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記念日俳句(2005.1.1〜12.31)

里俳句会と日本記念日協会がジョイントして
1日1記念日名を詠み込む俳句を大募集。

天地人と並7句に選者吟およびコメントを
このページに発表していきます。

応募は、ルールページから投稿ページへとお進み下さい。
ご質問や連絡事項は、記念日俳句茶屋(BBS)にてお願いします。

主催:日本記念日協会里俳句会
後援:17.com


選評の発表は終了いたしました。
  Date: 2005年12月31日 (土)

只今をもって、記念日俳句選評の発表を終了いたします。
一年間の御参加、御協力に深く感謝申し上げます。
一月いっぱい、茶屋にて終了茶話会を行っておりますので、どうぞお立ち寄り下さい。
ありがとうございました。        主催者 選者一同

12.31:ニューイヤーズイブ          島田牙城選
  Date: 2005年12月31日 (土)

【天】
ニューイヤーズイブ各自プチプチシートもて  信治
【地】
ニューイヤーズイブを旅せる荷や荷や荷  緋色
【人】
ニューイヤーズイブ掛け取りを木戸の外 媚庵
【佳作】
ニューイヤーズイブ思へばいつもイブだらけ 青榧
ニューイヤーズイブやはるばる資治通鑑  中村安伸
ニューイヤーズイブ久遠の夜を手に掬ふ  丹羽まゆみ
ニューイヤーズイブ貫くステッキのようなもの  淡々
ニューイヤーズイブやごろごろ猫の喉  櫂未知子
ニューイヤーズイブに買う草鞋カツレツ  望月暢孝
ニューイヤーズイブ頭掻きつつサンタの来  紅椿
【選評】
>新年の前夜のこと。クリスマス・イブのように前夜に行う催事のひとつだか、
>最近は24時間オープンのコンビニエンスストアなどで客寄せのために行うケースが目立つ。
と。
あっ、そうなんだ、12月31日のことをいうというよりも、
>前夜に行う催事のひとつ
で、検索を掛けてみたところ、あるはあるは、
ニューイヤーズ・イヴ・セレブレーション2006(東京ディズニーランド)
ニューイヤーズイブクルーズ(地球の歩き方)
ニューイヤーズ・イヴ・コンサート(ウィーンフィル)
ニューイヤーズイブパーティー(パレスホテル)
……
大昔、横浜スタジアムでのサザンオールスターズの年越しコンサートを取材
(取材対象は、出演のスーパーエキセントリックシアターの方ですけれど^^)
したことがありました。その時のカウントダウンはすさまじかったなぁ。
ああいうのを、ニューイヤーズイブというのでしょうか……
ただし、記念日名なのですから、「催事」と取るよりも、
その催事を行う「日」という時空の広がりがやはり欲しいなとは思います。
記念日俳句最終日、いい句が多くて困りました。
消去法で、いかにも大晦日というのを外して行くと、
変な句ばかりが残りました。
落とした句より……泣いてもらった理由など……
  目隠しで三歩歩みぬニューイヤーズイブ  谷口純子
これなど、入選にしたくなるような句で、選者が違えば天かも知れませんね。
ただ、僕などひねくれ者ですので、その先の「光」、というのを感じてしまって、
作者の狙いが見えてしまうのです。
  ニューイヤーズイブ同じところを見ていたね  瑞恵
まっとうな句で、一旦は佳作にいれたのですが……
  ニューイヤーズイブ深酔いも良し  正美
正美さんは毎日が深酔いですので……
  A4の君B6の我ニューイヤーズイブ  大西龍一
これは、何なのか、ちっとも分からなかったのです。
  ニューイヤーズイブ未来へ翔ける美少年  みずき
  てのひらは未来のかたちニューイヤーズイブ  きみえ
  明日からわたくしらしくニューイヤーズイブ  やや
  ニューイヤーズイブあした見る夢叶ふ夢  雪うさぎ
  ニューイヤーズイブあたらしき朝を待つ  春畑 茜
  新メニューいろいろニューイヤーズイブ  まなぶ
この辺りは発想が似てますね。
手を変え品を変えなのですが、「夢」「明日」「新」は言わぬが花でしょう。
  記念とふ墓碑に雪降るニューイヤーズイブ   園を
これは気持ちはすごく分かるのですが、理屈が勝ってしまったような……
  ニューイヤーズイブの会社勤め  二健
単刀直入。ただ、僕も今事務所にいて、身につまされて……
  ニューイヤーズイブ死出の山のこちら側    寒蝉
ああ、生きているという実感なんだろうけれど、ちょっとまだるっこい……
  泡上へ上へとニューイヤーズイブ   月野ぽぽな
うーん、惜しい。語呂が……
  年越しの蕎麦まのびするニューイヤーズイブ  ほにゃらか
年越し蕎麦は付き過ぎでしょう……
  ニューイヤーズイブを徳利酒とせり  島田牙城
あっ、僕も正美さん同様、深酒句でした……
  ニューイヤーズイブお節とおそばと誕生ケーキ  あまっとう♪
え、あまっとう♪さん、おめでとうございますーーー
  ニューイヤーズイブコンビニ弁当にポチ袋買ふ  流鬢力
うん、わびしい大晦日だ……
  ニューイヤーズイブそつと仕舞ふ玉手箱  坂石佳音
開けてはいけません。仕舞っておきましょう……
  ニューイヤーズイブ五円玉握りしめ   百花
二年詣りだと判ってしまって……
次に佳作を……
  ニューイヤーズイブ思へばいつもイブだらけ 青榧
勿論クリスマスイブの直後ということもあるのでしょうが、
今日とはいつも、明日のイブだという思いもあるのだと思います。いいなぁ、こういう思い。
  ニューイヤーズイブやはるばる資治通鑑  中村安伸
資治通鑑って、中国中世の歴史書ですよね。(検索しよっと)
そうそう、編年体の歴史書。司馬光さんが書きました。
なんとも壮大、時を越えるダイナミズム。
  ニューイヤーズイブ久遠の夜を手に掬ふ  丹羽まゆみ
「久遠の夜」という言葉にころっとやられました。「死」のことかと思うと、闇も極限の黒なのかもしれません。
  ニューイヤーズイブ貫くステッキのようなもの  淡々
これ、「去年今年貫く棒のごときもの  虚子」の100パーセントパロディの英語版。
天晴れであります。
  ニューイヤーズイブやごろごろ猫の喉  櫂未知子
この飛び具合というか、日常というかが、素敵な加減にほのぼの感を出しています。
同じ言葉でも、達人が使うと実感が宿るという例でしょうね。
「ごろごろ猫の喉」なんて、このオノマトペは余りにも常識的なのに、
ちゃんとこの句では世界を獲得してますもの……
  ニューイヤーズイブに買う草鞋カツレツ  望月暢孝
大きかったんだろうなと、
  ニューイヤーズイブ頭掻きつつサンタの来  紅椿
これ、笑えますよね。「遅れてごめん、まぁ、今日もイブらしいから、許してね」なんてね……
で、天地人ですね。これで、選評書きも終わってしまうのですね。
本当に最後に残った三句なんですね。
【人】ニューイヤーズイブ掛け取りを木戸の外 媚庵
これ、「大年」「大晦日」はたまた「去年今年」なんていう季語だったら、
どうでもいい句なんです。絶対「ニューイヤーズイブ」の英語の響きでないといけないんです。
媚庵さんの心憎い計算です。
【地】ニューイヤーズイブを旅せる荷や荷や荷  緋色
下五がなんともいいなぁ。多くの荷物を思わせるだけでなく、
「にやにや」と笑っている旅人の表情から、
この一年の充足感と来年への期待感までが伝わってくるじゃないですか。
【天】ニューイヤーズイブ各自プチプチシートもて  信治
そして、オオトリはSMAPならぬ、信治さんにつとめて頂きましょう。
プチプチシートを持って年を惜しみ、年を跨ぐ……、
世界中の人がプチプチシートを鳴らしながら、新しい年を迎える。
サザンの桑田さんに教えてあげたいなぁ。
彼ならきっと採用するでしょうね。
年越しコンサートのカウントダウンで、五万観客とステージの皆が、
プチプチシートを鳴らしながら
カウントダウンしている図……
ウーン、平和だなー。
記念日俳句に関わって下さった全ての方と、
世界中の一人ひとりと、
宇宙全体の全ての生き物が心豊かな年を迎えられますように……
さようなら、みなさん。
そして、また会いましょう。
ありがとうーーーーー
よいお年を……。
【選者吟】
ニューイヤーズイブだね妻よありがとう  島田牙城

12.30:地下鉄記念日          島田牙城選
  Date: 2005年12月30日 (金)

【天】
征夷大将軍地下鉄記念日  谷口純子
【地】
地下鉄記念日初優勝を噛み締める  春畑 茜
【人】
認印拭う地下鉄記念日よ  二健
【佳作】
勘三郎せり上がりくる地下鉄記念日  紅椿
地下鉄記念日ゆりたちのぼるあうろらよ  信治
地下鉄記念日湧きあがる濃厚牛乳  中村安伸
地下鉄記念日もぐらの蒼い瞳がひらく  やや
平安京埋もるる街の地下鉄記念日   流鬢力
地下鉄記念日少し時空の歪みたる  雪うさぎ
地下鉄記念日トーシューズの忘れ物  きみえ
【選評】
>1927年(昭和2年)の今日、
>日本で初めての地下鉄が東京の上野〜浅草間2.2キロで開通したことに由来する。
>1925年(大正14年)9月の工事開始から2年3か月で完成したこの地下鉄は、
>もの珍しさもあって、この日一日で10万人に近い人が乗車したとか。料金は10銭均一。
と。
今日はいい句が多かった。
昨今、媚庵さんと信治さんが気の合うことを認め合っていたいたけれど、
媚庵さんはもともとは寒蝉さんともお友達だった。
それを証しするのが、次の二句(選としては「見え見え」を理由に落としたけれどね)。
  地下鉄記念日三球・照代永遠に 媚庵
  どうやつて入れたんでせうね地下鉄記念日    寒蝉
お友達でも、句柄はがらっと違っている。
「永遠に」と恥ずかしげもなく言ってのける媚庵さんと、
科白をどうどうと引用して、あとは知らんぷりの寒蝉さん。
で、僕は、
  地下鉄記念日茶の花を見て飽きず  島田牙城
という句を出しておいた。これには裏があるので、御存知ない方のために、一言注釈を……
昨年の今日、僕のお友達の田中裕明くんが死んだ。
彼には師の波多野爽波と和した茶の花の句がある。
  茶の花のするすると雨流しをり  爽波
  茶の花のうへの雨粒よく見ゆる  裕明
ほかにも茶の花の句がいくつもあるものだから、
僕が勝手に裕明の死んだ日を「茶の花忌」と命名したのだった。
まぁ、そういうこと。
話は替わって、純子句の「征夷大将軍」、
もちろんこれは、お江戸に登場した地下鉄を見立てたものだろうけれど、
僕には、京都四条大宮の駅前がさーっと広がった。
地下鉄(阪急電車が隣の西院駅の手前から地下に潜るもので、京都市営地下鉄とは別)を上がると、
「大将軍」という娯楽ビルの大看板が目に入るのだった。
また、坂上田村麻呂の行進と地下鉄、僕にはじつにロマンティックなのだ。
田村麻呂が東征に出発したのは、平安遷都直前の十年間だけ都のあった、長岡京。
僕が生まれ育った家が、長岡京の中心地にあった。地名はなんと大極殿。
田村麻呂は、若いころの僕のヒーローだったのである。
(後々、蝦夷…えみし…を考えるようになって、田村麻呂の僕の中での位置は反転するのだが……)
地の茜句、彼女のことだからサッカーだろうけれど、
初優勝としか書かれていないのだから、何でもいいわけだ。
大会会場を後にして、友とも分かれ、独り帰路についた地下鉄のなかで、
噛み締める初優勝の味。うん、いい味だ。
二健さんの認印は、滑稽の極み。
掛乞に迫られて、借金延長の印でも押したのだろうか……
【選者吟】
地下鉄記念日いつまでも妻である  牙城

12.29:清水トンネル貫通記念日          島田牙城選
  Date: 2005年12月29日 (木)

【天】
清水トンネル貫通記念日つららのこゑ   月野ぽぽな
【地】
晴れてゐた手を振つてゐた清水トンネル貫通記念日  春畑 茜
【人】
耳かきが終はりて清水トンネル貫通記念日  まなぶ
【佳作】
アリバイの崩れて清水トンネル貫通記念日  雪うさぎ
清水トンネル貫通記念得たりや応と蛇の列  望月暢孝
清水トンネル貫通記念日ちくわぶがおいしい   百花
清水トンネル貫通記念日だつてねえ栃木の生まれよ  信治
清水トンネル貫通記念日味噌汁を熱くする 園を
清水トンネル貫通記念日目には目を! 媚庵
米よし水よし清水トンネル貫通記念日  坂石佳音
【選評】
>1929年(昭和4年)の今日、
>群馬県と新潟県の境にある上越線清水トンネルが貫通した。
>全長9.7キロのトンネルの貫通で、
>信越線回りだった新潟〜上野間は4時間も短縮された。
>このトンネルのうち1.6キロはループ式と呼ばれるもの。
僕はこのトンネルは通ったことがあるのかないのか……
記憶を手繰るが、ないように思う。
大清水トンネル(新幹線)は何度かお世話になった。
こちらは22.22kmとやたらと長い。
在来線には乗ったことはなさそうだ。
だから、ループを知らない。
天のぽぽなさん、単純に美しい。
何にだって「こゑ」を聞きたがるのが詩人。
幻視・幻聴はお手の物。
僕の住む佐久もここのところ連日マイナス10℃を下回っている。
谷川岳は、トンネルの中も外も凍り付いていることだろう。
地の茜さん、過去形がなんともレトロ感を醸し出していていいなぁ。
人のまなぶさん、すっきりと笑えた。
いよいよ数へ日、残すところ今日を入れても三日しかない。
今年を振り返ると、まぁ、いろいろありました。
2005年というトンネルを抜けても、
新たな2006年というトンネルを掘ることになる。
時にはトンネルの中でループしてみるのもいいかもしれませんね。
【選者吟】
清水トンネル貫通記念日妻は何処?  島田牙城

12.28:ディスクジョッキーの日          島田牙城選
  Date: 2005年12月28日 (水)

【天】
ディスクジョッキーの日の四隅に裸武者       中村安伸
【地】
さらば青春、さらばディスクジョッキーの日よ    媚庵
【人】
その恋は過去完了形ディスクジョッキーの日     春畑 茜
【佳作】
ディスクジョッキーの日の乾杯          二健
巨泉とはおおきな泉ディスクジョッキーの日    谷口純子
ディスクジョッキーの日リクエストは涅槃     月野ぽぽな
若かりしちちははの小言ディスクジョッキーの日  緋色
ディスクジョッキーの日の黒板消         信治
ドーナツの「完売御礼」ディスクジョッキーの日  紅椿
爪研ぐ響きやディスクジョッキーの日       櫂未知子
【選評】
>日本で最初の本格的なディスクジョッキーとして活躍した糸居五郎氏を称え、
>氏の業績を偲び、DJ界の発展を願って、
>氏の命日(1984年12月28日)を記念日に制定したのは「ラジオプレス」の上野修氏。
うーん、僕は深夜放送を聞かなかったから、お名前は存じていても、実際を知らない。
よって、選しにくいよー。
あるサイト
http://homepage1.nifty.com/k-oasis/radio/itoi.html
で、「オールナイト・ニッポン」のオープニングの糸居さんのコメントが紹介されていました。
>Hi!
>夜更けの音楽ファンこんばんは。朝方近くの音楽ファンご機嫌いかがですか。
>君が踊り、僕が歌うとき、新しい時代の夜が生まれる。
>太陽の代わりに音楽を、青空の代わりに夢を。
>新しい時代の夜をリードする、オールナイト・ニッポン、Go Go Go!
うーん、時代を感じるなぁ。
この時代感が出ているのは、媚庵さんですね。
糸居さんの命日ということもきちんと踏まえられています。
天に据えた中村さんの句、
もちろん DJは昼間だって働くのでしょうが、
糸居さんに代表されるのは深夜放送。その闇の中で、
唯一煌煌と灯る四角い小部屋ので、
黙々と話し続けるDJという稼業の因果を物語って秀抜です。
人の茜句はいかにも女性らしい。
この恋もまた、媚庵句同様、時代がかって見てしまうのは、
ぼくが年をとったからでしょうかね……。
こう見てくると、秀句の揃った記念日でした。
【選者吟】
回るなディスクジョッキーの日の妻よ   島田牙城

12.27:ピーターパンの日          島田牙城選
  Date: 2005年12月27日 (火)

【天】
揺れやまぬ鞦韆ピーターパンの日を     丹羽まゆみ
【地】
万札は小銭になりぬピーターパンの日    大西龍一
【人】
父さんはポニーには乗れぬピーターパンの日   流鬢力
【佳作】
家中の時刻が狂ふピーターパンの日      園を
ピーターパンの日錆び付いている肥後守    望月暢孝
ピーターパンの日大事なものは瓶の中     月野ぽぽな
ピーターパンの日セロファンの仮面です    中村安伸
出ておいでピーターパンの日は池から     信治
鰐鮫と鵺とピーターパンの日よ         媚庵
緞帳をひねもす繕うピーターパンの日     緋色
【選評】
>1904年の今日、
>イギリスの劇作家ジェームズ・バリーの童話劇「ピーター・パン」が
>ロンドンで初演されたことによる。
>少年ピーターと少女ウェンディの物語は、日本でも人気が高い。
僕にとってのピーター・パンは、ディズニー漫画だけれど、他にもいろいろあるのだろう。
榊原郁恵だったかが演じたのもそうだったか……。あんまり自信はない。
鞦韆をもってきた丹羽さん、
鞦韆が春の季語ということは、この際無視した。
子どもが自分だけの力で空中の浮遊感を感じられるものといえば、
ブランコを置いてないだろう。
ピーター・パンのように空を飛べたら、というはかない願望を、
この揺れやまぬ鞦韆はがっちりと受け止めているようだ。
その上、このブランコ、人なり子供なりの存在感が稀薄なんだ。
誰も乗っていないブランコ、風にゆらゆらと揺れているブランコが、
ホラーファンタジーのようでもある。
ところで、ファンタジーは所詮ファンタジー、
夢なんて醒めるためにあるのさと言わんばかりの龍一句も、
大人の目が見たこの日への諧謔を込めた皮肉。
流鬢力さんの句にも龍一句と同じような匂いがある。
結局、こういう二句を採る僕自身が、
すでに子供心を喪失したすれっからしということなのだろうね……
【選者吟】
ピーター・パンの日ヘディングに挑む妻  島田牙城

12.26:プロ野球誕生の日          島田牙城選
  Date: 2005年12月26日 (月)

【天】
ひさかたのあゝプロ野球誕生の日   月野ぽぽな
【地】
床下に太子の眠るプロ野球誕生の日  紅椿
【人】
十二支をそろえてプロ野球誕生の日 青榧
【佳作】
ガリバーの左手の中プロ野球誕生の日  やや
プロ野球誕生の日物干し竿に日章旗  望月暢孝
プロ野球誕生の日や鹿脅し  二健
プロ野球誕生の日白線上に五円玉  きみえ
プロ野球誕生の日卓袱台に味噌汁  坂石佳音
球で木を叩きしプロ野球誕生の日  信治
プロ野球誕生の日の香港焼き蕎麦 櫂未知子
【選評】
>読売ジャイアンツの前身で日本初のプロ野球球団「大日本東京野球倶楽部」が
>1934年(昭和9年)の今日、誕生したことに由来する。
>沢村栄治、スタルヒン、三原脩、水原茂ら、そうそうたるメンバーであった。
佐久は夜中に雪が降ったようで、朝、5cmの積雪でした。
早速学校に行って、雪掻き。
授業が始まり誰もいなくなった生徒昇降口の前を通ると、
直径1mほどでしょうか、
掻いた雪が解けた後に凍ったようで、てかてかと光る部分があり、
「あらら、もう凍っているじゃん」と、
その上を踏んだ直後、
「あっ!!!」
したたかに尾骶骨を打ち、支えようとした両手首を捻挫してしまったのでした。
遅くまで雪を掻き続けていた野球部の一人に、しっかと見られてしまいました……。
あの野球部員も、はかないと知りながらプロ野球入団の夢を追っているのかも知れません。
このムシャクシャした気持ちのままに選句したもので、
どうにも意味のとれない三句を天地人に据えることになりました。
なにがどう「ひさかたのあゝ」なのか、
床下に眠る太子って、どうこの日と結びつくのか、
12という数字と九人でやる野球の関係って何?
と、なんにも解らないままなのですが、佳作の七句と較べてみてください。
佳作の七句は、それなりに出来ていて、その上に何か言いたげなのです。
アホらしさ、という点で、天地人三句は佳作七句より上位だといえます。
もう一つ考えました。
材料の数です。
「プロ野球誕生の日」が5・6音なものですから、
そのうしろに「の」「は」「や」などを据えてあと、一つの名詞を置くという造りになさった方が圧倒的でした。
星飛雄馬・戦国自衛隊・英単語・煤払ひ・擦りガラス・三下り半・空っ風
と。
佳作にした中にも、
鹿脅し・香港焼き蕎麦
があります。
材料・道具が一つなんですね。
もちろんそれぞれに悩みぬいた工夫はあるのでしょうが、
一つなものだから動きがないんです。
「鹿脅し」はそれ自体が動いて延々と続くバットの素振りを思わせる愉快があります。
「香港焼き蕎麦」もまた、道具が一つのように見せてありながら、
「香港」「焼き蕎麦」と二つだから読者の心に微妙な揺れというか波というかを作ってくれます。
それ以外の、一つの名詞をぶつけるという造りは、
うーーーーん、よほどディープなインパクトがないと、
最終的に2位にあまんじるのではなかろうかと、
かく言う私も、投稿した作品は「黒づくめ」
と、一つの名詞をぶつけた失敗作でした。
それにしても、ぽぽなさんの「あゝ」が、
プロ野球っぽいのですよ。
【選者吟】
南海ダイエーソフトバンクやプロ野球誕生の日の妻は  牙城
(もう、やけくそですね)

12.25:クリスマス          島田牙城選
  Date: 2005年12月25日 (日)

【天】
すぐ前を獣歩めりクリスマス  信治
【地】
肉球を転がすメリー・クリスマス 園を
【人】
寅さんが打ちし柏手クリスマス  紅椿
【佳作】
クリスマス雪吊るほどの枝もなし  みずき
つぎつぎとお皿を洗うクリスマス   月野ぽぽな
粉末の花を求めてクリスマス  中村安伸
星の名を教へてもらふクリスマス  きみえ
いつのまに寝入りしほつぺクリスマス  坂石佳音
犯人はKか田中かクリスマス  大西龍一
三毛猫と鰺わかちあふクリスマス 櫂未知子
【選評】
>キリストの降誕の日とされる。
>紀元400年頃から行われるようになったといわれ、クリスマスツリーを囲み、
>プレゼントの交換などをして喜びを分かち合う。
>日本には宣教師フロイスによって1565年(永禄8年)頃、
>京都に伝えられたという。
と、記念日協会HPにある。
http://www.kinenbi.gr.jp/
そうなんだ、まだ1600年の歴史しかないんだ、
なんだか3000年も4000年も前からクリスマスは続いていたような錯覚が僕にはある。(^^)
さて、記念日俳句も残すところ7日になった。
残りの7日は僕の選。宜しくお付き合い下さい。
先ずは、信治句を天に据えた。
俳句はなるべく具体をしっかり表現しましょうと、入門書にはあるはずだ。
(はずだというのは、入門書を読んだことがないからだ)
すると、この「獣」は普通には曖昧だとして退けられることになる。
犬なのか、猫なのかはっきりせよ! という訳だ。
しかし僕には「獣」が面白かった。
クリスマスとくれば、鳥なら七面鳥、獣ならトナカイと相場が決まっている。
そこへ犬なり猫なりを持ってくれば、トナカイと対比させようとする狙いが透けて見えることになり、
嫌味になりかねない。
「獣」とぼやけさせたので、読者は立ち止まり、なんだなんだと吸い込まれることになる。
作者が「獣」としか言っていないのだから、あとは読者よご自由に、だ。
気高い振りをしているシャム猫あたりを歩かせてみると銀座か六本木の景が広がり、
猪突猛進のイノシシを歩かせたら、険しい山野の原人のような毛むくじゃら男が見えてくる。
この、読者を遊ばせる仕掛けとしての「曖昧」を是とする。
園をさん、肉球は猫の足裏の丸みのことだそうだ。独りだけのクリスマスなのだろう。
紅椿さん、神社とキリストだけれど、寅さんだから嫌味なく笑える。
みなさん、メリー・クリスマス!
枕元にプレゼントはございましたか?
【選者吟】
CDに妻の寝相をクリスマス  島田牙城

12.24:クリスマスイブ          宮崎二健選
  Date: 2005年12月24日 (土)

【天】
クリスマスイブの穴開き硬貨かな  島田牙城
【地】
クリスマスイブ片足を配りけり  百花
【人】
クリスマスイブやエイズの子は眠り  園を

【佳作】
クリスマスイブ藁の中にいたかった  雪うさぎ
麺すする夜勤の部屋よクリスマスイブ  大西龍一
木刀をひた降るクリスマスイブなれば  信治
哲学の入門書読むクリスマスイブ  正美
仏門系幼稚園のクリスマスイブ  流鬢力
小さき手の跡クリスマスイブの窓  坂石佳音
沈黙が灯を点すなりクリスマスイヴ  寒蝉

【選評】キリスト降誕の前夜祭。本来は欲望を満たすのが目的の日ではない。
他教徒の祭りに安ロマンを感じ、俄信者となったかのように浮かれるなど、
本末転倒の極みは正に滑稽そのもので、そういった諧謔のある句を上位とした。

これをもって私の記念日俳句の選は終わらせて頂くことになる。
お陰様で多大な収穫が得られ感謝この上ない。よいお年を。

【天】牙城氏、付き過ぎず、甘からず、無駄なく、難しからず、浅からず、端的。
【地】百花氏、サンタの靴下プレゼントなのだが、こう言われるとミステリアス。
【人】園を氏、平和な巷を他所に、世界では深刻な事態に陥っていることを知る。

【佳作】
・雪うさぎ氏、相対的にそうありたい場合もありうる。
・龍一氏、質素に勤しむのが前夜祭の全うな過ごし方。
・信治氏、質実剛健、いざ有事に備えるに相応しい夜。
・正美氏、蛍雪の徒に祝福あれ。人は如何に生きるか。
・流鬢力氏、神仏習合、園児集合、クリスマスケーキ。
・佳音氏、お風呂場の水滴の着いた窓に思いを馳せる。
・寒蝉氏、付き過ぎを否めなくもないが本来のその日。

【選者吟】
カカオフィズ先ず利食いクリスマスイブおかか  二健

12.23:天皇誕生日          宮崎二健選
  Date: 2005年12月23日 (金)

【天】
天皇誕生日の押しくら饅頭  正美
【地】
スプーンはコップに入れて天皇誕生日  やや
【人】
螺子を巻く時計天皇誕生日  月野ぽぽな

【佳作】
外套の傷みたしかめ天皇誕生日  緋色
線は太く描いた天皇誕生日  瑞恵
天皇誕生日畳テレビ炬燵  坂石佳音
冬休み微妙に天皇誕生日  ほにゃらか
天皇誕生日冬休み中かと宣える  望月暢孝
天皇誕生日まだ白黒の燐寸の火  大西龍一
天皇誕生日はすべつて転ばなかつた  信治

【選評】
言わずと知れた天皇誕生日。昭和天皇と平成天皇とでは自ずとニュアンスが違う。
勿論、お題は現在なので後者のイメージ、あるいはトータルでのその記念日観か。

【天】
正美氏、何とも無邪気で屈託のない好配合。偶然か意図かの17音。
記念日の負うしがらみに関らない情景描写で、返って本質が浮かび上がる。
【地】
やや氏、個人的収納方法と照らし合わせる尊大ならぬ記念日の俳句冥利か。
【人】
ぽぽな氏、人力での時間計測の継続は、正にその記念日の本質に迫っている。
寺山修司の諧謔に満ちた美しい映画のような作品だ。

【佳作】
・緋色氏、私を包み込む外套のあの疵もこの疵も確かに存在する。
・瑞恵氏、そうすることが、精いっぱいのできることであったと。
・佳音氏、ぶっきらぼうに民家の居間の調度品等を提示するのみ。
・ほにゃらか氏、軽率にもハイティーンの流行り言葉での仕立て。
・暢孝氏、温かなお尋ねの通りであるが世間の風は季節柄冷たい。
・龍一氏、「まだ」が作者寄りの意味深なので浅い。具象がよい。
・信治氏、世の中が安定していると、そう容易くは転ばないもの。

【選者吟】
旅鵜余震ダウ呑んで天皇誕生日だ  二健

12.22:酒風呂の日          宮崎二健選
  Date: 2005年12月22日 (木)

【天】
酒風呂の日の摩羅と関東平野かな  園を
【地】
酒風呂の日花を思へば死すとも可  月野ぽぽな
【人】
酒風呂の日や細道の奥のぞく  百花

【佳作】
本名は知らぬままなり酒風呂の日  谷口純子
野っ原にだまされている酒風呂の日  望月暢孝
酒風呂の日は玄関にトナカイが  信治
酒風呂の日を遠ざかる猫の縞 櫂未知子
酒風呂の日緊急人事発令す  大西龍一
酒風呂の日の肉断ちの山籠り  島田牙城
恋なんてぶんぶくちゃがま酒風呂の日  やや

【選評】
酒風呂の日は、日本酒製造の責任者である杜氏と同じ読み方の冬至や、
四季の節目である春分、夏至、秋分の日に「湯治」として酒風呂に入り、
健康増進をはかろうと銘酒「松尾」の蔵元株式会社高橋助作酒蔵店勤務の
高橋邦芳氏が制定したそうな。
酒風呂の日で俳句を作ろうとすると、どうしても酒か風呂にちなんだ
安易な連想事になってしまいかねない。そこを脱した句に触手が動いた。

天の園を氏の男神様と、人の百花氏の女神様に挟まれた地のぽぽな氏の
生死観音の神仏三体を祀り、記念日俳句はめでたく終結を迎える。

【天】
園を氏、金子兜太の名句「最果ての赤鼻の赤摩羅の岩群」や
「暗黒や関東平野に火事一つ」を踏まえ、安易を突き抜けた卑近ものから
広大な景へと視点を移す。終生酒と煙草を喫した同期の原子公平とは対照的に、
それらを控えた健康志向の金子の存命を寿ぐかのよう。大胆で微笑ましい。
【地】
ぽぽな氏、俳壇から過小評価され続けながら2004年に他界した原子公平の
「良く酔えば花の夕べは死すとも可」を巧妙に踏まえた。句集『良酔』の表題と
なる句で、いかにも上戸らしい。西行を踏まえた原句に勝るとも劣らない風格が
あり、相呼応しうるので、エピゴーネンの域を危うきながら超えたと思う。
唯一の難は、原子の作風に敬意を表して、現代仮名遣いにすべきだった。
【人】
百花氏、なにやら意味深な趣があるが「奥」は慎ましき奥様を連想しよう。
芭蕉には「扇にて酒くむかげや散る桜」や「酒飲めばいとど寝られぬ夜の雪」
等と酒の句が結構たくさんある。酒風呂の日なる季語がある現在、古典の
「奥の細道」に思いを馳せれば、それらしき風情もまたありやなし。

【佳作】
・純子氏、裸の付き合いだったつもりでも、知らされていないこともあった。
・暢孝氏、酒が入ると騙されやすい。たとえ野っ原でも気をつけたいものだ。
・信治氏、時期的にありえる光景だ。一風呂浴びているサンタクロースとも。
・未知子氏、「…ざかる」は盛るに通じ「縞」は酔っ払いのトラを思わせる。
・龍一氏、冬至の湯治中の杜氏も、うかうかと長湯はしていられないご時勢。
・牙城氏、湯治場は山中であるが、酒池肉林の驕りは慎まなければならない。
・やや氏、恋は化け物とはごもっとも、しみじみそう思うのも酒風呂のせい。

【選者吟】
酒風呂の日賜ばし旗日呪う今朝  二健

12.21:回文の日          宮ア二健選
  Date: 2005年12月21日 (水)

【天】
雪知らぬ子濡らし消ゆ回文の日  青榧
【地】
やさしさや回文の日の瞳と灯  月野ぽぽな
【人】
回文の日や湯冷めして手締め冴ゆ  百花

【佳作】
フグを食ふ回文の日に臼杵まで  まなぶ
回文の日田舎に何が無い  瑞恵
回文の日は新聞紙から始む  園を
回文の日の帰り道の神隠し  望月暢孝
回文の日虎はバターとなりにけり  紅椿
たこ焼はこんがり焼けた回文の日  淡々
回文の日に回文の句を創る  正美

【選評】
12月21日「回文の日」:上から読んでも下から読んでも同音になる回文。
それを俳句で詠む回文俳句を手がける宮崎二健氏が制定した日。
回文作者にも思いも及ばない語句との出会いをもたらし、
頭の体操にもなると注目を集めている。日付はこの日が数字上で
先からも後からも同じになることから。

皆様に尻を押されていながら、制定申請にまごまごしていたら、
記念日協会のHPの「その他の記念日」として掲載されてしまいました。
このことは、ひとえに熱心なお三方の尽力のお陰で成されました。
日程も込みで提案激奨の淡々氏。先導実行の牙城氏、そして記念日協会HPの
「その他の記念日」の項目に快く掲載して下すった加瀬清志代表です。
その他、里同人の皆様と記念日俳句投稿者方の後押しあって、
回文の日の記念日制定が年を越さずに日の目を見ました。
将来的には、記念日協会認定の記念日になれれば申し分ありません。
そして、只今牙城氏の差し金で、初めて回文の日の選句をさせて頂いており
感無量です。私は手前味噌の「もののふの会」を皮切りに、
「現代俳句協会」「俳句空間―豈」「里」等で、一昔前(1994.10〜)から
回文俳句に拘ってきましたが、よもやこんな形で回文俳句が、
皆様に受け入れられるようになるとは思いませんでした。

今回の投句は、いつもと違う場所の御脳を使われたとみられ、
面白い句がたくさんありました。一句に工夫を凝らして、
回文のフレーズを押し込めた凄技を楽しませて頂きました。
記念日名以外に回文を配して一句を成すという方法には感心しました。
回文句ならではの面白味故に許容される
俳句の禁じ手の崩壊など感じ取れて新鮮でした。
天地人と佳作の第一句は甲乙付けがたい秀作揃いです。
今回の記念日俳句で回文俳人が何人も誕生しました。

  やればできるやらぬは己がやらぬだけなり

【天】青榧氏、動詞が多くて五月蝿いのだが、そこはかとなく哀しさが漂うあたり秀
逸。
【地】ぽぽな氏、上と下の回文フレーズのサンドイッチ仕立てでありながら整合性あ
り。
【人】百花氏、理屈っぽいのだが、天の句にも劣らない無骨さは回文ならではの所産
だ。

【佳作】
・まなぶ氏、動作の回文とトポスの配合が劇的だ。
・瑞恵氏、または「…田舎に大鬼家内」とか妙案。
・園を氏、一日と回文の始めのオーバーラップだ。
・暢孝氏、この日はもののけが出没しそうな帰路。
・紅椿氏、虎はラードからバターへと化けたまう。
・淡々氏、何食わぬ顔した感じの作りが印象的だ。
・正美氏、あまりにも当たり前過ぎるから面白い。

≪異観は番外≫

〔苦心詩句〕
回文の日鶏頭に溶岩(ラバ)薔薇に棘  中村安伸(ルビ残念、読者を信じて)
冬の道行くかただかく一味の言(ゆ)ふ回文の日  緋色(ルビ残念)
回文の日や野卑の分解  島田牙城(文字単位の苦しい回文と造語)
回文の日逆!山羊!否!ノン!V!可!  信治(努力に敬服)

〔それらしさのシラレソ〕
回文の日や干瓢のどこが端  櫂未知子(メビウスのカンピョウか)
回文の日や百歳の寿限無さま  大西龍一(長寿、輪廻、縁起めでたし)
回文の日弥勒菩薩の数珠の玉  やや(百八個の煩悩は俳の栄養素)
回文の日の養老天命反転地散歩  流鬢力(岐阜県養老町の観光の目玉)
メビウスの帯を歩かむ回文の日  きみえ(エッシャーの絵も)
回文の日や地図記号めいてをり  坂石佳音(もう一ひねり欲しい処)

〔存問文書〕
回文の日の産ごゑにちからあり  春畑 茜(人様のお力です)
回文の日山から天狗が降りて来る  寒蝉(実際問題、里へ降りました)
回文の日ブラボー!宮崎二健殿  媚庵(おひねり下さい。某にはベラボーの方が)

【選者吟】
回心から回文の日の羅漢紫衣  二健

12.20:ブリの日       二健選
  Date: 2005年12月20日 (火)

【天】
手繰れブリの日と一日のリフレクタ  月野ぽぽな
【地】
ブリの日の鍋奉行の沈黙  正美
【人】
ブリの日や師を乗り換へる乗り越える  百花

【佳作】
ブリの日や青い背広を礼服に  望月暢孝
ブリの日の琥珀色へと労働者  信治
ブリの日や花屋の前で立ち止まる  園を
ぶりっ子は回遊しているブリの日のブクロ  淡々
ブリの日や出世できない影を踏む  丹羽まゆみ
ブリの日をルーズリーフの落し物  島田牙城
女房はとろりブリの日眠たけれ  緋色

【選評】
魚へんに師と書いてブリ。年取り魚のブリは師走の魚。
そして20日をブリと読む語呂合わせから、この日が記念日と
なっているのだそうだ。
食べ物はもちろん、師や出世にちなんだ連想が多かった。
火花の散る配合を求めるならば、調和を犠牲にしなければ
ならないと思う。天の句の下五はその不調和こそ良い。

【天】ぽぽな氏、撮影目的の漁もまたありなん。
【地】正美氏、五六四という省略による変則型。
【人】百花氏、自然の摂理は鰤も人も違わない。

【佳作】
・暢孝氏、いつもとは違う出立ちの意外性。
・信治氏、労働者よりか労働歌の方を推す。
・園生氏、栄転祝いの花を物色しようかと。
・淡々氏、葬られた流行語とダサい駄洒落。
・まゆみ氏、具体的にはどんな影だろうか。
・牙城氏、ルーズソックスの方が良いかも。
・緋色氏、ブリ大根でも作られてお疲れか。

【選者吟】
行く気ですブリの日のリブステーキ食い  二健

12.19:日本初飛行の日          二健選
  Date: 2005年12月19日 (月)

【天】
日本初飛行の日の売れぬ本ばかり  島田牙城
【地】
日本初飛行の日代々木公園の雪  正美
【人】
日本初飛行の日から白ハンカチ  信治

【佳作】
日本初飛行の日へ階段を踏み外す  みずき
日本初飛行の日最初の人の名を忘れ  百花
日本初飛行の日海に飛び込む猿の群  流鬢力
日本初飛行の日へケチャップの流るる  櫂未知子
日本初飛行の日忘れられたる地底人  大西龍一
生焼けの焼芋憎し日本初飛行の日  谷口純子
アテンションプリーズが待つ日本初飛行の日  まなぶ

【選評】
1910年(明治43年)の今日、徳川好敏陸軍大尉が、東京・代々木練兵場で
フランス製のアンリ・ファルマン式複葉機に乗って、70メートルの
高さで3キロ飛んだ。これが日本初の公式飛行記録とされている。
しかし、その5日前の日野熊蔵陸軍大尉の飛行を最初とする説もある。

〜との解説。
人類は地上生活には飽き足らず、空中、水中、地中にまで
歩を進めて獲物をとりまくる。交通も戦争も獲物をとる手段。

【天】牙城氏、然る思いは、本が飛ぶように売れること。
【地】正美氏、トポスの雪化粧。指し示すのみの強かさ。
【人】信治氏、飛行を成し遂げて幸福ならぬ降伏の宿命。

【佳作】
・みずき氏、一瞬の飛行に肝を冷やしたその日。
・百花氏、初恋の人をお忘れとは認知症の疑い。
・流鬢力氏、投身も飛行、猿ごとではない事態。
・未知子氏、先ずは腹ごしらえをして飛行せし。
・龍一氏、日本の地上人の願望が叶った記念日。
・純子氏、「憎し」はいらないとおもいますが。
・まなぶ氏、「が待つ」がなければ上位入選句。

【選者吟】
日本初飛行の日の鵜媚びつ半歩に  二健

12.18:国連加盟記念日           櫂未知子選
  Date: 2005年12月18日 (日)

【天】
国連加盟記念日ガードレールに烏ゐる  雪うさぎ
【地】
塩払ひ食ふ国連加盟記念日のにぬき  坂石佳音
【人】
豆浸す国連加盟記念日や        園を
【佳作】
国連加盟記念日の京都弁          谷口純子
国連加盟記念日髭の黄身を拭く       信治
国連加盟記念日万国旗ひとつ増え      寒蝉
国連加盟記念日を刷く月・エナジー     みずき
国連加盟記念日男にも婚嫁         百花
国連加盟記念日ごはん一面にふりかけ    月野ぽぽな
国連加盟記念日いささか息切れし      ミキ
【選評】
この記念日、つきすぎになると新聞川柳のようになります。
こういう記念日は、さらっと、「一見関係ないかも」
という雰囲気を漂わせたほうが逆にいいようで。
原爆忌・敗戦忌等も同様です。
「幾千の命尊し敗戦忌」といった句を、
私は地方大会の選句でずいぶん目にしました。
「投句した人達も選者達も
 この記念日(季語)の意味をちゃんとわかっている」
という信頼を持ったほうがいいように思います。
【天】の雪うさぎさん、無意味な景。そこがいい。
【地】の坂石佳音さん、〈にぬき〉ってゆで卵のことなんですね。
また一つ、言葉を教えて頂きました。
【人】の園をさん、豆は水に浸せば思い切りふくらみます。
そして、その後、ゆっくり煮る過程を経ます。
そういったごく日常的な行為と
この記念日を結び付けたところに面白さがあります。
そしてこれは、他の、普通の季語を用いた句でも
応用できることでしょう。
【佳作】のミキさん、〈息切れ〉は
記念日俳句の投句を指しているのでしょうか。
選者は息切れできないのが残念(?)です。
それでは皆様、私の担当はここまで。
またお会いしましょう。
(猫友になってくださるかたは別途お付き合いしましょう。)
【選者吟】
国連加盟記念日猫と刺身を分かち合ひ  櫂未知子

12.17:ライト兄弟の日         櫂未知子選
  Date: 2005年12月17日 (土)

【天】
曾我兄弟工藤兄弟ライト兄弟の日     媚庵
【地】
ネクタイをライト兄弟の日に結び合ふ  信治
【人】
両国に四股踏む音やライト兄弟の日    園を
【佳作】
波も風も二倍のライト兄弟の日        ミキ
ライト兄弟の日食ひ違ふ回顧録        春畑 茜
ライト兄弟の日重さうな叶姉妹        青榧
金色の地面ありけりライト兄弟の日      大西龍一
酒池に刺すライト兄弟の日の翼        島田牙城
水門のゆつくり開くライト兄弟の日      きみえ
ライスカレー好きかとライト兄弟の日     まなぶ
【選評】
過日、航空機発達の歴史を描いたテレビ番組を見て驚きました。
ライト兄弟が飛行に成功して以後、
あっという間に航空機は高性能になったのだと知ったからです。
つまり、1分も飛べなかった兄弟の飛行から
本格的な実用化までの道のりは本当に早かった、
これにはびっくり(戦争が起きて実用化が急がれたからだとか)。
【天】の媚庵さんの句、
いろいろな〈兄弟〉がいるなあ、と思わされて
(クドウ兄弟はマジシャンでしたか?)。
姉妹だと、ブロンテ姉妹か叶姉妹ぐらいしか思い出せないかも。
【地】の信治さん、何やら
菊花の契りのキョウダイという感じでいやらしげで素敵。
【人】の園をさん、若貴等へ直接結び付けず、
少し外したところがうまい。
【佳作】の島田牙城さん、ちょっと凝り過ぎなので、
どうかもっとあっさり路線へ行ってください。
私は姉妹の中で育ったため、男の子、
そして兄弟とはどういうものなのかよくわかりません。
以前は茶トラの雄猫を飼っていたけれど、
その子は大変気難しかった。
今度の三毛は(三毛ですから当然)女の子です。
気は強いけど育てやすいですわ。
【選者吟】
またたびを舐めもしライト兄弟の日 櫂未知子

12.16:電話創業の日          櫂未知子選
  Date: 2005年12月16日 (金)

【天】
電話創業の日霊界大辞典      大西龍一
【地】
着信に光りだす人々よ電話創業の日 雪うさぎ
【人】
電話創業の日やイタコのこゑがする 媚庵
【佳作】
電話創業の日の海鼠の散歩        正美
そちらでも電話創業の日でせうか     信治
砂の音風の音せり電話創業の日      春畑 茜
電話創業の日キタキツネのこと      月野ぽぽな
電話創業の日わが名に愚痴のある     谷口純子
街中のボックス消える電話創業の日     やや
電話創業の日「まうすまうす」と照れ申す  ほにゃらか
【選評】
電話にぴったりついた句が多かった記念日でした。
作りやすそうなのに内容の幅が狭いというか、
あまりふくらみのない記念日のように思えます。
【天】の大西龍一さん……………
と点々々を書くしかないほどに、
この句を見た時には呆れました。
これはあの世の人を呼び出すのでしょうか。
発想そのものはよくありそうですが、
いきなり〈霊界大辞典〉をどしんと置いたところが大変おかしい。
【地】の雪うさぎさん、これはつきすぎの句ではある。
しかし、〈光りだす人々よ〉に惚れました。
切なさがありますよね。
【人】の媚庵さん、これは大西龍一さんの句と
内容はつながりますが、なんともまあ、大胆で
 (媚庵さん、このところ好き勝手やってますねえ!)。
この系譜につながるのが【佳作】の信治さんの句。
信治さんの場合は、のんびりした明るさが持ち味ですね。
月野ぽぽなさんの句、ほほえましい。
谷口純子さん、私は深〜く悩みました。
「名前に愚痴が???」と。
でも、よーく読むとタニグチですからちゃんとグチが……
めまいがしました。
【選者吟】
猫は足を齧るのが好き電話創業の日  櫂未知子

12.15:観光バス記念日           櫂未知子選
  Date: 2005年12月15日 (木)

【天】
東塔から西塔まで観光バス記念日  中村安伸
【地】
波の華さく観光バス記念日     正美
【人】
白鳥の喉の長さや観光バス記念日  園を
【佳作】
観光バス記念日の砂あらし        みずき
観光バス記念日うるはしき六十代     百花
観光バス記念日仁丹鳴っている      月野ぽぽな
観光バス記念日お腹いつぱい海を見て   きみえ
雨あがる街にしやちほこ観光バス記念日  春畑 茜
観光バス記念日右手には中指        媚庵
観光バス記念日のクレバスまで走る     緋色
【選評】
天地人、ほとんど差が無し。
【天】の中村安伸さん、うーーーん、憎い句ですね。
さらっとしているようでよく考えられています。うまいなあ。
【地】の正美さん、リズムがとてもいい。
寂しいようなおマヌケのような味わい。
【人】の園をさん、首といわず〈喉〉。
ハッとさせられました。首より色気がありますね。
【佳作】のみずきさん、湾岸戦争のような、
中近東の旅のような……あまりにあっさりしているのでかえって目立ちました。
百花さん、そう、〈六十代〉からが本当の人生の華かも、と大いに共感。
春畑 茜さん、「めでたい!」の一語に尽きます
 (私にとってシャチホコってそういうイメージなのですが)。
そういえば、猫がシャチホコ齧ってるCM、
もう一回やってくれないかしら。
媚庵さん、最初、ちょっとわからなくて。
ああ、「皆様、右手に見えますのは…」をひねってあるんですね。
「右手には…なんだ、中指じゃないか」。
ファックユーにもかけてあるかな。
【選者吟】
鞄から煎餅茹で卵白菜漬のど飴観光バス記念日  櫂未知子

12.14:南極の日 櫂未知子選
  Date: 2005年12月14日 (水)

【天】
くわあと欠伸南極の日の竈猫  坂石佳音
【地】
一歳のケーキに灯す南極の日  百花
【人】
南極の日の脱脂粉乳冷めている 青榧
【佳作】
南極の日やオーバーの釦付け     谷口純子
南極の日匁尺貫キロガロン      大西龍一
四十七羽の行進南極の日       紅椿
南極の日や阿蘭陀の人形師       媚庵
モノクロのニュース解説南極の日    園を
南極の日おおきなスケッチブック買う  緋色
午後から薄日南極の日の本所松坂町   淡々
【選評】
シンプルな名の記念日のせいか、面白い句が並びました。
選外ですが、〈南極の日駱駝の背に荷を積んで 望月暢孝〉
〈南極の日やシーソーに日が滑り きみえ〉等もいいな、と。
つまり、入選と選外とでそれほど差のない記念日だったことになります。
【天】の坂石佳音さん、まこと、
猫の大欠伸は見ていて恥かしくなるほどでして……
猫の「恐怖のマイペースぶり」がよく出ています。
ワンちゃん達は橇まで曳くというのに、猫は毛づくろいがせいぜい。
【地】の百花さん、ふっと心があたたまるような句。
あ、一歳ってやっぱり蝋燭は一本なのでしょうか。
【人】の青榧さん、どこか遠くを見ているまなざしが感じられました。
〈脱脂粉乳〉をここに持ってきたのは何気なく意外。
【佳作】の大西龍一さん、
尺貫のみならず、〈キロガロン〉まで。
ついでにオンスパウンドまで手を広げたいところ。
紅椿さん、同日の討ち入りと組み合わせちゃいました。
これ、ペンギンでしょうか。
淡々さん、この入り組んだ句……尋常ならざる凝り方です。
媚庵さん、最初、「人形師と関係があるのかなあ」と悩みましたが、
おお!南極の友・ダッチワイフじゃありませんか!
そのうちにこの日は「ダッチワイフの日」になるかもしれませぬ。
【選者吟】
南極の日のミルクをなめていいぞよ  櫂未知子

12.13:正月事始め・煤払いの日 櫂未知子選
  Date: 2005年12月13日 (火)

【天】
正月事始め・煤払いの日の手ぶら     きみえ
【地】
正月事始め・煤払いの日のアフロヘア   信治
【人】
新札の楮のかをり正月事始め・煤払いの日 丹羽まゆみ
【佳作】
正月事始め・煤払いの日の三面記事       みずき
正月事始め・煤払いの日時効まであと十日    雪うさぎ
正月事始め・煤払いの日の胎内         中村安伸
正月事始め・煤払いの日ホームレスもいいか   ミキ
紙詰り正月事始め・煤払いの日         大西龍一
正月事始め・煤払いの日てぬぐいの純白     月野ぽぽな
雲の掌をひかりはこぼれ正月事始め・煤払いの日  春畑 茜
【選評】
なんという長い記念日……「正月事始め」か「煤払いの日」か、
どっちかでもいいのじゃないかしらん。
この長さにもめげず投稿してくださったかたがた、
ありがとうございます。
【天】のきみえさん、すさまじい脱力感で仰天しました。
ふっと気が楽になる句ですね。
【地】の信治さんの句、うん、これは評するのに悩む。
アフロヘアをハタキの代わりにするのでしょうか、なんともおかしい。
【人】の丹羽まゆみさん、丁寧で品格を感じました。
【佳作】のみずきさん・雪うさぎさん、
「社会面」に目を転じた面白さ。
歳末はこういう感じが強くなるのかしら。
中村安伸さん、最初、「え?胎内」と思いましたが、
たとえば大仏の内部などを想像すればわかりやすいですね。
あっさりしてるところがかえってエロチックなような。
春畑茜さん、これまた記念日の名にふさわしく長い句。
優美さに惹かれました。
それにしても、オートクリーニングシステム搭載の
家って無いのでしょうか。
わが家はこのまま大晦日を迎えてしまうのでしょうか。ぐすん。
【選者吟】
正月事始め・煤払ひの日のめをとグラス  櫂未知子

12.12:漢字の日    寒蝉選
  Date: 2005年12月12日 (月)

【天】
案の定迷子になりぬ漢字の日  信治
【地】
漢字の日独りの時の股火鉢  正美
【人】
漢字の日もとへ戻れぬ略字かな 青榧
【佳作】
伐り出だす杉のささくれ漢字の日    島田牙城
「白」「川」「静」と書きて漢字の日なりけり 媚庵
夢窓とふ名のやはらかし漢字の日  春畑 茜
道順を覚えていますか漢字の日  まなぶ
憂鬱と書いて漢字の日を終へる  園を
粍(ミリメートル)糎(センチメートル)漢字の日  中村安伸
正座するクリオネキティ漢字の日  やや
【選評】
 天の句。何が案の定なのか。
例えば諸橋轍次の大漢和辞典、膨大な漢字の森に迷いそうになる。
例えば漢字の書き順にしても筆が途中で迷子になる字は幾つかある。
勿論漢字を離れた別の読みの可能性もある。
 地の句の股火鉢がいいねえ。
漢字のことでも考えながら火鉢に当たってるんだろうか。
ちょっと時代錯誤的なところもいい。
 人の句は選者も大いに共感。
特に現在の中華人民共和国はひどい。
百年経てば自国の古典を読める国民が皆無になるかもしれない馬鹿な改革(改悪?)だ。
日本人が読める論語を中国人が読めなくなるかも。
 佳作。
「杉のささくれ」は少し離れすぎて付いて行けない所が癖になる。
「白川静」氏の著作や辞典にはお世話になっている選者です。
「夢窓」疎石は天竜寺の開祖となった室町時代の禅僧、五山文学→漢字の発想だが「やはらかし」の感性がいい。
「道順」は漢字の書き順に通じる。
「憂鬱」は確かに一見難しい、選者は妻と結婚前付き合っている時にこの字が書けるかどうか試して顰蹙を買った。「粍」は小林貴子さんの「二子玉川凧凧」にも匹敵する短い俳句として絶品。
「クリオネキティ」は寡聞にして知らない(たぶんクリオネの格好したキティちゃんだろうと想像はつく)が正座しているのが可愛い、
でも漢字と何の関係があるの?
【選者詠】
本家では滅びつつあり漢字の日    寒蝉

12.11:胃腸の日    寒蝉選
  Date: 2005年12月11日 (日)

【天】
胃腸の日噛んでふくみし親の恩      百花
【地】
でもね父さんムーンライトへ胃腸の日   島田牙城
【人】
海底をこんなに歩く胃腸の日       中村安伸
【佳作】
音信の途絶えて久し胃腸の日       紅椿
漱石の不機嫌面や胃腸の日         媚庵
胃腸の日盗撮だけは勘弁を        丹羽まゆみ
うつくしく粥は流れて胃腸の日      櫂未知子
朝寝防朝酒朝湯胃腸の日         ひらくに
胃腸の日のの字のの字の管の闇      望月暢孝
胃腸の日門を閉じまた門を開け      月野ぽぽな
【選評】
 天の句。中七から下五へは常套句とすれすれながら
上五、中七、下五が縁語のように繋がっていて、
しかもほのぼのとした暖かさが感ぜられ迷わず天。
こう言われると、我々は親の恩を食べて
(比喩的にも、「おまんまを食わせて貰った」という現実的な意味でも)
育ったというありがたさを胃腸の日にこそ思い起こさなくてはならないのかもしれぬ、
と本気で考えたりする。
 地の句は何だかよく分らないものの読んでみると妙に耳に残る。
抑も「ムーンライト」って何?
選者は勝手にバーかクラブを想像した。
何が「でもね」やねん。
「今日は胃腸の日と知ってるよ、でもね」ってことか。
きっとまた「ムーンライト」でへべれけになって午前様なんだろうなあ。翌日は胃炎。
 人の句も凡そ胃腸とはかけ離れた上五中七が面白かった。
これひょっとして内視鏡から見た風景かも、と思って取った。
とりわけ大腸は長い。
 佳作。
「音信の」もあまり胃腸と関係なさそうな所がいい。
「漱石の」は彼が煩い、その死因にもなった胃潰瘍を思いながら、
また漱石の不機嫌面を思いながらの作、共感。
「盗撮」は胃カメラで誰にも見せたことのない身体の部分を写真に撮られることを指すのか。
「うつくしく」はどうしても生臭くなりがちの胃腸を扱って
文字通り美しい句(言葉だけで実景はおぞましい)。
「朝寝坊」は胃腸に悪そうなものばかり並べた、
あっ朝湯は別にいいか。
「のの字」は「二の字二の字の下駄の跡」のパロディーでうまくまとめた。
「門を閉じ」は読みようによっては聊か尾篭な句、
まあ門は肛門ばかりじゃないけどね。
【選者詠】
人体は一種のちくわ胃腸の日       寒蝉

12.10:アロエヨーグルトの日           寒蝉選
  Date: 2005年12月10日 (土)

【天】  
金の匙銀の匙木の匙アロエヨーグルトの日    坂石佳音
【地】  
壜詰めの詞華集アロエヨーグルトの日      中村安伸
【人】  
すんなりと通る企画書アロエヨーグルトの日   紅椿
【佳作】 
アロエヨーグルトの日思へば紅茶キノコの日   青榧
兄弟は別の生きものアロエヨーグルトの日    大西龍一
アロエヨーグルトの日を白鳥の鳴き交はす    百花
妹よアロエヨーグルトの日のうすみどり     園を
即答せずアロエヨーグルトの日なりせば     信治
アロエヨーグルトの日便所を覆う八手の花    淡々
アロエヨーグルトの日のデジタルな体重計    月野ぽぽな
【選評】
 アロエヨーグルトそのものにどんな効用があるのか(あると言われているのか)知らないし知りたくもない。
まあ食べておいしいものなら効用などどうでもいいのだ。
(よく世間では身体にいいからと或る食品ばかり食べる人がいるけれど、
そもそも食品は薬物じゃないのだから第一義的に旨くなければ話にならない。)
という訳でこの記念日、掴み所のない句が並んだ。
それでいいと思っている。
 天の句は金の斧銀の斧の童話をヨーグルト食う匙に引っ掛けたもので愉しい。
 地の句は瓶詰めの詩集という発想が素晴らしい。
 人の句はアロエヨーグルトが通じにいいという発想からか。
でも上五中七は企業で働くものには身につまされる問題かも。
 佳作。
「紅茶キノコ」ありましたねえ、どこ行ってしまったんでしょうね?
「兄弟は」は確かにその通り、アロエヨーグルトとの取り合わせが絶妙。
「白鳥の」声はよく通るという点でアロエヨーグルトに通じるものか。
「妹よ」はごくまっとうな作品ながら妹との距離が微妙。
「即答せず」は「なりせば」と言いながらどうしてそうなのかよく分らない所が面白い。
「八手の花」は通じを思わせてやや汚いが辛うじて八手に救われている。
「体重計」も健康食品的発想かもしれないが「デジタルな」という今風の言い方が何故か似合う。
選外ながら<「思いっきりテレビで紹介されました!!」アロエヨーグルトの日(丹羽まゆみ )>はそうなんだよねえ、
あそこで紹介された食べ物はたちまち売り切れ、
口から出任せ言うので医者にとっては商売敵です。
【選者詠】
アロエヨーグルトの日横で蟹缶食へる猫    寒蝉

12.9:障害者の日          寒蝉選
  Date: 2005年12月09日 (金)

【天】  
袋より葱頭出す障害者の日            正美
【地】  
大ぶりの匙ひかり障害者の日           櫂未知子
【人】  
クレヨンをきれいに並べて障害者の日       緋色
【佳作】 
障害者の日の街路樹雨に濡れ            媚庵
障害者の日よいつの日か死語となれ        丹羽まゆみ
白鳥になる日を待ちて障害者の日         紅椿
障害者の日満ちても欠けても月は月        雪うさぎ
華麗に加齢障害者の日のジャワカレー       淡々
障害者の日どの窓も磨きたて           坂石佳音
障害者の日ひなたがやさしくて          ミキ
【選評】
重い名の記念日だ。
われわれ障害を持たぬ者は障害を持つ人に引け目を感じている、という面もある。
選外になった句から紹介すると、
「障害者の日かがやけるいのちなり  春畑 茜」
は障害はあっても命は尊いという実に真っ当な主張。
でもこう正面から言われると真っ当すぎて反論できない息苦しさも感じる。
「境目はどこにあるのか障害者の日  やや」
も思いが障害者側にある。
どこで線引きをするのか、
線引きなどしなくても彼らも我らも同じではないか、と。
それでも障害は存在するし、
それを認めないと障害者をも認めないことにならないか。
そこで、
「障害者の日を難しく考へない  きみえ」
という意見も出てくる。
尤もかく言う人ほど実は難しく考えているものなのだが。
さて【天】の句はさらっと流しているようで考えさせられる点もある。
買い物籠や袋から葱がはみ出す光景は何度も詠まれてきたが
この記念日と合わせるとしっくりくるように思われる。
葱の象徴するのが障害者そのものなのか、
障害者を低く見る障害のない者の方なのか。
表面上は何も主張していない点がいい。
【地】の句は障害者の使う大きな匙に注目。
小さいと上手く口へ持って来られないのだ。
匙の光る様に先ほどの「かがやけるいのち」に通じる思想があるが
物に託した分押し付けがましさがなくていい。
【人】の句は障害者がクレヨンで絵を描く場面。
几帳面な人たちが多く、
驚くほど繊細な絵を描く才能を持つ人も多い。
「きれいに並べて」というあたりにそれが窺われる。
【佳作】。
「街路樹」も物に託して批評めいたことを言っていない。
雨に濡れる街路樹は障害者の象徴か。
「いつの日か」は逆に思いっきり主張している、
ただこの言葉が死語になるほどバリアフリーになればいいとの天真爛漫さに脱帽。
「白鳥に」はいつの日か本来備えている才能を開花させる日があろうとの優しさ。
「満ちても」はやや理屈っぽいが比喩の対象に月を持ってきたので救われた。
「華麗に」の駄洒落の馬鹿馬鹿しさには別の意味で脱帽。
「どの窓も」は障害者が手がけた仕事の丁寧さとも、
とりわけ知的障害者の持つ澄んだ心の象徴とも。
「ひなたが」は作者の気持ちの優しさが伝わってくる。
で、選者はといえば、敢えて挑発的な放送禁止用語を使って言葉狩りを批判。
【選者詠】
障害者の日「つんぼ」「びつこ」を墨で消す   寒蝉

12.8:太平洋戦争開戦記念日          寒蝉選
  Date: 2005年12月08日 (木)

【天】  
太平洋戦争開戦記念日梵鐘の流離譚         青榧
【地】  
文箱冠水す太平洋戦争開戦記念日          中村安伸
【人】  
太平洋戦争開戦記念日 謝らぬ子を押し入れに    ほにゃらか
【佳作】 
太平洋戦争開戦記念日滅法からす鳴き        紅椿
消しゴムで消えぬペン文字太平洋戦争開戦記念日   きみえ
太平洋戦争開戦記念日馬鹿と云ふ字の難しき     百花
パールのピアス太平洋戦争開戦記念日        まなぶ 
幾万の母へ太平洋戦争開戦記念日          園を
太平洋戦争開戦記念日日米対抗餃子早喰競争     流鬢力
彼の名もジョンといった太平洋開戦記念日      雪うさぎ
【選評】
 天の句は戦争を真正面から批判するのでなく、梵鐘たちの流離譚を思い起こさせる
ことによって却って反省を促す効果がある。梵鐘や銅像は供出されて軍艦や飛行機に
なり、例えば大和のように轟沈し海の藻屑となったり、例えば長門のように武装解除
された後水爆実験で沈められたり・・・。
 地の句のシュールな光景もまた先の戦争への痛烈な批判となっている。文箱は日本
の伝統的な文化を象徴すると見た。それが冠水するとは勿論軍艦の沈没するイメージ
を重ねながらアメリカ文化に染まって失われていく日本の文化の状況を言っていると
も取れる。いやそのような戦後の状況と取らなくても戦争が起こることによって文化
の被る軍部からの圧迫(例えば新興俳句の弾圧など)を指しているのかもしれない。
実に深い句だ。
 人の句は誰にも覚えのある幼い頃叱られた思い出に戦争で負けたわが国の状態を喩
えている。押入れに押し込めようとしているのはアメリカとも取れるし「謝らぬ子
を」という表現からは中国とも。いずれにせよ先の戦争は子供が親に反抗するような
無謀なものだったとの見方。
 佳作。「滅法」からすが鳴くとは不吉な、つまりは戦争を忌避する姿勢。「消しゴ
ム」は拭い去りたい愚かな戦争の記憶、でも消えはしないし忘れてはならない。「馬
鹿と」云う字は別に難しくもない、しかし馬鹿には自分が見えないから難しいだろう
なあと、先の戦争を引き起こした馬鹿な人達への批判。「パールのピアス」は勿論真
珠湾のイメージ、戦争と平和。「幾万の母へ」は流石に女性らしい思い、戦争で辛い
目をするのは戦う男達ばかりではない。「日米対抗」のあほらしさ、でも戦争はもっ
とあほらしいのだとの穏やかな批判、このくらいの対抗戦なら人も死なず金もかから
ぬのに。「彼の名も」は戦争で殺されたり殺したりした何千ものジョンと、後に歌を
通して戦争を批判する活動を続け凶弾に倒れたジョン・レノンという同じ名の男との
対比。選外だが「太平洋戦争開戦記念日トラ三匹放つ(淡々)」の駄洒落の馬鹿馬鹿
しさ。
【選者詠】
太平洋戦争開戦記念日草鞋のやうなステーキ食ふ  寒蝉

12.7:ラグビー国際試合記念日          寒蝉選
  Date: 2005年12月07日 (水)

【天】  
ラグビー国際試合記念日気合横溢の回転寿司     望月暢孝
【地】  
ラグビー国際試合記念日蝦夷対隼人         島田牙城
【人】  
ラグビー国際試合記念日つなぎ目が命        ミキ
【佳作】 
ラグビー国際試合記念日の皮下脂肪         みずき
便秘では辛いスクラムラグビー国際試合記念日    青榧
背にある祭の文字やラグビー国際試合記念日     大西龍一
ラグビー国際試合記念日の特売霜降り肉       きみえ
ラグビー国際試合記念日ぽっかりと飛行船      雪うさぎ
ラグビー国際試合記念日頬に日本の泥        坂石佳音
ラグビー国際試合記念日淑女達は何処        月野ぽぽな
【選評】
天の句は何とも言えず可笑しい。
試合後のラガー達が回転寿司で打ち上げをやっていると見てもいいし、
回転寿司の店のあんちゃん達の元気のよさと体育会系の乗りとが
この記念日にマッチすると見てもよかろう。
店員も客も気合横溢、正に真剣勝負、
しかしその対象が回転寿司とは。
地の句。うーん時代が時代ならこういうこともあり得たかもなあと
歴史好きや古代ファンの想像力をくすぐる。
蝦夷も隼人も強そうだもんね。
もしラグビーが日本で発祥していたら
英国がイングランドやスコットランド、ウェールズに分れるように
大和、蝦夷、隼人に分れていたかも。
人の句は抽象的な表現だけに如何様にも取れる。
スクラムの繋ぎ目、これも大事。
バックスのパス回しの繋ぎ目、これも大事。
ラグビーを離れたものという見方もあろう。
でも矢張りここはラグビーのこととしておきたい。
佳作。
「皮下脂肪」はラガー達の身体からの連想。
「便秘」はさもありなんと笑いを誘う、いや下痢のほうがもっと辛いかも。
「背にある」は本当にこういう光景があれば間が抜けていていい、
国際試合といってもお祭りだもんね。
「特売霜降り肉」もラガー達の身体から思いついたのだろうが失礼じゃない?
「ぽっかりと」は一見関係なさそうな飛行船を持ってきた訳だが
ひと昔前のおおどかな試合風景など思わせていい。
「頬に」日本の泥をつけて日本代表は試合に臨むのだ、
それにしても毎回W杯に出場はするが中々勝てんねえ。
「淑女」に思いを馳せた発想に脱帽、美女と野獣か。
【選者詠】
ラグビー国際試合記念日ボール追ふ尻みぎひだり  寒蝉

12.6:姉の日          媚庵選
  Date: 2005年12月06日 (火)

【天】
嚏また父似の姉の日の姉や  百花
【地】
もういらぬ縄ひらひけり姉の日に  信治
【人】
自立心+意地つ張り−臆病=姉の日  きみえ
【佳作】
友人は年下だけど姉の日の強き人  あまっとう♪
姉の日の白兎また白兎   月野ぽぽな
姉の日の仲沢家の人はみな婆さん  流鬢力
姉の日や天地無用の里帰り  丹羽まゆみ
姉の日やアネモネ買うてあこがるる    寒蝉
姉の日に溶かしてごめんスパイ手帳  ほにゃらか
姉の日のとほき日暮れの酸つぱさよ  春畑 茜
【選評】
姉妹型・兄弟型研究の第一人者、畑田国男氏が6月6日の「兄の日」9月6日の「妹の日」に次いで提唱した日。女性や子供、旅人などを守る聖人、聖ニコラウス(サンタクロース)にまつわる三姉妹伝説がその日付けの由来となっている。「妹の日」から三か月後お姉さんに感謝する日である。
【天】の百花さん、女性ならではのユニークな発想に思える。姉のくしゃみが
父に似ているというのは他人では、ちょっと気づかないだろう。佳句である。
【地】の信治さん、縄跳びの縄なのだろうが、寺山修司の『田園に死す』あたりの
おどろおどろしいイメージも背後に感じられる。不吉ではあるが、首吊りの縄という
イメージを重ねてもよいのかもしれない。
【人】きみえさんは一発勝負の大胆さ。これも女きょうだいならではの屈折した
感情を底において鑑賞すべきなのかもしれない。
佳作のあまっとうさん、実は良く意味がわからないながら、結句の強き人のイメージが
全体をひきしめている。
ぽぽなさんは姉の清純なイメージを白兎であらわしてみせた。
流鬢力さんは三遊亭円歌の落語「中沢家の人々」からの発想だろうか。
まゆみさんの「天地無用の里帰り」は豪快、痛快で小気味よい。
寒蝉さんは故摂津幸彦さんの処女句集『姉にアネモネ』のイメージを底流させて
いるのだと読んだ。つまりは幸彦俳句にあこがれるということか。
ほにゃらかさんのスパイ手帳も幼き日を思い出させてくれるアイテム。そうか、
溶かしちゃったのか。残念。
茜さんもノスタルジーをきれいな言葉で描いてみせてくれた。
【選者吟】
姉の日のどちらが姉か迷いけり    媚庵


12.5:モーツァルト忌          媚庵選
  Date: 2005年12月05日 (月)

【天】
昼食忘れたるモーツァルト忌の両足  櫂未知子
【地】
モーツァルト忌共同墓地へ分骨す  百花
【人】
座敷童は唄ふモーツァルト忌  紅椿
【佳作】
モーツァルト忌生まれついての大伽藍  中村安伸
洪水の中に身を置くモーツァルト忌    まなぶ
脳髄にみづうみのありモーツァルト忌  園を 
モーツァルト忌星を奏でる大樹かな   月野ぽぽな
鍵盤はセピア色なりモーツアルト忌   ミキ
モーツァルト忌しぶとく残る縦ロール   雪うさぎ
モーツァルト忌古き刀を抜いてみる   正美
【選評】
オーストリアの作曲家モーツァルトが1791年の今日、死去した。
1991年(平成3年)の没後200年では、日本中がモーツァルト商法に包まれた。
2001年(平成13年)は没後210年。
【天】の未知子さん、モーツァルトにひきずられず、
身体感覚で攻めたところに妙なリアリティが生れた。
【地】は百花さん。お墓の発想は他にも寒蝉さんがされていたが、
百花さんの日常性の濃密さに惹かれた。
【人】の紅椿さんは「座敷童」と「モーツァルト」の配合の痛快さ。
しかし、いったい何を歌うのだろうか。
佳作の作品はダイナミックなものを意識的に選んだ。
安伸さんの大伽藍、まなぶさんの大洪水、園をさんのアタマの中のみづうみ、
ぽぽなさんの「星を奏でる大樹」とどれも雄大なイメージが痛快だ。
ミキさんは鍵盤の色がセピアに変わるという奇想の面白さ。
雪うさぎさんは「しぶとく」という副詞が効果的。
正美さんも刀を抜いたりするというのは明らかにモーツァルトとは無関係ながら
こういうこともありうるかもしれないと思わせる迫力を買う。
【選者吟】
モーツァルト忌の針音のはかなけれ     媚庵


12.4:E・Tの日          媚庵選
  Date: 2005年12月04日 (日)

【天】
E・Tの日をふたたびの傘のなか  みずき
【地】
E・Tの日ベッドの下の暗い水  信治
【人】
静電気で止まったパソコンE・Tの日  淡々
【佳作】
E・Tの日のママチャリに米のせて  きみえ
E・Tの日 夜空に浮かぶこんぺいとう  やや
E・Tの日どこまでが記憶どこからが夢  雪うさぎ
ガラス張りの喫煙ルームにE・Tの日  緋色
一度鳴る携帯電話E・Tの日  坂石佳音
E・Tの日ひとみの色もさまざまに  ミキ
甘辛いE・Tの日のがんもどき 青榧
【選評】
アメリカ映画「E・T」が日本で公開されたのが、1982年(昭和57年)の今日だったことに由来する。ちなみにE・Tとは、エクストラ・テレストリアル(Extra−Terrestrial)。日本では、「宇宙からの愛らしい訪問者」と訳された。
この映画に関して裏話を一つすると、当時の映画界のマーケティングでは、
こういうタイプの作品は日本ではあたらないということになっていて、あやうく
未公開のまま本国に送り返されるところ、何かのピンチヒッターで急遽公開される
ことになったのだそうだ。結果はご存知のように、当時の洋画の興行収入記録を
つくってしまうほどヒットしたわけであ。
ということで、自転車関連の連想では佳作のきみえさんだけにさせていただいた。
ママチャリと米というのは映画のイメージとはほどよく離れている。
【天】のみずきさんはおとなの恋愛ドラマっぽい複雑な設定を
巧く記念日に添わせてみせてくれた。
記念日に引っ張られていないのが強み。
【地】の信治さんは暗さがいい。ベッドの下にはいつも暗い水が澱んでいる
という人生への認識におおいに共感した。
【人】の淡々さんは、ありうる不思議の提示に共感。ETの頃はパソコンは
なかったけれど、今ならこういう設定もあるはずだ。
佳作のややさんはこんぺいとうというなつかしいお菓子との配合の妙。
雪うさぎさんはひねらなかったところが効果をあげた。
緋色さんの喫煙ルームも設定にリアリティがある。
坂石佳音さんは淡々さんの発想と同系列のミステリの味。
ミキさんも変にこねくりまわされずすっきりと詠ってみせた。
青榧さんは反対に思い切って反対方向の連想をはめこんでみせてくれました。
【選者吟】
E・Tの日や晩年は句三昧   媚庵



12.3:妻の日     媚庵選
  Date: 2005年12月03日 (土)

【天】
妻の日や楽器の裏が燃えてゐる  中村安伸
【地】
妻の日の海水煮詰め難きかな   島田牙城
【人】
妻の日へご破算といふ贈り物  みずき
【佳作】
妻の日のむごきものとは記憶かな 青榧
妻の日の冷えきつてゐるアイロン台    寒蝉
妻の日に自己主張する紅生姜  ますみ
妻の日は外出をお勧めしません  信治
反抗期妻の日にありみな眠る  まなぶ
妻の日のすこし毒ある冬珊瑚  ほにゃらか
妻の日や急かせばこぼす水なりし  大西龍一
【選評】
1年間の妻の労をねぎらい感謝する日。1年の最後の月である12月と、感謝をあらわす「サンクス」のサンを3日にたとえて組み合わせたもの。「妻の日」があれば家族の絆も深まり、感謝する心、人を思いやる心が育つのではないかと、凸版印刷が1995年12月10日に制定した。(英語ではThanks Wife)
台所、家事系列の発想をいかにひねってみせるかが、腕のみせどころ。
【天】の安伸さんは思い切ってシュールな光景を展開。心理の比喩としても読める
わけで、きれいに仕上がっています。
【地】の牙城さん。今までも妻の句はたくさんあったけれど、「海水」が
煮詰め難いという認識は深く重い。結婚と言うものの本質にもしかすると
届いているかもしれない。
【人】のみずきさんは、わかりやすくあっけない発想。ご破算にするのが
いちばん賢い選択なのかもしれないとは思っても、それを贈ることが
難しいのが実生活なのでありましょう。
佳作の青榧さんは、夫婦のおたがいの良いときだけの記憶が残っているのが
むごいという、せつない一句。深く共感してしまう。
寒蝉さんは家事の道具の冷えに夫婦の心理を仮託して巧み。
ますみさんは紅生姜という選択の的確さで陳腐に落ちるのを救ってみせた。
信治さんのトボケかたも笑える。まったくそのとおりで、気詰まりでも家に居る
ほうが無難です。
ほにゃらかさんはやはり「冬珊瑚」の選択が効果的。確かに少し毒があるのが
夫婦生活というものです。
龍一さんは俳句としての姿が凛々しい句をみせてくれた。記念日俳句という
枠をはずしてもみごとに立っている一句です。
【選者吟】
妻の日の妻にしたきよ菅野美穂    媚庵

SCRIPT: KENT WEB[Sun Board v2.3], EDIT: HIROYUKI OGIHARA