーズン救助隊 ロビン*
砲術家パンの記念日知らぬまま 白馬
パンの記念日マリー・アントワネット無垢 媚庵
パンの記念日江戸川太郎左右衛門の好奇心 仲 寒蝉
〔〜やの切れ字組〕
底辺掛ける高さ割る二やパンの記念日 大西龍一*
春暁やパンの記念日発酵す 伊波虎英*
祝砲やパンの記念日轟かす 鈴木貴彰
〔うったえ組〕
パンの記念日パンの漢字が読めません 望月暢孝*
金曜はメロンパンの記念日に 花月 香
パンの記念日なにもかも焼きたてに 中村安伸
…以上
【選者吟】
バクンバクンパンの記念日ふびん祢宜ノンバンクバンク派 二健
【天】
ガッツポーズの日の千の掌の観世音 春畑 茜
【地】
みなさまとガッツポーズの日を祝ふ まなぶ
【人】
ごしごし箸洗ふガッツポーズの日 櫂未知子
【佳作】
ガッツポーズの日パーをだせばよい 三亀
ガッツポーズの日だからガードを固めなさい 伊波虎英
屈まりて屈まりガッツポーズの日 蝸牛
我輩は透明人間ガッツポーズの日 大西龍一
藪蛇のだじゃれもガッツポーズの日 島田牙城
ガッツポーズの日の用心棒世界選抜 ロビン
大安のガッツポーズの日の戦場 中性子
【選評】
ガッツポーズとは、ガッツ石松の勝利からきているとは知らなかった。
単に勝ち誇って根性を見せる態度かと思っていた。
ならば、小川直也のハッスルポーズも記念日となることであろう。
【天】茜氏の、千手観音とガッツポーズの日の組み合わせとは大変面白い。
言葉の解体から再構築の結像を導く切り札「の」の連続接続が功を奏している。
千の手のガッツポーズとはどんなものであろうか。
そもそも仏は勝ち誇ったりはしない。娑婆の俗事は正に深刻と滑稽である。
【地】まなぶ氏の、ご丁寧な物言いが、
俳句としての危うさの可笑しさを生じさせ、さらに増長させている。
【人】未知子氏の、月並みな擬態語とその行為が、
ガッツポーズの日に似つかわしくないからこそ滑稽だ。
対岸の火事に動じず、労働に勤しむ潔さが漲っている。
【佳作】
・三亀氏、変な説得力がある。相手が拳だから、パーで勝ち。
・虎英氏、そのとおり。このように警句は俳句になりえる。
・蝸牛氏、意味付けを読者に任せているのがいい。
・龍一氏、そういう人もいそう。ガッツポーズの日を無化する諧謔あり。
・牙城氏、畳みかける頭韻の俗語もガッツポーズの日に収斂される。
・ロビン氏、全くもって相応しき日取り。写生に拠らない空事もまた俳材。
・中性子氏、せっかくの吉日が戦場とは。時空をずらせば現実の深刻がある。
【選者吟】
柏舞いガッツポーズの日のスポーツ使い回しか 二健
【天】
スカートの丈が気になる建具の日 ますみ
【地】
建具の日何が良いのか悪いのか 正美
【人】
建具の日おとなふこゑにこたふこゑ 坂石佳音
【佳作】
建具の日が流れていく 三亀
建具の日鼻ぐずぐずと初デート みずき
マスオさんいつもありがとう建具の日 花月 香
青空にコートを吊つて建具の日 中村安伸
建具の日汲取り便所の隙間風 淡々
蹴とばせばひらく建具の日の雨戸 園を
建具の日父は茶碗に箸を置き 鈴木貴彰
【選評】4月10日は、「よい戸」で建具の日。
何もかも改まる春に新築増改築の意識も向上するという。
【天】ますみ氏の、スカートの丈も春ですねえ。気負わない痛快さ。
【地】正美氏の、根本的疑問には建具がひしゃぎそう。
【人】佳音氏の、建具を介した阿吽の声。多くを語らないよろしさ。
【佳作】
・三亀氏の、川の流れのような建具の日。仕事を流さないように祈るばかり。
・みずき氏の、おデート台無しは、建具の日のせい?
・香氏の、実名を伴った謝意を顕にするのは、建具の日のせい?
・安伸氏の、建具の日は春の虫干しの日でもあるのか。
・淡々氏の、卑近さは懐かしい臭いがする。その春の隙間風にも風情がある。
・園を氏の、老朽化した建具は、鞭打たれて用を成す哀れさ一入。
・貴彰氏の、父は建具の日だからという理由も危うく、只の手癖か。
こうやって投句を選評させてもらうと、
主題の記念日にまつわる事柄の関係性如何による面白さを
見つけられるかどうかが鍵になることが分かった。
【選者吟】
そんな建具の日のクーデターなんぞ 二健
【天】
いつも遅刻だ大仏の日 三亀
【地】
大仏の日をぐらぐらと潮汁 櫂未知子
【人】
賽銭は桜の花弁大仏の日 中性子
【佳作】
大仏の日を立つたり坐つたり 片栗粉
大仏の日耳から太りだしそうな みずき
大仏の日あるいは単独でもある 瑞恵
大仏の日蛇のかたちの笛あげよ ロビン
猫顔を洗ふなり大仏の日も 月野ぽぽな
大仏の日ぞ大魔神動き出せ 媚庵
開眼の喜びもなし大仏の日 正美
【選評】
奈良東大寺の大仏開眼供養が行われた日にちなんだ記念日だそうな。
私は、修学旅行と俳句活動後の単独行動の二回、拝観したことがある。
いつ見ても壮大で厳かだ。極端な大小の差異からは、滑稽が生ずる。
歴史のある大仏が偉大であり立派であるような常識は、俳句として戴けない。
大仏の概念を覆してほしいものだ。
【天】三亀氏のいたって単純な二物衝突。
時間に束縛されることのない大仏の慈悲にすがろう。
【地】たぶん未知子氏の心境そのままのオノマトペの活用。
微動だしないものの対象に、小忙しい具象のあしらいで気丈な心象を言いえている。
【人】中性子のゆるやかな隠喩は、視点を一転させ、浪漫な仏前世界を描く。
地獄の沙汰も金次第、その受け入れ口としての賽銭箱か。娑婆に無垢な花弁が降る。
【佳作】
・片栗粉氏の、日常的所作のみの仕立てに感心する。
・みずき氏の、着眼と発想に吸い込まれる。
・瑞恵氏の、哲学する俳句もまた含蓄がある。
・ロビン氏の、いきり立つ闘士に唆されるな。
・ぽぽな氏の、大仏は大仏、猫は猫。長閑な棲み分け。
・媚庵氏の、漫画俳句。ゴジラも鉄人28号も。
・正美氏の、醒めた大仏、醒めた小市民。天の邪鬼こそ俳人格。
大仏俳句といえば、仲寒蝉氏の第四回朗読火山俳での
連作「ハイカイする佛心」を思い出す。
浴衣姿で首に大仏の被り物を被り、大仏になりきって観客の注目を集めた。
姿も句も俳味漬けだった。大仏景気に便乗してこちらの選も。
大佛の指の股なる菫かな 仲 寒蝉
鶯の糞して去りし螺髪かな
大佛のお膝元なる猫の戀
大佛の中身からつぽ春うらら
佛にも喉佛あり四月馬鹿
優曇華を産みつけられてゐる大佛
大佛の齒ぎしり混じる蟲の闇
ふて寝してゐるとも見えて涅槃像
ちなみに選外「大仏の日の着ぐるみの河童かな 島田牙城」もあり。
【選者吟】
仲居大仏の日の粒偉大かな 二健
【天】
すりきれたレコードかけるタイヤの日 鈴木貴彰
【地】
売れ残る今川焼やタイヤの日 櫂未知子
【人】
タイヤの日阿弥陀如来の定印す 百花
【佳作】
タイヤの日妻を交換するなかれ 島田牙城
リタイヤの日まで走るぞタイヤの日 媚庵
助手席にカイヤを乗せてタイヤの日 仲 寒蝉
天気予報恨むでないがタイヤの日 靖山
タイヤの日道に花粉の溜まりたり 正美
貫一とお宮微苦笑タイヤの日 淡々
タイヤの日祖母が惚けている 三亀
【選評】
自転車が脚の私にとって、タイヤは身近なものだ。
パンクした時こそ困り果て、その健全な状態のありがたさが身に染みる。
パンクしないタイヤの自転車もあるそうだが、高価で手が出ない。
天地人は、凡そタイヤとは無縁な事柄の配合をもって、一幕を作っている。
一句のドラマに見るものは、読者によってまちまちではあるが、
その鑑賞されるべく喜怒哀楽の一行が俳句の本領だ。
【天】貴彰氏には、わが生業を見透かされたようで苦笑した。
すりきれたのはレコードに及ばず、針も床の敷物も靴も袖や裾も。
ボロボロになるまで使うことは、本当は豊かなのだと、納得させられた。
【地】未知子氏の食い物にこだわる記念日俳句は、ネタ切れになることなく快調だ。
「…今川焼やタイ焼きの日」と誤読を誘う仕掛けに脱帽。
【人】百花氏の禅定の如来も、春の全国交通安全運動に協力を暇ないのであろう。
【佳作】
・牙城氏の警句は、相対性俳理論の可笑しみ。
・媚庵氏と寒蝉氏のオヤジギャグの哀しさ。
・靖山氏の結局恨んでいるような言い回し。
・正美氏の脚韻は二輪を暗示する。
・淡々氏の因果なる微苦笑は進歩への皮肉か。
・三亀氏のは珍しくない状態だが、深刻の滑稽そのものである。
【選者吟】
春田にタイヤの日の焼いた煮たるは 二健
【天】
黄昏は砂糖の嵩に世界保健デー 櫂未知子
【地】
ゴムバンド伸びゆく世界保健デー 文平字
【人】
除菌滅菌殺菌世界保健デー 春畑 茜
【佳作】
世界保健デー顎逞しく育てん みずき
世界保健デー寿命37歳のボツワナよ やそおとめ
薬効より栄養世界保健デーの給食 淡々
疥癬ちゃんごめんなさい世界保健デー 三亀
進化という後退世界保健デー 蝸牛
世界保健デー怨念の牛と鳥 望月暢孝
世界保健デー猫のあくびも伝染ります ロビン
【選評】
天の句はこの余り面白くもない名前の日を実に美しく、
でもある意味恐ろしく表現した。
神々の黄昏ならぬ
人類の黄昏の風景は
うずたかく積まれた砂糖の山に沈んでゆく夕日なのかもしれない。
地の句はたぶん肥満による腹囲の増大をゴムバンドが伸びるという
具体的かつ身につまされる表現で言い表したのだろう。
いまや肥満は先進諸国の人々の健康を脅かす大問題。
日本糖尿病学会では
腹囲の目標を男性85cm女性90cm未満としている。
人の句、長らく人類は微生物との戦いを続けてきた。
除菌滅菌殺菌等細菌に対する戦いには一見勝利しつつあるかに見える。
しかしもともと細菌は人類の単なる敵ではなく有益なものでもある。
だから細菌を皆殺しにすることで耐性菌が生じ戦いは泥沼に入ってゆく。
保健とは何か、それを考えさせられる日。
佳作。
「顎逞しく」は保健を子育てとからめて考えた作。
「寿命37歳」平均寿命のことだろうがそれだけ子供が死んでいるということだ、
これこそ世界の保健の現実。
「薬効より」というより「味より」というべき
給食のまずさが懐かしい。
「疥癬ちゃん」は保健を茶化して秀逸。
「進化という後退」はまさに保健を言い得て妙だが
他のことにも言えるかもしれない弱みが。
「怨念の」はもっと小さい微生物ウィルスや
プリオン(こいつは生物と言えるか?)との戦いのため
他の生物達を犠牲にしてきた人類の身勝手さ。
「猫のあくび」の滑稽さ、
伝染るのは微生物のもたらす病気ばかりではないと。
【選者詠】
世界保健デー右肩に種痘の痕 仲 寒蝉
【天】
しろの日の悪人牙城神授説 島田牙城
【地】
しろの日の零時に生まれ磯ぎんちゃく 片栗粉
【人】
しろの日の石ぼやき出すまっぴるま 春畑 茜
【佳作】
青テントも一城の主しろの日の大川端 淡々
しろの日の傾城高尾太夫哉 媚庵
雲寡黙しろの日鈍し句も香も来 月野ぽぽな
しろの日に身の程を知る寄居虫かな 文平字
しろの日の縄張りのある同居かな 百花
しろの日の焼印も濃き銘菓かな 坂石佳音
しろの日のうしろの正面誰でしょう ますみ
【選評】
天の句、この人は虚子にでもなるつもりかもしれない。
大悪人虚子の跡を継いで、
しかもその悪人性は天から授かったという説なわけだ。
実に大時代的で絶対君主制時代の王権神授説にも匹敵する強引さで、
ただ「悪人」と規定した点が韜晦であり俳である訳だ。
地の句、しろの日は即ち「城」の日、磯巾着と一体どう関係があるのだろう。
でもしろの日の零時に生まれたなんて何となくめでたい磯巾着ではないか。
人の句の石は石垣の石だろう。
白昼に「もうやってらんないよな」などと石がぼやく訳だ。
確かに人は「きれいなお城ねえ」とか「よく残ったもんだ」と
勝手なこと言って城の鑑賞しているのだが
石垣は城とその人ごみをずっと支えているのだから
愚痴のひとつも言いたくなるかも。
佳作。「青テント」はホームレスという現代の一風俗、
あれも一国一城の主だからこそやっていられるのかも。
「傾城」と言えば高尾、
傾城とは正に城を傾け国を傾ける美女のこと、
しろの日に相応しい。
「雲寡黙」はよくできた回文、二健さんも驚き。
「身の程を」の寄居虫は何だか慎ましくて可哀想。
「縄張り」の二人は夫婦なのか、
いまはやりのルームシェアなのか、家族だとしたら面白い。
「焼印」はよくお城で売ってる煎餅か何かだろう。
「うしろの正面」は駄洒落だけど
城の見える所でかごめかごめをやってる子供達の姿が見えてくる。
【選者吟】
しろの日の白鷺城をシロと散歩 仲 寒蝉
【天】
デビューの日我が地球に住みし頃 大西龍一
【地】
ひまわりの種を播きましょデビューの日 島田牙城
【人】
永遠にひとりでは無理デビューの日 淡々
【佳作】
毎年決意し直してデビューの日 蝸牛
彗星も星屑も星デビューの日 媚庵
下着綿100%デビューの日 月野ぽぽな
あと10センチですデビューの日 三亀
生まれ出る時が誰でもデビューの日 望月暢孝
観客のひとりとしてのデビューの日 鈴木貴彰
魚偏のものがぴちぴちデビューの日 櫂未知子
【選評】
天の句、この人(?)はどこの出身なのか、
宇宙人俳句というのもあっていいかも。
何にせよ地球はお初という訳だ。
地の句、この力の抜け具合がいい。
高校野球の投手のデビューの日に蒔いた向日葵が咲く頃には
彼は甲子園で頂点を極めているとか。
人の句、言われてみれば確かにそうだわな。
俳句に理論は禁物だがこれはさわやかに裏切ってくれた。
デビューするには後ろ盾やファンや
何より長嶋における村山のような存在が必要なのだ。
佳作。「毎年決意」するのは今年こそデビューしたいとの切ない思いから、
その殊勝な心。
「彗星も」、確かにデビューする前は大物なのか小物なのか判別で
きない。
「下着」のデビューは何のデビューなのだろう、
ひょっとして・・・ああとても恥ずかしくて口に出せない。
「あと10センチ」は何のことか分らないがとても笑える。
「生まれ出る」は言われてみればその通り、
誰もがこの瞬間には星になる可能性を秘めている、ああなのに。
小生も「観客のひとり」になって世紀の瞬間に立ち会いたいもの。
「魚偏の」は小魚たちの海へのデビューということだろうか。
【選者詠】
失敗も大物の証デビューの日 仲 寒蝉
【天】
あんぱんの日袖からババシャツはみ出す みずき
【地】
たんぽぽ直列あんぱんの日の河馬舎 坂石佳音
【人】
あんぱんの日の相馬黒光の眼光よ 媚庵
【佳作】
あんぱんの日をかみしめる父がゐる 春畑 茜
絶対に桜の塩漬け!あんぱんの日 ますみ
あんぱんの日やふと思ふ口唇期 月野ぽぽな
あんぱんの日専制君主包囲網 島田牙城
さめざめとあんぱんの日の花散れり 鈴木貴彰
やっぱりとってもあんぱんの日 二健
あんぱんの日をとつぷりと暮るる臍 櫂未知子
【選評】
天の句、これは笑える。俳句は真面目も結構だがやはり本来は滑稽が主。
この記念日俳句からして糞真面目にやろうとは誰も思っていまい。
どう笑わせてやろうと思っている句の多い中、
これだけ余裕を持った笑いを提供できる力はすごい。
それにしてもあんぱんとババシャツの組合せは絶妙。
地の句、たんぽぽ、あんぱん、河馬とのほほんとした物が揃いすぎの感はあるが河馬舎まで
点々と「直列」に続くたんぽぽの風景がいい。
人の句、相馬黒光は本郷でパン屋としてスタートした中村屋の創業者相馬愛蔵の妻である。
カレーライス(ライスカレー?)を真に日本の料理としたのは中村
屋の功績、様々な新発想で新宿中村屋のブランドを高めた黒光の眼光。
佳作。
「父がゐる」何と哀しい貧乏たらしい父であることか。
「絶対に」この叫びの中に拘りと我が儘を見た。俳句は我が儘でなくては。
「口唇期」は桜の塩漬け、或いは臍からの発想か。
「専制君主」意味不明ながら18世紀ヨーロッパの光景など思い起こされて面白い。
「さめざめと」やはり臍と桜の塩漬けからの発想だがさめざめと降るのが涙でなく桜の花びらであるのがいい。
「やっぱりとっても」回文ではなくこういうおっとりしたのもいい。
「とっぷりと暮るる臍」よほど深い臍なのか、エロチックでいい。
【選者吟】
ヘソ付けし人は天才あんぱんの日 寒蝉
【天】
うふふふふいんげん豆の日の稔典さん ますみ
【地】
いんげん豆の日だから養子縁組す 月野ぽぽな
【人】
いんげん豆の日を普茶弁当でまんぷく 百花
【佳作】
最上階の靄いんげん豆の日 大西龍一
いんげん豆の日はジャックの夢に近づく やそおとめ
スローライフできぬいんげん豆の日 蝸牛
いんげん豆の日の原因は孕み猫 三亀
豆腐屋の娘は小粒いんげん豆の日 流鬢力
蔵の中いんげん豆の日を眠る 島田牙城
ふうせんふくらめふくらめいんげん豆の日 園を
【選評】
天の句、甘納豆からいんげん豆への華麗なる転身。
いんげん豆の日に稔典さんはどんな句を詠むのかな
などと想像するのも楽しい。
地の句、「だから」と言われても何がだからなのかちっとも分らない。
そこがとっても俳句的、実にすっ飛んでいていい味わい。
人の句、万福寺に言及したのは選者とこの句のみであった。
ここは矢張いんげん豆を輸入して下さった隠元禅師に
敬愛の念を込めて挨拶句を詠まねば。
「普茶弁当でまんぷく」するとは思えぬが語呂がいい。
佳作。
「最上階の靄」は一炊の夢の湯気(あれは粟を炊くのだったか)なのか
ジャックと豆の木の雲なのか、想像が膨らむ。
その「ジャックの夢」は勿論ジャックと豆の木の話、
誰もが一度は雲の上に昇る夢を見るもの。
「スローライフ」はいんげん豆からの発想か、
忙しい現代人としてはやりたくても中々できぬのがスローライフ。
「原因は孕み猫」と言われても何故?
「げんいん」が「いんげん」から発想されたのは分るけど。
「豆腐屋の娘」も分ったようで分らぬ可笑しさ、
豆腐は大豆だろうが、などと目くじら立ててはいけない。
「蔵の中」も何となく盧生の夢的な風景ではある。
「ふうせんふくらめ」は口調が優しくて楽しい。
【選者詠】
いんげん豆の日どの腹も万福寺 仲 寒蝉
【天】
だから青海苔ついてますって歯列矯正の日 しのざき香澄
【地】
歯列矯正の日重量挙げは新記録 片栗粉
【人】
大口笑子歯列矯正の日の嬌声 淡々
【佳作】
ばいきんまんも歯が命歯列矯正の日 春畑 茜
ドラキュラも歯列矯正の日の八重歯 やそおとめ
歯列矯正の日峰不二子は泣かない 月野ぽぽな
間の悪きホヤ頂きぬ歯列矯正の日 靖山
フォーク並びに拘泥する歯列矯正の日 三亀
歯列矯正の日モナリザの横目 坂石佳音
団子屋の前なり歯列矯正の日 櫂未知子
【選評】
天の句、これには久し振りに手放しで笑った。
もうそれだけであんたが一番という感じでした。
いろいろ解説は不要。
このタメ口調をよく味わって!
地の句、力を入れるときには歯が肝腎。
選者にも「屈強の歯もて漕ぎ出す青葉潮」の句がある。
歯を矯正して、これで重量挙げの世界新出るかな?
人の句、「大口笑子」は作者の発明だろうが面白い名前。
いかにも傍若無人な女の人を思い浮かべる。
あの歯列矯正の金具を露わに笑われると些か不気味。
佳作。
「ばいきんまん」は勿論例のCM「芸能人は歯が命」のもじり、
言われてみれば
バイキンマンだって虫歯にする歯がなければ存在価値がなくなる。
「ドラキュラ」、狼男もあったが歯と言えば定番の発想か。
女性ものではルパン3世の「峰不二子」と「モナリザ」。
そう言えば峰不二子の泣いたシーンはなかったかも。
「間の悪き」「団子屋の」という食べ物シリーズもある。
「フォーク並び」の何とも言えぬおかしさ。
【選者詠】
歯列矯正の日口開かねば美人なり 仲 寒蝉